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東京駅に「ロボット手荷物預かり所」。預入から取出しまで自動化

JR東日本スタートアップと、エキナカ店舗等への商品配送を手がけるジェイアール東日本物流、次世代ロボット倉庫「CUEBUS(キューバス)」を展開するCuebusの3社は、スペースの高効率化及び様々な倉庫機能の自動化オペレーションを目指した実証実験を東京駅で実施している。

3月5日~3月11日には、東京駅のエキナカ倉庫内にロボット倉庫「CUEBUS」を設置。17種類の土産品を取り扱う11.25m2の自動倉庫を構築し、実証実験を行なった。この実験では収容量を向上させるための必要スペックや適切な運搬スピード、入荷~ピッキング~出荷までのオペレーションの自動化を検証した。

3月16日~3月27日からは、東京駅の手荷物預かり所内の一区画に「CUEBUS」を設置。荷物の収容量を向上させるための必要スペック、適切な運搬スピード等の検証、預入~整理~取出までのオペレーションの自動化を検証している。

今回、この後者の実験の様子を取材する機会を得て、東京駅「新幹線南のりかえ口改札前」での手荷物預かりでの実証実験の様子を見せてもらった。実証実験とはいっても、実際に駅利用者の荷物を預かっている場所である。ジェイアール東日本物流 東京エキロジセンター 所長の岡本徹氏によれば、ここでは午前中にコインロッカーなどには入らない大きさの荷物などを一時的に預け、東京近郊に行楽などに出かけたあと、夕方以降にまた取りに来て新幹線や在来線で帰るといった利用者が多いという。

新幹線南のりかえ口改札前の手荷物預かり所の裏で実証実験が行なわれている

利用者も高齢者から若者グループまで多様だそうだ。実際に預けられている荷物も本当に多種多様で、スーツケースや大型リュックサック類はもちろん、土産物の袋、紙袋そのまま、前日の雨のためか傘なども多かった。今回の実証実験については、駅構内なので撤去が容易で、かつ利用者の変動にも対応しやすく、空間利用率が高くなることを期待しているとのことだった。

ジェイアール東日本物流 東京エキロジセンター 所長 岡本徹氏

AC100Vで動作し、簡単に設置できる次世代ロボット倉庫「CUEBUS」

Cuebusの次世代ロボット倉庫「CUEBUS」

今回の実証実験に用いられているCuebusの次世代ロボット倉庫「CUEBUS」とは、リニアモーター付きの「タイル」を床に敷き詰め、その上をキャスター付きの台車「トレイ」が走行するタイプのロボット倉庫。金属製のトレイにはマグネットがついていて、タイル側のリニアモーターで推進されて走行する。トレイ側にはモーターがなく、バッテリーも不要だ。非常にシンプルで部品点数が少なくコストを下げやすいという。回転モーターを使っていないので、故障もしにくい。

60×60cmのトレイの上には、用途に応じて、様々なラックなどを載せられる。トレイ一つの可搬重量は50kg。今回は3×6個のタイルを敷いて、荷物の預かりスペースとしている。タイル同士は電源と通信のコネクタをはめるだけで繋がる。通信は車載ネットワークの「CAN(Controller Area Network)」を使用している。

電源はAC100Vのみで動作。電力は動くときだけ消費する。止まっているときは全く消費しない。しかも動き出すときだけ力を出して、レールの上を走行するので省電力だ。消費電力は600W程度で、今回のケースで「荷物を一個取り出すくらいなら200Wくらいしか使わない」という。

リニアモーター内蔵の「タイル」
任意の枚数を繋げることが可能。動物の名前は棚場所をわかりやすくするために付けた番地
「タイル」の上に、マグネット付き「トレイ」が載って移動する
「タイル」は薄く、設置にアンカー工事などは不要

目的のトレイを手前に最適な経路で持ってくるための計算は「eRoute(イールート)」という独自ソフトウェアで行なっている。一度倉庫に入庫した品物の位置はシステムが覚えているので、出庫をタブレットで指示すると手前に持ってきてくれる。この手の自動倉庫の多くは入出庫するための場所(ポート)が決まっているものが多いが、「CUEBUS」はどこからでも入出庫できる。トレイは自己位置を覚えているので、手で押して移動させたりしても元の位置に自動で戻る。

今回は一段のみだが、タイルの上にフレームを組み上げることで2段に層を重ねることもでき、その上下間を繋ぐためのリフトも開発している。Cuebusでは2014年からこの自動倉庫を開発しており、主なターゲットは物流倉庫だ。ただ「CUEBUS」は固定用アンカーなどを打ち込む工事の必要もなく簡単に設置でき、一時的な手荷物預かりスペースの構築にも適していることから、実証実験を行なうことになったという。

ちなみに今回のケースでは、わずか1時間半で設置できたとのこと。しかも組み立て自体は専門の業者が行なったわけではなく、初めて作業したJR東日本スタートアップやジェイアール東日本物流の人たちが自ら行なったそうだ。「専門家でなくてもマニュアルとルールさえ守れば問題ない」という。

タイルとタイルは独自のコネクタで接続される
増設も容易

Cuebus代表取締役社長の大久保勝広氏は「CUEBUS」の開発コンセプトについて、「手軽に設置できることに、とにかくこだわっている」と強調する。「自動倉庫は大掛かりで、一回設置してしまうと崩せないことが問題。もっと柔軟にできる棚のようなものを作ろうと考えた」(大久保氏)。同社では今後、アパレル系3PL(サードパーティロジスティクス、物流業務のアウトソーシングを受託する業者)とも実証実験を行なう予定がすでに決まっている。

