ニュース

花王の蚊よけ技術が進化。肌表面を「嫌なもの」と感じさせる

低粘度シリコーンオイルを塗布した表面に蚊がとどまらない様子

花王パーソナルヘルスケア研究所は、低粘度シリコーンオイルとシトロネラオイルやDEETなどの忌避成分を組み合わせることで、蚊よけ効果が期待でいるという研究結果を発表した。この技術により、極めて低濃度の忌避成分でも蚊に刺されることを防ぐことが可能になるとしている。

花王は'20年12月、低粘度シリコーンオイルを塗布することで蚊の嫌う肌表面を作り、蚊に刺されることを防ぐ技術を発表した。化粧品に一般的に使用される低粘度シリコーンオイルを塗布した皮膚では、蚊の降着時間が短くなるというもので、低粘度シリコーンオイルが蚊の脚にすばやく濡れ広がることで蚊の脚に引力が生じ、逃避行動を誘発するためとしている。

この作用メカニズムを応用し、べたつきやニオイといった課題を解決する新たな虫よけ剤を開発できる可能性があることから、この虫よけのメカニズムや有用性をより深く知るため、低粘度シリコーンオイルと一般的によく使われる忌避成分であるシトロネラオイルやDEETと組み合わせた場合の忌避効果について検討した。

忌避素材の効果を検証するため、従来の忌避成分濃度の10分の1~100分の1のシトロネラオイルを配合した製剤を塗布した前腕を、25匹の蚊が入ったケージに入れて、蚊の前腕への降着行動を観察。低濃度のシトロネラオイル単独では弱い忌避効果しか示さなかったが、低粘度シリコーンオイルと低濃度のシトロネラオイルを組み合わせた製剤では、蚊の忌避性が大幅に向上し、蚊の降着数が顕著に減少したという。

極めて低濃度のDEETと組み合わせた場合においても、同様の効果を確認している。

低粘度シリコーンオイルとの組み合わせで忌避性が向上。低濃度シトロネラオイル(左)、低濃度DEET(右)

この現象のメカニズムを探るための実験も実施し、蚊の脚に付着したシトロネラオイルの量は、シトロネラオイル単体の場合よりも低粘度シリコーンオイルを組み合わせた場合のほうが多いことを確認。蚊が表面に降着するときに、低粘度シリコーンオイルがすばやく蚊の脚に濡れ広がり、その際にシトロネラオイルも一緒に蚊の脚に移行すると考えられるという。

この現象は低粘度シリコーンオイル特有のもので、グリセリンのような物質では確認されていない。

忌避成分が低粘度シリコーンオイルとともに蚊の脚に移行

蚊は脚にある感覚受容体で化学物質を受容することから、蚊の脚にシトロネラオイルが移行すると、脚の感覚受容体がシトロネラオイルを検出し、蚊が表面をより嫌なものとして感じる可能性があるとする。結果として、ヒトの肌に低粘度シリコーンオイルと組み合わせたシトロネラオイルやDEETを塗布することで、蚊に刺される数を低減できるとしている。

低粘度シリコーンオイルは化粧品に広く使用される素材で、既存の虫よけ剤に比べて塗り心地がよく、極めて微量の忌避成分でも効果が発現することから、強いニオイや使用時の負担を抑え、使いやすい虫よけ剤を作れる可能性があると結論付けている。

花王が蚊よけの技術を開発する背景として、世界中で脅威をもたらすマラリアやデング熱のような蚊を介する感染症の存在を挙げる。感染予防のために様々な対策がなされており、虫よけ剤は家庭で取り入れることのできる蚊対策の中で最も一般的だが、忌避成分によりべたつきや強いニオイを伴うことがある点を課題とする。これに対して、効果が高く、簡便で使い心地がよい虫よけ剤があれば、使用する人・時間が増え、蚊媒介感染症のリスク低減につなげられるとしている。