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自動運転・隊列走行BRTテストコースが完成、'20年代半ば実現へ JR西とソフトバンク

西日本旅客鉄道(JR西日本)とソフトバンクは27日、自動運転と隊列走行技術を用いたBRT(Bus Rapid Transit:バス高速輸送システム)開発プロジェクトの実証実験を、2021年10月から専用テストコースで実施すると発表した。2020年代半ばを目処とした社会実装を目指し、連節バスの自動運転化と隊列走行、自動運転車両を地上設備と連携させるための専用テストコースを滋賀県野洲市に整備した。

JR西日本のモビリティ運行のノウハウとソフトバンクの通信技術ノウハウを組み合わせる。プロジェクト名は「みんな(MI-NNA)の自動運転BRTプロジェクト」。

「MI-NNA」は「Mobility Innovation - Next Networked Action」の略。隊列走行による大量輸送と専用道の活用で快適な交通体験実現を目指す。さらに将来は小型自動運転サービスとの連携、ヘルスケア機関との連携、需要に応じたルート変更など様々なサービスと提携する。

実証実験に用いられるバス

「みんな(MI-NNA)の自動運転BRTプロジェクト」

JR西日本 鉄道本部 理事 イノベーション本部長 久保田修司氏

JR西日本 鉄道本部 理事 イノベーション本部長 久保田修司氏は、プロジェクトが目指す姿について解説した。JR西日本は2018年に「JR西日本技術ビジョン」を公表。20年後のありたい姿として「さらなる安全と安定輸送の追求」「魅力的なエリア創出の一翼を担う鉄道・交通サービスの提供」「持続可能な鉄道・交通システムの構築」の3つを掲げて、シンプルでシームレスな交通サービスの提供に向けて、次世代モビリティサービスの在り方を検討している。

JR西日本が目指す20年後の姿
自動運転・隊列走行BRT

「みんな(MI-NNA)の自動運転BRTプロジェクト」はその一環。JR西日本とソフトバンクは共同で、安全・安定的に、かつ輸送力と速達性を持って柔軟に運行できる次世代モビリティサービスの一つとして、異なる自動運転車両が隊列走行する「自動運転・隊列走行BRT」の開発に取り組んでいる。

コンセプト動画

将来、高齢化が進むなかで、コンパクトでバリアフリーなまちづくり、シームレスなモビリティが必要になる。BRTは専用道の利点をいかし、安全性、定時制、速達性を実現できる。さらに自動運転・隊列走行の早期実現のために限定空間での走行とすることで、技術ハードルを下げ、早期実用化を目指す。

道路インフラを使うことで既存インフラとの接続が可能、他の交通網との乗り継ぎがスムーズになる。たとえば家の近くから小型バスに乗って、その後そのまま隊列に合流するといった「ドアツードアに近い利便性」を実現できるという。サステナビリティも重要だ。少子高齢化に伴い、働き手、運転手の担い手も不足している。BRTが可能になると、たとえば連節バスを4台繋げると500人近くが一度に乗れるようになる。先頭車両には人が乗る予定だが、運転手の数的にもだいぶ助かることになる。また保守作業軽減、保守コスト低減においてもメリットがあり、持続可能性を高めることができるという。

シームレスな他の交通機関との連携
まちづくりと連携、運転手担い手不足にも対応

本格的な実用化に向けて実証テストコースを自前で設置

今回のプロジェクトの役割分担は、プロジェクトを技術的に組み立てるのがソフトバンク、JR西日本がバスのオペレーションや地域連携などの開発統括を行なうかたちになっている。久保田氏は「JR西日本としては初めてのチャレンジ。コアの通信技術を持つソフトバンクや様々なノウハウをもったパートナーと組んだ」と語り、座組みを紹介した。ソフトバンクとJR西日本の2社のほか、自動運転システム技術を持つ先進モビリティ、車内監視やコントロールシステム技術を持つBOLDLY、信号制御に長けた日本信号の3社ともチームを組んで進める。

プロジェクト全体像

また、新しい技術を使って社会課題を解決するために、地域・事業者、関係省庁とも密にコミュニケーションを取っているという。ただしまだ具体的な地域に焦点を絞っているわけではなく、「関心をもってもらった地域の皆様には共にモビリティサービスを実現できるパートナーになってもらいたい」とも語った。

テストコースはJR西日本の車両基地のある滋賀県野洲市に設置。総面積約22,800m2、コース総延長は約1.1km。直線最長は約600m。10月から走行テストが可能な状態となっている。ここで日本初となる連節バスの自動運転化およびバス車両の隊列走行の実用化を目指す。

テストコースは滋賀県野洲市に設置
現在のテストコースの状況

隊列走行は最高時速60kmでの走行を想定しており、本格的に実用化に向けて今後、コントロールセンター、交互通行ポイント、駅・停留所、駐車場、一般道とのクロスポイントなどの整備も進めて連携実証テストを行なう。テスト車両は大型、小型、連節バスの3種類を使用する。効率的な試験実施を考えて、自前で作ったと述べた。

