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アマゾン、新物流拠点「千葉みなとFC」公開 ロボット活用国内最大
2023年6月8日 12:35
Amazonは、6月7日、千葉県千葉市に新設予定の物流拠点「Amazon千葉みなとフルフィルメントセンター(Amazon千葉みなとFC)」を、報道関係者向けに公開した。Amazonが建設段階の拠点を公開するのは日本初。
「Amazon千葉みなとFC」は商品棚を持ち上げて移動する自走式ロボットなどの「Amazon Robotics(アマゾンロボティクス)」を導入する拠点としては日本最大規模となる。稼働開始予定は8月。延床面積は約120,000m2。商品在庫数は1,700万アイテム以上。商品の入荷数・出荷数はいずれも1日約60万個。雇用機会創出量は約2,000人以上。稼働人数は1日あたり数百人。
アマゾンロボティクスとは「Drive(ドライブ)」と呼ばれる移動ロボットが、専用の商品棚「Pod(ポッド)」の下に入り込んで持ち上げ、移動させることで倉庫業務をアシストするソリューション。より短時間で棚入れや棚出しができるようになる。また倉庫容積を効率良く使えるので品揃えを増やすこともできる。Amazon千葉みなとFCの「ドライブ」は約2,600台、「ポッド」数は約3万台、ステーション数は200以上になる予定。
Amazonは埼玉県狭山市にもファッション商品を扱う拠点「Amazon狭山広瀬台FC」を新設中だ。拠点拡大によりアマゾンジャパン全体の商品保管容量は過去最大の1,700万立方フィート以上となり、日本国内のFCの数は合計で25カ所以上となる。
作業者の安全・安心を向上させるための技術
会見ではまずアマゾンジャパン合同会社 JP FC オペレーション事業部 統括本部長の原祐介氏が挨拶。アマゾンでのオペレーションは、顧客が便利に安心して買い物ができること、いつでも日本全国どこにでも提供できるようにネットワークを確保すること、そこで働く方々に対して雇用機会を創出することの3つを重視していると語った。
千葉みなとFCの場所を選んだ理由は3つ。関東の一都三県に近く需要が高いこと、そして高速道路にすぐ乗り込め、遠方の顧客にも発送できる利便性があること、そして働く人が通勤しやすいことだ。原氏は「抜群の立地。今年は埼玉でも拠点を立ち上げ、合計で3,000人近くの雇用創出を計画している」と語った。
そして「今はまだ建築途中。作っている最中にメディアを招くのは日本で初めての試み。普段は見られないアマゾンロボティクスの細部を見てもらいたい。また、工事現場で働いてくださっている作業員の方々が安全・安心して働けるように、どんな取り組みをしているかも合わせて見てほしい」と語った。そして「既存物流拠点もさらなる設備向上を図る。より日本全国の皆さんに便利に買い物をしてもらえるようにすると共に雇用機会創出によって地域にも貢献したい」と述べた。
設備や導入技術、入荷から出荷の流れについては、設計を行なった同 オペレーション技術統括本部 統括本部長の渡辺宏聡氏が動画も使って解説した。ロボットの技術も成熟してきているという。アマゾンは「地球上で最高の雇用主、もっとも安全な職場」を標榜している。渡辺氏は、「安全・安心して働ける職場づくりを目指している。最先端の技術にはスタッフをアシストし、負荷を下げ、快適に仕事ができる環境を提供できるメリットがある。その結果、スタッフは安心して働け、作業品質も高まり、正しいタイミングで正しい商品が迅速に送られるようになる」と述べた。
千葉みなとFCでは紙袋による自動梱包機械を導入。これまで段ボールで配送していたものを紙袋にすることで、梱包を最適化し、緩衝材の量も減らす。袋は開けやすく、古紙としてリサイクルにも出しやすいため、買い物した客にとっても梱包資材を廃棄する手間を減らせると考えているという。
