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姉崎火力発電所を見てきた メタバースやAIも使い効率化するデジタル発電所
2023年10月11日 11:36
東京電力と中部電力の傘下のエネルギー企業のJERAは、同社が開発し、現場への導入を進めているデジタル発電所(Digital Power Plant、DPP)のソリューションについて、先行導入している姉崎火力発電所においてプレス向けに公開した。
姉崎火力発電所って?
姉崎火力発電所は、東京湾北東の臨海部、いわゆる京葉工業地帯の大型プラントが立ち並ぶ埋め立て地エリアにある火力発電所だ。同エリアにはほかにも千葉火力発電所、五井火力発電所、袖ヶ浦発電所などもある。いずれも出力は300万kWを超える、大規模な火力発電所だ。もともとは東京電力の発電所だが、現在はJERAに移管されている。
姉崎火力発電所は1967年に運転を開始した。時代に合わせた燃料の変更などを経つつ、運転開始から50年以上が経過した2021年に1〜4号機が廃止され、2023年2〜8月に新1〜新3号機の運用が開始された。このほかには、1970年代後半に運用開始した5号機と6号機も運用中だ。
新1〜新3号機は、液化天然ガス(LNG)を燃料とし、燃焼で生じる運動エネルギーを使うガスタービンと熱エネルギーを使う蒸気タービンの両方で発電するコンバインドサイクル発電方式を採用している。この発電設備のハードウェア的な更新と同時に、デジタル発電所のソリューションがJERAの中でも先行して導入されている。
デジタル技術で発電所の運用を効率化
JERAが取り組むデジタル発電所(JERA-DPP)は、発電所の設備とスタッフ、運用実績やノウハウをデータ化し、それをクラウド上に集約・解析することで効率化を図っていくというもの。姉崎火力発電所で運用を開始しているが、引き続き機能の拡充などの進化を進め、JERAのほかの火力発電所への導入を進めるとともに、他社へのソリューション提供なども視野に入れている。
デジタル発電所では、自社開発アプリケーションのDPPパッケージにより、パソコンやモバイル端末で発電所運用に必要なデータ収集から対応まで行なえるようにしている。こうしたデジタル化による恩恵は多岐にわたる。
たとえばAIによる予兆検知機能により、発電設備を停止するような緊急メンテナンスを減らす。AIが運用データからトラブル発生の予兆を読み取り、緊急停止する前に計画的にメンテナンスすることで、ダウンタイムを短縮削減して稼働率を上げる。DPPパッケージでは、こうしたAIによる予兆検知から原因の分析、対策アクションまでを担う。
また、従来は熟練技師に頼っていた「現場力」も、熟練技師の行動や知識をAIに機械学習させることで、いつでも誰でも発揮できるようにする。リモート環境からの監視や共同作業、AIによるサポートにより、人員への負担を減らせるのもデジタル発電所の特長だ。
さらに、こうしたデジタル化と最新のコンバインドサイクル発電方式により、発電効率を改善し、CO2排出量の低減も目指すミッションのひとつとなっている。
DPPパッケージの中で重要なパートを占めるのが、都内にあるGlobal-Data Analyzing Center(G-DAC)だ。こちらではJERAが管理する国内外発電所の62のユニットの遠隔サポートが24時間体制で行なわれている。G-DACでは今回開発されたAIアプリ、JERA-AI Microservices for Energy(J-AIME)により、リアルタイムに運転データの分析が行なわれ、予知保全につなげられる。
効率化によりシンプルになった操作室
ビジュアルとしてわかりやすいのは、中央操作室の変化だ。旧来の中央操作室は機械的なアナログメーターやスイッチが大量に並ぶ巨大な制御盤があり、設備の運転状況を確認するにも、何らかの操作をするにも、制御盤の特定の場所に行く必要があった。
しかし新しい中央操作室は、機械的なスイッチ類はほとんどなく、モニターとキーボード、マウスがあるだけだ。
新しい中央操作室においては、スタッフは緊急時以外は制御席に座らず、近くのデスクでノートパソコンで通常業務を行ないながら運転状況を確認できる。一方、基本的に監視や運転操作は自動化され、スタッフの業務は省力化される。
姉崎火力発電所の新しい中央操作室は、新しく作られた新1〜新3号機だけでなく、既存の5号機と6号機の操作も担当している。ちなみに古い中央操作室も姉崎火力発電所の敷地内に残っているが、現在はそちらは利用していないという。
メタバース上の司令室と生成AIによるアドバイス
都内にあるG-DACと各地の発電所を連携させるために、メタバースを使ったコミュニケーションツールも用意される。
このメタバース内では巨大なモニター上で発電所の設備のリアルタイムデータや設備の3Dモデルなどを見ることができるので、G-DACと各地の発電所など離れた場所いるスタッフがあたかも同じ操作室にいるかのように、発生した問題への対処などを行なうことができる。
このメタバース上には翻訳機能も組み込まれていて、言語が通じない話者間でも、多少の翻訳ラグはあるものの、通訳を介さずにある程度のコミュニケーションが取れる。
さらに生成AIのEnterprise knowledge Adviser(EKA)も開発されている。こちらは過去のトラブル事例などを学習したAIで、何かの異常が発見されたとき、類似する過去の事例を素早く見つけ、トラブル原因の特定に役立てることができる。このEKAはメタバースからもアクセス可能で、メタバース上でのトラブル分析にも利用できる。
今回公開されたデモンストレーションでは、メタバースにアクセスするための機材としてMeta Quest 2が使われていて、PC接続することなく、メタバースアプリはQuest 2のローカル上で動いていた。
このメタバースは仮想空間が比較的広く、ユーザーは空間内をアナログスティックで移動する、VRでは3D酔いが発生しやすいタイプのメタバースだ。ただしVRゴーグルだけでなく、PCからもアクセスすることは可能となっている。
マイクロソフトと協業しているものの、同社のHololensは使われていない。というのも、今回導入されているのはコミュニケーションのためのVRメタバースであり、現実世界の物体と重畳させて表示するAR/MRではないからだ。
こうしたプラントだと現場作業員を支援するためにARが使われることがある。たとえば複雑な設備のトラブル発生時、不慣れな作業員に対してどの部品を交換するかといったことをビジュアルで指示するのにARは最適だ。しかしそうしたARは毎日同じ設備を扱っている火力発電所の現場作業員にはそこまで重要ではない。
とはいえ、不慣れなスタッフが作業せざるを得ないこともあるし、新しい設備を導入することもある。将来的にはARの導入も視野に入れているとのことだ。