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KDDIメタバース「αU」本格始動 無印やカラオケ追加、バーチャル渋谷ハロウィンも

KDDIは、メタバース・Web3サービス「αU」(アルファユー)をアップデート、予定していた5つのサービスが出揃い本格的に始動したと発表した。

「αU」は、スマートフォンなどから手軽に利用できるバーチャル空間のサービス。3月にコアとなる5つのサービスを発表しており、このうち夏頃になるとアナウンスされていた「αU live」「αU place」の2つのサービスが10月24日から開始、すべてのサービスが揃った形になった。

視点を自由に移動できる音楽ライブ

「αU live」は、3D音楽ライブ配信サービスで、バーチャルシンガー「花譜」をはじめさまざまなアーティストの音楽ライブが配信される。またKDDIは「Kizuna AI」を生み出したActive8に出資し、Active8提携アーティストのライブやコンテンツも提供していく。料金は公演ごとに視聴チケットを販売する形になる。

「αU live」はGoogleのクラウドレンダリング技術を採用しており、ライブ映像でも、アーティストの隣にいるような視点や、遠くからステージ全体を俯瞰する視点など、視点を自由に操作可能。スマートフォンなどから簡単に利用でき、端末のスペックを気にせず利用できる。

「無印良品 銀座」も再現するバーチャル店舗「αU place」

「αU place」は実店舗の空間を再現するバーチャル店舗のサービス。実在する店舗の最新の様子が反映されるのが特徴で、店頭ならではの工夫を画面上で体験可能。商品に関して店員に相談することもできる。紹介される商品は各社のショッピングサイトと連携し、購入できる。

サービス開始に合わせて「無印良品 銀座」をはじめ6店舗が公開。また、「αU place」に出店する企業の受付も開始している。

「αU metaverse」はライブ配信機能が一般開放 カラオケも

スマホからアバターでバーチャル空間に参加する「αU metaverse」では機能アップデートが実施される。

すでに約1,000名がいるという配信者に向けた機能は、今回のアップデートで一般向けにも開放され、誰でも自由にライブ配信機能を利用できるようになる。配信者機能では、自分だけの配信ルームを作成し、招待した人と集まることができる。

またキー採点機能などを備えた本格的なカラオケ機能「カラオケボックス αU」が、「αU metaverse」アプリの渋谷センター街エリアの店舗として実装される。エクシングの「JOYSOUND」と協力し、人気楽曲100曲が無料で利用可能。離れた場所にいる友達と同じカラオケボックスに集まって楽しむといった楽しみ方ができる。

このほかNFTを販売する「αU market」、暗号資産を管理する「αU wallet」でもアップデートが実施され、従来の「Polygon(MATIC)」に加えて「Oasys(OAS)」「Palette(PLT)」も利用できるようになる。

クリエイター支援策が続々決定

「αU」では、5サービスが揃い本格始動したことで、クリエイター支援策も本格化させる。

音楽ライブを配信する「αU live」では、Spotifyをはじめとしたほかの音楽配信サービスへの配信手続きを代行する、音楽ディストリビューション事業を11月から開始する。これにより、「αU live」を含めたアーティストのパフォーマンス映像や楽曲は、170カ国以上の音楽配信ストア・サービスに対し一括配信や管理が可能になる。エッグスとの協業によるもので、新たな収益源などアーティスト支援策を充実させるのが狙い。

また、ANNINの協力により、業界初のプロデュース能力を持つ生成AI「プロデューサーAI」も開発中。これは、「αU metaverse」で活動するアーティストや配信者、「αU market」で活動するイラストレーター、「αU live」で活躍する作曲家やボカロPといった、次世代のアーティスト同士をマッチングし、世界に向けてプロデュースするプロデューサーの仕事を、生成AIで実現するというもの。現在は著名なプロデューサーの感性を学習させている段階とのことで、多忙なプロデューサーの稼働時間の問題も解決できるという。年内にはベータ版の提供を始める予定。

生成AIはほかにも、「αU live」での楽曲プロデュース、「αU place」におけるバーチャル店舗の生成、「αU metaverse」のコンテンツ生成、「αU market」などでのジェネレーティブアートなど、クリエイターエコノミーを加速させるものとして、さまざまに活用される見込みになっている。

このほか、携帯電話サービスの「povo 2.0」も連携し、クリエイター支援につながる取り組みを予定している。詳細は今後案内される。

メタバースは盛り上がっている?

