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IOWNが市民の前に登場 遠隔の常識を覆す「極低遅延」の世界

東急不動産、NTT、NTTドコモは、渋谷に開業した「Shibuya Sakura Stage」に次世代通信網のIOWNを導入し、その特性を体験できるエンタメイベントを開催。一部がリモート出演する、お笑い芸人によるイベントステージや漫才が披露された。

IOWNが市民の前に登場

NTTが主導するIOWN(アイオン)構想は、光通信技術を中心にした次世代ネットワークを構築し、コンピューティング全体の性能も光技術で引き上げていく構想。一般ユーザーや市民にとっては、高速で大容量、超低遅延な有線の通信ネットワークとして触れることになる。

NTTは東急と提携し都市部のインフラとしてIOWNの利用を拡大していく取り組みを進めているほか、IOWNのフォーラムには渋谷区が自治体として唯一参画していることもあり、東急が渋谷に作った「Shibuya Sakura Stage」などに「APN IOWN 1.0」が実装されることになった。

Shibuya Sakura Stage
研究施設以外では初めて導入されるIOWNについて説明するNTT代表取締役副社長 副社長執行役員の川添雄彦氏
IOWN構想は今後の日本の発展の中核を担うと意気込む
IOWNの団体には海外を含め137組織・団体が加盟

「APN IOWN 1.0」では、終端装置(≒モデム)は2Uラックサイズ、遅延調整装置が1Uラックサイズで、必要な装置は合わせて3Uラックサイズに収まるという。拠点間に特別な通信網が敷設されるわけではなく、終端装置は既存の光ファイバー網に接続される。このためIOWNの終端装置など3Uラックサイズの装置を設置できる施設や会場であれば、IOWNの通信網を構築できることになる。

なお現在は、IOWNが接続できる範囲は同一県内に限られており、県をまたいだ接続は今後対応していく。IOWNの設置自体は、光ファイバーが敷設されている全国が対象。一般ユーザー向けの展開は2030年以降を計画する。

「APN IOWN 1.0」はプロトコルフリーでトンネルのように機能し、拠点間を高速・大容量、極低遅延で接続できるのが特徴。東急が高域渋谷圏として設定するエリアにIOWNを導入する方針に沿って、今回のイベントでは「Shibuya Sakura Stage」と「渋谷ソラスタ」の2つの拠点をIOWNで結んでいる。

この「Shibuya Sakura Stage」と「渋谷ソラスタ」を結んだIOWNの通信網部分の遅延速度は、片道で100μs(マイクロ秒)、往復で200μsとのこと。人間には知覚できない極めて小さな遅延になっており、担当者によれば、ディスプレイなどの表示装置やカメラなど関連機器の内部でわずかに発生する遅延がボトルネックになるとのこと。

このため、現時点でIOWNの遅延の少なさを最大限発揮するためには、カメラやディスプレイといった末端で動く装置の内部で発生する遅延まで十分に吟味して選ばなければ、本領は発揮できないほどになっている。

また今回のイベントでは、IOWNの大容量の通信網も活かし、4K映像を非圧縮で伝送している。通常実施されるデコード・エンコード処理による遅延の発生を回避することにも貢献しているという。

お笑い芸人によるイベントの一コマ。極低遅延で、ピッタリと息のあったやりとりが可能。等身大の非圧縮4K映像もリアリティを高めている

すでに実施されたeスポーツのイベントにIOWNを活用する取り組みでは、秋葉原と渋谷の2つの拠点に分かれて開催。ゲームを稼働させるPCは秋葉原に集約し、渋谷ではPCを省いた、IOWNで接続された画面と入力装置のみだったという。いわゆるシンクライアント型の稼働がeポーツの本格的な運用でも実用になるなど、IOWNの極低遅延ぶりが常識を覆す事例になっている。

これまでにオーケストラの指揮者が遠隔で指揮棒を振り、別の会場で演奏するといった取り組みも行なっており、指揮者がその場にいる場合と変わらない演奏が実現されている。この試験的な取り組みでは、指揮者と演奏者は直線距離で500km、通信経路にして700kmも離れていたというが、その遅延は、指揮者から3m離れた距離の楽器から出る“音の遅延”と同等だったという。

こうした極低遅延の環境は高度な遠隔治療にも応用が見込め、高い技術を持つ“スーパードクター”が、地方で手術を待つ患者に遠隔操作手術で対応するといったことも実現できるとしている。

東急不動産では、今回のエンタメでIOWNをアピールする以外に、Web会議システムで使うといった紹介も行なっており、東急が展開するビルに入居する企業や団体に訴求していく。渋谷にはアート、音楽、ゲーム、ソフトウェア開発などクリエイターも多く集まっており、遠隔でコラボレーションしながら制作するといったさまざまな提案も行なっていく。

東急不動産の取り組みについて語る、東急不動産ホールディングス 代表取締役 副社長執行役員の植村仁氏
半径2.5kmの広域渋谷圏でさまざな取り組みを行なう
Web会議のほか、クリエイターならではの活用にも期待を寄せていた

遠隔であることを忘れてしまうほど

14日には「Shibuya Sakura Stage」と「渋谷ソラスタ」をAPN IOWN 1.0で結び、吉本のお笑い芸人が遠隔でやり取りする様子が公開された。トレンディエンジェル、とろサーモン、鬼越トマホーク、見取り図が、じゃんけんやあっち向いてホイ、ラップバトルなど、わずかでも遅延があると難しい遊びに挑戦し、IOWNで結んだリモート映像では全く問題なくやり取りできる様子が披露された。

じゃんけん……
ポン! とタイミングはバッチリ

ヨネダ2000は、M-1グランプリ2022の決勝ネタ「餅つき」も披露。誠はメイン会場のShibuya Sakura Stageに、愛はリモート会場の渋谷ソラスタから4Kディスプレイで出演するという形。相方がリモート出演でもピッタリと息のあったやり取りで会場を沸かせた。メイン会場の誠は「体温(隣にいると温かいのだと思われる)や、触れられないことは違うが、リズムはまったくいつもの感じだった。モニターであることを忘れるぐらいだった」と語っていた。

「餅つき」を披露するヨネダ2000