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密漁対策も医療品配送もドローンで。ANAらが稚内で実証実験

BIRD INITIATIVE、ANAホールディングス、アインホールディングス、日本電気、経済産業省 北海道 経済産業局の5者は、稚内市において、日本で初めて、複数のドローン運航者が同じ空域で安全かつ効率的にドローンを運航できるようにする「分散型ドローン管理システム」(UTM)を活用して、ドローンによる医薬品配送や、航空定期便が就航する空港内への物流用ドローン離着陸の実証実験を実施した。

実証実験は、パーソルプロセステクノロジーが新エネルギー・産業技術総合開発機構 (NEDO)から受託した事業「ロボット・ドローンが活躍する省エネルギー社会の実現プロジェクト」(DRESSプロジェクト)の「地域特性・拡張性を考慮した運航管理システムの実証事業」の一部として行なわれたもの。BIRD INITIATIVEが代表となり、特定非営利活動法人Digital北海道研究会(北海道ドローン協会)、FRSコーポレーション、HELICAM、情報・システム研究機構 国立情報学研究所、東京海上日動火災保険と共同で、2021年9月7日から10月30日において実施した。

有人地帯での目視外飛行を目指す「DRESSプロジェクト」

BIRD INITIATIVE 自動交渉カンパニーヘッド 兼 NEC データサイエンス研究所主任研究員 中台慎二氏

BIRD INITIATIVE 自動交渉カンパニーヘッド 兼 NEC データサイエンス研究所主任研究員の中台慎二氏によれば、プロジェクトの目標は、地域特有の課題解消とUTM(UAS Traffic Management)の検証だ。

ドローンを効率的に活用するには、目視外での飛行が必要だ。しかし現在、目視外飛行は離島や山間部、過疎地域等においてのみ認められている。政府は2022年度を目処に「有人地帯での目視外飛行(レベル4)の実現」を目標に掲げており、この目標の実現に向けて2017年から「DRESSプロジェクト」が実施されている。

2021年は最終年度にあたり、研究開発中のUTMを日本各地で検証するため、それぞれの地域課題に根差したユースケースでドローンの実証が行なわれている。稚内では、医療アクセスの悪化、密漁被害の深刻化、海獣による定置網被害、鮮魚の都市への配送が遅い、といった課題がある。これらをドローンで解決することを目指している。

稚内市の地域課題を考慮したユースケースでドローン実証
医療アクセス悪化、密漁被害深刻化、海獣による定置網被害、鮮魚配送などの解決を目指す

稚内市ではBIRDが代表機関、ANA HDが物流、FRSが海獣監視、ヘリカムが密漁監視を担当している。このほか、多くの機関が携わっている連携プロジェクトとなっている。ビジネスとして成立させるためには地域課題と解決アイデア、法制度、ガイドラインが必要となるが、各実証実験はそれぞれ異なるフェーズにある。各フェーズに応じた結果を得ることができたという。

日本初となる実証成果は、ドローン医薬品のガイドラインに即したドローン運行、航空定期便が就航する空港内への物流用ドローン離着陸、そして分散型運行管理システムの実証だ。

実証体制
成熟度に応じた成果をあげたという

ドローンを使った医薬品配送

ANAホールディングス デジタルデザインラボドローンプロジェクトディレクター 信田光寿氏

ドローン医薬品配送と空港内への物流用ドローン離着陸についてはANAホールディングス デジタルデザインラボドローンプロジェクトディレクター 信田光寿氏が解説した。ドローン物流については二つのシナリオに即して進めた。一つ目はドローン医薬品ガイドラインに即したドローン運行、もう一つは航空定期便が就航する空港内への物流用ドローン離着陸だ。

医薬品配送と物流用ドローン活用、二つのシナリオを検証
医薬品配送に用いられたドローン(画像提供:アインホールディングス)

医薬品配送は、2020年7月に国内初のオンライン診療とオンライン服薬指導に伴うドローンによる処方薬配送を実証した実験を踏まえて行なわれたもの。その実験によって課題がわかったので2021年6月に内閣官房、厚生労働省、国土交通省から策定された。

