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会計ソフトのfreeeが“本屋”をつくる理由

会計ソフトなどを展開するfreeeが“書店”に参入する。子会社の透明書店株式会社を設立し、東京都台東区・蔵前に「透明書店」を4月21日にオープンする。

透明書店は、透明書店株式会社を通じてfreeeが自らスモールビジネスを経営し、freeeの社員がバックオフィス業務を経験しながら、スモールビジネスの実情やユーザーを理解することを目的としている。freee社員がスモールビジネスを体験しながら、その体験をfreeeの自社サービスへ反映していくという。

透明書店では、「スモールビジネスに携わる人が、ちょっとした刺激をもらえるオープン(透明)な本屋」をコンセプトに本をセレクト。約3,000冊のうち、1,000冊は小さな出版社や個人によるスモールビジネスの本を並べている。その他の2,000冊は、「透明」「自由」といったコンセプトに関連するビジネス本・フィクション、エッセイ、マンガ、絵本などを選んでいる。

また、会社の設立から開店、開店後の営業状況など「透明な情報」を公式SNSなどを通じて発信していく。freeeのサービスを活用するだけでなく、未発表のfreeeのサービスのテストやChatGPTなどのAI技術も活用していく。特に小規模な書店は、FAXでのやり取りや手書きの在庫管理などアナログ業務も残されており、freeeではこうした業務の効率化などに取り組み、書店運営を変える取り組みを発信していく。

透明書店の所在地は、東京都台東区寿3-13-14 1Fで、都営大江戸線「蔵前」駅 徒歩1分。営業時間は平日が12時~14時、15時~20時。休日・祝日は11時~14時、15時~19時。定休日は火・水。店舗面積は、71.55m2

透明書店入口

基本的に店長1名での運営だが、freeeのプロジェクト担当者が業務をサポート。また、ChatGPTを活用した“副店長”の「くらげ」も提供。縦型ディスプレイとキーボード(音声入力も検討)で、対話型AIを通じて、おすすめの本や書店のコンセプトを紹介する。また、レジシステムと連携し、売上が200%を超えると“くらげ”がご機嫌になるなど、お店を楽しむ演出も導入していく。

ChatGPTをつかったくらげ

本だけでなく、freeeのグッズなど物販も行なうほか、イベントや交流のためのスペースも用意しており、スモールビジネスや地域の交流の場所としての展開も目指す。

レジはSquareでキャッシュレス決済にも対応
イベントなどで活用する「不透明な部屋」

freeeが本屋をやる理由。スモールビジネスを効率化

freeeでは、統合型プロダクトによって「スモールビジネスを、世界の主役に。」というミッションを掲げて事業展開してる。freeeを導入すれば、会計や人事労務、電子契約、請求管理などスモールビジネスにまつわるあらゆる課題解決を図れるようなサービスを目指している。

一方、freeeの創業から10年以上経過し、上場して社員も1,000名を超えており、会社としては「スモールビジネス」ではない。スモールビジネス向けのサービスを作る上で、創業時のように実感を持ちにくい環境となってきた。

freeeブランドマネージャーで、透明書店 共同創業者の岡田悠氏によれば、2014年にfreeeが30名規模の頃は、自ら給与計算を行ない、労務の大変さなどを感じながらサービスづくりをしていたという。一方、社員が増えて、上場した今では、時間的にもコンプライアンス的にも担当外の業務を“やってみる”のは難しくなっているという。

今回の透明書店では、改めて社員が実務を行なえる環境を作ることで、スモールビジネスの理解を含め、プロダクト開発に反映していくことを狙う。

では、なぜ「書店」なのか?

岡田氏は「『スモールビジネスを、世界の主役に。』を体現している業界だから」と語る。

書店は、freeeの真逆の「在庫の多いビジネス」。しかも少量で数が膨大で、それらを管理する必要があるため難易度が高い。さらに、FAXでの受発注や販売管理のためのスリップ作業(紙の販売管理表)などアナログ業務が多い。ここにテクノロジーの介在機会があると見込む。

また、最近では独立系書店と呼ばれる小さな書店が、世界的に人気になっていること、そして岡田氏をはじめとして、freeeのメンバーが「本屋が好き」という理由もあるという。

freeeでは、「くらげ会」という社内チームを立ち上げ。プロダクトマネージャーやデザイナー、エンジニアが現場で業務を行ない新機能を実験していく。すでに開発メンバーが実務を行なっており、今後も次々と実験機能を投入していく。

「透明」を感じさせる仕掛けとして、親しみある外観や日々の変化がわかる売場づくりのほか、経営状況も公表していく。売上データは30分ごとにリアルタイムに反映し、店内のディスプレイ(くらげ)で可視化していく。

スモールビジネスの理解を深める

収益目標については、「まずはキャッシュフローがちゃんと回ることと黒字にすること。だいたい家賃が月30万円、人件費30万円、プラス20万円で、固定費はだいたい80万円。利益が1冊400円とすると、月に2,000冊売る必要がある」(岡田氏)という。つまり、本だけで1日100冊以上売る計算になるが、本の販売だけでなく、「本がある場所の価値を生かして、コワーキングスペースや会議室を作っていくなどのチャレンジもやりたい」とする。また、営業時間外の無人営業もアイデアとして検討しているという。

透明書店 共同創業者の岡田悠氏、岩見俊介氏、freee AIエンジニアの⽊佐森 慶⼀氏
「不透明な部屋」をイベントなどで活用

freeeとして透明書店で大きな利益を上げる計画ではないが、「スモールビジネスとしてしっかり維持できる」よう工夫していくという。選書についてはベストセラーを揃えても大手やネット書店とは競えないため、「ここに来るからこそ出会える偶然性を大事にしたい」とする。一方、近隣に新刊書店が少なく、開店準備段階でも期待が寄せられているという。また、近隣には外国人観光客が多く、道を聞かれる機会も多かったとのことで、開店後に地域や来店者の意見を聞きながら、本や商品の品揃えを検討していくという。

透明書店の取り組みにより、freeeにおけるスモールビジネスのユーザー理解を深めるほか、書店におけるデジタル化や業務フローの改善なども関連業界とともに検討していく。そうして得た知見を、freeeの新たなサービスなどに反映していく。