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国産先端半導体のラピダス、IBMと「2nm」開発で提携
2022年12月13日 21:45
国産での先端半導体製造を目指すRapidus(ラピダス)とIBMは13日、2nmノード技術の開発に向けたパートナーシップの締結を発表し、東京都内で記者説明会を開催した。
パートナーシップの一環として、Rapidusの研究者・技術者は、IBMおよび日本IBMの研究者との協業を行なう。米ニューヨーク州アルバニーにあるナノテク関連工業団地であるAlbany Nanotech ComplexにRapidusも参加し、IBMとの共同開発を行なうことになる。
なお、提携によってRapidusがIBMに負担するライセンス料などの費用については非公開。
会見にはRapidusの東哲郎会長・小池淳義社長の他、日本IBMの山口明夫社長、米IBMで半導体開発の責任者を務めるIBM シニアバイスプレジデントでIBM Researchディレクターのダリオ・ギル氏も出席し、記者の質問に答えた。
2nmプロセスを協業で日本に
「コンピュータを含む様々な機器の半導体確保と、電力消費量削減がチャレンジになっている。省電力で稼働できる半導体を、技術力の高い日本で作ることで貢献したい」
日本IBMの山口社長は冒頭そう説明した。
コロナ禍や地政学的状況の変化により、半導体不足は一時的にだが深刻化した。また、サステナビリティの観点からも、性能を上げつつ消費電力を下げていく必要がある。そのための最先端半導体である……ということだ。
IBM・ギル氏も「この2年間で、半導体が現代社会にとって重要なものであるということを、誰もがかつてないほど理解するようになった」と重要性を強調する。
その上で、現在の日本とアメリカが置かれている状況についても以下のように話す。
「日本とアメリカは、現在の5nmクラスのロジック半導体について、商業生産能力を有していない。より弾力性のあるサプライチェーンを確保し、地理的な偏りを是正する必要がある」
すなわち、最先端半導体の生産において、台湾・韓国への依存度を減らし、アメリカや日本へと再分散することを目指すのが今回の試み、ということになる。
そこで、RapidusがIBMからライセンスを受けて共同開発するのが「2nm」プロセスになる。
IBMが開発した2nmプロセスルールによる半導体は、「7nm技術と比較して性能が45%高く、消費電力は75%削減できる」(IBM・ギル氏)とする。
共同開発は米ニューヨーク州アルバニーの「Albany Nanotech Complex」で行なわれるが、こことIBM、そしてRapidusの間には深い関係も存在する。
Rapidusの東会長は「IBMとの長い関係の賜物」と話す。
東会長は半導体製造装置大手の東京エレクトロン出身。1996年から2003年まで、同社の4代目社長を務めていた。
「Albany Nanotech Complexとの関係は10年くらい前に始まったが、IBMとニューヨーク州立大、当時私が在籍していた東京エレクトロンの3社によって進んだ。また、2年ほど前にIBMとの会議の中で、今日のような日米連携の可能性について打診があった。これはいかにIBMが日本を大事にしてくれているか、ということ」(東会長)という。
日本国内に最先端半導体プロセスを、という政治的な要請もあり、「経済産業省からもバックアップする確約を受けて」(Rapidus・小池社長)計画はスタートする。
Rapidus・小池社長は「プロジェクト・ネームはマウント・フジだった」と説明する。富士山をロゴにした上で「迅速な開発」を意味する「Rapid」を組み合わせて「Rapidus」の社名とロゴが生まれたという。
その上で「顧客の中で手間がかかる(半導体)デザイン作業をサポートする」「製造の前工程を素早く進める」「バックエンド、3Dパッケージング技術を早く提供する」ことで、「顧客に対して最大のスピード、世界で一番速いサイクルタイムでの製品提供を目指す」(Rapidus・小池社長)と目標を説明する。
2nmでの半導体量産は「2020年代後半には実現したい」(Rapidus・小池社長)としている。
開発にはさらに数兆円が必要 「日本・世界にとっても有利に」
質疑応答の中では、主に以下のような質問があった。
まず出たのは「なぜ、現在ロジック半導体向けには古い技術しか持たない日本が、IBMとの提携によって最先端へジャンプできるのか」ということ。
この点についてRapidus・小池社長は「技術的に大きなジャンプアップの時期だから」と説明する。
半導体製造プロセスは、過去何度もブレイクスルーを超えてきた。その中で、現在はFinFETと呼ばれるゲート構造での製造が主流だが、今後はそれが「ナノシート」と呼ばれる新しい構造に変わる。
そのため、「そこを一生懸命、1日も早く自分たちのものにし、本当の量産技術を実現すればいい」(Rapidus・小池社長)という発想だ。Albany Nanotech Complexへの社員派遣は2023年から始まり、現地では「一方的に教えてもらうばかりでなく、両社員がともに技術開発していく」(Rapidus・小池社長)体制を目指すという。
一方でそのためにはお金もかかる。
現状で経済産業省からは、2022年度予算で700億円の投資を確約されているが、Rapidus・小池社長は「パイロットラインの構築のために2兆円、そこから量産にはさらに最低数兆円が必要」という見方を示す。すなわち、まだまだ相当の出費が必要、ということだ。
Rapidusは経済産業省、ひいては国からの支援を得ているとはいえ、リスクを負ったビジネスであるのはわかる。では、IBMはどうだろうか? Rapidusとの協業の中では大きなリスクがないようにも思える。
そこに対して、IBM・ギル氏は「イノベーションと研究の世界では、リスクフリーなどというものは存在しない。IBMは毎年何十億ドルもの資金を研究開発に投入し、何が可能か、何が次に来るかを探っている」と、2nmプロセス開発自体がリスクであり、今回の協業はその先にあるもの、との見方を示す。
今回の件が地政学的リスクに基づく問題であるのは明白だ。先日より、アメリカの中国に対する半導体輸出規制について、日本などの参加を求めている……との報道がなされている。この問題とIBM・Rapidusの関係について質問が及ぶと、直接的なコメントは避けたものの、次のように答えている。
「(Rapidusとの提携によるプロジェクトが)簡単なものではないことは認識している。しかし、世界の経済にとって重要であるため、私たちはこのプロジェクトを非常に支持している。現状では、アメリカ・ヨーロッパ・日本は高度な(ロジック半導体の)生産を行なっていない。生産能力を分散させるようバランスを取り直すことが、日本にとっても世界にとっても、サプライチェーンの回復力という点で有利に働く。これが、世界各国の政府がこれほどまでに断固とした行動をとる理由の核心であると考えているし、この政策が実行されることで、より多くのことが起こるという最初の例になるだろう」(IBM・ギル氏)