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NTT、分身ロボットのオリィ研究所に出資。5G+OriHime

NTTとオリィ研究所は15日、障がい者の活躍推進とリモートワールド実現に向けたビジネスの強化・技術連携による双方の事業拡大を目的とした資本業務提携に合意した。NTTはオリィ研究所の実施する自己株式の第三者割当を引受けることにより、オリィ研究所の発行済株式総数の約14%を取得する。

今回の第三者割当増資はNTTのほか川田テクノロジーズも引受先となっており、オリィ研究所は総額5億円の資金調達を行なった。新プロダクトの量産体制、ハードウェアおよびサービスの開発体制、営業・マーケティングの人材採用を強化し、外出困難者の就労支援事業の推進、分身ロボット「OriHime」の普及、及び将来に向けた研究開発に注力、サービス・プロダクトの社会実装を加速する。

NTTグループは障がい者活躍推進、リモートワールド対応を進める中で、「コミュニケーションテクノロジーで人類の孤独を解消する」というオリィ研究所の理念に共感し、2019年からオリィ研究所による分身ロボットカフェ「DAWN」への協賛、障がい者の活躍推進に取り組む国際イニシアティブ「The Valuable 500」への加盟および、オリィ研究所の遠隔操作型分身ロボット「OriHime-D」を活用した障がい者による受付業務トライアルを実施。2020年7月からは「OriHime-D」を活用した障がい者による受付業務を本格導入した。

一方、オリィ研究所は、コミュニケーションテクノロジーの研究開発によって新たな形の社会との繋がりを創造し、社会そのものの可能性を拡張させ、これからの時代の新たな「社会参加」の実現をめざしている。両社は互いの強みを融合し、協業を推進していくことがそれぞれの企業価値向上と、より多くの社会的課題解決に資するとの認識で一致し、資本業務提携を行なうこととなった。

新たな時代の社会参加実現を目指す

ドコモショップに分身ロボ。IOWNや5Gで高度化

NTT代表取締役社長 社長執行役員 澤田純氏(左)とオリィ研究所 代表取締役CEO 吉藤健太朗氏(右)

NTT 代表取締役社長の澤田純氏は、「現代は価値観が多様化しながら分断も進んでおり、より柔軟な働き方が期待されている。アフターコロナはリモート型が基本になり、テレイグジスタンス技術や生産性向上に向けたDXが重要になる。NTTグループはICTで人やものを繋ぐことで新たな可能性を広げていきたいと考えている」と述べた。

現代は公共性と企業性の同時実現による持続可能な社会の実現が求められているという。NTTグループは約3,900名の障がい者を雇用している(法定雇用率を満たす2.44%)。7月に始まった遠隔操作型分身ロボット「OriHime-D」を用いた受付業務では、外出が困難で障害がある方が4名、応接を行なっているという。

NTTの障がい者雇用に関する取り組みとオリィ研究所

NTTは今回の資本提携でオリィ研究所の発行済全体株式の14%を引き受け、業務提携も実施する。技術、営業、ロボットの活用をNTTグループ全体で進めて行く。

具体的には5つの内容が紹介された。1つ目はドコモショップでの分身ロボットの活用検討。11月下旬からスマホ教室でトライアルを行なう。2つ目は分身ロボットで受付・ショールーム案内をする拠点の拡大。将来的には10拠点へ拡大する。3つ目はNTTグループ各社のサービス・法人営業との連携。4つ目は障がい者の雇用を行なっている特例子会社NTTクラルティとの連携による就労支援。そして5つめは分身ロボットを使った研究開発。大容量で低遅延のネットワーク実現を目的とするIOWN(Innovative Optical and Wireless Network)や5GをOriHimeに適用。より高度な分身ロボット実現を目指す。「分身ロボットをユースケースとした検証をしていきたい」という。

