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「NTT法は国民の問題」 KDDIやソフトバンクら181者がNTT法廃止に反論

KDDI、ソフトバンク、楽天モバイルなど、NTT以外の電気通信事業者ら181者は4日、NTT法の見直し議論に対しする意見表明を行なった。NTT法の廃止には反対し、慎重な政策議論を行なうよう呼びかけたほか、国民にとっても大きな影響があるとし、「ぜひ強く国民に関心を持っていただきたい」(KDDI高橋誠社長)と訴えた。

今回の意見表明では、NTT法が廃止された場合、(1)公正な競争環境が阻害され、利用者料金の高止まりやイノベーションの停滞など、国民の利益を損なう、(2)競争でカバーできないエリアについてはNTTが公益的な責務を負わなくなる、(3)地域事業者の排除により、情報化、防災、生活情報などの地域情報発信機能が失われ、地域サービスが衰退する懸念があるとしている。

意見表明では、「デジタル田園都市国家構想」の実現において、「情報通信インフラの健全な発展や事業者間の公正な競争環境がこれまで以上に必要」と強調。NTTとの公正な競争環境を整備し、多様なプレーヤーの競争を通じたイノベーションや地域創生を支えるためにも、電気通信事業法とNTT法を通信制度の両輪とする前提のもとでの制度設計がなされるべき、としている。

「2025年にNTT法を廃止」方針が密室で決まるに疑問

会見には、KDDI高橋誠社長、ソフトバンク宮川潤一社長、日本ケーブルテレビ連盟 村田 太一専務理事が参加し、楽天モバイルの三木谷浩史会長も出張中のインド・バンガロールからオンラインで参加した。

意見表明の概要については、KDDI高橋社長が説明。今回の会見は、12月1日に、自民党において「日本電信電話株式会社等に関する法律の在り方に関するプロジェクトチーム(PT)」の会合が開催され、「2025年をめどにNTT法を廃止する方向」とする提言がまとめられたことに起因する。

KDDI高橋 誠社長

今夏に防衛費の財源確保などを目的とし、政府内でNTT株式の売却についての議論がスタートし、PTの提言がまとめられたことで、NTT法廃止に向けた議論が政治の場で進められていく可能性が高い。この会見で、各社が反論するのは、まず「提言案がNTT1社のみの意向に沿ったもので、他の企業や国民の声を聞いていない」ということ。そして、公正競争やユニバーサルサービスなど影響範囲が大きい法改正について議論されていないということだ。あわせて、当初の「防衛財源」という話はなくなっており、なんのためのNTT法改正/廃止議論かと疑問を呈している。

高橋社長は、「NTT法だけでなく、今後の通信政策全体に関わる問題で、公平・平等にNTT以外の181者を含めた市場の声を聞いた上で決めていくべき」と主張。実際、高橋氏をはじめ各社代表もPTの提言の文言を直接確認できておらず、議論へ参加できないだけでなく、閉鎖的な環境で「国民的な問題」が決められていることに意義を申し立てている形だ。「我々も知らないし、もちろん国民も知らされていない。国民生活に大きな意味を持つ法改正であり、オープンな場で慎重な政策議論が必要」と訴える。そのうえで「NTT法の廃止には断固反対」とした。

高橋社長は、公社の独占体制から1985年のNTT民営化、通信の自由化により競争が生まれたことに言及。この点は「国民への利益還元・国民生活の向上に寄与する」とした上で、NTTは土地、局舎、とう道、管路、電柱、光ファイバなど特別な資産を公社から譲り受けており、現在の価値では40兆円と試算。NTT法廃止は料金の高止まりやユニバーサルサービスの維持の困難、通信インフラの安全保障などの面で課題があると主張した。

