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「ガウディとサグラダ・ファミリア展」開幕 完成間近サグラダ・ファミリアの全貌
2023年6月15日 08:20
東京国立近代美術館で、「ガウディとサグラダ・ファミリア展」が、6月13日から9月10日の期間で開催される。
アントニ・ガウディは、カタルーニャ地方で生まれた、スペインを代表する建築家。彼が手掛けた作品は、サグラダ・ファミリア聖堂をはじめ、バルセロナに点在する7つが、いずれも一度見たら忘れられなくなるほどユニークな造形。それらは「アントニ・ガウディの作品群」として、世界遺産にも登録され、世界中の人々を魅了し続けている。
今回の特別展では、最初の石の設置から140年以上が経過した今もなお建設が続き「未完の聖堂」と言われてきたサグラダ・ファミリア聖堂に焦点を絞り、同聖堂に即してガウディの建築思想と造形原理を読み解いていくもの。
ガウディ直筆のスケッチを含む、100点を超える図面や模型、写真に、最新の映像を交えながら、ガウディ建築の魅力に迫る。
会場:東京国立近代美術館(東京都千代田区北の丸公園3-1)
会期:6月13日(火)〜9月10日(日)
開館時間:10:00~17:00(金・土曜日は20:00まで)
観覧料:一般2,200円、大学生1,200円、高校生700円、中学生以下無料
巡回:佐川美術館(9月30日~12月3日)、名古屋市美術館(12月19日~2024年3月10日)
なお、第1章〜第4章のうち、多くのスペースを割いた第2章と第3章については、一部を除いて撮影が可能。
サグラダ・ファミリアへ続くガウディの軌跡
改めて、サグラダ・ファミリアは、スペインのバルセロナ市内にある未完成の聖堂(バシリカ)であり、アントニ・ガウディによって基本的な設計がなされた。
ほかのガウディ建築と同様、サグラダ・ファミリア聖堂も、幻想的な外観を持ち、曲線的なフォルムや緻密な彫刻などを特徴とする。また、完成すると全18の尖塔が立ち並ぶ予定で、中でも建設中の「イエスの塔」の完成時の高さは172.5mを予定している。そうした、計画の壮大さもあり、起工から140年が経つ今でも工事が続けられている。
建設途中とはいえ、建物内部は美しいステンドグラスや彫刻に満たされており、毎年多くの人が訪れている。
今展の第1章と第2章では、そんなサグラダ・ファミリア聖堂の独創的な建築の起源を探るべく、ガウディが生きた時代と、ガウディ建築の軌跡を観ていく展示となっている。
まず、ガウディがバルセロナ建築学校で学んだ19世紀の後半は、産業革命とそれに伴う都市人口の急増により、ヨーロッパの諸都市が、かつてない規模で変貌を遂げていた。なかでもバルセロナは、スペインでいち早く産業革命を達成した都市といわれ、当時は中世の城壁は壊して都市の規模を拡張するなど、近代化が推し進められていた。
学生時代のガウディは、講義に出席することよりも、図書館にこもって資料を読み漁っていたという。特に「フランス中世建築事典」を著した19世紀フランスの建築家、ヴィオレ=ル=デュクの影響が大きかったようだ。
第1章では、ガウディの学生時代に愛読していた書籍や、制作した図面のほか、ガウディが建築論について書き留めたノートも展示されている。
建築学校を卒業し、ガウディが建築家の資格を取得したのは1878年、25歳のこと。日本で言えば、明治維新から約10年が経ち、近代化(西洋化)に邁進していた時期だ。
同年は、ガウディにとってエポックな年となる。バルセロナの有名な革手袋店のためにデザインした、パリ万国博覧会(万博)への出展用ショーケースが、後にパトロンとなるアウゼビ・グエルの目に留まったのだ。
今展では、ショーケースのデザイン案を、名刺の裏に描き留めた、ガウディの直筆が見られる。
細身の枠でガラスを固定する軽やかで瀟洒なケースを設計し、万博会場で評判になったという。
