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「NTT法は結果として廃止へ」 NTT島田社長が見直し方針を説明

NTT 島田明社長

NTTは19日、「NTT法」の見直しについて同社の考え方を説明した。NTTの島田明社長は「NTT法の役割は概ね完遂した」とし、結果として廃止すべきとの考え方を示した。

NTT法は、「電電公社」による一元的な通信サービス提供体制を改革し、日本の通信分野への民間参入を促すために定められた。1985年に電電公社が現在のNTTとして民営化され、「日本電信電話株式会社法」(NTT法)が成立。現時点では、NTT(持株)とNTT東日本、NTT西日本の3社が対象となっている。

NTT法では、電電公社から継承したインフラの提供や研究開発を担う会社として、NTTにおける「責務」が定められている。また、NTTの株式の3分の1以上を政府が保有することが規定されている。

'23年夏ごろから政府内で、防衛費の財源確保などを目的とし、NTT株式の売却についての議論がスタート。あわせてNTT法の見直しについての機運が高まっている。19日には自民党の「NTT法のあり方に関するプロジェクトチーム」の会合が行なわれ、ヒアリングにはNTT、KDDI、ソフトバンク、楽天モバイルの代表らも参加したという。

同会合後に、会見に臨んだNTTの島田明社長は、NTT法の見直しだけでなく、「結果としての廃止」についても言及。「研究開発の推進・普及義務の撤廃」と「固定電話のユニバーサルサービス義務をブロードバンドに統合」を進めるべきと述べた。

NTT法の役割は概ね完遂

なお。同時刻にはKDDI、ソフトバンク、楽天モバイルらも合同で会見し、廃止への懸念を訴えている。

NTT東西とNTTドコモの統合は「ない」

NTT法が成立した約40年前は、NTTの固定電話の独占環境にあった。民間の活力を導入することで、通信事業の効率化・活性化を図るため、NTTの活動について制限を設けたものがNTT法だが、当時とは競争環境が大きく変わっており、実態にあわなくなっている面もある。

NTT法成立時はNTTの固定電話が独占していたが、現在の固定電話は約1,350万契約。一方、モバイル通信は約2.1億契約で、シェアはドコモが35.5%、KDDI 27%、ソフトバンク20.7%、楽天2.3%、MVNO 14.5%となっており、独占状態にはない。

また、公正競争条件については、NTT法ではなく電気通信事業法で規定されている。NTT東西の光ファイバを公平・公正に貸し出すこと、電柱・管路や局舎スペースの公正・公平な貸出などはすでに規定されており、この点で公正競争は確保できているとする。

また、他の通信事業者が危惧するNTT東西とNTTドコモの統合については、「統合する考えはない」(島田社長)と説明。「(他社が)『担保がない』というのであれば、例えば、電気通信事業法の禁止行為の中に書いてもらっても構わない」と述べた。

研究開発の普及義務撤廃を要求

NTT島田社長が、NTT法による制限において、「撤廃が必要」と強調するのが「研究開発の推進・普及義務」だ。

NTT法では、研究開発の推進・普及責務(研究開発の開示義務)が設けられている。40年前に国内で電気通信研究開発をしていた時代は、結果開示は役割があったものの、現在「IOWN」などの研究開発をパートナーと連携して進める上では障害になってきているという。

島田社長は、言葉を選びながらも「グローバル競争で、色々な陣営が別れ始めている時代」と言及し、研究開発の成果を全での国や地域に開示していくべきか、オープンに開示する場合もあれば、閉じて展開するなど「自由度が必要」と言及。全ての技術の公表義務は、経済安全保障や国際競争力強化の点からも時代に即していないと語る。

こうした研究開発の推進は法律によって事業者に課すべきものではなく、国際的に見ても特異と指摘。NTTとしては、推進責務の有無に関わらず、IOWNの研究開発を増やし、「最高のプロダクトのために開発を進める」と協調。国や研究開発法人との研究についても積極的に関わっていくとした。

ユニバーサルサービス義務は電気通信事業法に統合を

もうひとつが固定電話におけるユニバーサルサービスの確保。NTT法では、NTT東西に対して、固定電話サービスを日本全国に公平・安定的な提供することを義務付けている。

一方、現在はブロードバンドやモバイル、さらには衛星など様々な通信手段が増えており、電気通信事業法では、すでにブロードバンドサービスのユニバーサルサービス義務が定められている。NTT法における固定音声サービスも含めて、「電気通信事業法に統合すべき」としている。

ユニバーサルサービス義務は、音声・データ通信を固定・無線・衛星などに限らず、各地域に適したかたちで最も適した事業主体が担うべき、と説明。三重や奈良ではNTT西の光シェアは4割未満で、他社のほうが強い。そうした事業者ではなくNTT側に義務が課されるのは経済的ではないとする。

一方、離島など、条件不利地域では、適切な交付金制度やモバイル・衛星などを含めたコストミニマムな提供手段が認められれば、「NTT東西がラストリゾート責務(提供義務)を担う覚悟」とする。

経済安全保障の観点でもNTT法は「無意味」

NTT法では、政府株保有義務(1/3以上)があるほか、取締役専任認可や外国人役員規制も設けられている。しかし、主要国においては、特殊法人法はほぼ廃止されており、ユニバーサルサービスは事業法で規定されている。また、外資規制は、殆どの国で外為法で規定されている。

また、過去にはロシアの産業スパイがソフトバンクのモバイル設備情報を窃取し、国外に持ち出した例もある。経済安全保障の観点でも、「NTT法でNTTだけを守ることは無意味」で、「外為法やその他の法令で主要通信事業者を対象とすることを検討すべき」とした。

またNTT法により、「電信サービス」が20年前に提供終了しているにも関わらず、法律名が日本電信電話株式会社法であるため、社名変更できないことや、外国人役員の提供、各種届事項などの事業上の制限が生じていることにも言及した。

NTT法は「必要なくなる」

今回、NTTが初めてNTT法の「廃止」について言及したことになる。島田社長は、「結果的に廃止につながる」と語る。

「世の中で求められているのはブロードバンドのユニバーサルサービスで、電気通信事業法で規制がある。その中に(そのNTT法に規定された)音声も含めて統合していくことで、まず一つめの固定電話のユニバーサルサービス義務はなくなる。研究開発の推進普及義務については、今の時代で残すことが正しいと思っている人は殆どいない。その2つの責務がなくなれば、基本的にはNTT法自体の中身はなくなるので、必要なくなると理解している」

NTT法の見直しや廃止については、「そろそろ議論しなければと思っていた」という。研究開発の普及責務が事業上の制約となったほか、固定電話のユニバーサルサービスについては、「赤字が増えるのは目に見えている」とする。現在1,350万回線が、10年には500万程度に減少すると見込まれており、ブロードバンドサービスへの統合など、固定電話のありかたについて議論を進めるべく、昨年頃から関係者などに働きかけを行なっていた。ただし、今回の見直し議論については、政府や自民党から始まったものであり、NTTから働きかけたものではないという。

株式の売却方針や見直し時期については、「政府が決めること」だが、「一定の時間はかかる」とした。