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闇バイト、応募しても報酬無し 逮捕されるまで使い捨ての実態

警察庁は、少年が「闇バイト」への応募をきっかけに、重大な犯罪に加担してしまう実態について「犯罪実行者募集の実態」として事例集を作成した。闇バイトは応募しても報酬は支払われず、脅迫により逮捕されるまで利用され、使い捨てされる実態が掲載されている。

応募から検挙されるまでの流れ

少年達が闇バイトに応募し、犯罪行為に加担するまでの基本的な流れは下記の通り。

  • 自らSNSで「高額報酬」等を検索・応募
  • 犯行グループから連絡が入り、以降、匿名性の高いアプリでやりとり
  • 犯行グループに言われるがまま個人情報を送信
  • 犯罪行為への加担を拒否すれば犯行グループが個人情報を基に脅迫

一度闇バイトに応募すると、簡単には抜けられない実態が見て取れる。

TwitterやInstagram、地元の先輩がきっかけに

詳しくみていくと、まず募集情報への応募では、一般的なSNSやコミュニティサイトで「高額報酬」「闇バイト」などと検索して応募。自ら応募するだけでなく、先輩や友人に誘われたというケースもある。例えばTwitterで「お金に困っている」という投稿をすると、それを見た犯行グループから「働いてみないか。大金を稼げる仕事がある」等のメッセージが届いたり、Instagramで同様の投稿をしたところ、地元の先輩から連絡があり、その後、知り合いのヤクザを紹介されたケースがあった。この他、仕事を探しているという投稿が切っ掛けだったり、SNSで知り合った人に「金を貸してほしい」と相談をしたことが切っ掛けになったパターンもある。

募集に使われたことが確認されているのは、SNSでは「Twitter」「Instagram」「Facebook」「iMessage」。掲示板では「爆サイ」「ジモティー」。その他、歓楽街の電柱に貼られたQRコードや、自宅ポストに投函された求人チラシ、求人情報サイト、求人情報冊子などさまざまなケースが確認されている。

秘匿性の高いSNSで連絡をとる

犯行グループとのやりとりでは、一定時間が経過すると通信履歴が消去される匿名性の高いアプリとして、TelegramやSignalをインストールさせられた上で連絡をするようになる。一般的なアルバイト求人サイトで、正規のハンドキャリーの仕事(日給15,000円程度)として募集がされていたケースもある。

履歴書を送らせるなど一見正当な仕事にみせかけながら、面接はなく通話のみ、Signalを入れるようにいわれ、報酬の支払い方法は指定された場所に現金が置いてあるという不審な内容だったが、実際の仕事内容は特殊詐欺の「受け子」だったという。

やりとりに使われたことが確認されているツールは「Telegram」「Signal」「WeChat」「DingTalk」。

仕事を受ける前に個人情報を要求される

犯人グループは「アルバイトをするための登録情報として必要」という名目で、少年たちの個人情報を収集。言われるがまま、身分証明書などの写真をアプリで送信している。実際に、Signalを使って保険証と写真を一緒に送ったり、Telegramで住民票と自撮りの顔写真を送信したケースがある。さらに、家族構成や名前、勤務先、交際相手などの個人情報を送信したケースもある。そのほか、面接の際にスマホの中身(電話帳、写真、SNSの履歴)を長時間くまなく動画撮影されたり、自分が住んでいるマンションの出入り口から部屋までの道のりを動画撮影して送るよう指示されたり、上半身裸の写真を送信させられる場合もあったという。

個人情報を基に脅迫し犯行を強要

個人情報収集が終わると、仕事の内容が伝達され、犯罪行為であることが明らかになる。犯罪行為への加担を拒否すれば、個人情報を基にした脅迫が始まる。仕事内容のリスクを知って断わろうとすると、「自宅に押しかける。母親から狙う」、「逃げたらこうなるよ」と、男が殴られる動画が送信されてくる、「家族全員殺すぞ」など脅迫され、しかたなく仕事を引き受けざるをえない状況に追い込まれる。1度、仕事を受けた後に2回目の仕事を断わっても、「顔写真や住所を知っているから逃げられない」と脅されるという。

受け子をして得た現金を別の犯行グループに横流しをしたら、実父へ電話をかけられ、実家に押し掛けられたケースもある。

犯人グループは、少年が素直に従っている時は「お前が一番かわいい後輩」「お前しかいない」などと優しい言葉をかけているが、犯行グループを離脱する意思を示した途端、態度を豹変させるという。

犯行グループによる脅迫などを受け、少年達が犯罪行為を繰り返すうち、最終的には必ず検挙される。犯行グループは自分たちが逮捕されないよう少年達を「捨て駒」として、逮捕されるまで使い続ける。

少年達は「使い捨て」 報酬はない

検挙された少年達の大半は「遊ぶための金がほしい」という理由で応募している。目先の遊興費を得るため、「1回だけなら大丈夫」「嫌になったら直ぐ辞めればいい」という安易な気持ちで応募して、取り返しの付かない結果となっている。犯行グループが少年達の身分証明書をSNSに公開すれば、新たな犯罪に巻き込まれる危険性もある。

約束された報酬についても、多くの場合は支払われない。報酬を受け取っても、犯人グループから「金が必要になった」と言われ、指定された口座に報酬を全て振り込まされたケースや、報酬は後から払うという約束などをしても、結局支払われないまま逮捕に至っているケースがある。中には受け子としてキャリーケースを持ったまま全国を転々とさせられ、逮捕されるまで家にも帰れず、ホテルや漫画喫茶に寝泊まりしながら犯行を続けていたケースもある。

犯人グループを騙して受け子として受け取った現金を持ち逃げしようとしたケースでは、犯行グループに密告されて逮捕に至るなど、個人情報を握っている犯行グループは、簡単に受け子を切り捨てられる立場にあることがわかる。

「闇バイト」は単なる犯罪

「闇バイト」に応募する少年たちは、「最初から犯罪行為であると知りつつ加担する者」と、「犯罪行為であるとの認識が薄い(ない)まま、個人情報を盾に脅され、仕方なく加担する者」の2種類のパターンがある。双方共通するのは、検挙後には後悔をしていること。犯罪行為であることを理解しながら加担する少年達に対しては、検挙後に待ち受ける悲惨な末路や、道徳心に訴えかけて啓発するのが効果的としている。犯罪であるという認識が薄い少年達の場合は、「犯罪に加担せざるを得なくなる、簡単には抜け出せない仕組み」であることを理解させ、そこに至らない予防策を啓発するのが効果的だという。

いずれにしろ、社会的には「闇バイト」という単語が使われているが、実情は単なる犯罪であり、加担しても何も得るものは無い。警察庁では、少年がこうした行為に加担しないよう、保護者や教職員、少年警察ボランティアなど、少年の健全育成に携わる人々が、その現実を伝えていくことが重要だとしている。