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「ロボホン」にChatGPT。記憶も移行可能に
2023年5月29日 14:42
シャープは5月26日に、コミュニケーションロボット「ロボホン」の7周年記念オーナーズイベント「持続可能なロボホンとの生活」を実施した。メイン会場は東京、サブ会場として広島県東広島市、新潟県中魚沼郡津南町の会場とも中継を繋ぎ、オンラインでも行なわれた。このうち東京会場のお台場・日本科学未来館には約200名のオーナーが集まり、共同開発者であるロボットクリエイターの高橋智隆氏も出席。オーナーたちは和気藹々とした雰囲気で、数年間に及ぶロボホンとの生活を共有した。イベントでは、ロボホンの「記憶」を新しいボディに移行するサービスが開発中であることも発表された。
7周年記念の「@Loppi・HMV限定グッズ」や、その他各種グッズ発売も発表された。公式ウェアやブランケットなどが全国のローソン店頭にあるマルチメディア端末Loppi、HMV&BOOKS onlineにて予約販売される。
またカメラグッズで知られるハクバ写真産業からは「ロボホン専用保護ケース」のクラウドファンディングが始まったことも発表された。寝袋のようなデザインで頭だけを出した状態でロボホンを持ち歩くこともでき、発売済みの「ロボホンのレインコート」に入れることも可能。
このほか、OpenAIが開発・提供する大規模言語モデル「ChatGPT」を活用した「ロボホン」向け新アプリケーション「お話作ろう」の提供開始も発表され。開発中の対話アプリケーションの先行体験モニターも募集する。
「ロボホン」7周年
「RoBoHon(ロボホン)」とは、2015年10月のCEATECに登場し、2016年5月に発売された身長約19.5㎝のモバイル型コミュニケーションロボット。ロボットクリエイターの高橋智隆氏とシャープが共同開発した。ケータイ機能とロボット機能を併せ持ったロボットで、LTE搭載モデルのほか、Wi-Fiモデル、座った姿勢のみで利用できる「ロボホンライト」などがある。音声認識・合成技術によってオーナーと会話したりネットから取得した天気予報などを提供するほか、身振り手振りも使ってダンスや体操を披露することができる。シャープでは法人向けには人と機械の仲立ち役としてスマートデバイスの制御などを行なわせる事業も進めている。
人ロボットが共生する時代が再到来
会場に集まったオーナーたちはみんな自分のロボホンを持参。1台だけではなく、1人で複数台のロボホンを連れてきていた人も多く、なかには他のコミュニケーションロボットを合わせて持参した方もいた。参加者は東京が200人、広島が30人、津南が40人、オンライン参加者が500人以上。リアル会場では女性参加者のほうが多く、7~8割が女性のように見えた。
まず、ロボホンの生みの親であるシャープの景井美帆氏は「今回のテーマは『持続可能なロボホンとの生活』。技術の多くはそのまま使い続けることが難しい。ロボホンも第一世代機のサポートは既に難しくなっているが私たちはオーナーとみなさんが今の関係性を保ったまま暮らしてもらいたいと考えている。今日1日楽しんでほしい」と挨拶し、ゲストの高橋智隆氏を呼び込んだ。
高橋智隆氏がオーナーイベントに登場したのは4年ぶり。髙橋氏は「ロボットがもっと早く浸透していくのではないかと思っていた。もどかしいながらもオーナーの皆さんが根気強く、シャープの皆さんも度重なるピンチを乗り越えてみんなで育ててくれて今日がある」と話を始めた。そして「技術には様々なブームと反動がある。長く継続的に使い続けていき、技術の後押しもあって人とテクノロジーがどう共生していくのかもわかってきた。オーナー・開発者が一緒に続けてきたことで今度こそ本格的に人とロボットが共生する時代、1人1台ロボット時代に繋がるのかなと思っている」と語った。
