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アマゾンはなぜ「音楽キーボード」を作る? ハードウェアと学習
2019年12月7日 09:10
アマゾン ウェブ サービス(AWS)は、12月2日から6日まで、米ラスベガスにて年次開発者会議「re:Invent 2019」を開催した。初日の2日に、ディープラーニングを用いて音楽を作曲するためのツール「AWS DeepComposer」を発表した。
DeepComposerはマシンラーニングを使って「自動作曲」ができるツール。同時に、DeepComposerと組み合わせて使うキーボードも発表された。現地でキーボードの現物に触れて、関係者に話を聞くことができた。
3つめの「Deep」シリーズは音楽だった
AWSは2017年から、re:Inventで「個人向けハードウェア」を発表するのが通例となっていた。2017年には画像認識のための「DeepLens」を、2018年には自動運転のための「DeepRacer」を発表した。「DeepComposer」は、それらに続く3つ目の「Deep」シリーズである。
DeepComposerは、すでに述べたように「自動作曲」のためのツールだ。自分でフレーズを弾くと、そのフレーズにあわせてアレンジされた伴奏を作り、曲として完成させてくれる。あらかじめ設定されている「Pop」「Rock」など曲調を指定すると、それに合わせた曲ができ上がる。
連携するキーボードはさぞ特別なものだろう……と思うが、DeepComposerで使っているのは、外観上ごく普通の小型の音楽用キーボードに見える。DeepComposerと連動するためのボタンがいくつか追加されているが、特別な部分はない。AWSの関係者も、「実は普通のUSB接続のキーボード」と話す。「このキーボードを使わなくても、他のMIDIキーボードなどを使っても同じことができる」ともいう。
重要な部分はAWSのクラウドの側にあり、ハードウェアには特別なところはないのだ。
実はこれは、「Deep」シリーズに共通している部分でもある。DeepLensは単体で画像認識を実現する機器だが、そこに搭載されているセンサーや処理用のプロセッサーが特別なわけではない。DeepRacerも、インテルのプロセッサーと複数のカメラを搭載してはいるものの、基本的な構造はラジコンカーと変わらない。
DeepComposerのキーボードにはカメラも高性能なプロセッサーもいらないので、さらにシンプルなハードウェアになっているのだ。
狙いは「学習」。DeepComposerでは「GAN」の学習が可能に
AWSでAIプロダクトのマーケティング担当トップを務めるジョエル・ミニック氏は、「Deep」シリーズの狙いを次のように語る。
「これらの製品は、エンジニアに楽しくマシンラーニングを学んでもらうために企画したものです。DeepLensでは教師あり学習によるエッジデバイスでの画像認識を、DeepRacerでは、教師なしの教科学習を学ぶ題材として自動運転レースを選びました。今回のDeepComposerはというと、教師なし学習のひとつである『GAN(Generative Adversarial Network、敵対的生成ネットワーク)』の学習が目的です」
ハードを売るのが目的ではなく、目的はマシンラーニングに習熟したエンジニアを増やすこと、そこでAWS上での開発環境に慣れてもらうことが狙いなのだ。
DeepRacerでは自動運転の世界リーグ戦である「DeepRacerチャンピオンカップ」も開催され、2019年は、日本から参加したSolaさん・Fumiakiさんが1・2フィニッシュを決めた。これも、DeepRacerを介した教科学習ニーズを高め、プロモーションするための方法論である。
DeepComposerも、前出のようにGANの学習を目的としている。DeepComposerが音楽を作ってくれること自体にも驚きはあるが、重要なのはそこではなく、GANのモデル自体を自分たちで作り、結果として曲がどのように変化するかを学ぶことにある。
AWSはマシンラーニングの開発環境として「SageMaker」を持っている。今年は統合環境である「SageMaker Studio」を発表した。ミニック氏は「マシンラーニングの統合開発環境は他にもあるが、データの収集から学習、デバッグ、デプロイまで、すべてを行なえるものがなかったので開発しました」と話す。DeepComposerも、SageMaker Studioを使って開発することが基本になっている。
AWSにとってマシンラーニングとAIは非常に大きなジャンルである。利用量が売り上げに直結するため、開発者の支援と教育は大きなテーマのひとつだ。「自動作曲」「アマゾンがキーボードを作った」という点に目を奪われがちだが、本質は「機械学習の普及」そのものにあるのだ。