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東京駅の高速バスが進化する 「八重洲バスターミナル」を見てきた

バスターミナル東京八重洲のロゴ

9月17日の部分開業に向け、UR都市機構と京王電鉄バスが東京駅八重洲口で整備中の「バスターミナル東京八重洲」がプレス向けに公開された。

バスターミナル東京八重洲は、高速バスや観光バスの発着施設だ。第1期工区の開業は9月と半年先で、現地は内装もほとんどできていないが、概要情報や完成予想なども交えつつ現地レポートしていきたい。

現状 東京駅の高速バスは……ちょっと使いづらいです

路上のバス停。高速バスなのか普通の路線バスなのか判別がつきにくい

高速バスをあまり使わず、高速バス事情に詳しくない人も多いと思うので、まずは現在、東京駅周辺で高速バスがどのように運用されているかを軽く説明しよう。現在の東京駅周辺ではJRの高速バスだけは八重洲口前のバスターミナルに集約されているが、それ以外の高速バス停は、正直、使いづらい。

バスターミナル東京八重洲に移行する対象となるバス停。東京駅周辺にかなり分散している

まずバス停が分散してる範囲が広く、どこにどの路線があるか、「初見殺し」と言えるくらい分かりにくい。東側(八重洲口)はさまざまな路線の高速バスの発着場があるが、広く分散していて、あらかじめ調べておかないとバス停に辿り着くのは困難だ。西側(丸の内口)は観光バス(要するに「はとバス」)や普通の路線バスが主だが、観光バスは初見の人が多いはずなのに、駅改札から少し離れた場所、丸ビル方面ではなく若干寂れていてわかりにくい場所にある。

現状の高速バス停の1つ。アクアライン路線のバス停で本数も乗客も多いが、場所が分かりにくいし、全員が屋根の下に入れないし、路上に行列ができる

路上のバス停というのも、高速バスにとっては運用が難しい。例えば東京発の高速バスとなると、ほとんどの乗客は東京駅で乗車するので、路線や時間帯によっては歩道に数十人の行列ができてしまう。もちろんバス自体が路上に停まるので、乗降中は1車線占有してしまい、バスが長時間待機することもできない。

バスターミナル整備で期待される効果

乗客の待合室もないので、寒い日・暑い日・雨の日・花粉の日など、利用者はもれなくシンドい。高速バスは乗り逃すと致命的なので(本数が少ない)、早めにバス停に到着し、乗車可能になるまで近くで待機したいところなのに、屋外で立っているしかない。また、高速バスは基本的に長時間乗車するので、乗車前にトイレや売店に寄りたいところだが、そうした設備もない。

片道2,000円未満の中距離ならば、予約不要で乗車でき、Suicaなど交通系電子マネーで車内清算できる高速バス路線も多いが、路線によっては座席予約や事前決済が必要なのに、路上のバス停ではチケットカウンターがない。

JR高速バス乗場。チケットカウンターなどもちゃんと整備されている

JRの高速バスだけは、八重洲口前のバスターミナルに集約されている。デジタルサイネージのあるバス停で各バスの行き先も分かりやすく、待合室や売店、チケットカウンターなども整備されている。しかしほかの会社の各高速バスは、ちょっと使いづらい状況なのだ。

現在、整備が進められているバスターミナル東京八重洲は、こうした路上に分散しているバス停の使いづらさを解消するものとなる。

3つの再開発ビルの地下に巨大バスターミナルを整備

八重洲口の3つの再開発エリアのそれぞれの地下にバスターミナルが整備される

バスターミナル東京八重洲は、東京駅八重洲口周辺で現在進行中の、3つの再開発地区の地下に整備される。

整備事業はUR都市開発機構が担当し、運営は京王電鉄バスが担当する。新宿駅のバスタ新宿をモデルケースとして国土交通省が推進している「バスタプロジェクト」ではないが、京王電鉄バスはバスタ新宿にも参画していて、その実績もあってバスターミナル東京八重洲にも参画している。

所在地としては、いずれのエリアも東京駅の八重洲口から外堀通りを挟んだ向かい側で、八重洲通りの南側が第1期エリア、北側が第2期エリア、南側が第3期エリアとなっている。

建設中の東京ミッドタウン八重洲。外観はかなり完成に近づいている

今回、プレス向けに公開されたのは、もっとも早い9月17にオープンする第1期エリアだ。ここは「八重洲二丁目北地区(A-1街区)」という再開発エリアで、三井不動産の「東京ミッドタウン八重洲」が建設中である。

第1期エリアの配置図

東京ミッドタウン八重洲のメインの建物は、地上45階・地下4階の大型ビルで、最上層はホテル、中間層がオフィスで、地上3階から地下1階までが商業施設となり、バスターミナル東京八重洲の第1期エリアは地下1階と2階に入る。