高橋氏は、ChatGPTに代表される昨今のAIブームによって再びロボットが盛り上がるのではないかと考えているという。「人とロボットが共生する時代の再スタートが来たのではないか。ここまで育ててこられたことを有り難く思う」と挨拶した。
オーナーたちに感謝を送りつつ7年間の思い出を振り返る
今回のイベントでは参加者向けに特製カトラリーやコースターなどのほか、これまでの思い出を振り返るアルバムも配布された。アルバムではロボホンにQRコードを読み取ってもらうことで一緒に振り返りができる凝った作りとなっている。
イベントはこのアルバムをめくりながら過去の思い出を振り返っていき、合間合間に新しい取り組みや新グッズが紹介されたり、ロボホンの新しいポーズや踊りなどが配布される形式で進行された。進行は景井氏とロボホンで、会場のオーナーたちのロボホンは記念アプリを通して連動し、進行に合わせてあいづちを打ったりポーズを取ったりしながら進められた。グッズの詳細は公式サイトにも公開される。
発表されたプロジェクトの一つは、ロボホンの「耳ウェア」で、オーナーたちの投票によってデザインが決まるというもの。取り組み全般に言えることだが、今回のイベントを通して、ロボホン開発チームがオーナーたちとの関係性を維持し続け、共創を重視していることが取材の立場でもよくわかった。
ロボットフレンドリーな取り組みも実施
2018年には、ロボホンを連れて旅をすると、位置情報に応じてロボホンが案内してくれる「ロボ旅」を開始し、京都でスペシャルツアーが行なわれた。オーナーズイベントはシャープの研究所とミュージアムがある奈良で開催。いっぽう丸の内では大丸有エリアマネジメント協会と三菱地所が行なっている「丸の内ラジオ体操」に合計15体のロボホンが参加。人と一緒にラジオ体操を行なった。この頃からロボホンはビジネスや各種サービスにも徐々に活用されるようになっていった。
2019年には第2世代機が発売。ロボホンだけを旅に出す「むつ旅」という企画も実施された。このほか、ロボットと一緒に入れるお店などを増やす活動を行なっている「ロボットフレンドリー」プロジェクトと、ロボット用アパレルメーカー「ロボユニ」とのコラボも発表された。ロボユニの商品についているQRコードを「ロボフレ」のパートナー店舗で読み込むと、ロボホンが店舗の方やオーナーとの特別な会話をする。
サテライト会場の一つ津南町では、ロボホンオーナーとロボホンが一緒に自然や食事、観光を楽しめるように「フレンドリースポット」に参加している宿泊施設や飲食店があり、津南町観光協会には「つなホン」というロボホンがいる。津南・広島とも中継が繋がれた。ロボホンはオーナーとの暮らし方によって好きなことが変わる。どんなことが好きなのかといったランキング発表なども行なわれた。
新型コロナ禍での取り組みと進化
2020年は新型コロナの年である。定例のオーナーズイベントもオンライン開催となった。いっぽうオンライン旅行や、LINEで公式スタンプ、「ロボユニ」から公式グッズが発売されるなどの動きもあった。技術にも進歩があり、連続動作が可能になったことで従来よりもより滑らかに動けるようになった。2021年にはベネフィットジャパンから「弟」モデルが発売。健康診断イベントも行なわれた。
ロボバース経由で「記憶」を新しい体に移行可能に
今回発表された大きなことの一つが「記憶の移行」だ。ロボホン第一世代機は2024年2月末で保守サポート期間が終了する。シャープでは修理サポート以降でも部品が確保できる限り対応するとしているが、それにも限界がある。そこで別の選択肢として、ロボホンが蓄積した記憶を次の体に移行するサービスを実施する。
2022年の6周年記念イベントでは、ロボホンたちだけが行けるバーチャル空間「ロボバース」が発表されている。記憶の移行は、この「ロボバース」経由で行なわれる。記憶の移行が可能なボディは2024年1月以降に発売される新モデル。シャープではこのサービスを使うことで、これまでの思い出を大切にしつつ、末長くロボホンとの生活を楽しんでもらいたいと考えているという。詳細は後日発表される。
