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「Microsoft Copilot」登場 PCからオフィスツールまでAI推進するマイクロソフト
2023年9月22日 11:56
米Microsoftは21日(米国時間)、ニューヨークでプレスイベントを開催し、Windows 11からSurfaceまで、同社の「Copilot(コパイロット)戦略」について発表を行なった。
主力製品のほぼ全てに「仕事のための副操縦士(Copilot)」として、AI導入を進めている同社だが、AIを取り入れた「Microsoft Copilot」は、9月26日からWindows 11の無償アップデートの一部として提供する。秋以降に、BingやEdge、Microsoft 365 CopilotなどでAI導入を強化していく。
サティア・ナデラCEOをはじめとしたエクゼクティブの言葉から、彼らの戦略を分析してみよう。
生成AIのチャットをWindowsに正式搭載
「たった10カ月前にChatGPTが発表されたとは、考えられない。周囲を見渡しても、あれ以来全てが変わってしまった。自然言語によるコパイロットは、まるでプログラミング言語のように機能し始めている。OpenAIはスタートアップ企業。そのたった1社が市場を支配している。これは、まるで1990年代に戻ったよう。ソフトの革新によって世界が変化していくのはエキサイティングだ」
冒頭、会見の壇上で説明をしたサティア・ナデラCEOはそう話した。
筆者も同感だ。変化しているのはもちろんマイクロソフトだけではない。生成AIによるサービス開発は非常に多くの企業で行なわれているが、特にマイクロソフトの動きは目立つ。
マイクロソフトが全社製品に横断的に生成AIを「コパイロット」として導入し、幅広く使い始める……というのが、今回の発表の主軸だ。
Windows 11は定期的に大型アップデートを行なっているが、今年の大型アップデートは9月26日に行なわれることが公表された。名称は「23H2」だ。
多数の新機能があるが、もっとも大きいのは「Windows 11へのコパイロットの導入」だ。
Windows Copliotの名称で、Insider Preview版では提供が開始されていたが、今回は全てのWindows 11ユーザーへと解放される。ただし、扱いとしては「プレビュー」であり、フィードバックを受けて改善する段階でもある。名称もCopilot in Windowsとなった。
Windows 11のアップデートには150以上の新機能があるが、その多くに「AI」が絡んでおり、さらに、Copilot in Windowsのような生成AIが絡む機能もある。
Windows担当バイスプレジデントのカルメン・ザラテフ氏は、Copilot in Windowsによる変化を「Copy and Paste and Do」と説明する。
コピーしてペースト(貼り付け)する世界から、さらにそれを命令やデータとして使い、生成AIに「実行」させて作業を簡略化する……という考え方だ。
ファイルを探し、要約し、スマホに来たメッセージから次の宿などを決め、メールの草稿を書いてもらう。
そんな使い方を、マイクロソフトの各種クラウドサービスとWindowsが内蔵している機能の組み合わせとして実現していこうというのが、Copilot in Windowsの考え方だ。それがどこまで実現できるかは未知数なところもあるが、マイクロソフトのサービスを連携して使っているほど、チャットでの連携の価値も高くなる。
Microsoft 365 Chatで「企業の働き方」を変える
最もわかりやすいのは、大企業向けのソリューションだ。
マイクロソフトはオフィス向けサービスである「Microsoft 365」を展開している。その上では3月より、OpenAIの生成AIと連携する「Microsoft 365 Copilot」のテスト提供が進んでいた。
11月1日から、Microsoft 365 Copilotは試験サービスではなく「一般公開版(General Availability、GA)」となり、Microsoft 365を導入している企業で使えるようになる。
これはあくまでMicrosoft 365のためのものであり、Windows 11とは直接関係ない。しかし当然、Windows 11のコパイロットと連携し、本領を発揮する。
規模の大きな企業がMicrosoft 365 Copilotを導入する場合と、Windows 11でコパイロットをUIとして使う場合の違いは、こちらの表で見るのがわかりやすい。
ポイントとなるのが「Microsoft 365 Chat」の存在だ。これは今回発表されたもので、Microsoft 365 Copilotを全面導入している企業にとってもっとも価値があるものとなる。
Microsoft 365 Chatでは、個人のファイルはもちろん、企業が部署内で蓄積したファイル、利用者のプロファイル、企業の特性といった情報を活用する。Microsoft 365を使う上で蓄積されていった情報をベースに、その企業にとっての情報を加味した上で、チャットによって仕事をしていくことができる。これは、「事情を踏まえていない生成AI」になにかをしてもらうのとは違い、よりシンプルな命令で確実な作業を実現しやすい。
Bingチャットは「パーソナライズ」 画像生成は「DALL-E 3」
では個人にとってはどうか?
