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ビッグテックにできない生成AIを機動展開  Stability AI 日本の取組み

画像生成AIのStable Diffusionなどを展開するStability AIは27日、日本における事業展開や日本向けのLLMに取り組む理由などを説明した。Stability AI Japanが、スタートアップ企業をサポートするプログラムを発表し、第1弾採択企業としてFotographer AIと支援協業を締結したことも発表されている。

市場の変革にスタートアップ支援で対応

Stability AI Japanは、英国の本社以外では唯一という、同社のすべての事業領域をカバーする拠点になっているのが特徴。十数人のスタッフ(過半数は開発者)で構成されており、日本向けに特化した大規模言語モデル(LLM)の開発は日本の東京・渋谷で開発されている。

Stability AIの沿革

Stability AI Japan 代表のJerry Chii氏は、生成AIにより、さまざまな事業に変革が起きるパラダイムシフトの時期を迎えているとした上で、それを最大限活用できるよう支援していきたいという同社の姿勢を明らかにしている。

また、国内外のスタートアップ企業から、生成AIを活用する際の相談や支援の依頼が増加していることを受けて、英国のStability AI本社を含め、研究者や開発者を手厚く支援していく方針で、スタートアップ支援プログラムを本格化させる。日本は、英国本社に先駆けて支援プログラムが稼働する形になった。

同社のスタンスは、Googleやマイクロソフト、OpenAIが手掛けるような、超大規模で耳目を集めるようなものではなく、オープン化・オープン提供を推し進めて、実際的でローカルな需要に柔軟に応えていくというもの。

「今後の生成AIの活用を考えたとき、ドメイン特化や事業ニーズへの特化などが起こっている。ビッグテックやSIerだけではマーケットの需要をカバーしきれないのではないか。既存の概念にとらわれず、画期的なものを機動的に出していきたい。スタートアップ企業が活発に動くことで、日本市場が活発化する」(Stability AI 事業開発マネージャーの中山千春氏)と、一般企業のAIの使いこなしや、それをサポートする製品を開発するAIスタートアップ企業にフォーカスしている。

スタートアップへの期待

Stability AI Japanのスタートアップ支援プログラムでは、「点」と「面」の2つを軸にサポートが行なわれるという。「点」の支援は個社的に実施されるもので、APIの無料枠や費用など経済的な支援のほか、さまざまな技術が非常に早いスピードで進化していく中で、技術的な支援を行なっていく。今後1年間で数十社程度への支援を見込んでいる。

点と面の両方で取り組む
採択企業に対する経済的支援など

「面」の支援は、ベンチャーキャピタルのANOBAKAと協業し、定期的なミートアップでコミュニティを形成して、著作権や知財といった法律の専門家、ステークホルダーがつながれるような場を形成するというもの。2024年1月~2月にも第1回を開催する予定になっており、100社以上の参加を見込む。

「面」の支援ではコミュニティ形成を図る

柔軟にカスタマイズできるStable Diffusion

このスタートアップ支援プログラムの第1弾採択企業になったFotographer AIは、主にEC事業者などに向けて、商品写真や広告バナーなどを自動生成するサービスを提供している。Stability AIの生成AI技術を用いて、撮影した商品の写真から背景を自動で削除してイメージに合った背景を追加したり、説明文章を自動で作成したりするサービスが実現されており、導入したブランドに合わせたカスタマイズも可能。大手ファッションブランドとの協業も2024年に発表できる見込みという。

Fotographer AI CEOの鈴木麟太郎氏は、Stability AIのStable Diffusionを選んだ理由について、「オープンで、非常に拡張性が高い」と語り、大規模言語モデルを独自にカスタマイズして運用できる柔軟性の高さを特徴にあげている。

Stability AI Japan アドバイザーの深津貴之氏は、「GAFAなどビッグテックが作っているものは、非常に頭のいいものができて、それで終わりという面がある。どういうプロダクトに落とし込むのかは、スタートアップ企業が考えながら作っている。こういうプレイヤーを計算資源以外のエコシステムで盛り上げていきたい」と表明しており、ブラックボックス化したり制限しながら提供したりするのではなく、オープン化された上で、実際の業務プロセスに貢献できるような開発を支援していく方針。

左から、Stability AI Japan 代表のJerry Chii氏、Fotographer AI CEOの鈴木麟太郎氏、Stability AI 事業開発マネージャーの中山千春氏

それぞれの地域や言語のAIが存在すべき

Stability AI Japanが、日本市場に特化した大規模言語モデルを開発する背景には、「Stability AIは、ひとつのAIだけがすべてを担うのはふさわしくないと考えている」(Jerry Chii氏)というスタンスがある。

日本は、文化、価値観、クリエイティビティが多様で、経済規模も大きいとして、日本に特化した言語モデルを開発することになったが、今後この動きはほかの国・地域にも拡大していく方針。加えて、日本に特化した基盤として提供することは、Stability AIがやらなければスタートアップ企業が独自に取り組むことになるため負担が大きいとして、生成AI社会へのデジタルトランスフォーメーションを進める上でも、Stability AI Japanが日本に特化したモデルを提供する意義があるとしている。

「世界でひとつのAIだと、例えば西側諸国の価値観やリベラルの考え方だけとかになる可能性がある。多様なAIが生まれるのが大事なのでは」(深津氏)ともしており、ひとつのAIだけが普及することによる懸念も明らかにしている。これは、内部がブラックボックス化され安全性に疑問が残るといった点についても同様で、オープン化されたものは透明性の面で優れるとする。

また、「ソリューションへの適用を考えると、スーパーAIである必要はどんどんなくなっている」(中山氏)、「ユースケースにあったものを作るのが重要」(深津氏)としており、実際のビジネスに適用するためのさまざまなオプションを提供していく方針。

Stability AIの多くの製品はオープン化され無料でダウンロード・使用できるものもの多いが、ビジネスモデルはどうなっているのだろうか。同社はAPIも提供しており、これには利用料が設定されているため収益源になっている。また、(例えばAWSなどの)クラウドコンピューティングサービスの企業とパートナーシップを締結し、生成AIを稼働させるホスティングサービス側から収入を得るケースがあるとしている。ほかには、基盤モデルではなく特定のユーザー向けにカスタイマイズするプロフェッショナルモデルも収益源になる。

マルチモーダルとオープンモデルの優位性

「Linuxという先輩がいる。Linuxのソースコードはすべてオープンだが、ビジネスになっている」(深津氏)と、オープンソースでも事業化できる道筋がすでに豊富に存在していることが説明されている。