ニュース
軽量になった歩行訓練ロボ「クララ」 衣服感覚で使える
2021年11月17日 09:00
衣服感覚で使えるロボット技術を主力製品とするAssistMotionは16日、歩行動作を支援するためのアシストスーツ「curara(クララ)」の製品版を発表した。curaraは加齢や事故、病気などによって歩行が難しくなってしまった人のための歩行トレーニングを目的としたロボットで、関節角度センサーと加速度センサーを利用し、利用者の歩行速度や歩幅を計測。介護施設や病院、自宅での機能訓練や歩行リハビリをサポートできる。
ロボット自体がトレーニング前後の歩行データを測定し、専用アプリを使って利用者別に適切な運動プログラムを提案。導入施設のスタッフ負担を最低限に抑えながら、利用者のトレーニングパートナーとして歩行機能を取り戻すためのサポートを行なえる。
価格は月額レンタル形式で、フルセット(股関節・膝関節用)が月額73,700円、ハーフセット(股関節用)が月額52,800円。契約期間はない。12月10日から発売する。発売後6カ月間は「新製品販売キャンペーン」として、月額レンタル価格を10%オフとする。レンタルではなく買取したいという要望もあれば応じる。「初めての製品なので、需要を見ながら製造して販売していきたい」とのことだった。適用身長の幅が「145-165cm」と狭いが、これで高齢者の75%以上をカバーできるという。より身長が高い人向けには長いフレームサイズモデルを展開したいと述べた。
実際の歩行訓練のデモンストレーション
実際の利用では、まずはじめに歩行状態をcuraraが計測する。このとき、モーターは最初は能動的には動かない。そして計測した歩行状態に合わせてトレーニングを行なう。4つのモードがあり、今回は関節の角度などを数値で設定する数値訓練モードで歩行デモが行なわれた。サポートの状態や歩行周期はリアルタイムにモニター・変更が可能。着用したモデルは「思ったほど重くない」「歩行が楽でサポートしてもらってるような気がした」「周期が速くなると手をとって連れていってもらえるような気がした」と感想を述べた。
通常の歩行訓練は1時間程度行なう。訓練後は歩行速度や歩数、歩幅、関節角度がどう変化したかをグラフで見て、訓練効果を評価できる。1日の訓練の変化だけではなく長期的な変化の履歴を見ることもできる。
目指すは「誰もが自分の足で歩ける社会」
AssistMotionは2017年1月に創業した信州大学発のベンチャー。長野県上田市にある信州大学オープンベンチャー・イノベーションセンターを拠点とし、「誰もが自分の足で歩ける社会」を目指し、高齢者をはじめとした身体動作の不自由な人、作業などで身体に障害を負った人などに対して歩行動作を支援するためのアシストスーツcuraraなど歩行補助機器の製造・販売に取り組んでいる。
AssistMotion代表取締役の橋本稔氏は「2008年から開発してきた『curara』がいよいよ製品として販売されるようになった」と述べ、社会的背景から解説した。高齢化に伴い、2025年には脳血管疾患患者数も年間30万人に達すると考えられる。患者の6割は後遺症に苦しんでおり、なかには歩行困難となる人も少なくない。だが、介護施設や病院は人材不足で十分な機能訓練ができていないのが現状だ。AssistMotionは、このような課題に対するソリューションとして、トレーニングパートナーロボットとしてcuraraを提案している。
現場スタッフの負担を抑えながら歩行訓練を実現
橋本氏は「ロボットを使うのではなく、歩けるまで導いてくれる」ことが「curara」の特徴だと語った。AssistMotionでは2020年から試作機「curara WR-P」延べ33台を有償でモニター貸し出しすることで多くの課題を洗い出し、今回の製品版発表に至った。
製品版curaraはコントローラーとモーターを最適化し、両足合計4関節用フルセットタイプで重量2.7kg、ハーフセットでは1.7kgと従来機(4.5kg)よりも大幅に軽量になった。
取り付け方法も簡易化。腰ベルトとスライド機構で容易に体型に対応できるようになった。簡易版(2関節)・強化版(4関節)の2タイプを展開する。サポートする関節を変えることのできる可変構造を採用し、麻痺足のみや股関節のみなど、サポートが必要な関節だけをアシストすることができる。
現在の介護・医療現場にはリハビリ専門職が少なくて十分な機能訓練が行なえない、機能訓練を行なっても利用者のモチベーションアップにつながらない、歩行訓練の結果が言葉や文章だけでは利用者にうまく伝わらないといった課題がある。
新型curaraは機能訓練を自動で行なえるトレーニングパートナーロボットであり、そのソリューションとなるものだという。curaraを用いると介護施設スタッフの負担を抑えながら利用者自身が各利用者に適した歩行訓練を反復練習でき、歩行訓練中に歩行状態を見える化することで、効果を確認できる。また訓練データを用いてモニタリング資料を作成することもできる。
フルセットタイプでも重量2.7kgを実現