そして今回、アインHDとANA HDおよび北海道経産局が、ガイドラインに基づく実証実験を行なった。ドローンが最適な配送手段だと判断した場合にのみ活用されることとし、しっかり確認を取り、プライバシー確保、温度管理など明記された。ただし、向精神薬など一部の薬物についてはドローン配送を避けるとされている。実証実験に際しては、アインHDが薬局手順書、業務委託契約書を作成。ANAが運行マニュアル、配送管理システム、事業計画書を策定した。

実際の取り組みでは、患者が市立稚内病院からオンライン診療を受けた後に、アインHDが医薬品の調剤とオンライン服薬指導を行ない、その薬物が入った箱ごと、ANA HDが医薬品をドローンで患者に届けた。距離は1.8km程度。

医薬品配送のガイドライン
実際の配送ルート

アインホールディングス上席執行役員 土居由有子氏は、薬局側の視点で解説した。今回の実験は新型コロナ禍を考え、オンライン診療、オンライン服薬指導、ドローン配送といった一連の非接触医療の枠組みで行なったという。

アインホールディングス上席執行役員 土居由有子氏

新たに策定されたガイドラインでは、輸送先以外の第三者による輸送物開封を避けるため、容器に鍵をつける等の措置を講じるよう指針が示されている。トッパン・フォームズから施錠可能かつ温度管理が可能な専用ボックスの提供を受け、使用した。開錠番号はSMSで通知される。なお専用容器は、箱の中と外の温度がそれぞれ把握できるようになっている。

またANAの配送追跡サービス「ADOMS」を活用。ドローン配送中も、荷物の状況がスマホで確認できるようになっている。今後、ANAは運行品質の向上を目指す。

医薬品配送実験の概要
医薬品配送用の専用ボックス

ドローンと既存の航空定期便の共存

実証実験に使われた固定翼ドローン(画像提供:ANAホールディングス)

ANA HDは、空港管理者である北海道エアポート(HAP)の協力のもと、日本で初めて物流用ドローンを航空定期便が就航する空港にて飛行、発着させる実証実験も実施した。旅客便が就航しない時間にドローンを飛ばしたり、緊急時の連絡手段・体制のあり方を確認した。具体的には固定翼ドローンを使ったドローン物流と航空物流の連接の検証を目的とし、稚内空港での物流用ドローン発着ならびに稚内空港敷地内外への飛行を行なった。

信田氏は、今回の実験は、離島への輸送が実現する段階でのファーストステップ、技術検証として捉えていると語った。これらの連接により、空港が空いている時間のドローン離着陸活用が可能になる。地方から都市部への迅速かつ一貫した輸送が可能になり、将来的には空港を軸としたハブアンドスポーク型の新たな物流網の構築ならびに地方における産業振興が期待されているという。

空港利活用のロードマップ
空港が空いている時間をドローンが活用する

ドローンを使った海獣監視、密漁監視

北海道ドローン協会事務局長 藤原達也氏

北海道ドローン協会事務局長 藤原達也氏はドローンを使った海獣監視、密漁監視について解説した。北海道ドローン協会は2017年に設立された団体で、団体会員78社が参加している。この実証は稚内漁協と稚内警察署および北海道ドローン協会の協力のもと、ドローン運航を担うヘリカムが行なった。

ドローンを使った海獣監視、密漁監視

実験では、密猟者を発見する目的の熱赤外線カメラや、密猟抑止目的の拡声スピーカー、逮捕目的のスポットライトとズームカメラをドローンに搭載し、発見できるか、音が届くか、スポットライトは届くかといった技術的検証を夜間に目視外で行なった。熱赤外線捜索は5m/sくらいの速度で、90m程度の高さから監視をするのが適切で、スピーカーについてはいずれも十分に聞こえたという。