Cuebus 代表取締役社長 大久保勝広氏

従来は人海戦術だった出庫作業が容易に

あずかった手荷物を入庫する様子。今日初めて見た人でも「棚」なので迷わず使える

今回の実証実験では、1組の客に一つのラックのみを使い、タイル下部のインジケーターで入れるべき場所を指示する。緑のランプが点いたら上の棚に入れる、青が点いたら下の棚に入れるという使い方だ。現在は決済機能がないので、荷物の受付自体は人が行なう必要がある。窓口で受付をすると、バックヤードの「CUEBUS」側ではその指示に応じて自動で空きトレイが前にやってくるので、そこに入れる仕組みだ。

タブレットに預かった荷物の番号を打ち込むとその荷物の棚がやってくる

特に現場視点で役に立つのは「出庫のとき」だとジェイアール東日本物流 品質サービス改革部長の江越純子氏と、同 企画本部総務部リーダーの齋藤譲氏は語る。従来は出庫のたびに、客の荷物番号札から該当する4桁の番号のついた荷物を、人海戦術で探し回る必要があった。だがCUEBUSに入れた荷物は場所をシステムが覚えており、タブレットを叩けばその番号の荷物が自動で前にやってくるので、すぐにピックアップできる。基本的には荷物番号をタブレットに打ち込むだけで、その荷物が前にやってくるので、日本語が母国語でない人であっても作業は問題ない。

実証実験の担当者である齋藤氏は「100Vで動く、アンカー不要で工事がいらない。形を選ばない。階段の下のような場所にも設置できる。駅では同じ場所でずっと手荷物預かりができるとも限らない。使える場所に気軽に持っていける。物流の細かい課題を解決してくれる。非常にシンプルで、老若男女、今日雇った人でも仕事ができる」とCUEBUSを高く評価する。

ジェイアール東日本物流 企画本部総務部リーダー 齋藤譲氏

「柔軟」「フレキシブル」である点が評価

ジェイアール東日本物流 代表取締役社長 野口忍氏。本格運用も進めていきたいという

ジェイアール東日本物流 代表取締役社長の野口忍氏は、「駅のなかはスペースは結構あるが、形が複雑で物流向きでないところが多い。アンカー打設工事の必要がある固定設備も入れられないので、通常の倉庫は設置しにくい。このような空間をどのように有効活用するかは大きな課題だった。Cuebusさんの仕組みは簡単に様々なところにいれられる。手荷物預かりにも使えるし、バックヤードにも使える。『フレキシブル』というところが我々のニーズに合った」と語る。

駅は工事が入ったりすることも多く、そのたびに設備を動かさなければならない。だから既存の自動倉庫のようなものは設置しづらい。しかし1時間半で簡単にできるものであれば、需給の波動に応じて簡単に設置できる。「非常に柔軟に組み立てられるソリューションだと実感した」という。

今後の本格運用の可能性についても「進めていきたい」と前向きだ。「どういうケースでの活用がいいのかは今後見極める。実証実験の結果を分析したい。無人オペレーションとの組み合わせの検討も必要になる。多忙なときは有人オペレーション、夜間は無人というかたちもあり得るのではないか。自在な使い方ができると思う」とのことだった。

今回の実験へと話をつなげたJR東日本スタートアップ アソシエイトの澤田智広氏は、まずは「仕組み自体に魅力を感じた」と語る。そして「アパレル仕様ではあったが、キャリーケースが入る大きさにマッチしているなと。設置も撤去も容易で、フレキシブルに増設もできる・イベント会場の臨時設置にも使えそうだ」と考えたとのことだった。

極めてシンプルで壊れる部品も少なく、増設・減設も容易な自動倉庫システム

簡単設置できる自動倉庫の用途はアイデア次第

フレキシブルに設置・組み換えが可能なCUEBUS

「柔軟に組み換えができる」ことが特徴な「CUEBUS」の仕組みはスケールフリーだ。「入れて出す」システムならばアイデア次第で何にでも使えるし、規模だけではなく大きさも問わない。今のトレイは60×60cmだが、もっと小さくすることもできるし、もっと大きくすることもできる。小さいものならば薬の払い出しなどにも使えるのではないかという話は多くきているそうだ。

Cuebus大久保氏は、もともとのターゲットは物流倉庫であるだけに「やはり一番最初は倉庫」としつつも、「業務に適用させた製品に近いかたちで運用しているので、ここまできたら何でもできる」と語る。「私たちとしては、こういう使い方は当初はあまり想定していなかった。でもここまで取り組ませてもらったし、課題も見えたので、それは作って、まずは一つの製品として完成させてしまおうと思っています」(大久保氏)という。

仕組み作りが重要だと語るCuebus 代表取締役社長 大久保勝広氏

なお土産物のほうの実証実験では、特定の一社の、主に重量物の入ったダンボールケースを扱ったとのこと。成果としては賞味期限への対応ができたことを挙げる。「今までは新しいものを入れようとすると、入れ替える必要があった。Cuebusを使うことで、そういうことを気にせずに取り出せるようになった。取り出す人は何も考えずに取り出せばいい。つまり間違えない。しかもだんだん最適化されていく」(大久保氏)。

CUEBUS開発の背景には物流危機がある。大久保氏は「物流現場の人手不足は、もう待ったなし。適正な労働分配をしないといけない。こういった自動機械があれば様々なコラボレーションによる新サービスや、そこで蓄積されるビッグデータの活用も考えられるが、そのときも労働量を増やすのではなく機械が代替するべき。作業者が頭を使わないといけない運用ではなく、間違えないための仕組みを作らないといけない」と語った。