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「バットに当たるまでボール見る」は無理 市川にアスリート支援ラボ

NEXT BASE ATHLETES LAB

ネクストベースは、民間企業初となるアスリートの成長を支援するハイパフォーマンスセンター「NEXT BASE ATHLETES LAB(ネクストベース・アスリートラボ/NAL)」を、千葉県市川市にて8月27日に開設する。世界最先端の計測機器を揃え、測定やスポーツ科学的な評価を実施。専門のアナリストが選手個人の特性に合わせたトレーニングを処方する。

ネクストベースはスポーツ科学を活用したデータ解析を行なうスポーツテックベンチャー。データ解析や体力計測・分析、プロ野球選手向けの強化コンサルティングといったアスリートサポートのほか、メディアに向けた分析データ提供などを行なっている。

例えば、「王貞治さんの700号ホームランの映像を解析した結果、王さんといえば日本刀素振りの映像を目にする機会が多いことからダウンスイングのイメージもあるが、実際にはアッパースイングで、30年前からフライボール革命を体現していた」といった情報を提供した実績がある。

「バットに当たるまでボールを見る」は不可能

NALでは、「すべてのアスリートに、サイエンスを。」をコンセプトに、世界最高レベルの機器で計測を行ない、スポーツ科学的な視点から体力や動作を評価。これら評価をもとに、アスリート個々の特性に合わせたパフォーマンス向上策を提供する。

施設内

種目は野球を中心に、バスケットボールやサッカー、陸上など様々な競技のアスリートに対応。国内外のプロ選手、アマチュア選手、小学生から高校生などの子どもたちまで、多彩な層のアスリートが触れ合える施設を目指す。

ネクストベース 代表取締役 中尾信一氏は、2022年は佐々木朗希投手の完全試合を筆頭に、ノーヒットノーランが4回も記録されていることについて、「ボールの軌道や回転などが数値化され、データをうまく使ってフォームの改善やトレーニングなどを行なうことで個々の能力が上がっている」との分析があることを紹介。高校野球でもデータをもとに選手の育成やレギュラーの選考を行なっているケースもあるという。

ネクストベース 代表取締役 中尾信一氏

一方で指導については課題があることを、ネクストベース エグゼクティブフェロー ラボディレクターで、國學院大學 人間開発学部 准教授を務める神事努氏が説明。「ウェイトトレーニングや走り込みの必要性など『どうしたらよいのか?』は体格や骨格、筋力、技術などの個別性によって異なるので、それらを『評価』するためには『測定』が必要になる」と話した。

ネクストベース エグゼクティブフェロー ラボディレクター 神事努氏

さらに指導において、「ちゃんと投げなさい」「軸で回転しなさい」「タメを作りなさい」などの具体性に欠ける言語が使用されるほか、「バットに当たるまでボールを見なさい」「押し込んで打ちなさい」など、事実ではない指導を行なうケースを問題視する。

「バットに当たるまでボールを見なさい」という指導については、ホームプレートの1.7m手前で視線はボールを追えていないというデータから、間違った解釈であると説明。

「押し込んで打つ」という表現は野球選手の間でも使われるフレーズであるとしつつ、押し込む前にバットとボールは接触しており、さらにボールがバットに当たった瞬間に手がバットから離れてもホームランになるケースもあることを根拠に、「押し込む」のは主観による感覚であり、事実ではないとする。

こういった、評価するための測定や、感覚に訴える言語ではない客観的な指導ができる点を、NEXT BASE ATHLETES LABの特徴に挙げる。測定を通した個別対応のアドバイスを行なえることを、同社では「テーラーメード型」と表現している。

モーションキャプチャなどでテーラーメイド型助言

NALの主な導入機器は、「光学式モーションキャプチャーシステム」「フォースプレート」「ハイスピードカメラ」「超音波診断装置」などで、そのほか、野球の球質データが取得できるラプソードといった、競技毎に必要な専用機器も導入している。

光学式モーションキャプチャーシステムはVICON社製。専用カメラ14台を用い、高い撮影速度(1,000Hz)で計測点の位置情報を取得。独自開発したプログラムによりバイオメカニクス的な視点から身体やボール、バットの運動を評価する。その上で、施設に在籍するスポーツ科学者が選手個々の状態に合わせたフィードバックを行ない、テーラーメード型のアドバイスを提供する。

測定を行なうピッチャーと、リアルタイムで表示される映像
評価の解説

指導現場でピッチャーに対して、「何となく肘を壊しそうなフォーム」と感覚的な印象を持たれることがあるが、分析により、肘を壊さないためにフォームを変えた方が良いのかどうかといった判断にもつなげられるという。

測定の様子。周囲にはカメラが設置されている
天井や壁にもカメラを設置
キャッチャー側の様子
データ分析の画面

フォースプレートは、動作中に時々刻々と変化する床反力(地面反力)を計測するセンサー。光学式モーションキャプチャーとの併用で、下股の関節トルク(関節を回転させる力)や体幹へのエネルギーフローを評価できる。3台のフォースプレートを導入しており、重心移動など身体を総合的に専門のスポーツ科学者が評価する。

ハイスピードカメラは、フルハイビジョンで2,000コマ/秒の撮影が可能な研究用のもの。投球におけるボールリリースや、打撃におけるボールとバットの衝突のような、高速な運動を可視化する。施設に在籍するアナリストが行なう練習中の映像を用いた即時フィードバックによって、測定→評価→改善のサイクルを回すことで、効率良く動作の改善ができるとしている。

超音波診断装置は、選手への痛みや副作用がなく、安全に筋肉や靭帯など身体内部の状態を観察できる検査装置。定期的に肘の内部の状況を診断し、適切に予防することで、肘の内側側副靭帯断裂によるトミージョン手術を回避できるという。

超音波診断装置(左)、ハイスピードカメラ(後方左)、Rapsodo Hitting(前方中)、体成分分析装置/InBody(右)

利用は、Webサイトの「spo+」から予約可能。野球部門の投手においては、球速アップや球種の獲得を目指したプログラムを提供する。また、打者においては長打力の向上やVRを用いた打撃脳力トレーニングプログラムを提供予定。そのほか、医療機関との連携を図り、けがの再発を防ぎながらフォーム固めをサポートするリハビリプログラムの提供も計画している。

VRを用いた打撃脳力トレーニングプログラムを提供予定

施設は室内練習機能も設けており、野球(ピッチング、バッティング)をはじめとしたスポーツの練習の場として利用可能。トレーニングルームも設置している。

料金は、「投手初回体験コース」「打者初回体験コース」「ピッチングアセスメント」各10,000円(税別)など。

そのほか、スポーツ科学専門のコーチが指導するアカデミー、施設で取得したデータ活用法などについて学べる講習を実施予定。今後、同様の計測機器を保有する大学等と連携し、オンラインでの遠隔サポートや研究開発を行なう計画も進める。

所在地は千葉県市川市国分6-7-11。敷地面積337.86m2、延床面積約100坪。