地上設備との連携試験も行なう

専用道で時速60kmの営業運転を目指す

ソフトバンク 執行役員 法人事業統括付(広域営業担当) 兼 鉄道・公共事業推進本部 本部長 清水繁宏氏

実証実験の技術的な特徴についてはソフトバンク 執行役員 法人事業統括付(広域営業担当) 兼 鉄道・公共事業推進本部 本部長の清水繁宏氏が解説した。隊列走行がキーファクターなので、小型、大型、連節バスの3種類でテストを行なう。

車両にはLiDAR(レーザーセンサー)やカメラ、ミリ波センサー、GNSS(Global Navigation Satellite System、全球測位衛星システム)アンテナ、磁気センサ、RFIDリーダーなど、自動運転領域で検証されている各種技術をいったん全て搭載した上で検証を行なっている。

3種類のサイズの車両を使用
各種技術をいったん全て搭載して検証を実施

特徴は時速60kmの営業運転を目指すこと。隊列車間は走行時10m-20m、停車時は1-3m。車車間通信を行ない、先頭車両は有人、後続車は無人を想定する。具体的には電子ミラーや乗降口による安全確認、車内アナウンス、緊急停止などを行なう。後続車はCACC(Cooperative Adaptive Cruise Control、協調型車間距離維持支援システム)を搭載。無人で追従させる。

隊列車間は走行時10m-20m

隊列走行は組み合わせ自由。最大4台、様々なパターンでの隊列走行が可能。たとえば、あらかじめ駐車場で隊列を形成し、始発駅に到着する。その後、乗降客を乗せたあと、小型バスが先頭で隊列走行。また合流駅も想定しており、支線から小型バスが本線の隊列に合流し運行開始するパターンも想定する。分岐する場合もある。たとえば先頭1両だけ支線に入ったり、自動運転を解除して一般の道路に入るといったパターンも想定する。

このほか、実証実験では自動的な入出庫、隊列走行の解除や組成、専用道と一般道の交差部、踏切を想定した信号制御などを検証する。

様々な車両の組み合わせを試験する
確認する自動運転技術のまとめ

自動運転技術には自己位置推定が必要だが、そのための技術は様々で、白線検出やGNSS、マーカーなどを使うものもある。これらをすべて検証する。障害物検知も3D LiDAR、ミリ波、カメラなど様々な技術を検証する。「時速60kmの営業運転のために技術を組み合わせて最適解を探す」という。

停車場での停止精度(正着精度)は、縁石と車体との間隔4cm(プラスマイナス2cm)を想定。「足腰が悪い人や車椅子乗り入れに負担がないものを考えている」という。駐車場への到着、隊列を解除して車庫に入って行くのも無人とするため、その技術検証も行なう。また、単一車線でのすれ違い制御が可能かどうか、「クロスポイント」と呼ばれる専用道と一般道の交差での信号踏切制御も検証を行なう。

正着精度は4cmを目標
車両の入出庫も自動で行なう予定

運行管理についても統括制御機能を検証する。どのくらいの頻度、どのくらいの隊列が望ましいのかの検証や、遠隔監視の要件も含めて検証を行なう。地上監視・ドライバーの統合管理を行なう統括制御機能も検証する。

クロスポイントでの信号連携制御を検証
統括制御機能も検証する

2020年代半ばをめどに社会実装

社会実装については、2021年10月から完成したテストコースで単独自動運転から基本的な機能試験を開始する。2022年春頃は隊列走行の試験を行なう。連節バスを含めた隊列走行と、地上設備との連携も確認を行なう。2023年には実運用を目指した運用面の検証を行い、技術確立をおこなう。ここで安全で堅牢なシステムを構築し、2020年代半ばをめどに社会実装を目指す。パートナー地域や事業者、関係省庁との対話も並行して進める。

今後のスケジュール。2023年までに技術を確立する

なお、2022年夏頃には現地で試乗会開催も検討する。2025年の関西万博も視野には入れているが、必ずしもこだわっているわけではないという。

JR西日本の久保田氏は「まちづくりと連携した持続可能なモビリティサービスで社会課題解決に挑戦していく」と語った。ソフトバンクの清水氏は「隊列の編成は自由に変えられる。専用道のあとは有人運転も検討している。住民の状況に応じた新しい価値を提供できるのではないか。いまの状況だけではなく新しい価値を住民に提供できることは何か考えたい」と語った。

具体的な拠点については、中規模程度の輸送量を鉄道よりも低いコストで提供できるBRTの特性を活かし、駅を中心としたモビリティとすることを想定はしているが、駅周辺だけに限定しているわけではなく、広く展開していきたいと考えているという。久保田氏は「地域と一緒になって作り上げていく。どういった社会にしたいか、どういった移動ニーズをカバーしていきたいかを考えながら実装を進めていきたい」と語った。