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大林組、3Dプリンターで建築基準法に基づく建物 国内初

大林組は、2022年5月から開始していた3Dプリンターによる建屋建設について、3Dプリンター実証棟「3dpod」を完成させたと発表した。壁や床などの地上構造物のすべてを3Dプリンターで製造している。

3dpodは、セメント系材料を用いた3Dプリンターによる建築物として、国内で初めて建築基準法に基づく国土交通大臣の認定を取得した構造形式の建屋。壁や床といった地上構造物の全ての部材に3Dプリンターを用いており、壁は全て現地で直接プリントを行なっている。電気、空調、水道などの設備に加え、室内には断熱も施している。

3dpodの設計は、3Dプリンターの特長を活かしたデザインを模索することから開始。3DCADを利用してパラメトリックにデザインの候補を探し、少ない材料で大きな空間が得られるデザインを最適化計算により導き出した。

デザイン決定後、3Dプリンターのプリントパスを自動で生成。この経路を3Dプリンターが問題なく動くかをシミュレーションによって確認した。

壁はスリムクリートを流し込んで構造体となる層に加えて、最大3層構造の複層壁となっている。壁を複数層にしてケーブルや配管ダクトを配置することで、通常の建築物と同様に室内利用が可能。3dpodの一部の壁には輻射空調設備が組み込まれている。

3Dプリンターによる複層壁

建設では、3Dプリンターを現地に設置してプリント。壁のプリントが完了したら、壁の構造体となる超高強度繊維補強コンクリート「スリムクリート」を流し込んでいく。また、建物内部の断熱層に断絶材(ビーズ)を流し込む。3Dプリントによる躯体工事と同時に断熱、設備工事の一部を行なうことで省力化に繋げたという。

1階の壁が完成した後、あらかじめ屋内で製造した3Dプリンター製の屋上の床のピースを壁の上に敷き並べ、その上にスリムクリートを流し込むことで床が完成する。

屋上に3Dプリンターを移してさらにプリントを進め、屋上のプリントが終わったら、1階の壁と同じようにスリムクリートを流し込んで、躯体工事が完了する。仕上げとして、ガラス工事、塗装工事、電気、空調、水道などの設備工事を行なった。

施工ステップ

今回の取り組みでは、3次元で製造したモデルを一貫利用した設計・製作フローを構築するとともに、プリント経路の自動生成や傾斜部の積層性、障害物との干渉状況を確認するソフトウェアを開発したことで有機的なデザインを誕生させたとしている。

3dpodの「pod」とは、蚕(かいこ)の「繭(まゆ)」、豆の「さや」といった意味。壁や天井など建物の平面形状がピーナッツの「さや」のような形をしていることや、建屋の外観が3Dプリンター建築ならではの有機的な球状の「繭」のような形をしていることが名前の由来となっている。

大林組は、2014年から建設用3Dプリンターの研究を開始。鉄筋や鉄骨を使用しない3Dプリンター用特殊モルタルや、スリムクリートによる構造形式を開発し、2019年には建築物や土木構造物での利用を想定したシェル型ベンチを試作。当時、3Dプリンターで製造した構造物としては国内最大規模のものだったという。

スリムクリートとは、大林組の保有技術である常温硬化型のモルタル材料。引張強度や曲げ強度、引張靭性が高いことから、単独でも構造体として使用できるという。

実験用モックアップの試作を経て、建設用3Dプリンターの実用化に向けて2022年5月に、建築基準法が定める建築物の建設プロジェクトをスタート。「(仮称)3Dプリンター実証棟」の建設に着手し、2023年3月に3dpodを完成させた。

大林組の3Dプリンター技術は、従来工法では建設困難な建築物を実現するとしている。今後も複雑なデザインや強度・耐久性を備えた構造物を実現できるセメント系材料を用いた3Dプリンター建設の研究・技術開発を進め、多様なニーズへの対応、建設技術の未来を拓く技術となることを目指す。