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人間の3倍働けるロボットでビル警備をDX。大成とugo

総合ビルメンテナンスの大成は7月15日、ロボットを活用するDX警備ソリューションの商用化を東京・品川にある品川シーズンテラスで4月から開始したと発表し、同ビル内で記者会見を行なった。アバター警備ロボット「ugo TSシリーズ」の先行商用化第一号として運用しており、正式に9月からサービスを開始する。

ロボットは遠隔操作ロボットの開発を手掛けるugo(ユーゴー)によるもの。半自律型のロボットで、自律移動による巡回のほか、警備室からの遠隔操作でエレベーターのボタンを押してフロア間を移動することができる。ロボット2台の導入で警備員を4人削減することができたことから、2019年から両社で開発・実証実験を継続していた警備ソリューションを本格的に商用化する。

大成は、ビルオーナー・警備会社へ向けた警備ソリューションの一環として、2021年1月から警備業務を一元管理できる情報プラットフォーム「T-Spider」のサービスを始めている。警備業務を「見える化」し、様々なデバイスと連携して高度なセキュリティを提供する。また警備員が日々作成する警備日報をタブレット上で簡易に入力して自動作成し、紙媒体を介さず施設管理者にプラットフォーム上で即時共有できる。

アバターロボット「ugo」のセキュリティ特化モデル「ugo TS-P」は、「T-Spider」の連携デバイスの先駆けとして採用されている。9月の本格サービス開始後1年間の導入目標台数は20台。既に引き合いがあるという。なお今回公開されたロボットとユーザーインターフェイスは試作版で量産版とは異なる。

半自律型の遠隔操作ロボット「ugo TS-P」
人ロボットの組み合わせで効率的な警備を行なう

「立哨」と「巡回」の業務を人からロボットに置き換え

大成 代表取締役副社長 加藤憲博氏

概要は大成 代表取締役副社長 加藤憲博氏が紹介した。大成は1959年創業の総合ビルメンテナンス会社。国内7拠点でクリーン業務、ホテル業務、セキュリティ業務、エンジニアリング業務、受付業務、建築業務、PMソリューション業務などビル関連事業を幅広く手掛けている。現在、自社開発だけではなくIoTやロボティクス等の各種企業との協業を通してビルメンテナンス事業から総合ビルサービス事業へと脱却しようとしている。

人口減少に伴い、警備業界は深刻な人手不足に直面している。今後20年間で、日本の就労人口は約1,479万人減少すると考えられている。単純計算すると毎月6.1万人の働き手が減少することになる。また、一般的な企業が有効求人倍率1%程度なのに対して、警備業界の有効求人倍率は停滞傾向でおよそ5.13倍となっている。

生産年齢人口減少により警備業界の人手不足は深刻化
警備業界の有効求人倍率はおよそ5.13倍

ビル管理の業務である警備・清掃・設備点検はビル管理法により停止することはできない。施設管理はテレワーク化が難しいため、エッセンシャルワーカーに委ねられている。今後、採用競争が激化すると、人件費が上昇し、結果的に業務品質の低下、成長機会の損失を招く可能性があると加藤氏は語った。

施設管理はエッセンシャルワーカー
現状のままでは業界全体の品質の低下や機会損失につながるという

そのなかで人に頼らないソリューションとしてロボットに期待しているという。サービスロボット市場は成長が見込まれている。清掃ロボットの将来市場は今後15年で30倍以上、警備ロボット市場は約8倍伸びるという予測もある。今後は人に頼らないロボットが加速していくと見ているという。

清掃ロボット市場の予測
警備ロボット市場の予測

加藤氏は「人とロボットが共存する新たな管理のありかた」として、「立哨」と「巡回」の業務を人からロボットに置き換える考え方を紹介した。業務品質の低下については高品質な警備ロボットを導入することで維持し、成長機会の損失の可能性については大成が開発している「T-spider」によってデジタル化する。

