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巡回ロボットがお店にいる価値とは? マルイとパナソニックの取り組み

パナソニックと有楽町マルイは共同で、自律移動ロボット「HOSPI Signage(ホスピー・サイネージ)」を活用した来客案内サービスを8月24日から9月5日まで実施している。「HOSPI Signage」による案内サービスは小売店舗では初めての実施となる。

ロボットには頭部ディスプレイでの地図表示のほか、移動機能を使った案内機能もあり、今回の実証実験では1階のエレベーターホールや、優先エレベーターまでロボットが先導して案内する。ロボットは秒速1m(時速3.6km)程度の、ゆっくりした速度で移動して、来店客を案内する。

自律移動ロボット「HOSPI Signage」とは

「HOSPI Signage」。3面に27型フルHDディスプレイを配置

パナソニックは1998年から自律移動ロボットの開発を行なっている。2013年10月からは病院内自律搬送ロボット「HOSPI」を販売している。2019年5月には後方センサーや巡回機能など、機能を向上させた「新型HOSPI」を発売した。事前に作成・登録した地図に基づいて目的地まで自律移動する機能、複数の目的地を選択する機能、選択順に目的地を巡回走行する機能などを持つ。HOSPIは、2021年8月現在27台を販売している。

今回、実証実験を行なっているHOSPI Signageは、搬送機能の代わりに胴体の前面・左横・右横の合計3面に27型フルHD液晶ディスプレイパネルを搭載したロボット。案内・情報を表示しながら自律移動する広告機能を持っている。現在、市場を開拓中だ。

障害物などは自動回避したり、音声で呼びかけを行なって回避する

有楽町マルイ1階のエントランスを巡回

有楽町マルイ1Fのエントランスを巡回するのが基本

今回の案内サービスでは、有楽町マルイ1階のエントランスを巡回する。有楽町マルイに入ってすぐの場所だ。そこで動き回っているので、「来客からの反応もとても良い」(担当のパナソニック 東京オリンピック・パラリンピック推進本部 パラリンピック統括部 アクセシビリティ推進課 主務の滝澤友香里氏)という。このほか、エレベーターへの案内誘導を行なっている。

搭載したサイネージでは、有楽町マルイで行なわれているイベント情報やフェア情報などを来客に知らせている。また、有楽町マルイのInstagramなどSNSへの登録・投稿を促すために、おみくじを側面に表示。パラパラとランダムにおみくじが表示される画面から「大吉」を撮影できると、記念品のプレゼントがもらえるというしかけを行なっている。

これらのサイネージのコンテンツや運用方法は有楽町マルイが決定した。「プレゼントがあります」と接客を行ない、誰かが撮影しはじめると他の人たちもつられて撮影しはじめることが多いそうだ。ちなみにプレゼントは、金属製で再利用できるエコストロー。

サイネージでは有楽町マルイに関する情報をおしらせ
イベントやフェア情報が表示される
おみくじの表示も
大吉が撮影できるとプレゼントがもらえる

来客から質問される頻度が高い「お手洗い」や「授乳室」、「エレベーターの場所」などを、地図で表示したり、案内したりできる。パナソニック 黒川氏は「一般の方はロボットに慣れていません。社会的浸透をはかるためにステップを踏みました」と語る。BtoBでの顧客の要望や、BtoBtoCにおける社会受容性を探りながら検証を行なっている段階だ。

質問頻度が高い場所の案内を行なう
ロボット頭部のディスプレイでの地図表示

ロボット本体に搭載したカメラの映像は常に係員が見ており、遠隔で対応することもできる。目的地までの案内をロボットが対応できるようになれば、人間のスタッフは持ち場を離れずに客にサービスが提供でき、人員の有効活用が可能になるとしている。また、人に代わってロボットが案内を行なうことで、感染症対策として推奨されている「人と人との近距離での接触頻度」が低減し、安心感にもつながるという。

新型コロナ禍での接触軽減も兼ねる
SNSフォローを呼びかけ

施設のアクセシビリティを向上させるための取り組みの一環

商業施設での検証は今回が初めて

これまでパナソニックはHOSPI Signageを広告ロボットや案内ロボットとして、人混みの多い空港や駅などでサービス実証実験を重ね、誘導の正確性と衝突回避動作の精度を高めてきた。

また、丸井グループとは、2017年から複数の店舗で、ダイバーシティ&インクルージョン関連の取り組みを行なって来た。特にアクセシビリティ、すなわち「目的地に行ける」ということを高めるためのユニバーサルデザイン店舗づくりに取り組んでいる。

2017年11月には有楽町マルイにて、スマホを活用した「視覚障がい者向けお買い物サポート」の検証を行ない、2020年12月には丸井錦糸町店と共同で、車いす、白杖、ベビーカーを利用されている来客向けに優先エレベーターの利用案内報知サービスの実証実験を行なった。

今回のサイネージロボットの導入検証も、アクセシビリティ向上への取り組みをより具体的にしていくための一環で、2021年3月に売り場での事前検証を行なった上でのもの。ロボットを使って買い回りを少し便利にできるような取り組みとして行なわれている。初めて来店した店舗では「エレベーターの場所がわからない」といったちょっとした理由で帰ってしまう人もいる。そのような「心理的なハードル」を、自律移動ロボットであるHOSPIの機能を最大限活用した案内サービスで、少しでも下げることが狙いだ。

何がロボット使いこなしのキーとなるのかは模索中

実証実験は9月5日まで

HOSPI Signageの実証実験は9月5日まで。その後、9月上旬から中旬にかけては、ロボティックモビリティ「PiiMo(ピーモ)」3台を活用し、有楽町マルイ内での買い回り移動サービスの検証も行なう予定となっている。PiiMoを使う実証実験はHOSPI Signageと入れ替わりとなる。

商業施設でのHOSPI Signageの検証は今回が初めてなので、商業施設ならではの課題の洗い出しや、顧客が導入したいと考える条件は何なのかを探っていくことも目的としている。「現在はロボットがどういうふうになるとお客様(ロボット導入施設側)に導入したいと思ってもらえるのか、どうなると使いこなしてもらえるのかに重きを置いています」(滝澤氏)。「現在はまだ課題を出し切る段階。ロボットサイネージのサクセスファクターが何なのかについては模索中です」(黒川氏)。

ロボットを供給するメーカーも、導入する施設側も何がロボット使いこなしのメリットになるのか、そのキーファクターは何なのかについては模索中というのが現状だ。また、ロボットを導入するための初期投資は高い。導入の手間だけでなくハードルを下げるためのビジネスモデルも合わせて探索中とのこと。パナソニックは、今後もロボットの開発、ソリューション開発を進めるとしている。