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非接触でホテルにチェックイン。LINE活用「ノータッチステイサービス」の狙い
2022年3月18日 09:44
富士通Japanは、ホテルのレセプション業務における非接触・非対面を実現する「FUJITSU Enterprise Application GLOVIA smart(グロービアスマート) ホテルSaaS ノータッチステイサービスオプション」を開発し、2021年12月24日より広島県尾道市の尾道国際ホテルにおいて運用を開始した。
今回、本システムを開発した富士通Japanの担当者と、実際に導入した尾道国際ホテルの担当者に、開発経緯や特徴、導入に至った経緯などを聞いてきた。
アプリ不要・素早く・安価。LINEで予約の選択理由
はじめに、「FUJITSU Enterprise Application GLOVIA smart ホテルSaaS ノータッチステイサービスオプション」(ノータッチステイサービス)について簡単に紹介しよう。
ノータッチステイサービスは、ホテルのレセプション業務において非接触・非対面を実現するサービスで、富士通Japanが提供しているホテル管理システム「FUJITSU Enterprise Application GLOVIA smart ホテルSaaS」のオプションサービスとして用意されたものだ。
最大の特徴が、「LINE」を利用して非接触・非対面を実現するという点だ。ホテル利用者は、LINEを利用してホテルのチェックインやチェックアウト、宿泊代金の決済、宿泊施設へのアンケート回答などを手軽に行なえるようになっている。具体的には、LINEがフロントエンドとなり、その先に富士通のホテル管理システムが繋がり、LINEからチェックインやチェックアウトが行なえるようになっている。
実際のチェックインやチェックアウトの流れは次のようになる。
ホテル到着前に利用ホテルのLINE公式アカウントから予約一覧メニューを選択し、「お客様情報」の入力と電子署名の登録を済ませておき、ホテル到着後にフロントのQRコードリーダーでチェックインメニューに表示されるQRコードをかざすとチェックインが完了する。
チェックアウト時は、LINE公式アカウントの滞在情報メニューに用意されているチェックアウトボタンをタップし、クレジットカードなど対応の決済手段を利用して決済を行なうことでチェックアウトや精算が完了し、そのままホテルを出発できる。
あわせて、アンケート機能も用意。ホテルには客室にアンケート用紙が置かれていることが多いが、LINEを利用したアンケート機能は自分のスマートフォンで簡単に回答できるため、紙のアンケートよりも高い回収率が期待できるとともに、利用客の声をリアルタイムに収集できるため、顧客満足度の向上にも繋げられるという。
富士通Japanの開発担当によると、「コロナ禍における非接触・非対面のニーズがホテル業界でも高まっており、接触機会を極力減らしてホテルのチェックインやチェックアウトを行なえるよう開発した」という。
その中でも最大の特徴が、LINEを利用しているという点だ。
大手ホテルチェーンなどでは、独自の専用アプリを用意して、アプリからチェックインやチェックアウトができる場合もある。ただ、専用アプリは構築に多大な手間や費用がかかるうえ、アプリを利用者にインストールしてもらわなければならず、その点が大きなハードルになる。
それに対しノータッチステイサービスは、日本で9割近い利用率を誇るLINEを使うことで、専用アプリをインストールせず利用できる。また、専用アプリを構築、開発する必要もないため、素早く、低コストで実現できる。こういった理由から、LINEを利用したシステムを選択したとのことだ。
アジャイル手法で開発
このノータッチステイサービスは、アジャイル手法で開発され、現場の意見を優先しながらシステムを構築している点も特徴だという。具体的には、半年ほどかけて調査研究を行ない、その後尾道国際ホテルの担当者へのレビューも行ないながら1週間ほどの期間(スプリント)でアジャイルを回し、トータルで1年ほどの期間で開発を行なったそうだ。
富士通では、いわゆるウォーターフォール開発のような大規模エンタープライズ開発が基本となっており、ノータッチステイサービスの開発陣もウォーターフォール開発が身についていた。そのため、開発途中で導入業者の担当者(今回の場合は尾道国際ホテルの担当者)にレビューしてもらうところなど、開発手順のギャップに苦労したそうだ。
