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EV充電器補助金の悪用問題解消へ 設置数倍増・高速化

EV充電サービス事業を展開するENECHANGE(エネチェンジ)は、メディア向けのラウンドテーブルを開催。日本国内におけるEV充電インフラを取り巻く現状について説明した。同社は7月に行なった記者会見では、EV用普通充電器の補助金についての問題点をあげ、そのあり方について疑問を提示していたが、その後、経済産業省と協議するなかで一定の改善が見られたという。解説を行なったのは、ENECHANGE CEOの城口洋平氏。

同社が挙げていた問題点の一つは、あまりに早い時期に補助金が予定額に到達してしまったことについて。これはそもそも予算額が少なすぎる点と、ルールを緩和しすぎたことによる、補助金の悪用を原因としていた。

特にルールの悪用については、1つの施設に設置できる普通充電器の数に上限が無かったことから、全ての駐車スペースに充電器を設置し、そこに補助金を投入できてしまったことが大きな原因とされた。これにより、1つのマンションに数百基の普通充電器を設置する例などが多発した。

元々、2020年までは、施設毎に駐車台数の1.5%までという制限があったが、これではさすがに少なすぎるという意見があったことから、2021年からこれを全廃してしまったという背景がある。

本来、普通充電器を広く普及させる目的で始まった補助金だが、政府の見積もりでは、EVの普及は2030年で所有率が10%。その時点でも100台中10台充電できれば十分な数であり、現時点で駐車スペースの全てに充電器を設置する理由はないと城口氏は指摘する。また、充電器は今後も充電速度など進歩を続けるものであり、そうした意味でも現時点で全台数を設置する正当性はないという。

EVの普及率が低い現時点では、1カ所毎に数基の充電器を、広く全国に設置することが望ましい。しかし、マンション1つに数百基の充電器を設置されては、広いエリアに普及させることは不可能で、実際に補助金は早期に底をつくかたちとなった。

こうしたことから同社は、一施設に対する充電器の数に上限を設けることを初め、国内の普通充電器が低速であることや、業界統一のプロトコルの採用による充電アプリの互換性、時間課金ではなく、実際に使用した電気料金を請求するkWh課金の推進などを提言。経済産業省はそれらを採用し、改善を行なう方針という。

今年度の補助金は終了しているが、予備費はまだ30億円あり、その対象には、悪用を防ぐ条件が盛り込まれた。具体的には、急速充電器については、設置場所を高速道路、公道、道の駅のみに限定。従来はスーパーマーケットやホテルなどにも設置可能だったが、そうした施設での急速充電ニーズは低く、補助金を交付する対象外とした。

マンションなどに設置する基礎充電用の普通充電基については、上限を設定。1申請における補助金による設置口数について、ケーブルは収容台数の10%以下、かつ10口以下、コンセントは収容台数以下、かつ20口以下とされた。これにより、1つのマンションの駐車スペース全てに充電器を設置するようなことは難しくなった。また、新築マンションは対象外になり、既築のマンションのみが対象になる。

ただし、城口氏は、コンセントの設置台数についてはまだ課題があると指摘。1カ所20口以下という条件だけでは、20台以下の駐車場の場合は全台分設置可能になってしまうことから、ケーブルと同様に収容台数の10%という制限は設けるべきだという。

商業施設や宿泊/レジャー施設など向けの目的地充電としての普通充電器については、設置口数が2口以下と、こちらも上限が設定された。

また、応募は元々先着順だったが、入札制に変更。これにより費用対効果の高い案件を優先していく。

設置後のメンテナンスも必要

現状日本の制度では、充電器を設置した後のメンテナンスが義務づけられていない。このため、補助金を目当てに需要のないところに設置してしまい、使う人が居ないから故障しても修理しないという状況が発生しているという。日常的に使う人が居なくても、旅行者等がアプリ上に表示された充電器を頼りに利用しようとする場合はあり、充電ができないというトラブルが起こる。

アメリカやイギリス等では、補助金を使用して設置した充電器の稼働率を97%以上で維持するよう義務づけており、国内でも同様の対応が求められる。

充電器の出力が低いのも日本のEV充電器の課題の一つ。海外では普通充電で10kW以上のクルマが珍しくないことに比べ、国内では3~6kWが主流。実際に設置されている充電器については、3kWのものが圧倒的な数を占める。急速充電器については、平均40kW程度のものが主流で、一部に90kW以上の充電器も設置されている。

経済産業省はこの現状について、普通充電は6kW、10kWの導入も含め総出力を増強。急速充電についても高速道路では原則90kW以上、場合によっては150kW以上を1口以上設置。道の駅やSS、コンビになどでもニーズの高いところは90kW以上を複数口、それ以外は50kW以上のものを設置するなどの方針を示している。

ただし、現状では速ければ速いほどよい、という状況ではないと城口氏は指摘する。国産車では、普通充電、急速充電ともに、そもそも高速な規格に対応しているものが少ない現状で、充電速度だけを上げてしまうと「海外製のクルマを買った方がよい」状況が生まれてしまう。テスラ モデルXは普通充電でも16.5kWで充電が可能など、10kWを超える出力に対応した車両も珍しくない。国内産業保護のためにも、極端な状況を作るのではなく、段階的に速度を上げていく必要性も強調した。

充電器設置目標が大幅増 2030年に30万基

経済産業省は、2030年に向けたEV充電器の設置目標数について、8月28日に、従来の目標である15万基から倍増となる30万基の整備を目指すことを発表している。その内訳は、急速充電は3万口と従来から据え置かれたが、普通充電は27万口と、従来の12万基目標から125%増という大幅な上方修正がされている。

自動車市場では、EV・PHEVの新車販売に占める比率が継続的に3%を超えており増加傾向にある。これをうけ、2023年度の補助金は前年度比約3倍(普通充電80億円、急速充電95億円)になっていたが、設置目標が大幅に増えた現状では、2024年度の補助金は普通充電310億円、急速充電95億円が必要になると城口氏は見込んでいる。