その後、1883年(31歳)でサグラダ・ファミリア聖堂の二代建築家に就任しつつ、カサ・ビセンスやキハーノ邸「奇想館」などを起工。翌年はグエル別邸を、1886年(34歳)でグエル館を建設し始める。
第2章「ガウディの創造の源泉」では、ガウディが手掛けた建築の模型や、それぞれ影響を受けた多彩な建築様式が紹介されていく。
例えば、カサ・ビセンスで見られるのは、建物の外観を色彩で装飾した、当時の西欧で広がりつつあったポリクロミー(多彩色)。これを実現するためガウディは、タイル装飾を試みた。かつてイスラム教のウマイヤ朝の支配下にあったスペイン(とポルトガル)で中世に発展した、ムデハルと呼ばれる建築様式に注目し、同様式から着想したのだという。
過去からの学びという意味では、ゴシック建築についても学生時代から深く研究。1882年(30歳前後)の、バルセロナ大聖堂大正面のコンペでは、師のジュアン・マルトゥレイのもとでネオ・ゴシック様式の設計案を描いている。
これらガウディの初期の作品を見ても、効率化とコスパが最優先されただろう、産業革命のただ中に作られたとは思えない建築。いったいどこから発想していたのか、という問いに対して、ガウディは次のような言葉を残している。
「人間は創造しない。人間は発見し、その発見から出発する」
また「自然は私の師だ」と言うガウディは、徹底した自然観察を行ない、造形の原理を発見。そこから有機的なフォルムの建築や什器をデザインしていく。
例えば、カサ・ビセンスの建設では、敷地内に茂った棕櫚(シュロ)の葉をかたどって鋳型を作り、門扉のデザインに採用している。そうした装飾は、サグラダ・ファミリア聖堂でも取り入れられている。
そして46歳になった1896年には、カサ・カルベートやコローニア・グエル教会、1900年からはグエル公園と、後に世界遺産に登録される建築に取り掛かる。
作品を手掛けるごとに、チャレンジングな設計をしていくガウディは、同時進行していたサグラダ・ファミリア聖堂へ、それら新たなアイデアを採用していった。
展示会場には、サグラダ・ファミリアを想起させる、幻に終わったニューヨークの超高層ホテル計画案なる、図面や模型が展示されている。
第2章では建築だけでなく、その中で使用される家具についても触れられている。1904年、52歳の時に増改築を手掛けたカサ・バッリョのためにデザインした椅子は、最高傑作に位置づけられている。
ゆるやかな曲線の連続で作られた椅子を目にすると、思わず触れたくなる、座りたくなるような衝動に駆られた(触れないでください)。座ってみたら、どれだけ心地よいだろうかと気になるところだ。
聖堂の精巧な模型や塑像に心が躍る
サグラダ・ファミリア聖堂は、1882年に建設プロジェクトがスタートした。あまり知られていないが、初代建築家は、フランシスコ・デ・パウラ・ビリャールで、ガウディが二代目の建築家として参画したのは、ガウディが31歳の1883年のこと。
第3章「サグラダ・ファミリア聖堂の軌跡」では、いよいよサグラダ・ファミリア聖堂自体が主役となり、今展に訪れる多くの人にとって、ハイライトとなるだろう。
ここには、最新のサグラダ・ファミリア聖堂の全体模型のほか、同聖堂の内外に設置されている彫像や柱の(原型となる)塑像や模型が多く展示されている。まず真っ先に第3章の展示室に来て、聖堂の壮大さや、ガウディが目指した建築を肌で感じてから、他の展示室を巡っても良いだろう。
そして第3章の会場へ入ってすぐのところに展示されているのが、サグラダ・ファミリア聖堂の「降誕の正面」に展開されている5つの彫像の塑像だ。
なおサグラダ・ファミリアには、降誕の正面(ファサード)、受難の正面、そして未完の栄光の正面という、3つの入口が配置される。そのうち、ガウディ本人が細部まで設計し、生前に完成間近の状態で見られた正面。
