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トヨタのバスケロボ、B.LEAGUEで披露 ロングシュートやドリブル
2022年12月26日 12:37
B.LEAGUE所属のプロバスケットボールチーム「アルバルク東京」は、12月24日、「アリーナ立川立飛」で行なわれたTIPOFF滋賀レイクス戦でのハーフタイムで、AIバスケットボールロボットの第6世代「CUE6(キュー シックス)」を公開した。ロボットはロングシュートや両手でのドリブルのほか、パスができるようになった。年明け1月にはドリブルしながらスラロームする様子も披露予定で、今回は5連続ロングシュートを決めた。
ロボットはトヨタが開発、進化継続中
「アルバルク東京」の前身はトヨタ自動車男子バスケットボール部。AIバスケットボールロボット「CUE」は、2017年にトヨタ技術会(トヨタ自動車の社内有志団体)のプロジェクトから生まれたロボット。自動車にも使われている高出力アクチュエータ、高出力バッテリー、そして自分自身の腕の振りとボールなどダイナミックな動作の機構解析と実機計測技術などの組み合わせによって最大20mのシュートができる。
デビューは2018年3月。最初はフリースローするだけだったが、世代を重ねるごとに自律移動や腕の制御など、大幅に進化を遂げた。
機械なのだからシュートは簡単だろうと思うかもしれないが、実際のボールは理想的なかたちをしておらず、単純な幾何学モデルとして解くことはできない。CUEは床面に固定されておらず、振動の影響なども課題となる。そこでCUEはゴールリングまでの距離や向きを入力、出力をシュートの強さや角度として、ガウス過程回帰モデルとして解き、シミュレーションを繰り返してモデルを更新していって、シュートできるようにした。
実際にロボットがシュートを打つためには、最適なシュートフォームを探索する必要がある。こちらにはベイズ最適化を用いている。今では20mを超えるロングシュートまで打てるようになっている。
ドリブルもロボットにとっては難題だ。単純にボールを下に突き落としても、そのまま戻っては来ない。試行錯誤の結果、今では足先に距離画像カメラを搭載し、ドリブルしたときのボールを認識させ、ボールが帰ってくるタイミングで、何秒後にボールがどの位置に戻ってくるか軌道を予測して、そこに手を持っていている。ただし、これだけだと不安定なので、線形回帰モデルを導入。実際にボールを何度も撞いて、どうボールを打つとどう返ってくるかというデータを大量に取得して安定したドリブルを実現した。
こうした技術開発を継続することで、2019年には第3世代の「CUE3」が「ヒューマノイドロボットによる連続フリースロー最多成功数」において2020本の記録を達成し、ギネス世界記録に認定。第5世代の「CUE5」は「東京2020オリンピック」のバスケットボール競技で「アメリカvsフランス」戦のハーフタイムにシュートパフォーマンスを披露した。
なお「CUE5」までの開発ストーリーはトヨタの「トヨタイムズ」の記事が詳しい。
スラローム走行+ドリブルはオールスターゲームの「スキルズチャレンジ」で披露予定
「CUE6」の身長は211cm、重さは125kg。関節の自由度は全身で32。LiDAR(レーザーセンサー)、距離画像センサーなどを持つ。両脚の前後端にはメカナムホイールを搭載しており、この脚部を移動台車として、全方向に移動できるヒューマノイドロボットだ。ボールを置いている台までも、事前に場所が指定されていれば、自分で移動できる。
前述のドリブル技術と自己位置推定技術と組み合わせて、「CUE6」はコート内を地面を滑るようにスラローム走行しながらのドリブルもできるとされている。ロボットは下半身で全身のバランスをコントロールしながら、上半身でボールをコントロールする。ただし移動速度を上げると、バランスを取るために身体全体を傾ける必要がある。その結果、ボールに手が届かなくなるといったことが起こりえる。だからボールが帰ってくる未来のタイミングに体がどういう状態であるべきかを想定して動かさなければならない。
実際にドリブルしながらスラローム走行する様子は、2023年1月13日に行なわれる「B.LEAGUE ALL-STAR GAME」のエキシビジョンとして行なわれる「スキルズチャレンジ」(障害物を交わしながらドリブル、シュート、パスの技とスピードを競う)で披露される予定となっており、今回の会場では残念ながら動画のみの紹介となった。ロボットの諸元など細かい情報も、その時に公開される予定とのこと。2022年12月初頭に行なわれた下記のウェビナーの動画で、開発中の様子は見ることができる。