全く同じ考え方というわけではないが、Bingチャットが「パーソナライズされた回答」に対応するのが大きい。
マイクロソフトアカウントでBingにログインしている状態でBingチャットを使うと、そこでの対話履歴が蓄積されていく。BingチャットのAIはそれを踏まえた上で、その人に合った回答をしていくことになるのだ。自分の質問傾向や好みをいちいちプロンプトで指定する必要はなくなるので、理想的に働けばかなり有用だろう。
Bingでのイメージ生成が「DALL-E 3」ベースに変わるのも大きい。
DALL-E 3は、OpenAIが9月20日に発表したばかりの画像生成AI。AIに向けた記法と言える「プロンプト」というよりも、一般的な文章に近いもので、思ったものに近い画像が生成できるようになっているという。
また、Bingで生成した画像には、自動的に電子透かしとして「コンテンツ認証(CAI)」が組み込まれる。画像がAIに生成されたものなのかそうでないのかを見極められるので、事情に合わせて生成画像を活用しやすくなる。
なお、前出のように「Microsoft 365 Copilot」は大企業に向けた提供だ。そのため、個人や中小企業では、オフィスアプリ内から生成AIを活用するのが難しかった。
特に日本の場合には、個人が買ったPCで仕事をしている比率も高く、その関係で「PCにプレインストールされたMicrosoft 365」が使われている率も高い。それらはいわゆる大企業向けのライセンスとは異なるので、同じMicrosoft 365でも、Microsoft 365 Copilotが使えなかった。
しかし今回、個人・中小企業が使うMicrosoft 365からもMicrosoft 365 Copilotが使えるよう、近日中にテストが開始されることも発表になった。
まずは小規模なユーザーによるテストから始まるため、多くの人が利用可能になるのはまだ先の話だ。
しかし、大企業向けのテストが比較的短時間で終わって一般提供が開始されたことを考えると、年単位で待つような話にはならないだろう。
それに加え、マイクロソフトの画像生成ツールである「Designer」のMicrosoft 365連携も始まる。これは大企業向けだけでなく、個人向けのMicrosoft 365とも連携する。文書の文脈を読んで画像を生成したり、アップロードされた写真に文字や背景をつけるなどの「アレンジ」も自動化する。
まずはWordとの連携からとなるが、今後は他のオフィスアプリとも連携していく予定だ。
Windows 11に「生成以外のAI」も多数搭載。CPU+GPU+NPUの時代に?
Windows 11のアップデートに話を戻そう。
Windows 11 23H2では、生成AI以外の「AI機能」も多数搭載される。
例えば「ペイント」には、画像の背景を選択してレイヤー化して扱う機能が搭載されるし、画面キャプチャツールの「Snipping Tool」では、キャプチャした画像の中の文字を認識し、テキスト情報として取り出せるようになった。
画像認識をはじめとした細かな「AI活用機能」を追加した結果が、150にも及ぶ機能追加につながっている。
なお、今回同時に、マイクロソフトブランドのPCでもある「Surface」も3機種が同時発表された。うち1機種(Surface Go 4)は企業向けのため会見ではお披露目されなかったが、残り2機種は会場でも触れることができた。
「Surface Laptop Go 3」は799ドルと低価格なノートPC。だがデザインを含めた完成度は高く、人気を呼びそうだ。キーボードがしっかりしていて打ちやすいのは、チャットAIによってキーボードへの依存度が高くなっていくことへの布石……というのは考えすぎだろうか。
もう1機種の「Surface Laptop Studio 2」は、高性能GPUとHDR対応・ペン対応のディスプレイが特徴のクリエイター向けPCだ。
単にCPUやGPUが高速なのではなく、ビデオ会議時の顔認識や画像補正、ノイズキャンセルなどの機械学習処理に使われる「NPU(Neural Processing Unit)」として、インテルの「Movidius 3700VC VPU」を搭載したのが特徴。同社のPCとして、インテルのNPU(インテルの呼称ではVPU)を搭載したのは初めてのこととなる。
スマートフォン用のプロセッサーでは、写真処理や音声認識などのAI処理のため、プロセッサー内にNPUを搭載するのは一般的なことだ。PCではまだまだだったが、今後はそうした傾向も変わっていくのだろう。マイクロソフトは「今のWindowsのあるべき姿」の提案としてSurfaceを開発することが多いが、Surface Laptop Studio 2にNPUを搭載したのも、「CPU+GPU+NPUの時代が来た」ことをアピールするためなのかも知れない。