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移動を楽しい体験へ拡張。パナソニックのパーソナルモビリティ観光を体験

パナソニックがロボティックモビリティ「PiiMo(ピーモ)」を使った「XRライドアクティビティサービス」の実証実験を行なっている。自動運転で動くパーソナルモビリティに乗ると、位置情報と連動してVR、ARなどのXRコンテンツが表示される。9月22日までの日程で、主に観光施設企画担当者やイベント企画会社などを対象として「パナソニックミュージアム」での実験が行なわれている。一般の事業者と一緒に体験させてもらった。

「移動支援」から「移動拡張」へ

今回の実証実験で用いられた「PiiMoライド」。通常のPiiMoにAR用タブレットなどをつけたもの

ロボティックモビリティ「PiiMo(ピーモ)」とは、WHILL社の電動車椅子「WHILL」をベースとし、パナソニックが独自に開発したセンシング技術、制御技術を搭載した車椅子型のパーソナルモビリティだ。パナソニックでは2020年11月に販売開始している。追従走行や自動停止により複数台の運用が可能だ。安全関連制御システムは国際規格適合証明を取得している。

パナソニックのロボティックモビリティ「PiiMo」
追従走行や複数台連携が可能

事業を展開するパナソニックプロダクションエンジニアリングでは、この「PiiMo」を使って、社外の事業者とも連携しながら「コトづくり」に挑んでいる。様々な場所での実証実験を進めているが、観光地を中心に事業化を狙っていることもあり、今回体験させてもらったのは一般の方と近い観光業者などを対象としたもの。

単純に移動するだけでなく、より高付加価値化するために移動中にARを使って体験価値を付与しようとしており、そのアクセシビリティ改善、すなわち、表示される文字の大きさや骨伝導ヘッドフォンを通じて届けられる音の大きさなどの改善を進め、新規事業の社会実装モデルを確立することを目的としている。

様々なシーンでの活用を狙う

パナソニックプロダクションエンジニアリング 新規事業センサー ロボティクス事業推進部の石川武志氏は、体験に先駆けてパナソニックグループの移動ロボット、複数ロボットの連携技術の開発の歴史を紹介した。PiiMoの前身は2017年に登場した「WHILL NEXT」である。

パナソニックプロダクションエンジニアリング 新規事業センサー ロボティクス事業推進部 部長 石川武志氏
パナソニックによる移動ロボットへの取り組みの歴史

グループでの移動支援、そして移動中の体験によって、移動の価値を高めることがPiiMoの目的だ。これを同社では「移動拡張」と呼んでいる。「PiiMo」はそれぞれ自動運転で動いているが、パナソニックでは先頭車両は人が操作して、その後ろを自動追従するようにしている。完全な自律移動システムではないが、こうすることで、より社会実装を早めることができる。

移動支援から「移動拡張」へ
これまでの観光地向け実証実験の取り組み

これまでに、吹田スタジアムや山梨の昇仙峡、奈良二月堂や天王洲、北九州市「いのちの旅博物館」など、さまざまな場所で実証実験を行なってきた。今回のパナソニックミュージアムでの実験もその取り組みの一環で、同社では新たな観光支援技術へと育て、さらに、2025年の万博での観光需要を見据えている。パナソニックとしてもモビリティを大きく育て、新たなサービスシーンを描き出そうとしている。

関西万博を起爆剤として観光支援新規事業を狙う
パナソニックによる2025年のロボットによるサービスシーン

パナソニックミュージアムでの体験

パナソニックミュージアム「松下幸之助歴史館」

パナソニックミュージアム」は、パナソニック創業者・松下幸之助の経営観、人生観に触れられる「松下幸之助歴史館」と、パナソニック創業100年来の貴重な家電製品約550点を一堂に展示している「ものづくりイズム館」からなる。

実証実験が行なわれたのは「松下幸之助歴史館」だ。国内外問わず、尊敬する人も多い松下幸之助の人生が学べる施設である。

松下幸之助歴史館の入り口
「松下」の名前は松があったことに由来するという
創業時の「二股ソケット」
いわゆる昭和の「3種の神器」
松下幸之助が若いときから亡くなるまでの歴史が紹介されている
多くのパネルで松下幸之助の人生を振り返ることができる

