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驚異の本物感。ソニーの空間キャプチャ映画制作技術が凄い【CES2020】
2020年1月15日 08:00
ソニーがCES 2020で発表した電気自動車「VISION-S」は大きな話題になった。「ソニーがクルマ!」と驚いたが、それと同じぐらい今回のソニーブースで驚いた展示が「3D空間キャプチャによるバーチャル制作技術」だ。
同技術は、セットと超大型ディスプレイを組み合わせて、奥行と本物感のある映画を作るための仕組み。会場では映画「ゴーストバスターズ」で使われたセットを用いてデモンストレーションが行なわれた。
背景用に8K×3K(10×4m)のCrystal LEDディスプレイを設置。Crystal LEDは、微細なLEDを使ったユニットを複数組み合わせるソニー独自の大型ディスプレイで、そのCrystal LEDに事前に撮影した3D CG映像を表示し、ソニーのCineAltaカメラ「VENICE」でセットの撮影を行なう。CG映像はカメラの動きにあわせて緻密に作り込まれており、ディスプレイ(背景)とセットをカメラで撮影すると、リアリティある映画のワンシーンが撮影できるというシステムだ。
従来の映画撮影の現場でも、静止画をバックとしてカメラで撮影する事例は多いが、今回のデモの特徴は、背景映像が8Kの超高画質でハイコントラストであることに加え、背景映像が3Dデータを持ち、動きの表現や動きに連動した光の反射や影の表現、奥行きの変化などにも対応すること。これによりリアリティを向上する。
背景映像を見ていると、カメラでの撮影の動き(視点の動き)に連動して、看板の表示も自然に動いていることがわかる。そのため不自然さがなく、カメラに捉えられた映像は、セットの水たまりの反射光も自然に再現している。
また、3DCGは単なる背景映像だけでなく、風に吹かれていく落ち葉なども合成し、表示している。
セットのクオリティも相当凄いが、とにかくカメラと合成された映像のリアリティが圧倒的。目の前のディスプレイとセットで撮影しているにも関わらず、撮影された映像が戸惑うほどに本物に見える。映画制作現場への導入はまだ始まっていないものの、ソニー・ピクチャーズ内でのデモでは高い評価を得ており、今後映画制作者に積極的にアピールしていくとのこと。
また、3D空間キャプチャの利点は、実物に迫るリアリティだけでなく、映画制作上でのメリットも大きいという。
例えば、「夜の東大寺」のシーンが必要であれば、東大寺の3Dデータ(Point Clowd)を取得・撮影しておけば、背景データを自由に扱えるようなり、セットだけを用意して撮影できるようになる。昼のシーンが必要であれば、昼間に3Dデータを取得すればよいし、明るさや色、テクスチャの調整も行なえるため、演出意図の沿って映像を作り込める。
また、この空間キャプチャは、スタッフ1名で7時間程度で行なえるという。一部をセットで、一部を背景映像で組み合わせて撮影するのであれば、俳優や撮影隊が現地に行かずにも多くのシーンを撮影できるようになる。
ハリウッドでは組合が強く、撮影時間は厳密に管理されるため、一定の条件での撮影はなかなか難しい。こうしたバーチャル撮影を組み合わせることで、映画制作の効率化や時間や場所の制約を緩和でき、クリエイターの創造力を生かせるという。
一方、3D空間キャプチャでは、まだ難しい部分もある。例えば、人が背景に向かっていくようなシーンだと、背景側の動きが大きくなり、映像の作り込みが難しい。また、人が背景に「入っていく」というシーンでは、グリーンバックを使うなど、既存の撮影手法との組み合わせが必要になるなど困難な部分もあるという。
いまのところ、日本で紹介する機会はないそうだが、説明員も「IMAXで見てもバーチャル撮影とはわからないはず」と自信を見せるクオリティ。「テクノロジーに裏打ちされたクリエイティブエンタテインメントカンパニー」を目指す“ソニーらしさ“が感じられる、とても魅力的な技術だ。