「立哨」と「巡回」の業務を人からロボットに
ロボットugoとT-Spiderを展開

ロボット「ugo」による警備

アームを使ってボタンが押せる

ロボット「ugo」は大成、ugo社のほか、NTTドコモの3社で営業連携して事業を展開している。最大の特徴は人と同じような形状で、手がついており、ボタンが押せること。これにより既存設備に手を加えることなくエレベーターを使ったフロア間移動ができる。加藤氏は「どんな既存のエレベーターでも人と同じようにボタンを押すことで連携ができてしまう。他社よりもスムーズに導入しやすい。フォルムも人が接しやすく、違和感なく溶け込める」と他社と比較してアピールした。

他社の警備ロボットとの比較
通常のエレベーターを自分で呼んで乗り込み、人と共存できる

ugoにはカメラが3台あり、360度の視界がとれる。頭部のディスプレイには目のような意匠を出すこともできるし「警備中」といった文字を出すこともできるので、「誰が見ても何をやっているかを訴えやすい」。また手がついていることでジェスチャーやポーズをとったり、カードキーをかざしてセキュリティドアを開けてセキュリティフロアに入ることもできる。安全面もレーザーセンサーそのほかを備えており、警備に必要な最小限の要件を備えているという。

ugoの各部詳細
片腕でセキュリティカードを扱い、もう片方の腕でエレベーターのボタンを押すことも可能

ロボットの操作に用いるユーザーインターフェイスもわかりやすいものとなっており、数台のugoが動いているビルでも、どのugoがどこにいるのか、すぐに遠隔から確認できるという。ロボットに搭載したカメラからの映像も非常にクリアで「人と変わらない同等の画像を見せることができる。業務品質の維持についてはロボットを使うことで一定の品質を提供していくことができる」と語った。

簡単に操作可能なユーザーインターフェイスも
ugoのカメラからの映像は高画質。UI画面は開発中のもの

警備業務にもDXを 一元化ソリューション「T-Spider」

デジタル化による一元化ソリューション「T-Spider」

情報はすべて、「T-Spider」を使って見える化・一元管理できるようにする。加藤氏は「警備業界では今までは全て現場の報告は紙ベースだった。これを全てデジタル化する。すべてのデータを収集・分析して、リアルタイムで出す。データ量が増えれば増えるほど細かい分析ができる。新たな事業展開にも結びつくのではないか」と語った。従来の紙ベースの報告書のときには本社との連絡が滞り、顧客から「現場任せばかりはやめろ」とクレームが入ることもあったが、デジタル化することで、顧客、本社、現場の三者で情報を共有し、日々どんなことが現場で起きているのかをリアルタイムで見える化できるようになるという。

現場・本社・顧客の三者で情報共有が容易に

「T-Spider」にはロボット「ugo」と連携すること機能もあり、これによって警備業務の質を向上させることができる。ugoが搭載したカメラで特定の場所の写真を撮影し、「T-spider」で集約して報告書に添付する。こうすることでエビデンスも残るようになる。加藤氏は「T-spiderを活用することでデジタル化で情報が一元管理できるようになり、業務分析ができるようになる。人への負荷をロボットに切り替えることで低減できる。DXによって効率的な管理運営ができるようになる」と語った。現在はugoのみの連携だが、今後はドローンや監視カメラ、デジタルサイネージとも連携してビル全体の実態の見える化へつなげる。

ロボット以外のデバイスも接続可能

ロボット2台で警備員を4人削減

品川シーズンテラスは国内最大規模の複合ビル

今回、1年半の実証実験・先行導入の場となった品川シーズンテラスは東京・品川駅の港南口から徒歩6分程度の位置にある。2015年竣工、地上32階地下1階、延床面積20万m2の複合ビルだ。1フロア1,500坪のビルは都内でも少ない大型のビルだという。大成とugo社は、合計5回の実証実験を1年半前から繰り返している。大成の加藤氏は「課題が見つかったらアップデートする作業の繰り返しだった。ようやく商用化までたどりついた」と語った。