また商品をスキャンする技術なども新しくなっており、安全で安心して働ける職場づくりのために非常に多くの取り組みを行なっていると語った。安全管理におけるノウハウも年々蓄積されており「作業エリアの見える化」のほか、建築中の協力会社間で工事の安全ルールブックを作って共有していると紹介した。
建設現場では1日に650人が働いている。今回は建設期間中の5月15日に売店とカフェテリアもオープン。建設現場でも温かい食事が提供できるようになった。既に3,700食以上を提供しており、非常に好評だという。渡辺氏は「テクノロジーを使うということは、働く人たちに焦点をあてて職場作りをしているということ。それを少しでも感じてほしい」と強調した。
最後に拠点総責任者であり稼働後の職場管理を行なう同 千葉みなとFC サイトリーダーの片桐秀行氏がセンターについて紹介した。片桐氏も「地球上でもっとも顧客を大切にする」「最高の職場」というアマゾンのスローガンを強調。「安全で働きやすい作業環境作りを重視している。安全な職場で楽しく働くことができれば、より速く丁寧に商品を提供し、最高のお買い物体験を提供できる。稼働開始後は作業エリアでも空調が完備して最適に作業できる。足元には疲労軽減用マットも設置されている。シャトルバスの停留所からの歩道には屋根があり雨天でも濡れることなく出勤できる。食堂では栄養バランスが整った食事を提供している。働きやすさを追求している」と述べ「さらに働きやすい環境を提供するにはどうしたらいいか、日々、試行錯誤を重ねている。細部のこだわりを現場で見てほしい」と語った。
そして千葉みなとFCは「地球上でもっとも働きがいのあるFC」を目指していると述べ、地域に根付いたFCとするために、稼働後は地域の子どもたちを対象にSTEMツアーを行なうなど、地域のさらなる発展に向けた取り組みを行なっていきたいと述べた。
人の負担を減らすためのテクノロジー
現場見学ツアーで最初に紹介されたのはアマゾンロボティクスのドライブとポッド。アマゾンでは物流関連のコーポレートカラーは水色となっており、その水色のロボット「ドライブ」は、床に貼られたQRコードを読んで前後左右に指定の位置まで移動する。黄色い「ポッド」と呼ばれる棚に在庫が入れられる。
ロボットが稼働する在庫スペースとは柵で仕切られており、通常は原則として人は立ち入らない。実際のロボット稼働中は天井の照明も付いていない。ただし、棚から在庫商品が落ちてしまうことはありえるので、そのときは専用のベストを着用した上で立ち入って、作業を行なう。ベストはドライブと通信するので、人とロボットが近づくとロボットが減速する。また事前に人が入るスペースを、タブレットを使って区分けする作業も行なっている。
人がポッド(棚)に対して品物を出し入れする「ピッキングステーション」では、コンテナから商品をピッキングして棚(ポッド)の空きスペースに入れて入荷していく作業の様子が紹介された。通常の物流倉庫では棚の間を人が歩き回って入出庫する必要がある。しかしアマゾンロボティクスでは棚はロボットのドライブが動かしてくるので人は歩く必要はなく、ピッキングステーションから動かなくてすむ。今回のデモは、トラックでついた商品がコンテナに入れられてここまで運ばれてきて、そのコンテナ内の商品を棚に入れるという作業を模したもの。
また以前は、片手にRFスキャナーを持って、コンテナから取った商品が何で、棚のどこに入れたのかという番地の紐付けを人手で行なう必要があった。だが今はコンピュータビジョンと機械学習技術を使うことで、手が棚のどこに入ったのかをカメラで見ていて、それをもとに、番地の移動も人を介さずに自動で行なわれている。コンテナもセットするだけで自動的にバーコードがスキャンされるようになっている。これにより作業性も向上した。
