ニュース

大阪万博にロボットアバターを アンドロイド研究の石黒教授「AVITA」設立

ロボット学者の石黒浩氏が、アバターサービス事業を行なう「AVITA株式会社」を設立した。大阪ガス、サイバーエージェント、塩野義製薬、凸版印刷、フジキンの5社が5.2億円を出資する。

石黒氏は、大阪大学大学院基礎工学研究科教授で、20年以上にわたり人と関わるロボットやアバターの研究を行なっており、自らをモデルにした遠隔操作型アンドロイド「ジェミノイド」を開発している。

石黒氏(奥)と自身をモデルにしたジェミノイド

AVITA(アビータ)は、石黒氏の長年にわたって行なってきた研究成果を社会に還元することを目的とし、アバター技術を使って社会のあり方を変えていくという。「AVITA」は、アバター(avatar)とラテン語で「生命」を意味する「vita」からなる造語。

石黒浩CEO(右)と西口昇吾COO

石黒氏は、政府が推進する「ムーンショット型研究開発制度」のプロジェクトマネージャーを務め、その中でアバターの研究開発を先導している。同プロジェクトでは、実現すべき未来社会の一つとしてアバター共生社会を採択し、大阪関西万博でもアバター利用が期待されているという。アバター共生社会とは「人が身体の制約から解放され、高齢者や障がい者などが知覚能力を拡張し、常人を超えた能力で活動できるようになること」(石黒氏)。会社や学校などがいろいろな国から人が集まる場となる。

現在、SNSを利用している人達は、アカウント毎に違う人格でコミュニケーションを行なえる。TwitterやYouTubeを利用して発信するとき、それぞれ別の人格として発信が可能で、例え失敗しても他のアカウントには影響しない。しかし、リアルの現実社会では身体は一つ。失敗すればその失敗は自分の身体に紐付けられる。これをアバター技術で変えたいという。

アバターによって、現実世界でもアカウントを使い分けるように、自分の人格を使い分け、性別や年齢、場所などにとらわれず、仕事や趣味をアバター毎に行なえる社会を目指す。

同社が計画してるのは、CGを使ったオンラインのアバターと、現実世界で動くロボットをベースとしたアバターの2種類。会場では、撮影禁止ながらCGで本物の人間さながらのリアルなアバターも一部公開した。CGアバターでは、声から表情を作り出す技術など、これまでの研究成果を投入し、まずはCGのアバターで人らしいコミュニケーションの実現を目指しながら、市場を探っていく。

12月にはCGのアバターを使った実証実験を開始し、2023年には製品版を公開する計画。2025年の大阪関西万博で、ロボットベースの新型アバターを公開するという。

石黒氏は、人と関わるロボットの研究を長年続けているが、重要なのは、実証実験などで実際に人とロボットを関わらせ、その反応を探っていくことだという。

アバターのメリットは、性別や年齢にかかわらず、誰とでもコミュニケーションがとりやすいということ。石黒氏が行なってきた実証実験では、本物の人間と対話するよりも、ロボットなどのアバターを使ってコミュニケーションを取る方が、スムーズに本音を話せることがわかっているという。

CGアバターでは、チャットボットなどの代わりにECサイトなどで接客を行なうことを想定。ロボットベースのアバターは実際の店舗などで、遠隔地から従業員が操作して接客を行なう。将来的には個人が趣味で利用することなども想定する。これらにより、場所を問わず、いろいろな場所で人が活躍できる場を作っていく。

想定されるユースケース

コミュニケーションを目的としたアバターで大切なのは、「相手に見てもらうための外見」にするということ。一般的なCGのアバターなどでは、自分を着飾り、綺麗に見せるなども楽しみの一つになるが、それはあくまで「自分が見てもらいたい外見」になる。実用的な利用を目指すなら、自分がどうなりたいけではなく、相手がどう見るかを重視すべきとし、子供相手なら何かのキャラのように、商談向けにはビジネスマン風というように、利用者がポジティブに捉えられる外見に合わせることが重要になる。

これまで、リモートワークなどで働き改革を目的として開発された遠隔操作型のアバターは、2010年に一度ブームを迎えていた。ちょうど、映画「アバター」が公開された翌年で、多くのベンチャー企業が立ち上がったが、2020年までそのほとんどが開発を停止している。液晶ディスプレイと車輪を備えた遠隔操作型のアバターなどで、リモート会議に出席する、などの用途が考えられたが、2010年当初は、リモートワークを受け入れる社会的な土壌がなく、オンライン会議アプリなども充実していなかったため、ビジネスが成立しにくかったという。

しかし、2020年、コロナ禍においては、オンライン会議アプリなども充実し、社会的な必要性も後押ししてリモートワークは急速に普及した。アバターが普及する土壌は整ったという。

石黒氏は、大阪関西万博ではテーマ事業プロデューサを務める。大阪関西万博ではアバターを使って「再びコロナのような状況が起こっても問題無く開催できる仕組みを作っていく」という。同氏は、「AVITAは、アバターによって人々の可能性を広げる」とし、誰もが自由に活動できる社会を作るきっかけとしたいという。

石黒氏がこれまで開発したロボット