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ソニー、スカウター型スマートグラス初披露 ブースはアクセシビリティ”だけ”【CEATEC2023】
2023年10月17日 09:35
デジタルイノベーションの総合展示会「CEATEC 2023」が千葉・幕張メッセで17日から開幕する。16日には報道向けに一部ブースが公開された。ここでは「アクセシビリティ」に注力したソニーブースを中心にレポートする。
CEATEC 2023の開催期間は10月17日~21日。入場は無料だが、会場参加やカンファレンス聴講、オンランセッション視聴などには来場事前予約が必要となる。
「制約」は誰にもある。ソニーが取り組むインクルーシブデザイン
ソニーブースのテーマは「アクセシビリティ」。多様なテーマの出展が行なわれるCEATECで、エンターテインメントやゲーム、テレビなど幅広い事業を持つソニーだが、アクセシビリティ“だけ”に絞った展示が行なわれている。
ブースのテーマは「誰もが自分らしく、感動を分かち合える未来のために」。ソニーにおける「アクセシビリティ」と「インクルーシブデザイン」の現在形を提示している。
ソニーに限らず現代の多くの企業は「アクセシビリティ」対応を強化している。ソニーでは、アクセシビリティについて、年齢や障害など、個人の特性や能力、環境に関わらず、商品・サービス・コンテンツを利用できること、と定めている。
ソニーグループ サステナビリティ推進部 アクセシビリティ&インクルージョングループ ゼネラルマネジャーの西川 文氏は、障害等による「制約」も様々なレベルがあると説明する。
例えば、移動には車椅子が常に必要な人もいれば、骨折などで「一時的」に制約を受けている人もいる。さらに「大きなバッグを持っていて片手が使えない」というシーンも制約と捉える。機能やサービスへのアクセスが「制限」されているからだ。
つまり、アクセシビリティの制約は誰にでも起きることであり、年齢や障害などの制約へのアクセスを改善することが、誰もが安心して使える製品・サービスにつながるという考え方だ。
ソニーにおけるアクセシビリティ対応の軸となるものが「インクルーシブデザイン」だ。
ソニーでは、アクセシビリティを必要とする高齢者・障害者などの制約を持ったユーザーに、企画・設計段階から参加してもらい、製品・サービス・体験を一緒に検討する取り組みを数年前から強化している。
なぜ、制約あるユーザーと一緒に検討するのか? ひとつは「誰しもが制約があるユーザーになりうる」から。もうひとつは、その体験をすることで「見過ごしている不便に気づける」からだ。制約あるユーザーのニーズを捉えることで、多数の「メインストリームユーザー」にとっても便益をもたらせるとする。
西川氏は、アクセシビリティでは、皆が「アクセスできる」ことを重視するが、インクルーシブデザインによる新たなアクセス手段が「新たな価値をもたらす」とする。野球観戦を例にあげ、高いフェンスの向こう側を、台などを使って子供や背の低い人が見えるようにすることをシンプルな「アクセシビリティ」対応とすると、「インクルーシブデザイン」では柵に穴を開けることで、子供が見られるだけでなく、大きな人も「寝ながらも見られる」といった新たな価値を生むと説明。制約あるユーザーのニーズから新たな価値を想像するのがインクルーシブデザインの考え方という。
Xperiaには音で通知する水準器
ソニーでは、実際にインクルーシブデザインを製品に取り入れ始めている。
スマートフォンのXperiaにおいては、弱視の社員と共同で開発。弱視の場合、「写真を撮影しない」と思われがちだが、実はメモや拡大鏡的に使う人が非常に多い。しかし、「構図を決めるのが難しい」ため、あとで写真を見ると被写体が傾いていたり、被写体が見切れている、といった課題があったという。
一方、視力に問題が無くても、「画面を見ずに撮影したい」というニーズは多い。例えば、人混みでスマートフォンを高くあげて人垣の先の風景を撮る、といったケースだ。「画面を見ずに、しかし構図をしっかり決めて撮影したい」というニーズは、弱視の人に限定されるニーズではなく、全ての人のニーズでもある。
そこで2023年モデルのXperiaのカメラアプリ(Photography Pro)には、音で通知する水準器を搭載。スマートフォンが傾いた時、水平になった時に、画面を見なくても音の通知に従って傾きや構図を調整できるようにしている。
対話しながら文字起こしするスカウター、XRキャッチボール
今回初披露となったのが、「スマートグラスによる会話支援プロジェクト」だ。
「スカウター型」の片目用のスマートグラスは、ビームフォーミングマイクと音声の文字起こし機能、グラスには8行表示の透過ディスプレイを内蔵。聴覚障害を持つ人が装着し、対面している人の話を自動で文字起こしし、コミュニケーションを図れる。
対面でのコミュニケーションのために、フレームを持つメガネ型ではなく、視界を妨げないフレームレスのスカウター型を採用。フレームレスにするためガラス素材は使えず、レンズ部は樹脂製となるが、ディスプレイの実現に同社の光ディスクにおける樹脂製導光板成形を活用している。
聴覚障害を持つ人だけでなく、海外旅行者における翻訳用途などでの活用も想定。様々な用途で実証実験を進めており、6,000人ほどのヒアリングを行なっているという。
技術的には揃っており、現在の課題はビジネスとしての実現性の検証だという。聴覚障害を持つ人には一般販売し、旅行者には事業者向けに販売し、レンタルを行なうなどの展開を想定し、事業性を確認している。
デジタル一眼カメラの「α7C II」と「α7CR」では、液晶画面が見づらいユーザーに操作をアシストする「音声読み上げ」や、メニュー画面の拡大表示機能を導入。これらもインクルーシブデザイン対応の一環となる。
「息子とキャッチボールがしたい」という視覚障害者の一言から開発した“遊び”が「XRキャッチボール」。音を頼りに仮想のボールでキャッチボールができるもので、MUSVIによるテレプレゼンスシステム「窓」を利用し、ソニーストア銀座とCEATECソニーブースを結び、仮想キャッチボールを行なえる。手にグローブをモチーフにしたセンサーを装着し、ボールの接近は「音」で伝え、遠く離れた人とキャッチボールを楽しめる。
楽器ができない人でも、「鼻歌」でサックスが吹けるようになるのが「ウルトラライトサックス」。複雑なキー操作などがいらず、「誰でも音楽を楽しめる」を実現する。
外出時歩行支援プロジェクトは、白杖(はくじょう)とセンシングデバイスを組み合わせて、視覚障害者が一人で安心して目的地に到着できるようにすることを目的とする。独自のセンシング・通信技術により、間近にある物体などを検知し、音や振動で通知する。必要な技術やニーズなどを検証しながら実現を目指す。