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5G活用と「ととのう」を可視化。KDDI「自動運転サウナ」

KDDI総合研究所は、KDDI以外のパートナー企業や先進的なライフスタイルを実践する人たちと新たな共創事業「FUTURE GATEWAY」を始動すると8月24日に発表した。2020年12月から運営中の、2030年を見据えた「未来のライフスタイル」を提案する研究拠点「KDDI research atelier」の活動をさらに進めるための活動の一環。共創事業の第一弾のプロジェクトとして、2030年の移動式サウナ「Hoppin'Sauna(ホッピンサウナ)」プロジェクトを実施する。今年度のプロトタイプ公開を目指す。

先進生活者と未来へ「越境」

KDDI research atelierセンター長 木村寛明氏

KDDIリサーチアトリエ「FUTURE GATEWAY」とは中長期的な社会課題解決に繋がる新たな生活様式を、先端技術を用いて社会基盤化する取り組みを加速するため、先進的なライフスタイルを実践している生活者を中心として、多様なパートナーと共に応用研究を推進する共創イニシアチブ。

KDDI総合研究の2拠点
リサーチアトリエのコンセプト

ミッションは、生活者と共に未来の兆しを捉え、パートナーと共に未来の社会を創ること。現時点でも少し先を見て、既に新しい生活に適応しはじめている個人はいる。「リサーチアトリエ」では彼らを「先進生活者」と呼び、その人たちと共創することで、現在の実現ハードルを下げることを目指す。その取り組みが今回新たに始まった「FUTURE GATEWAY」だ。ロゴデザインは、ふぞろいなアイデンティティが集まった時には1つのかたちになっていることを意味している。

FUTURE GATEWAYでは、未来を描く想像力の源泉である「FUTURE GATEWAYコミュニティ」、ライフスタイルを思考錯誤しながら実際に進める「FUTURE GATEWAYプロジェクト」、ライフスタイルを探求する実証フィールドとしての「フューチャースポット」の3つの取り組みを進めていく。

「先進生活者」と共創
ふぞろいなアイデンティティが集まった時には1つのかたちになっていることを意味

能動的に世界の制約や境界を越えていく人々「越境走者=t'runner」

また、FUTURE GATEWAYのコミュニティメンバーを、「越境走者=t'runner(ランナー:t'は発音しない)」と名付けた。「能動的に世界の制約や境界を越えていく人々」のことを指す「t'」には「transform(世界を変える)、transfer(未来に届ける)、transparent(境界を透明にする)」の意味を込めている。

コミュニティメンバーを「越境走者=t'runner(ランナー)」と呼称

最初のゴールとしては、バーチャルな「未来の街」を作ることで、オンライン説明会などを今後開催する。「何かしらハードルを越えるようなかたちで進めていきたい」という。

コミュニティメンバー
今後の説明会などの予定(変更あり)

5Gや自動運転を活用した移動式サウナプロジェクト

アドレスホッパー 執行役員 市橋正太郎氏

第一弾である移動式サウナプロジェクトについては、アドレスホッパー 執行役員の市橋正太郎氏が紹介した。市橋氏は3年前から「アドレスホッピング」と市橋氏自身が名付けた移動式ライフスタイルを送っている。定住せずにホテルや民泊に一週間ごとに滞在している。

ではなぜ「サウナ」なのか。市橋氏は「アドレスホッピングは刺激的で様々な情報に触れられるライフスタイルだが交感神経優位で疲れることもある。そこで副交感神経優位なライフスタイルを取り入れることも不可欠だった」と述べ、フィンランドや奈良でのサウナ体験や取り組みを紹介。

定住しないアドレスホッピング
市橋氏にはサウナは必要不可欠とのこと

そのなかで「もっとこうなれば」と考えたことがあったという。移動先どこにでもサウナがあるわけではない。また、あったとしても自分好みのベストコンディションのサウナがあるとは限らない。そこで「理想としてはサウナと一緒に移動したい、いつでもどこでも理想のサウナ体験ができるシステムを作りたい」と考えたという。

既に移動式サウナはいくつか存在する。KDDIとプロジェクトを進めるにあたって最先端技術を使いたいと考え、自動運転、バイタルセンサー、5G、自律分散型水循環の4つの技術を活用する「移動式サイバーフィジカルコンディショニングシステム」を開発したいと考えていると紹介した。

いつでもどこでも理想のサウナ体験を
各種技術で移動式サウナ開発を目指す

具体的には小型バス型の自動運転車をサウナに改装する。自動運転ならば運転席が不要なので空間を広くとれる。室内ではバイタルセンサーで利用者の状態を把握し、温度・湿度を最適化する。また休憩室では5Gを使ってリアルな大自然の風景を投影したり、風の流れや環境音や匂いも再現することで自然のなかにいるような空間を演出する。