ドリブルとロングシュートを決めた「CUE6」
今回の会場では、まずトヨタ自動車 未来創生センター R-フロンティア部主査の野見知弘氏が機能を紹介。そしてロボットはドリブルやパス、ロングシュートを披露した。
まず「CUE6」は片手でドリブル。さらに別の手に切り替えてドリブルしたあと、ポンとボールをスタッフに放った。続けて、正確な軌道で5本連続でシュートを決めた。
バスケットボールではジャンプも必要な動作だが、現時点での「CUE」は跳んだり跳ねたりすることは想定されていない。しかし野見氏は「将来はそういう方向での開発も視野に入れたい」という。そのためにはロボット本体の軽量化など、これまでとは違った方向の技術開発も必要となる。
マスコットロボット「ルークロボ」も大人気
「アルバルク東京」にはマスコットキャラクター「ルーク」がいる。10月からは、ルークをサポートするマスコットアンドロイドロボット「ルークロボ」も活躍している。プロスポーツクラブ初となるロボットで、「CUE」シリーズを開発しているトヨタ自動車未来創生センターのスタッフが開発している。
ルークロボは身長70cm、体重は10.6kg。大きめのぬいぐるみ、あるいは一歳児くらいのサイズ感だ。目はOLEDディスプレイと低反射レンズの組み合わせ。鼻の部分は遠隔操作用の魚眼レンズである。トヨタ独自のアクチュエーターと、遠隔操作と自律動作の組み合わせで、とても機敏かつ滑らかに動作する。今回の試合でも試合前にコンコースでファンたちに愛嬌を振りまき、大いに人気者となっていた。
「ルークロボ」はコンコースを通る人たちに手を振るほか、ファンのリクエストに応じてドリブル動作やフラダンスなどを披露。記念撮影のときにはポーズを取って止まってくれるなどしてファンサービスに努めていた。基本的には上半身のみの動作だが、足裏も固定しているわけではないということで、足踏みもしてくれた。足は6自由度、腰にも1軸ある。足にはスプリングやリンク機構を使って先端の軽量化を実現している。
遠隔操作とはいってもロボットと人間では体がだいぶ違うので、人の動きそのままの動作データでロボットを動かすことはできない。たとえば腕が頭にあたってしまうようなことも起こる。そこでシステム側で最初から身体同士がぶつからないように(干渉回避)計算して、適切な制御を行なっている。
なお遠隔操作システム自体にもいくつかの方式を開発しており、没入感を高くしたシステムのほか、いくつかの動作をひとまとめにした簡易なものなどをシーンに合わせて適用している。今後は、姿勢やジェスチャーを自動認識して、ある程度自動化することも視野に入れているとのこと。
頭部は重たそうだが1.5kgくらい。CPUなどは頭部内に内蔵されている。首は球面パラレルリンク機構を採用し、頑丈さとコンパクトさ、そして表現力を実現した。着ぐるみ自体の重量は大したことはないが、ロボットの大敵である熱がこもりやすい点は大きな課題となる。小型で発熱の少ないGaNアンプを採用し、排気は、後頭部と下腹部から行なっている。冬場は問題は少ないが、気温が高い環境下では大変なこともあるとのこと。
あまりに滑らかに動いているので、いわゆるロボットには見えない。着ぐるみか、人形がそのまま何かのからくりで動かされているように見える。トヨタ未来創生センターの森平智久氏は「狙い通り」と語る。バスケットボールの試合を見にきた人たちはバスケットボールが好きな人たちであり、ロボットに興味があるわけではない。特に子供たちには、ロボットとしてではなく、キャラそのものが動いているように感じてもらいたいという。
マスコットロボットは、もともとは東京オリンピックのキャラクターロボットの中身として開発されたもの。NHKで「パプリカ」を踊っている様子を見た方もいらっしゃると思う。当初発表されたモデルは技術アピールが目的で、動作も外見も、いかにもロボット然としていたが、開会が延長になって開発期間も伸びたこともあり、「ロボットというよりはキャラクターそのものと思ってもらいたい」と開発方針も変わり、新たに自然なインタラクションができる小型ヒューマノイドとして開発された。
現在、トヨタ未来創生センターはEテレ(NHK教育テレビ)のSDGs番組「リフォーマーズの杖」にも協力。この番組の司会をつとめる「ベアツシ」というぬいぐるみロボットも開発している。
なお滋賀レイクス戦の試合結果は79-68で、アルバルク東京の勝利に終わった。