展示されている塑像は、いずれも1898〜1900年に、ガウディ指揮のもとで制作されたものだ。
そして、その隣には同じく降誕の正面に設置されている《歌う天使たち》。日本人彫刻家の外尾悦郎さんが、ガウディの石膏像写真をもとに復元制作したもの。一つ一つを見ていくと、日本人のような表情で親しみやすい。
ちなみに会場に展示されている石膏像は、1990〜2000年の間、砂岩で制作された石像に置き換わるまで、実際に降誕の正面に設置されていたという。
実物大の塑像を見てから振り返ると、1:200スケールで2012〜2013年に作られた最新版の全体模型が見られる。サグラダ・ファミリア聖堂の模型室で制作された、公式の模型ということ。
細部までびっしりと作り込まれた模型を、ぐるりと四方を巡って見ていくと、聖堂の全体がよく把握できる。
そのほか第3章では、サグラダ・ファミリア聖堂の設計図の変遷や、身廊部の25分の1スケールの模型など、無数の資料が展示されている。
また撮影禁止のため写真を掲載できないが、バルセロナ生まれの彫刻家、ジュゼップ・マリア・スビラクス(1927〜2014年)が制作した、受難の正面(ファサード)に配置されている彫刻の原型が展示されている。
展示されているのは《いばらの冠のイエス》と《ユダの接吻》。いずれも、対象を抽象的に表現するキュビズムの影響を感じる幾何学的な造形。これまでの展示で分かる、ガウディが目指した写実的な表現とは大きく異なるのだ。
スビラクスの趣向がガウディのそれとは違うだけでなく、受難の正面の彫像群の配置も、ガウディの案とは大きく異なるという。それでも、現在の受難の正面は、サグラダ・ファミリアの代表的なイメージの一つと言える場所になっている。
「この聖堂を完成したいとは思いません」
今回の「ガウディとサグラダ・ファミリア展」は、以上のように、前半の第1章と第2章でサグラダ・ファミリア聖堂以外から、ガウディ建築に迫っていく。そして第3章の大半で、主にサグラダ・ファミリア聖堂の詳細を見ていくという構成となっている。
前述の通り、もし興味の比重が、ガウディ自身にではなくサグラダ・ファミリア聖堂にあるのなら、まずは第3章を見て回ってから、第1と第2章へ戻って観覧することをおすすめしたい。そこからまた第3章を振り返ると、サグラダ・ファミリア聖堂への理解が深めやすいだろう。
なお第4章「ガウディの遺伝子」では、ガウディ建築が、現代の建築家に与えた影響を、主にパネルで紹介されている。
そして会場の最後では、ガウディの名言集のような映像が流れていた。その中で印象に残った言葉がある。
「この聖堂を完成したいとは思いません。というのも、そうすることが良いとは思わないからです。このような作品は長い時代の産物であるべきで、長ければ長いほど良いのです」
ガウディの言葉として、何度か触れたことがある。これまでは、単なる言い訳かもな……とも思わないでもなかった。ただし、今回の展示を巡ってみて「これだけのものを作ろうとしたのだから、そりゃ100年経っても出来ないよ」と感じた。また実際に、クレーンなどの無い時代とはいえ、ケルンやミラノ、バチカンのサン・ピエトロ、ノートルダムなど、100年以上をかけて建設した聖堂は少なくない。それを思えば、ガウディの言葉も、本心だっただろうと分かる。
とはいえサグラダ・ファミリア聖堂は、ガウディの没後100年となる、2026年の完成を予定している。少し遅れる見込みのようだが、完成が間近に迫っている。筆者はまだバルセロナへもスペインへも行ったことはないが、「ガウディとサグラダ・ファミリア展」を見て、サグラダ・ファミリア聖堂やガウディ建築を見に行きたいと強く感じた。
なお、ショップエリアでは、ガウディやサグラダ・ファミリアに関する詳細が記された公式図録が販売されている。より理解を深めるためにも、手に入れておきたい。また他にも、多数の展覧会オリジナルグッズを展開している。