東京駅とは外堀通りを挟んでいるが、地下で八重洲地下街と接続する。各再開発地区は、「丁」字型の八重洲地下街の「脇の下」に当たる位置にあり、もともと八重洲地下街の出入り口があるので、八重洲地下街は拡張せずに地下で接続できる。

3つのエリアの配置図。図の上が西(東京駅側)
3つのエリアの立面イメージ

なお第3期エリアは銀座線京橋駅が地下で接続する予定となっている。東京駅と地下街・地下通路でつながる駅は何駅目なのだろうか。アクセスが良くなると言えるかもしれないが、東京駅ダンジョンはまだまだ難易度を上げていきそうである。

地下1階のチケットカウンター周辺の完成予想図
工事中のチケットカウンター周辺。まだ何もない

バスターミナル東京八重洲の第1期エリアは、地下1階にチケットカウンターや待合スペース、ロッカーなどが設置され、地下2階がバス乗降所となる。地下1階にはバスターミナル東京八重洲とは別に、東京ミッドタウン八重洲の地下商業施設も入るが、そちらは飲食店や物販ストア、コンビニなど13店舗が先行オープン予定となっている。

東京ミッドタウン八重洲の地下1階に先行オープンする店舗。この図で言う左上部分がバスターミナル東京八重洲

ちなみに東京ミッドタウン八重洲の正式オープンは2023年3月予定だ。バスターミナル東京八重洲は、それよりも半年早く開業するが、それに合わせ、東京ミッドタウン八重洲の地下1階の13店舗だけが先行オープンする形だ。

東京ミッドタウン八重洲とバスターミナル、9月に先行オープン

八重洲地下街と繋がっているので、飲食店や売店には困らない場所ではあるが、同じ建物内にも多数の飲食店があるというのは、高速バスの乗車前・降車後の腹ごしらえ的にありがたいポイントでもある。

第1期エリアが入るのは中央の八重洲二丁目北地区の地下。第2期エリアは左、第3期エリアは右の再開発地区の地下に入る

第1期エリアの次に開業するのは、八重洲通りを挟んだ北側の「東京駅前八重洲一丁目東B地区」の地下に入る第2期エリアで、そちらは2025年に開業予定だ。この再開発地区は昨年、着工しているが、地上51階の巨大ビルなのでまだまだ時間がかかる。

最後に開業するのは、第1期エリアのすぐ南の「八重洲二丁目中地区」の地下に入る第3期エリアで、そちらは2028年開業を予定している。こちらは3つの再開発地区の中でも敷地面積・延床面積が最大のビルが建つ予定で、まだ着工もしていないためやはり時間がかかる。

第1期エリアだけでも大規模。第3期まで完成すれば1日1500便以上

中央の東京ミッドタウン八重洲の右にある細い通りが「あおぎり通り」

第1期エリアには、外堀通りから1本入る「あおぎり通り」という一方通行の道路に、地下の乗降場への入庫ルートと出庫ルートが作られる。現在、あおぎり通りは東京駅側に向かう西向きの一方通行だが、完成時は東京駅側から入る東向きの一方通行になるようだ。

第1期エリアの配置図。バス乗り場11〜16が作られる(地上のバス乗り場と番号が被らないようにしてある)
乗降バースの車道側。車道はもう一段高くなる予定。前方奥の壁は最終的にはなくなり、第3期エリアとつながる
入庫ルート。曲がりくねっているが、高速バスが通れる広さ・曲率になっている
地下3階の乗降場・待合室。車道とはガラスで隔てられている。売店や自販機も設置予定

この第1期エリアは、地下2階に6つの乗降バース(バスが停車するスペース)と3つの待機バースが用意される。専有面積は7,000m2。これだけでも高速バスターミナルとしてはかなりの規模だ。

八重洲口のJR高速バスターミナルの乗車バース

例えば八重洲口にあるJRのバスターミナルは9つの乗車バースあるが、いずれも斜めにバスが入ってくるタイプの、ちょっと詰め込んでる感じのバスターミナルで、隣にバスがいると車体側面の荷物室が使いにくい。また、国内最大級のバスターミナルであるバスタ新宿でも乗車バースが12(降車場は別)、待機バースが5とかなので、第1期エリアとJRのバスターミナルを足せば、バスタ新宿を超える規模となる。

3エリアの施設規模。ここまで要るのか、という巨大さ

さらに2025年ごろ開業予定の第2期エリアでは、7つの乗降バースが追加される。ちなみに第2期エリアは地下1階に各種施設と乗降場が集約される。

最後に2028年ごろ開業予定の第3期エリアでも、7つの乗降バースが追加される。第3期エリアと第1期エリアのバス乗降場は地下で一体となり、バスの入庫・出庫ルートも共有される。

第3期エリアまで完成すると、乗降バースが20、待機バースが8、占有床面積は21,000mm2、巨大なバスターミナルとなる。実際にどれだけの便数が運用されるかは決まっていないが、キャパシティとしては少なくとも1日1,500便以上の処理が可能となる。

どんなバスがバスターミナル東京八重洲に移行するの?