KDDI 事業創造本部 副本部長の中馬和彦氏

KDDI 事業創造本部 副本部長の中馬和彦氏は、サービスの発表・開始から半年が経過した現在の状況と、今回の本格始動にあたってクリエイター支援も本格化させる狙いを語っている。

「αU」で特徴的なのは、IDは共通化される一方で、メタバース、音楽ライブ、ショッピングなど独立した5つのサービスに分かれていること。特にショッピングは、そのほかのサービスとは異なり、実写(写真)ベースの、実店舗の雰囲気の再現が重要とし、メタバース空間の渋谷などと一緒にしない決断を下している。最終的にはひとつにまとまることが理想とする一方で、「用途ごとに模索している段階」ともしている。

サービスは盛り上がっているのか? と自問した中馬氏は、(配信者などによる)イベント利用では盛り上がり、利用するという形が定着しつつある一方で、イベントがない平常時は人が少ないとして、コンテンツの拡充の重要性を語っている。

中馬氏は、ユーザーが投稿するコンテンツ(UGC)の充実が鍵を握るとし、現在は「圧倒的にコンテンツが足りない」とする。YouTubeやTikTokなら、例えば「開封動画」や「~~してみた」などの定番コンテンツがあり、そうしたユースケース、定番的な使い方が、メタバースでは未確立であると指摘。上記のカラオケ機能の実装は、ユースケース対策の一環ともしている。さらにメタバース関連のコンテンツは、ワールド製作ではUnity、アバター製作ではBlenderなど、相対的に高いスキルが求められることも、手軽にコンテンツを投稿できない理由になっているとする。

ただし、こうした課題は生成AIで劇的に変わる可能性も指摘している。現在、生成AIを活用してメタバースのワールドや3Dモデルの製作を補助するツールの開発が盛んになっており、ゆくゆくは誰でも簡単に生成・製作できるようになると見込んでいる。

なお、個人と法人では、メタバースに対する期待や盛り上がりが異なることも説明された。企業は、Webサイトで紹介している自社の製品・サービスについて、より深く知ってもらうための体験ツールとして、メタバースに期待を寄せているケースが多いという。観光地を抱える自治体などでも同様で、各地の魅力を紹介するツールを、Webサイトより高度にできるものとして、メタバースへの期待は「驚くほど多い」状況とのこと。

また高級ブランドからの引き合いも多いという。繁華街や目抜き通りに期間限定のポップアップストアをオープンするといった取り組みは珍しくないが、高いコストをかけて製作しても数カ月で撤去するため、SDGsなどの観点からは課題になっており、バーチャル空間に移行したいと考えるブランドが増えているとしている。

バーチャル渋谷でデジタルハロウィン

10月末は「ハロウィン」の時期を迎える。仮装して渋谷に集まる習慣については、渋谷区から正式に「来街自粛のお願い」が出され、「【注意】渋谷はハロウィーンイベントの会場ではありません。」と明確に告知されている。

こうした状況を受け、KDDIでは「αU」を中心にしてバーチャル渋谷、バーチャルハロウィンを改めて打ち出している。今年はマルチプラットフォームとして、「αU」だけでなく、clusterやYouTubeなどほかのプラットフォームも連携、「デジタルハロウィン」として、人気アーティストが多数参加する、さまざまなイベントをオンラインで開催する。

渋谷区長の長谷部健氏は「新しいカルチャーが生まれるのは嬉しいこと」とする一方、路上飲酒の増加や地域商店街からの苦情の増加、トラックをひっくり返す事件の発生を受けて施策を転換し、コロナ対策明けの今年は“来ないで”という方針に改めたことを説明。「街で楽しむことはできないが、バーチャル渋谷で一緒になって盛り上げていく」と、KDDIと協力して取り組んでいく様子を語っている。

KDDI 事業創造本部 副本部長の中馬和彦氏(左)、渋谷区長の長谷部健氏(右)