実証実験で気づいたことは6点。人よりも広い視野で監視ができること、画像を記録として残せること、警備員の集中力が向上すること、警備員の身体負荷が軽減すること、複数台運用により業務が効率化できること、警備でも遠隔からリアルタイムで状況が把握できること。「メリットがどんどん増えている」と述べ、「人とロボットのハイブリッドにより効率的な警備が可能であることが実証実験を繰り返してわかった」と語った。

1年半、実証実験と改善を繰り返した

品川シーズンテラスではugo 2台導入で警備シフトの組み替え、立哨・巡回をロボットに置き換えることで、警備員を4人削減できたという。当然、管理コストも削減できた。人は基本的に1日8時間しか働かせることできず、それ以上は残業となるが、ugoは24時間動かすことができる。24時間の業務を行なう場合、人間ならば3人必要だが、ugoならば1台ですむことになる。

品川シーズンテラスではugo 2台で警備員を4人削減できた
電源と通信環境があれば24時間の労働力が確保できる

コロナ禍によって、ロボットを介することで接触感染リスクを低減できるメリットもある。また、人に対しては各種手当てを払う必要もあるが、ugoは月額レンタル費用のみですむことから、大幅にコストが削減できるという。

コロナ禍で新しいメリットも
初期費用なし、月額レンタル費のみで導入可能

具体的には大成受託物件での価格は、月額185,000円からの提供を予定する。ちなみに、東京での警備員の費用は1人あたり約40万円だという。初期費用もかからないので「他社と比較してもトータルで見てみると圧倒的」だと加藤氏は語った。大成では今年9月に本格商用化し、7月後半からはウェビナーを開催して販促する。目標販売台数は9月からの1年間で20台以上。翌年度はその倍を目指す。

大成受託物件では月額185,000円からの提供を予定
他社ソリューションとの比較

第一号導入ケースとなった品川シーズンテラスの取締役 管理部長 重田廣行氏は、品川シーズンテラスについて「入居企業は30社を超えており、平常時なら1万人を超える在館者がいる。実証実験を通して、ビルとして求められる安全・安心を検討した。ロボットを使うことでIoT、IT活用を進めるビルとして最先端に挑戦しているビルとしても受け入れられている」と語った。

品川シーズンテラス 取締役 管理部長 重田廣行氏
ビル入居者からも理解され受け入れられているという

ロボットugoは量産準備中

半自律ロボット「ugo」

ロボット「ugo」は2本のアームと高さ調整により遠隔で様々な業務を行なうことができるアバターロボット。AIによる学習機能で同じ稼働条件下であれば自動モードも可能。ugo社では単純な遠隔操作ロボットと完全自動化ロボット双方の利点を併せ持つハイブリッドアバターロボットだとしている。

ディスプレイは文字も表示可能
胴体部分の昇降機能を持つ

「ugo」は大成でのDX警備ソリューションでの採用に伴い、4つの機能を拡充した。ugoを管理・操作するためのブラウザベースのアプリケーション「ugo Portal」、自動ポジショニングやエレベーター籠内を安全に自動で移動するELV-SLAMで構成される、ugoがエレベーターを操作してフロア移動する体系的な仕組み「UEOSU」、ugoの定型動作をノーコードで自動化できるプロセスオートメーション環境「Flow」、ugoの巡回業務後に巡回レポートを自動作成する「T-Spider連携」である。

現在、量産化を進めている。現在のロボットはケーブル類などが一部剥き出しになっているが、それらは内蔵される予定だという。このほかugoでは6月にロボットの移動のためのVisual SLAMなどの技術を持つKudanと技術提携するなど、ugoの高度化を進めている。

手の甲の部分の突起でボタンを押す
足回りはメカナムホイール。真横に動くことも可能