バスターミナル東京八重洲への移行を予定しているのは、八重洲側の路上をバス停としている高速バス、鍛冶橋駐車場(八重洲口から少し南に行った場所にある)で発着している高速バス、丸の内側の路上をバス停としている高速バスと定期観光バスだ。

定期観光バスなどが移行するかは、事業者の希望次第だが、移行エリア内のバス便数は発着合わせて平日1,261便(2019年10月調査)にもなる。

第1エリアには八重洲口周辺と鍛冶橋駐車場で発着するバスが移行してくる予定

そのうち第1期エリアには、現在、八重洲側の路上と鍛冶橋駐車場で発着している高速バスを中心に平日550便以上が移行する予定となっている。関東地方以外を目的地とする長距離の昼行便・夜行便も多く含まれるが、本数の多い千葉方面の中距離路線も含まれる。また、開業に合わせて新規路線の乗り入れや、余裕があれば貸切バスなどの発着も予定しているという。

高速バス事情を変える……かも?

バスターミナル東京八重洲は国内でも最大規模のバスターミナルとなる。第2期エリアまででも最大規模だし、なんなら第1期エリアとJR高速バスのターミナルを合わせただけでも国内最大規模だ。

このバスターミナル東京八重洲が完成すれば、東京駅発着の高速バスの使い勝手は大きく向上するし、それに合わせて路線や便数も増えるだろう。しかしほかの駅からの高速バス路線が東京駅発着に変わる、と言うことは少ないと予想される。

鉄道と異なり、高速バスは道路さえ通じていれば路線を自由に設定できるのがメリットだ。例えばアクアライン経由で木更津方面に行く高速バスは、東京駅だけでなく新宿駅、渋谷駅、品川駅などから発着している。利用者は自宅から近い駅からの路線を選ぶことができるので、これが東京駅に集約されるのは、多くの利用者にとってデメリットにもなりうる。

また、すでに東京駅以外にも高速バスのバスターミナルは存在する。とくにバスタ新宿は、山手線以西からのアクセスが良好で(JR駅直上というのも便利である)、渋滞しやすいものの甲州街道と首都高が近く、高速バスのハブにはふさわしい立地だ。バスターミナル東京八重洲が開業しても、引き続き多くの人がバスタ新宿を利用するだろうし、便数が減ることもないだろう。

このほかにも、これからバスターミナルを整備していく駅もある。例えば品川駅の西口基盤整備事業は、国土交通省の「バスタプロジェクト」の対象にもなっていて、国道15号沿いにバスターミナルを作る予定だ。品川駅は東海道新幹線が止まり、空港へのアクセスも良く、将来的にはリニア中央新幹線も使えるようになるので、東京駅に並ぶ東京の玄関口になることが期待できる。

バスターミナル東京八重洲が完成しても、それはほかの駅から高速バス利用客を奪うより、これまで高速バスを使っていなかった新規客層の開拓や新規路線の開設につながるだろう。

高速バスは現在、感染症対策の関係で減便や休止している路線も少なくない。しかし感染症対策がひと段落すれば、元に戻るだろうし、それどころか以前より高速バスが増える可能性も十分にある。

例えばアクアラインの千葉県側、木更津金田バスターミナル(東京駅から40分程度)周辺は、比較的地価が安かったことから、リモートワーク中心になった都内の会社に勤務する移住者が増えている。こうした人たちの通勤需要を満たすために、高速バスの便数は増える可能性がある。復活が予想される観光需要も高速バスにとっては大きな追い風になるかもしれない、また、ガソリン価格高騰も、「自家用車より公共交通機関」という動きにつながるだろう。

高速バスというと、夜行バスの「安いけど過酷」というイメージを持つ人が少なくないかもしれない。しかしそこまでの長距離・長時間の路線でなければ、フカフカのリクライニングシートに乗ってるだけで目的地に着くので、鉄道の在来線はもちろん、下手な特急電車より快適だ。コロナ禍で旅行に行きにくい時間が長く続いたが、これがひと段落したら、(サイコロを振らないタイプの)高速バスの旅を楽しんでみてはいかがだろうか。