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パナソニック、個人に自動最適化する歩行トレーニングロボット

パナソニックは、施設向け「歩行トレーニングロボット」のサービス展開を開始した。AIを使って一人ひとりに適切な運動負荷を与えることで、歩くことに不安を抱える高齢者向けに安全で効果的な歩行運動を提供する。

歩くことは「介護予防」の第一歩と言われている。「歩行トレーニングロボット」は、安心で適切な歩行により自立をサポートし、使うたびに元気になることを目的とした歩行支援ツール。4輪構成で前輪2輪、後輪2輪。前輪は体重を支えるためのキャスター。後輪に入っているモーターで押して進む力に対して抵抗するようにトルクを発生させ、運動負荷を与える。大きさは630×800~900×600mm(幅×高さ×奥行き)。重量は20kg。バッテリーはリチウムイオン電池。AC100Vで充電できる。

歩行トレーニングロボット
ハンドル部分

パナソニック独自のAI技術とロボット技術を活用している。IDカードをかざすと利用者を個人認証。高さ調節可能なハンドル部分には6軸力覚センサーがあり左右のバランスを読み取り、ハンドルを押す力に応じて一人ひとりに合わせた最適な運動負荷を提供する。

利用者の歩行能力・訓練状態をリアルタイムに蓄積・解析し、利用者や介護職員にフィードバックすることで、最適なトレーニングを支援できる。また、利用者個人へのトレーニング履歴の提示だけでなく、トレーニング結果を自動記録することで各種申請や記録に必要な書類作成を支援できるので介護施設のスタッフの手間を軽減することも可能。

基本セットはロボット本体、充電アダプタ、登録者数分のIDカード(50名分まで可能。追加はカード発行手数料が必要)、サーバログイン情報。公式Webサイトでの受付開始は4月27日から、価格は初期費用25万円+月額費用3万円(3年契約)。お試し利用も受付中だ。目標販売台数は2024年度に1,500台。

サービス基本セット

「歩く」力で健康寿命を延伸

パナソニック テクノロジー本部 事業開発室 アクティブエイジングデザインプロジェクト 主幹 山田和範氏

パナソニック テクノロジー本部 事業開発室 アクティブエイジングデザインプロジェクト主幹の山田和範氏は、開発の背景について「健康寿命の延伸」の重要性と、2021年度介護報酬改定でも強化された、自分でできることは自分で行なう、すなわち「自立支援型の介護」への転換を挙げた。山田氏自身も家族の介護でこれがいかに難しいかを実感しているという。パナソニックでは、その実現のために多くの日常生活の起点となる歩く力に着目し「いつまでも自分の足で歩きたい」という高齢者の思いをサポートすることにしたという。

「自立支援型の介護」への転換

歩く機会を少しでも増やすことは自立支援のためにも重要だが、内閣府の意識調査によると、高齢者の外出頻度は、特に80歳以上に着目すると週に1回程度しかない。自立支援を行なっている施設スタッフも「運動機会を増やしたい」「リハビリ後も運動を続けてほしい」「身体機能を維持してほしい」と考えている。しかし一方で現場では「高齢者の身体機能は多様であり、適正な運動量かどうかが不安」「運動の効果はすぐに見えず、持続するための高齢者の意欲の維持が困難」といった課題を抱えている。山田氏は様々な施設にヒアリングするなかで「トレーニングには心理的側面も重要であることを学んだ」と語った。

高齢者の外出頻度は週に1回程度

既存の歩行支援機器は歩くことに障害があるなど歩行能力が低い方向けにはリハビリ機器などが多く出ている。しかしこれらは日常生活のなかで使い続けることを想定しておらず負担も高い。これに対して、老化によって歩行不安を覚える人向けの歩行支援機器が出ているが、それらはトレーニングを志向したものではない。今回の「歩行トレーニングロボット」は、AIを活用することにより一人一人に最適な運動負荷を与えることで歩行能力を向上させる、今までにない機器として開発された。