また、アザラシの頭数把握も行なった。稚内市周辺では定置網漁が盛んだが、アザラシやトドがこの定置網に入り込み、魚を食い荒らす問題が深刻となっている。FRSが頭数把握のためにドローン運航を行ない、沿岸で休むアザラシとともに、定置網周辺で遊泳するアザラシの状況把握も実施した。十分な解像度が得られること、また、アザラシにドローンが近づくと逃げていく様子もわかり、威嚇効果があることがわかったという。今度はゾーニングした地域ごとの個体数の把握方法について検討する必要があることがわかったと述べた。

熱赤外線カメラを使った捜索画像
アザラシの観測の様子

衝突管理、位置情報管理を行なうUTM

「UTM」とは、複数のドローン運行社がいる空域でも、安全かつ効率的に運行できるようにするためのシステム。単一の運行社が複数機体を運用管理するフリートマネジメント/Swarmシステムとは似て非なるものだという。

「UTM」とは複数のドローン管理運行者間で調整するためのシステム

UTMには集中型と分散型のアーキテクチャがあるが、DRESSプロジェクトのUTMでは、集中型の運航管理統合機能(FIMS)を採用。FIMSに民間の各運航管理システム(UASSP)が接続し、全飛行計画情報と動態情報をFIMSに集約することで、飛行計画の間で衝突がないように飛行申請の許諾・否認管理が行なわれる。今回の実証では、UASSPの運用をBIRD INITIATIVEが行なった。

集中型には最終的に一つのシステムで管理するので開発・導入が容易というメリットがあるいっぽうで、先取り方式になりやすく飛行の優先度が考慮されにくいという欠点がある。いっぽう米国とスイスが主導する分散型の運航管理では、UASSPがそれぞれ自律的に飛行計画の可否判断を行ない、その為に必要な飛行計画の重複検知や解消を分散的に調整して行なう。分散型には他の運行管理システム同士で合意形成が必要だが運行者間の柔軟な調整が可能というメリットがある。合意形成については現在国際標準化が進められている。

UTMのための二つのアーキテクチャ

そこで今回、集中型の運航管理に加えて、標準化団体ASTM Internatinalで標準化が進んでいる分散型の運航管理の検証を行なうため、複数の各運航管理システム(UASSP)の運用を行ない、相互に接続した。この試みは、日本初となる。

集中型と分散型、二つのアーキテクチャを検証
検証した空域・経路

早いもの勝ち方式(First come. first served、FCFS)では先に申請した計画が優先され、のちに申請された計画は重要性が高くても拒否される。いっぽう分散型では事業者間の調整で干渉をなくし、後から申請された緊急性の高い飛行計画も承認される。調整は独自の自動交渉AIを用いる。

早いもの勝ち方式のデメリット
分散型UTMのメリット

たとえば医薬品配送と海獣監視のドローンの飛行計画申請が行なわれ、経路が重複していた場合、システムが自動調整を行なう。ドローンだけではなく、緊急ヘリの飛行経路なども自動で調整が行なえる。実験ではウェザーニューズの提供による有人ヘリコプター運航管理システム「FORSER-GA」を活用し、有人機飛行環境下を想定した、運航管理サービスによる飛行計画の重複検知、ならびにその解消の検証を行なった。なお、この検証は、国際標準化を主導しているANRA TECHNOLOGIESの協力のもと行なわれた。また、東京海上日動がUTMを活用したドローンの飛行におけるリスクの分析を行なった。

分散型の運航管理で重要となるのは、運航者が他の事業者と合意可能な飛行計画を自動で立案し、交渉・調整する機能だ。そこでNECは国立情報学研究所と共同で、シミュレーション空間に稚内市を再現。海獣監視用と物流用との間の自律的経路調整を開発検証した。またNECは産業技術総合研究所とも共同で、物流タスクの割当てと経路計画を同時に行なう物流用調整技術を開発した。

多数のドローンが様々な用途で飛び交う時代へ

将来は多数のドローンが様々な用途で飛び交う時代がやってくることが予想される。ドローン配送システムは地上のインフラが整っていないところでも可能性がある。各事業者は今後、ガイドライン反映に向けた実証実験検証結果の提言などを通じて、有人地帯での目視外飛行(レベル4)実現への貢献を目指す。