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ホンダ、「ASIMO」を継承するアバターロボ開発

ホンダは、3月9日(水)~12日(土)まで東京ビッグサイトで開催された「2022国際ロボット展」に、独自開発している多指ハンドをつけて遠隔操作が可能な「Hondaアバターロボット」(分身ロボット)と、ハンズフリーパーソナルモビリティ「UNI-ONE(ユニワン)」を出展した。

Hondaアバターロボット

ハンズフリーパーソナルモビリティ「UNI-ONE」

ハンズフリー パーソナルモビリティ「UNI-ONE」

まず、パーソナルモビリティ「UNI-ONE」から。ホンダは2012年に「UNI-CUB(ユニカブ)」という着座式で両手が自由に使えるパーソナルモビリティを発表し、日本科学未来館そのほか各所で実証実験を行なっている。ホンダのロボット研究から生まれた独自のバランス制御技術と、前後・左右・斜め360度自由に移動できる全方位駆動車輪機構「Honda Omni Traction Drive System(オムニ トラクション ドライブ システム)」が特徴だ。「UNI-ONE」はその発展形にあたる。「UNI-CUB」同様、体の重心を少し傾けるだけで操作ができる。

用途は仕事のほか、アミューズメント・レジャーなど。「UNI-ONE」の特徴は座面が上下すること。それにより車椅子などの利用者も移乗しやすくなった。そして座面をあげることで目線がおおよそ150cm程度になり、立って横を歩く人と自然に目線を合わせたり、棚の上のものに手を伸ばして取るといった動作が容易になった。また、座面を下に下げたときには四方にあるキャスターが接地することで、より安定するようになった。

実際に乗り込むときには脚部と腰をシートベルトで固定する。脚を固定されるとパッと降りられなくなるため、見たときには不安もあったが、実際に乗ってみると、むしろ固定されたほうが身体が安定し、安心感があった。またホンダのいうとおり、横を歩く人との目線高さは自然だった。乗車体験では実際に棚の上、また低い位置にも手がとどくことも実体験できた。

腹部と脚部をベルトで止めて乗る

なお、本体右側には小さなジョイスティックがあり、座面を下降させたときにはジョイスティックで操作することも可能だ。ちょっと動かしたいときには、体重移動よりもむしろこちらのインターフェイスのほうが便利だ。2022年度中に「UNI-ONE」を使用した実証実験開始を予定しているという。

「AIサポート」付きで遠隔操作が可能な「Hondaアバターロボット」

Hondaアバターロボット

もう一つの展示は、遠隔操作するアバター(分身)ロボット。器用で力の出せる「多指ハンド」を持つ上半身型のヒューマノイドだ。ホンダが1986年から開発を続けてきたヒューマノイド(人間型ロボット)研究、そして2000年に発表され、3月末に引退する2足歩行ヒューマノイド「ASIMO」などから生まれた技術の延長線上にあるロボットである。

遠隔操作は、操作者側がゴーグルとハンドトラッキング用グローブを装着して、ロボットを操作する。単に人の動きをトレースするだけではなく「AIサポート遠隔操縦」という機能がついている点が特徴。ゴーグルでは操作者がどこを見ているかを視線で検出する。目の動きだけではなく、手の動き、指の動きも使ってシステムは操作者の意図を推定する。

その情報と、ロボット自身のセンサーを使った形状情報などを組み合わせて、ロボットはハンドの位置、指先の接触位置、指先の力をどの程度かけるべきかといったバランス等を自動調整し、行動計画を立てて制御を行ないながら実行する。デモではペットボトルを持って人に渡したり、複雑な形の小石を拾って移動させるといったデモを行なっていた。人の状況判断による操縦と、自律機能によるAIサポートを臨機応変に協調させることで、ロボットができる作業を増やすことが目標だ。

出すべき力や指先の接触位置を自動調整してハンドリングできる

ホンダは、人と知能システムがインタラクションする「Cooperative Intelligence(協調知能)」というコンセプトを掲げている。機械システムの自律に加え、人と機械の協調により、お互いの能力を拡張したり高めたりできるというコンセプトだ。