簡単に楽しく続けられる歩行トレーニング機器を目指したロボット

気軽に楽しく始められ、続けられる

歩行トレーニングロボットの特徴は3つ

特徴は3つ。歩きたくなるデザイン、ログインするだけの最適設定、そして歩くだけで計測と記録が行なえること。気軽に楽しく始められ、続けられることを狙い、ハンドルデザインは自由な握り方ができるようになっている。ハンドルの高さや運動負荷はIDカードでログインすると個人に合わせた事前設定とリアルタイム計測によって最適化される。歩行速度や距離、左右のバランスなどは「見える化」され、利用者本人や、支援している家族のモチベーション向上にもつながる。

ロボットは押して進む力に対してモーターが抵抗するように動く。これにより運動負荷が発生する。およそ3度程度のゆるいスロープを上がる程度の負荷となり、通常歩行に対し運動強度が5割程度アップする。押すことで上半身の力も使われるので、そのトレーニングにもなる。運動強度は手動設定で変えることもできる。

安全性については負荷による支持の効果で安定性も向上するという。一定以上の速度が出るとブレーキやアラートも出る。生活支援ロボットの安全性に関する国際規格 ISO13482認証を取得している。

ゆるいスロープを登るくらいの負荷を安全に提供可能

AI活用で個々人に最適化

各利用者の運動状態を推定することで最適なトレーニング負荷を提供

ロボットハンドルにはセンサーが搭載されている。これにより左右バランスを読み取る。また車輪の回転情報も取得している。これを時系列データとして組み上げて特徴を抽出し、歩行の速度、継続性、バランスなどを推定する。これにあわせて運動負荷、目標距離、目標時間等を決定し、トレーニングプランを最適化する仕組み。この方式を使うことでセンサーの装着やカメラを使うことなく、つまり利用者やスタッフが計測を意識することなく、使い続けることで自動学習し、トレーニングが最適化される。

要介護2の男女(88歳、93歳)による、デイサービスセンターでの9カ月間の利用結果を見ると、長期間の利用によって歩行速度、左右のバランス共に向上したという。

長期利用で効果が確認

トレーニング記録確認や報告書作成は自動作成

トレーニング結果はサーバで管理される

ロボットは複数台運用も可能。ロボットのハンドルにカードをかざすと利用者情報が読み取られ、事前に設定されていたハンドル高さにハンドルが自動で動き、目標の距離や時間が出てくる。あとは歩くだけだ。歩行中はランダムに音楽が鳴る。

ロボットが表示するトレーニング画面

トレーニング結果は4G通信でクラウドに上げられ、サーバ上で自動でデータ管理される。施設スタッフはそのデータを見てプランを管理する。トレーニングは1人あたり10分程度なので、おおよそ1時間で5~6名のトレーニングを提供でき、トレーニング記録の確認や報告書作成ができる。ハンドル高さの調整は自動で行なわれるので、速やかな交代も可能だ。利用者の細やかな身体機能の変化の記録は本人や施設側のモチベーションアップにもつながる。

トレーニング結果の出力イメージ

特徴は、自動記録されるので手書きによる記録・報告書作成が不要なこと。閲覧性の高いPDFや、各種報告書への活用が容易なCSVで出力される。個別機能訓練加算や厚生労働省の科学的介護情報システム「LIFE」との連携など、要望に応じても可能だという。

レポートを自動作成、施設スタッフの負担を軽減する

使われ続けるサービスを目指して

オンラインデモの様子

パナソニックでは2015年から歩行トレーニングロボットの実証実験を続けてきた。山田氏は一番苦労した点として「好き勝手に機能を搭載すれば良いわけではない。どういう機能を搭載すれば使い続けてもらえるか」に苦心したと答えた。最初は声で寄り添ったり追尾機能などをつけたりしていたが、実際に現場に行くと「自らしっかり歩いていきたい」「健康を維持して自立して社会参加していきたい」というところが要望の本質であると感じ、「しっかりトレーニングに特化して開発を進めていきたいと考えた」という。

トレーニングを行なうなかで、実際にこれまでは転倒していた人がしなくなったり、これまでは歩行トレーニングを嫌がっていた人が試しにやってみようと言ってくれたりすることも実際にあったとのこと。歩行は認知症状の改善にも効果があると言われている。今後は、データの見せ方などを工夫することでさらに積極的にトレーニングに取り組んでもらえるようなサービスを考えているとのことだった。