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難病を持った人も自宅から仕事できる分身ロボ「テレバリスタ」
2020年9月10日 12:24
オリィ研究所と川田テクノロジーズは、難病や重度障害などによる外出困難者でも、遠隔操作により手先を使った作業が必要とされる接客業が可能となる分身ロボットを開発する「Tele-Barista(テレバリスタ)プロジェクト」を開始すると発表し、9月8日にデモンストレーションを行なった。
オリィ研究所の遠隔操作する分身ロボット「OriHime(オリヒメ)」と、川田テクノロジーズのグループ会社であるカワダロボティクスの協働ロボット「NEXTAGE(ネクステージ)」を組み合わせて活用する。顧客とのコミュニケーションには「OriHime」を使い、バリスタやバーテンダーのように実際にコーヒーを淹れるための手作業には「NEXTAGE」を用いる。
2つのロボットを組み合わせることで、遠隔操作ロボットによる接客と手作業の両方を可能とする。両社はこの分身合体ロボットの技術を活用することで、身体が動かなくなった重度肢体不自由の方であっても働き方の選択肢が広くなり、その人が培ってきた技量や人間性を活かしながら、新たな社会参加の実現を可能にすることを目指す。
開発中のロボットは、9月13日(日)にWeb配信される「LIVES LIVE 2020」内でも発表する。ボランティア団体であるNPO法人「Hands On Tokyo(ハンズオン東京)」が障がい者の「はたらく・たべる・わらう」をテーマに活動する「LIVESプロジェクト」の一環で、今年は新型コロナウイルスの影響でオンライン開催となっている。テレバリスタの紹介は、13:00から13:20ごろ配信予定。
オリィ研究と川田テクノロジーズ、2社協働の経緯
両社が出会ったのは2019年の「LIVES」のイベント内。オリィ研究所は、2018年から「分身ロボットカフェ」を断続的に開催し、外出困難な人でも「OriHime」を使った接客業などへの就業を可能にしてきた。「OriHime」のパイロットの中には、病気で思うように動けなくなった元バリスタの方が複数いて、「お客様のオーダーを取ってコーヒーをお届けするだけでなく、お客様の好みに合わせてコーヒーを淹れたい」という思いを持っていた。
「LIVES」イベントでオリィ研究所と知り合った川田テクノロジーズは、オリィ研究所の理念に賛同して、2019年から「分身ロボットカフェ」のスポンサーとなっていた。そして自社のグループ企業が手がけるロボット「NEXTAGE」の「人と一緒に働ける」というコンセプトが、オリィ研究所のさらなる構想と一致することから、共同開発を始めるに至ったという。
その人ならではのサービス提供、ゆくゆくは自分の身体の介護も
オリィ研究所 代表取締役 CEOの吉藤健太郎氏は、「分身ロボットカフェは、これまでに4回行なってきた。その都度コンセプトが違っていて、徐々に仕事を増やしてきた」と、これまでの同社の取り組みを紹介した。「分身ロボットカフェ」では、遠隔操作する小型分身ロボット「OriHime」と等身大サイズの「OriHimeD」の2種類のロボットを使って、コーヒーのオーダーを取り、運ぶところから始まり、売店で物販をしたり、イベントの司会をしたり、スタッフのシフト管理をしたりといったかたちで役割分担も進めてきた。だが、バックヤードでコーヒーを淹れてロボットの「OriHimeD」に渡す部分は人間のスタッフが行なっていた。
今回のデモで自宅からロボットを操作したパイロットである藤田美佳子さんと村井左依子さんは、コーヒーショップで働いた経験があり、2人にコーヒーを淹れてもらいたいという気持ちは第1回の分身ロボットカフェ当初からあったという。そして2019年から川田のロボットと一緒にコラボするなかで、より細かな動きができる手を活用できないかと考えるようになり、今回のプロトタイプの発表となったと経緯を解説した。
吉藤氏は「今回はあくまでプロトタイプなのでできることは限定的。今後、カフェの客やパイロットの声を聞いて改善していきたい。そして各パイロットならではの味や、来店客との対話のなかで生まれてくるものを表現できるようにしていきたい」と語った。
ロボットを操作するインターフェイスについても、今後は、オリィ研究所が持つ視線入力技術を組み合わせることで、ALS患者の病状が進行し、話せなくなったとしても、その人らしさ、その人だからできる味やサービス提供が、どこまでできるかを追求していきたいという。
なお今回のロボットは「合体型分身ロボット」となっているが、実際には独立した2つのロボットを、それぞれ切り替えて操作している。だが将来的には統一された一つのインターフェイスで、「OriHime」から接続機器を動かすように扱うことで、「様々な働き方の要望に対応していきたい」という。そして「ゆくゆくは自分の身体の介護を自分でできるようにしたい。分身ロボットを使った社会の可能性を追求したい」と語った。
新たな協働のかたちを探る
川田テクノロジーズ代表取締役社長の川田忠裕氏は、「NEXATAGEは協働ロボットというコンセプトだが、基本的には産業用のティーチ&プレイバックのロボット。今回、オリィ研究所さんと一緒に作業するなかで、新たな協働のあり方が見えてきたと思っている。始まったばかりなので今回はできることは限られているが、可能性を見せられるのではないか。オリィ研究所さんやパイロットの皆さんからアイデアを頂きながらレベルアップしていき、もっと身障者や高齢者が働ける世の中になればと思っている」と語った。
将来はアバター(遠隔操作分身ロボット)のように「NEXTAGE」を活用したり、高齢化が進む建設業に対してより幅広くロボティクスを活用して、熟練者が遠隔から多くの建設現場での作業ができるようにしていけないかと考えているとのこと。「オリィ研究所から色々なアイデアを頂いて、エンジニアも楽しんでやらせてもらってる」という。
やりたいことは「無限」
デモンストレーションは、川田氏が客役となり、会議に疲れた人にさっぱりしてもらうという設定で行なわれた。コーヒー抽出にはエスプレッソマシーンを用い、NEXTAGEがその機械を操作するかたちだ。
今回の「テレバリスタ」で注文可能なコーヒーは4種類で、それぞれに合わせてチョコレートも提供される。これらについては実際にロボットを操作するカフェ経験者である2人のところに豆やチョコレートを送付して、テイスティング、組み合わせを選んでもらった。
今回のテレバリスタは「ファーストステップ」だという。今後については、オリィ研究所が2020年度中を目指して進める「分身ロボットカフェ」の再開と常設化のなかで、サービスとして取り込んでいくことを目指す。吉藤氏は「技術者が何をしたいかというよりは、40人弱のパイロットの人が何をしたいかというところで始まっている」と分身ロボットカフェの趣旨を改めて強調し、ロボットを操作するパイロットの要望を取り入れながら、できることを増やしていきたいと述べた。
そのパイロットはどんなことを要望として持っているのか。藤田美佳子さん、村井左依子さんの2人のパイロットは、やりたいことは「無限にある」と語った。具体的にはバリスタが行なう基本業務のほか、「ラテアートを描いてみたい」とのこと。また「たこ焼きやお好み焼きを焼いてみたい」といった調理系の希望や、「トイレ介助なしでトイレに行けるようになりたい」といった希望が上がった。
パイロットが満足できることをちょっとずつ増やしていくための最初の一歩として、まずは「おもてなし」ができることを重視し、今回の「テレバリスタ」となったかたちだ。
今後は、分身ロボットカフェのなかで作業に関する知見を増やしながら、徐々に遠隔操作ロボットを使って実行できることを増やしていき、将来、自分自身の身体が動かなくなったときでも、なんらかの作業ができる希望があるようにしていきたいという。