製品版の大きな特徴は軽量化できたこと。コート2枚分くらいの重さとなった。これは介護施設で働くケアマネージャーへのアンケート結果から「利用者の負担を考えると3kg以下とすることが必要」とされたことによる。ここからフルセットでも2.7kg、ハーフセットなら1.7kgを実現した。他社製の下肢自立支援用ロボットに比べても、大幅に軽い。
また、スライド機構や腰ベルトを用いることで、様々な身長・ウェストの利用者に対して、容易に対応して着脱できるようになった。着脱自体も腰ベルト、大腿ベルト、足首ベルトを締め、最後に主電源スイッチを入れるだけと30秒程度で済むので、多くの利用者の訓練が可能になるという。また、構造変更機能によって、片麻痺を含む多様な症例に合わせることができるようになった。
これらに加えて専用アプリを開発した。目標歩行速度を達成するための自律的なトレーニングサポート機能、様々な歩行解析や同調制御パラメータの自動調整機能、モニタリング資料の自動作成、専用アプリを使ったモード選択などを加えて、「パートナーロボット」としての性質を強めた。長期的な目標歩行速度を設定して、日々トレーニングする機能が搭載されている。
結果も表示され、効果の評価も行なえる。本人だけでなく、家族やケアマネで結果を確認しながらトレーニングを進めることができる。なお、curaraの構造を変更するとアプリ画面も自動で変更される。スマホもcuraraと一緒に貸し出しされる。
訓練プログラムを監修したAwesomeLife代表取締役で理学療法士の田中一秀氏は「歩行訓練では適切なゴール設定と繊細なマイルストーン設定が重要。これは経験や知識を色濃く受けるものでもある。curaraは現場に対して大きな役割を担うことができる。ゴール設定さえ立案すれば、自動で運動プログラムが立案されるからだ。測定器としても使え、数値化できる。現場へのフォローができるので有益な機器として使える。あらゆる人に効果が出る運動プログラムを立案することもできるのではないか。適切なプログラムが能力向上に寄与する。妥当性も提案できるようになると思う。完璧ではないが、機械と人がお互いにウィークポイントをフォローしあうことが重要。人は身体機能だけではない。心と身体機能は密接に関わりあう。curaraはここにも貢献できるのではないか」と理学療法士としての期待のコメントを寄せた。
橋本氏は、「どうにか歩けるけど、思うように歩けない人たちへの機能訓練に使ってもらいたい」と述べ、「2008年から開発を続けてきた。最初は非常に大きなロボットでコントローラーも据え付け型だったが、やっとここまで来た。今後はcuraraをベースとして、歩行訓練機能を充実させて理学療法士の代わりになれるロボットに成長させたい」と語った。
そして、「訓練だけではなく歩行支援ロボットとしても成長させていきたいと考えている。今日スタートが切られた。これからは急速に事業を展開・拡大していきたいと考えている」と述べた。
具体的にいうと、「高齢者で買い物に行くのが大変な人、近くに散歩に行くのも大変だという方々が大勢いらっしゃる。歩行支援curaraを使ってもらい、日常生活を他の人と同じように暮らせるような、車椅子がわりのロボットに成長させていければと考えている」とのこと。
デイサービスでの利用者・経営者の声
試作機「curara WR-P」を利用している群馬県高崎市でデイサービスを運営するエムダブルエス日高 代表取締役の北嶋史誉氏は「どんな設定が一番ロボットリハビリにとっていいのかを長らく研究してきた。製品版を見せてもらったが、1kgでも1gでも軽くしてほしいという要望が叶えられていて驚いた。装着のしやすさも利便性・使いやすさを向上するものだと思う」とコメントした。
そして「経営者目線からすると、curaraを活用することで利用者がこれを目的として来てもらえる。集客・差別化戦略の一つとして活用できればいいと思っている。機能訓練によって利用者さんが元気になることを体現してもらうことを望んでいる」と語った。
橋本氏は「好きなリハビリ機器はなんですか」という利用者へのアンケート結果から「残念ながらまだ好まれるリハビリ器具にはなっていないようだ」と述べたが、北嶋氏は「アンケート結果だけ見ると順位は12位だったが、決して悪くない結果だ。基本的に気持ちがいいリハビリが上位に来るのは予想どおりだった。ロボットはまだ興味津々なんだけど様子見といういう人が多い。これからどんどん楽しそうにリハビリに取り入れていければ上位になるのではないか」と述べた。
最後に橋本氏は「信州大学 繊維学部から出て来た技術なので、我々は衣服のように使える歩行アシストロボットを目指している。手軽に利用できるような歩行支援ロボットを目指していきたい。モーター、バッテリー、要素技術に関して様々な視点で開発を行ない、多くの人にご協力いただいた。ユーザーにどういうものが必要かという視点で考えないと実際に使われるものにはならないと考え、今回、軽量化し、取り扱いを容易にした。大回りしたが、これからはこのようなロボットが実現できることを示したので本当に使われるものなっていくのではないかと考えている」と希望を述べた。