自動運転車をサウナに改装
休憩室では5Gを活用。快適空間を演出

ニューノーマルの快適空間を各社の共創で

NOD 代表取締役 溝端友輔氏

サウナ空間の設計を担当するのはNOD 代表取締役の溝端友輔氏。溝端氏は「ニューノーマルの生活様式を技術を使って作りたい。今回はサウナだが、今後、ジムやカフェなどにも改装できるように考えたい」と語った。3Dプリンターや再生素材を使うことで持続可能性にも配慮したユニットの実現を目指す。

また、「5Gによる大容量通信技術を使うことで世界各国の絶景などを映しながらより深い没入体験を作っていきたい」と語った。

自律分散水循環システムについては水再生・節水技術を持つWOTAと協力して進める。バイタルセンサーについてはブレインテックのVIE STYLEの脳波や心電取得技術を使い、サウナ独特の「ととのう」を解析する。将来的には、病気1つ手前の状態である「未病」などのジャンルにも貢献できるのではないかと考えているという。

WOTAの水循環システムを活用
VIE STYLEの技術で「ととのう」を解析
VIE STYLEの脳波計測装置

個人起点の先進ライフスタイルの実装を推進

記者会見の様子

KDDI総合研究所リサーチアトリエ所長の木村寛明氏は「中長期の観点でプロジェクトを進めている人たちとの取り組みはなかなか見たことがない。提案だけではなく技術を持っているので先端的テクノロジーを駆使して社会実装まで持っていくところが他とは違う。パートナーや生活者と一緒に進めていければと思う」と語った。

また、「個人」にフォーカスしたいと考えた理由については「シンクタンクは5年後、10年後の先を見るためには過去も遡る。以前は大きな単位でライフスタイルを提案していたが、今は個人個人でライフスタイを作り上げて、それが普及していく時代。企業はいかに先進生活者を支援できるかが重要。技術を使って彼らが目指すライフスタイルのハードルを下げ、普及させていくことが新たな役割だと考えた」と述べた。

qutori CEO 加藤翼氏

今回のリサーチアトリエのコミュニティコンセプトなど各社の共創プロジェクトに関わっているqutori CEOの加藤翼氏は、「いまは『VUCA(Volatility、Uncertainty、Complexity、Ambiguity)』の時代。既存の技術やスキルセットでは対応が難しい。個人を起点として、コミュニティというかたちで短い時間でアウトプットまで持っていくところが他と違う」と述べた。

また「コンテンツがあふれる時代のなかで、従来の企業の取り組みは『コミュニティを創る』といっても外側からの視点で観察者的だった。今回は自ら『個人と一緒にサバンナに行く』ところが違う。研究開発からどんどんコミュニティを作り、コンテンツの先にバリューを提供する」と今回の取り組みの特徴を紹介した。

NODの溝端友輔氏も「個人をベースにしたオープンイノベーション、アイデアの実装が重要になっている」と述べ、「建築は通常は最大公約数で造る。個人の課題はどうしても取りこぼすことが多い。だが不確実性の高い時代では個人の課題感から社会を変えて行くアイデアが大事。だが最初はハードルが高いので、そこに併走することが重要」と語った。

アドレスホッパーの市橋氏は「僕らのような人間からするとFUTURE GATEWAYは夢のような取り組み」と語った。「1つは関係性がフラット。メンバーがピュアな情熱や好奇心を持っていて、会社というよりは1個人として参画しているような感覚がある。大きい企業とやっている感覚がない。新しいカルチャーを作っている感覚が強い」という。そして、「もう1つは技術。技術を通じて社会実装までリアルに見せていけるところが大きな特徴。個人ではカルチャー醸成くらいが限界。社会のなかでシステムまでもっていくためには技術や資本投下が必要。それを前提として枠組みであることは非常に魅力的」と語った。

移動式サウナについても、単なるサウナだけではなく「自動運転やオフグリッドなど様々な技術を取り込める。日本だからこそできる面白い取り組み」だと述べた。今後、今年度中にモックアップを公開を予定する。実働モデルは来年度以降となる予定だという。

また、他のプロジェクトについてもKDDIの木村氏は、「ミッションである生活者のなかの課題を解決していくような、中長期の課題解決に合っているものであれば持ち込み企画も歓迎する」と述べた。また「環境やカーボンゼロなど、個々であっても環境への意識が非常に高くなっていることを感じている」と述べ、環境関連の取り組みを重視していくとした。現在、「都市、地方、地域など、いろんな方々に還元できるプロジェクトをアンダーグラウンドで進めている」と語った。