作業者の足元にはクッション性のある床材が使われており、立ち仕事の負担を減らしている。空調ダクトが作業者の上に伸びていて、冷暖房も可能。またシステムは作業者の姿勢も見ており、重たい品物に対しては不安定な作業姿勢にならないように、プロジェクターを使って「ここから上には入れないように」と示すといった、安全な作業環境の提供実現のためにも技術が使われている。
一面黄色の棚が並ぶ、圧巻のロボットフロア
今回、棚が動いている様子を俯瞰してみることもできた。フロア一面に黄色い棚が広がる様子は圧巻だ。千葉みなとFCにはこのロボットのフロアが3層ある。
Amazon千葉みなとFCは賃貸ではあるが新たに作られた自社倉庫でもあるので、ロボットに最適化するための工夫がいくつかある。たとえば通常の物流倉庫では両側から入ってきた商品を上げ下げするために中央に垂直搬送機があるところが多いが、アマゾンロボティクスのフロアには不要なので、それは両端に置いて内部には柱しかない状態となっている。柱の太さにも工夫があって、ポッドの太さと全く同じとなっている。これによって無駄なくポッドを並べられ、在庫量も出荷量も増やせるようになっている。
倉庫には1,500平米単位で防火区画を作らなければならない。防火シャッターの開口部分の設計にもノウハウがある。また防火シャッター部分の床にはドライブ用のマーカーがなく、万が一のときにもロボットがシャッター下で停止することがないようになっている。「このような細かい工夫によって、ロボットが最大限活躍できるフロアになっている」(渡辺宏聡氏)という。
準備中のフロア、棚が組み立てられる様子も公開
千葉みなとFCは4階建てで、2、3、4階がアマゾンロボティクスのフロアとなっている。2階は既にだいぶ出来上がっているが4階はまだまだ。ロボットが稼働を始める前の準備中のフロアでの様子も公開された。実際にロボットが稼働し始めるとフェンスで仕切られ、人が立ち入れなくなるが、まだ稼働していないフロアでは間近でロボットを見ることができた。「Drive」には可搬重量などで違いがあり、千葉みなとFCでは「H-Drive」と呼ばれるタイプが活用されている。
Driveの充電ステーションも公開された。バッテリー容量が一定値を切ると自動で充電する。1フロアに10以上のステーションがあり、1つの充電ロケーションで4台が充電可能だ。
ポッド(棚)が組み立てられている様子も公開された。黄色の布の部分とフレーム部分が別々に入荷されてきて、現場で組み立てられる。高さがあるので最初は横向きで組み立てて、最後に立てて完成させる。現場ではサービスの品質・コスト・納期の改善の基本である「5S(整理、整頓、清掃、清潔、しつけ)」を徹底しており「何をどこに置くのか」も指定されている。「テクノロジー進化と共に付随作業も進化している」そうで、組み立てのノウハウ自体もどんどん向上しているとのこと。
細かい工夫で安全性・快適性を向上
このほか、注文された複数商品を合わせるためのコンベアや、最終的に出荷するクロスベルトソーターなども紹介された。クロスベルトソーターは最終的に出荷する工程で用いられるマテハン機器で、ラベルに貼った情報に基づいてベルトが動いて各荷物を1次仕分けレーンに落としていく。その後、2次仕分けされ、台車に積まれ、出荷されていく。袋物などのソーティングにはクロスベルトソーターが優れているという。
FCに入荷後の商品は、どこにどういう状態で存在しているのか、システムに把握されている。入荷から出荷まで、物理的に商品が移動するときには、システム上でもロケーションが動いていく。物と情報は必ず紐づいている。
トラックを倉庫につけて荷下ろし・積み込みを行なう場所である「バース」にもカーテンによる仕切りがあり、全館空調が効くようになっている。基本的に開けっぱなしの吹きさらしで、冬は寒く、夏は暑かった以前の倉庫とは違い「非常に働きやすくなった」という。また天井にある突起物からピンク色のテープが垂らされ、柱の端には必ず黄色のテープでマークされている。これら細かい工夫によって安全性が向上している。「作業環境を整えて快適に働いてもらう」ことを重視していると渡辺氏は語った。