ライド自体は、車椅子型の「PiiMo」に加えて、目の前にiPadが見えるように取り付けたもの。iOSのARプラットフォーム「ARKit」の機能を使うことで、目の前の実際の風景の上に、追加の情報がCGで映し出されたり、ハートマークをタップすることで「いいね!」をつけたりすることができる。また、Bluetooth接続の骨伝導イヤフォンをつけることで、ガイド説明を聞くこともできる。

隊列は今回は3列。自動追従する後方の車両にも同様にタブレットが付けられており、そこには前方の車両のタブレットに映される画像がミラーリングされることで、みながほぼ同じ体験ができるというものだ。

3台1組の隊列で館内を見学
このようなかたちで隊列走行する
目の前のタブレットに実景とCGが重ねられて表示される
CGで実物にはない家の2Fも再現

実際に体験してみた。体験者のなかには松下幸之助の人生の解説に夢中になってしまい、途中からPiiMoの体験であることを忘れていた、という人もいるという。その人にとっては、それくらい体験の質が高かったということだろう。

筆者自身はというと、率直にいうと、まだまだ改良の余地があると感じた。まず、PiiMoの乗り心地が意外と良くない。3台が連なって動く隊列のうち、筆者は先頭車両に乗せてもらった。この先頭車両は人が遠隔操作する。そのため、発進と制動がどうしてもガタガタしてしまうのである。このライドは車椅子型だが、体幹の筋肉が弱くなってしまっている高齢者には厳しいかもしれないと感じた。

何より気になったのが、肝心の展示が見やすくならなかった点だ。実物では2F部分が再現されていない建物がCGで見られたり、昔のテレビの前に家族団欒の様子や音が聞こえたりするといった仕掛けはなるほど面白い。だが、実際の会場ではぐるりと周囲に展示物がある。そのそれぞれの見たいところがあるのだが、ライドに乗ることで自由に見られなくなってしまう。これは厳しい。

体験時の目線
展示物のテレビの前でくつろぐ家族のCGが表示されたりする

この手の施設に導入するのであれば、単なる自動スライドショーではなく、乗車している側が積極的に操作することで、周囲の展示物や展示パネルがより細かいところまで見られるようになるなど、観覧自体の拡張が欲しい。できれば肉眼よりもアップで見られるようにしてほしい。ただし、積極的な操作が必要となると、乗る人を選んでしまう。こういったことを考えると、紅葉や流れる川のような素晴らしい景観を、山道を乗り物に乗って登ったり降りたりしながらぼんやり眺めるといった形式のほうが、ライドには向いているのかもしれないと感じた。

見たい展示を見ることが難しい
こういったミュージアムでの体験の場合は自分でライドを操作したくなってしまう

いっぽう、逆に大きな可能性を感じたところもある。最後に松下幸之助氏のCG像が出現して見送りしてくれたシーンだ。たとえば「推し」のキャラクターがこのようにARで出現して、ガイドしてくれたらどうだろう。自分の声を呼んでくれるようにカスタマイズすることも現在ならば比較的容易だろう。熱烈なファンのいるような、何か特定コンテンツにフォーカスした展示会等であれば、それなりのコストを支払ってくれるお客にも納得してもらえるコンテンツを作ることができるかもしれない。どういった方向に振るかは事業者次第だ。

最後は松下幸之助の像が出現、お見送りしてくれる。松下幸之助推しの人にとっては感涙もの?
パナソニックミュージアム XRライドアクティビティサービス PiiMoライド 実証実験

ライド体験イベント用パックを販売中

ライド体験用のパッケージを既に販売中

パナソニックではライド体験イベント用に、既にPiiMo5台+予備1台からなる「イベントパッケージ」(2週間パッケージで65万円〜、税別、PiiMoの送料別)、さらに位置情報と連動してVR、ARなどのXRコンテンツを表示できる「XRライドアクティビティサービス」の企画パック(イベントパッケージの契約+150万円)を販売している。詳細は公式ウェブサイトまで