業務提携の全体イメージ

NTTとオリィ研の共通点。新しい生き方を作り出す

オリィ研究所 代表取締役CEO 吉藤健太朗氏は「人類の孤独の解消」が同社のミッションであると紹介し、引きこもりや不登校、独居シニア、長期入院、重度障害などの社会課題解決を狙っていると述べた。人は孤独になると生きる力を失っていく。そして人は誰しもいずれ自分一人では生きられなくなる。自分の身体が動かなくなった状態でも社会に参加し続ける方法を探るため、オリィ研究所ではALSの患者たちと一緒に研究を行なっている。そのなかで生まれたのが「分身ロボット」だ。「情報技術は存在を伝達するものとして発展していく」と述べ、体が動かなくなった我々が社会に参加し続けることができるようになる技術だと語った。

孤独という社会問題の解消をミッションとする

オリィ研究所とNTT・澤田氏との付き合いは4年くらいになるという。それ以前もNTTグループとオリィ研究所自体の付き合いはあったが、オリィ研究所の「生き方の選択肢をより広げる」というコンセプトに、当時CSRを担当していた澤田氏が強く惹かれ、三鷹にあった同社オフィスを訪問したところから本格的な取り組みが始まったという。

澤田氏は「考え方に共感した」とし、特に「人間が幸せを感じていくところが大事で、それを技術でサポートする」という考え方は、NTTによる「技術でどう世の中を豊かにできるか」という考え方とも共通しており、それ以来、節目節目で付き合いをしてきたと振り返った。また、NTTはオリィ研究所の共同研究パートナーであると同時に販売チャネルでもあると述べ、今回の取り組みの目的については、福祉を含めた世の中への貢献、R&D、ビジネスの3つ全部だと語った。

吉藤氏は「OriHime」について「外出ができない寝たきりの先輩たちと一緒に創ってきたロボット」だと紹介し、ビジネス活用についてNTTグループ各社と連携して模索してきたという。日本にはおよそ1万人のALS患者がいると言われているが、今は視線入力でOriHimeを操作することで、ロボットを使ってヘルパーさんを迎えに行ったり、飲み物を手渡してもてなすことができるようになったと事例を紹介。

「分身ロボットカフェ」については全国30名強のメンバーと一緒に距離の問題があっても接客ができ、かつ、顧客もそのサービスに見合う対価を払うことができることを実証。そして彼らがあつらえた場所ではなく、普通のカフェで普通の店員とタッグを組んで働くこともできることも示せたと、これまでの成果を述べた。

NTTグループとオリィ研究所のこれまで
互いに共感し、節目節目で共創してきた

働けることでメンバーは前向きになったという。吉藤氏は「これまでは体が1つしかなかった。事故にあったり病気にあって外出ができなくなると様々な人生の機会損失がある。これからは分身、もう1つのからだを作ることができる。今のこの身体は健康や障害などの問題でいつか動かなくなる。しかしそれを諦めるのではなく、自分らしく生きられるようにしたい」と述べ、「寝たきりの先を作る」ことを目指すとした。

たとえば、自分の体の介護を自分が操作する分身ロボットで行なったり、身体にロボットを装着して互いに障害をカバーしあうことで、お互いに助け合ってていくことができるのではないかという。今回の提携によってさらに技術を発展させ「会いたい人に会い、行きたいところに行き、社会に参加して必要とされる未来の社会を目指す」と語った。

オリィ研究所では分身ロボット技術を活用することで「2025年までに1万人の外出困難者の雇用創出を目指したい」という。具体的には「分身ロボットカフェ」というパッケージ自体を他社でも展開し、そのなかで多くのパイロットやビジネスモデルを育てていく。

なお遠隔操作型の他のロボット会社との違いとして、他は人件費削減や労働力不足への対応を挙げることが多いが、オリィ研究所では「働ける人を増やす」ことを目標としている点が大きな違いだと述べた。吉藤氏は「寝たきりになってしまったあとの選択肢がなさすぎると思っている。動かなくなったあと、ここにいこうと考えられる職業をつくっていけるのが我々の価値だと考えています」と語った。新しい生き方を作る上でも、NTTとの共創による技術が強みとなると考えているという。