そのため、NTTの一体化・独占回帰の防止や「撤退禁止」による利用者利益保護、「特別な資産」を含むNTT設備の外貨による支配防止などが必要と訴える。「国際競争力を強化する目的であれば、NTT法の法解釈の変更や改正で対応できる。通信政策の見直しには大いに賛成。岸田総理の基本方針は意見を聞くこと。オープンな議論で、皆の意見を聞いた上で方向性を出してもらいたい」(KDDI高橋社長)。

特別な資産は誰のものか

ソフトバンクの宮川社長も、「なぜNTT法廃止が必要なのか腹落ちしない。なぜ法改正ではだめなのか、よくわからない形で議論が続いている」と言及。「NTTの特別な資産は、国民が作った持ち物で電話加入権もそうだ。民間に戻すなら国民に返すという議論があってもいいが、当時は特殊法人だからということで戻さない形になった。郵政民営化も当時の小泉総理が解散してまで国民に問うた。国民の財産を国民不在の中で決着することは断固反対だ」と語った。

ソフトバンク宮川社長

また、外貨規制についても、「ボーダフォンが2001年に売却され、2006年に我々が2兆円で取り戻した。NTTの規模で同じことがあったら買い戻せる企業はあるのか?」と指摘した。

楽天モバイルの三木谷会長は、「スマートフォンや通信は、物理的なインフラ以上にライフライン。基本的人権になっている。その根幹にあるNTT法を議論もなく無くすのは非常に違和感がある。世界で技術競争が続く中、『大NTT』を復活させようとするのは『ガラパゴスへの回帰』。通信業界をどうしていくかという議論があり、その上でNTT法をどうするか議論がなされるべき。岸田内閣にはそう考えてほしい」と呼びかけるとともに、「NTT法がなければ事業者にとってはリスクが高い。いつでもNTTが接続料を上げられるとなったら、対抗手段が無い。事業法で担保すると言われても信じられない。参入前にこの議論があったら、楽天グループはおそらく(モバイルビジネスに)参入しなかった」と語った。

楽天モバイルの三木谷会長

日本ケーブルテレビ連盟の村田理事は「公正競争の担保」について疑問の声を挙げる。「電柱の利用申請で多くの拒否事案がいまも発生している。NTT法廃止で、グループ内の事業が統合されたらさらに不透明になる」とした。

日本ケーブルテレビ連盟の村田理事

携帯事業者の争いではない。全国民に影響

議論の不透明さについては各氏が指摘しているほか、プロセスについての疑問も多い。今回の意見表明では「オープンな場での議論」を呼びかけているが、現状NTTや監督官庁を含めた議論の場は設けられておらず、その予定も決まっていない。

KDDI高橋社長は、「当初は防衛財源の話だったがどこかへいってしまった。NTT法改正でいえば、本来総務省の審議会で有識者を交えて議論すること。しかし、提言でNTT法廃止が決まって『そこからスタート』というのは順番がおかしい。提言が公開されたら正式に総務省に話にいかないといけないだろう」とした。

ソフトバンク宮川社長は、「『2025年を目処に(NTT法廃止)』と書かれているのであれば、一切この話について引くつもりはない。とことん議論する。2025年までにまとまるとは思っていない。10年~20年と議論する。次の社長にも引き継ぐ。延々とやる」と宣言。楽天モバイル三木谷会長も、「携帯事業者の話ではない。国民、国のあり方を左右する重大な問題の一つ。与党、内閣、総務省、総理がこの問題を真剣に捉え、しっかり議論した上で方向性を決めていくが重要だ」と語った。

KDDI高橋社長は「理解してほしいのは、携帯事業者のつばぜり合いではないということ。明日明後日に何かが変わるということはないが、5年後、10年後、国民サービスに必ず直結する問題だ。だからオープンな議論が必要で、強く国民に関心を持っていただきたい」と強調。法改正の影響を問われたソフトバンク宮川社長も、「国民の生活全て、企業の活動全てに影響がある。全ての国民は、NTTの中継網を使って、電話やインターネットを使っている。一民間企業の経営状態によって、この根本が影響されるという問題。だから議論が必要だ」と語った。