なお遠隔操作で動くロボットのボディ部分は、ロボットの国際学会「IROS 2017」でホンダが災害対策用として発表したヒューマノイド「E2-DR(Experimental Legged Robot for Inspection and Disaster Response)」と同じものとのこと。

ホンダアバターロボットの側面。薄い

深層強化学習であやつり動作を獲得

4本の指からなる「多指ハンド」

「多指ハンド」はジュース缶のプルタブを開けたり、ボールを持ったときの力方向をちゃんと見ているといった一連のデモンストレーションを、腕部分単体でも行なっていた。

今回公開された「多指ハンド」は指先力50N。224チャンネルの感圧センサーで接触状態がわかり、指先には6軸力センサーで接触力を検出できる。動滑車の原理を使うことで力強さと小型化を両立させたという。ハンドは形状・バランスに応じて接触力バランスを制御する。13種類の手形状を取ることができ、これで人の生活で使用される作業のうち8割をカバーできることになるという。

ホンダではこのハンドを、単純なグリッパーや吸引などでは掴めないものを操作する、たとえば物体を手指で覆って、しっかりと力をかけるような操作に用いることを目指している。ペットボトルの蓋を開けたり、レンチを握り込んで回すといった作業のことだ。最新タイプのハンドは、ほぼ人サイズに小型化されている。機構も肘から先に収まっているとのことだった。

最新モデルは人サイズに小型化されている

接触状態に応じた力の強弱やすべりの使いかた、目標姿勢への持ち替えなどプログラミングが煩雑なあやつり動作については深層強化学習が用いられている。認識結果にばらつきがあったり、対象が部分的に見えなかったり、不確定なパラメータがあっても対応できるという。これは九州工業大学 長隆之准教授らとの共同研究とのこと。

ロバストなあやつり動作を獲得するために深層強化学習を利用

低レイテンシ・高効率・耐故障性リングネットワーク

低レイテンシ・高効率・耐故障性リングネットワークを使用。トライアル募集中とのこと

アバターロボットには「低レイテンシ・高効率・耐故障性リングネットワーク」が使われている。これはデータ衝突がなく、どのネットワークノードでも送信可能な独自プロトコルで、異常が発生しても異常個所を特定して復帰できる。最大接続数は256ノードで、形態はリング型、スター型、デイジーチェーン。通信速度は1Gbps、レイテンシ(応答遅延時間)は16ノードで62マイクロ秒、効率は同99.2%。トライアル募集中とのことだ。

「ASIMO」を継承するロボット研究

「UNI-ONE」試乗用の整理券でつくられたASIMO像

ホンダ「ASIMO」についても、改めて紹介しておこう。「ASIMO」とは2000年にホンダが発表した2足歩行ヒューマノイドである。日常生活のなかで人と共存することを目標とし、サイズは人間の子供サイズの130cm。その後、2005年、2011年などに新型が発表された。

ハードウェアだけではなくソフトウェアのバージョンアップも繰り返されており、単に平地や階段を歩くだけではなく走ったり、凹凸のある地面で歩行したり、複数の人が歩き回る空間で人の動く方向を予測しながら歩いたり、複数の人たちの声を聞き分けたり、環境側のセンサー・システムとの連携など、多彩な機能を実現するだけでなく、高いレベルで一つにまとめた人間型ロボットとして一般の人たちにも広く親しまれた。詳細はHondaの公式サイトでまだ見られる。

なじみやすいデザインと動き、機能から「ASIMO」は長らく抜群の知名度を誇っていた。だが現在は開発は中止したとされている。日本科学未来館と青山にあるホンダ本社1Fでの一般公開デモンストレーションも、2022年3月いっぱいで終了となる。

Hondaアバターロボットは2030年代の実用化を視野に、2023年度中の技術実証開始を目指し、技術実証のためのパートナーを求めているという。また技術検証パートナーだけではなく、本田技術研究所 先端技術研究所 フロンティアロボティクス領域 チーフエンジニアの武田政宣氏と同アシスタントチーフエンジニアの義平真規氏は「役に立つところ、興味を持っていただけるようなパートナーが現れたら他社と一緒に作ることもあり得る」と語る。

「これまではASIMOのように、自立した一つのパッケージとして発表していましたが、これからはそれぞれの技術ごとに発表して、必要に応じてパートナーと組んでいきたいと思います」。