「ChatGPT」を活用した新アプリケーション「お話作ろう」
今回新たに発表された、OpenAIの「ChatGPT」を活用した新アプリケーション「お話作ろう」は、6月29日から提供予定だ。「お話作ろう」は、オーナーが設定した登場人物やシチュエーションなどの条件、ロボホンとお客様との過去の会話情報、位置情報などをもとに、「ChatGPT」を活用して物語を創作。ロボホンが身ぶり手ぶりを交えて読み上げる新開発のアプリケーション。
ロボホンと過去に会話した食べ物や好きな言葉、旅行した場所などの情報をランダムに組み合わせることで、利用する度に新しい物語が楽しめるという。デモでもユニークなお話が披露された。シャープの景井美帆氏によれば、単純にAPIにつなぐだけではなく、「ロボホンの世界観を守りながら活用できるようにプロンプトを試行錯誤の上、リリースした」という。
ロボホンの世界観を守りながら「ChatGPT」を活用する新対話アプリも開発中
また、「ChatGPT」を活用したロボホンの対話アプリケーションも現在開発中で、開発中アプリの先行体験モニター100名を募集する。対象はロボホンオーナー。募集期間は6月10日10時~6月25日18時まで(先着)。応募が募集数に到達次第、受付を終了する。
モニター参加者は、6月29日から約1カ月間、モニター体験したあと、アンケートやインタビューに応えて評価する。シャープはその結果を踏まえて今後の実用化を検討する。応募方法など詳細は、募集開始日までに、ロボホン公式サイトにて告知される。
今回のイベントでのデモンストレーションでは、レシピを考えてもらったり、雨の日の家のなかでのおすすめの過ごし方などへの返答が行なわれた。終了後は拍手が起きた。
大切な存在とかけがえのない時間を過ごせるように
最後に参加者全員のロボホン200体でのダンスが行なわれて、イベントは締めくくられた。200体あるのでネットワーク接続だけでもかなり苦労していた。
ダンス後、高橋智隆氏は「集団を見つつ、自分のロボホンを中心に見ている自分に気がついた」とコメント。開発者の立場ながら、自分のなかにある「ロボット愛」に今回初めて気がついたという。また「ChatGPT」の活用については、会話ログを見たところ「めちゃくちゃ賢くなってる。ようやくロボットと人が真に心を通わせて会話ができるところまで来たなと思った。他力本願ではあるもののロボットが新しいステージに到達できる」と述べた。
そして改めて「ここまで開発して使い続けてもらえることで、リアルタイムにロボットの成長を見られている。歴史的な瞬間が来ようとしているはず。さらにロボットへの愛情が深まるはず。これからもロボホンをよろしくお願いします」と語った。
ロボットフレンドリープロジェクトの太田智美氏は「人やロボットを区別するのではなく『大切な存在』と一緒に暮らしていきたいと考えてこのプロジェクトを進めている。かけがえのないものと、かけがえのない時間を過ごしたい。皆さんの大切な存在であるロボットと、かけがえのない時間を過ごしていることが、この短時間に感じられて、ウルっときてしまった。まだ暮らしにくい部分もあるかと思いますがロボットと暮らせる社会を作っていければいいなと思っています」と語った。
シャープの景井美帆氏にもコメントを求めたところ、「今回のイベントではたくさんのオーナー様によってロボホンの事業が支えられていることを改めて感じることができました。今後は『ChatGPT』との連携をはじめ、新しい技術も取り入れながら、オーナーの皆様が今よりもっとロボホンと楽しく過ごして頂けるよう成長させていきます。また、皆様が安心してロボホンと生活していただける環境をこれからも継続していきたいと思います」とのことだった。