また、これまではホテルのスタッフが使う基幹システムを開発してきた中、ノータッチステイサービスはホテル宿泊客も利用するため、画面のインターフェイスなども含め、尾道国際ホテルの担当者から意見をもらい開発を進めたという。
そして、アジャイル開発ということで、リリースしたから終わり、ということはないという点も強調した。
「アジャイルはスピード優先ですから、隅々まで作り込んで立ち上げるといのではなく、まずはお客様が求めるものを作って、それを使っていただきながら改善も進めていきますし、機能を増やしたりする余地も多分にあると考えています」
開発の明確なフェーズは設定していないとのことだが、現在のリリースは“フェーズ1”相当だという。今後、実際に運用していく中で気付いたことや、システムを導入した尾道国際ホテルや利用した宿泊者などの声も参考にしつつ、改善していきたいとのことだ。
コロナ禍での非接触・非対面のニーズに対応
尾道国際ホテルの担当者によると、尾道国際ホテルがノータッチステイサービスを導入することになったきっかけは、やはりコロナ禍が大きく影響しているという。
コロナ禍になって、ホテルでも非接触・非対面のニーズが高まってきたことで、ロビーでの利用客の滞在時間を削減することと、利用客の減少に伴って出勤スタッフを削減する必要が出てきた。そして、そのためにはこれまでのオペレーションから大きく変更しなければ難しいということで、尾道国際ホテルが利用しているホテル基幹システムの開発元である富士通Japanに相談したところ、開発中のノータッチステイサービスについて紹介してもらい、ぜひともそちらを利用したいということで導入に繋がったそうだ。
今回話を聞いたのは、導入から間もない2022年1月下旬だったこともあり、その時点では実際に接触機会を減らせているかの判断は難しいとしつつも、「QRコードリーダーにスマートフォンをかざすだけでチェックインが済み、ホテルスタッフもカードキーを発行してお客様に渡すだけ。将来的にお客様が増えれば、当初望んだ効果が十分に見込めると期待している」という。
また、ノータッチステイサービス導入によるスタッフの負荷も非常に少なかったそうだ。
尾道国際ホテルでは、ノータッチステイサービス導入に合わせて客室キーもカードキーに刷新したそうだが、そのカードキーのオペレーションと合わせて30分ほどの説明で問題なく対応できたそうだ。
合わせて、ノータッチステイサービスを利用することで、チェックイン時に住所や署名を署名カードに記載する手間がなくなるという点も大きなメリットになっているという。署名カードは旅館業法で保存することが義務付けられているが、ノータッチステイサービスではLINE上で署名するようになっており、そのデータがデジタルデータとして保存できるため、物理的な署名カードの保存の手間がなくなることになる。これは、ホテル側の業務軽減に大いに役立つと感じているそうだ。
ところで、ノータッチステイサービスを利用しているとはいえ、尾道国際ホテルのオペレーションではチェックイン時にカードキーを手渡しするため、ホテルスタッフとの接触が完全になくなっているわけではない。
旅館業法では、条件を満たせば完全無人での対応も可能ではあるが、尾道国際ホテルでは規定を確実にクリアするために、あえて有人で対応しているとのこと。
そこには、観光地である尾道ということで、ホテルスタッフから地元の情報を収集するなど、旅行を楽しみたい宿泊客へのサービスという側面もあるとのことだ。
尾道国際ホテルでは、ノータッチステイサービス導入により、非接触・非対面のニーズに対応できるようになった。
しかし、課題も残されている。
例えば、現在のノータッチステイサービスは、公式ホームページから対応の予約を行なった宿泊客しか利用できない仕様となっている。富士通Japanは「LINEを利用するという仕組みから、まずは公式ホームページの対応を先行して実現した」と説明する。ただ、システム的にはツアーなど公式ホームページ以外からの予約への対応も可能とのことで、今後の機能改善を検討していくという。
また、現在のノータッチステイサービスは「LINE」のため、事実上国内旅行者のみがターゲットとなる。こちらも、コロナ禍を鑑みての対応のため、今後訪日外国人観光客が増えてくる頃には、LINE以外のサービス活用などを考えているそうだ。
今回、実際にノータッチステイサービスを利用したチェックイン、チェックアウトの流れを体験してみたが、操作自体は簡便にできており、迷うことなく利用できた。公式ホームページでの予約のみの対応などの制約は残されているが、前述のようにアジャイル手法で開発されており、開発は続けられている。今後より便利に活用できるシステムに成長することを期待したい。