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定年後シニアの就職にIBMのAI技術。話し方から性格判定→適職診断

日本IBMは、AI「IBM Watson」を活用した「適職診断アプリケーション」のプロトタイプを開発。メディア向け体験会を実施した。商品化の予定はないが、IBMのWebサイト「超高齢社会をテクノロジーで生き生きと」にて、9月16日に体験版デモ公開予定。

適職診断アプリケーションは、音声による質問に口頭で回答することで、スキル・性格・興味関心などを把握。適正が高いと分析された職種を3種類、その職種の中からマッチングの高い職業を複数紹介する。登録されている職業の数は110種類。

まずは、どのような診断をするアプリケーションなのか、またその実力はいかがなものか。体験会にゲストとして参加した、国際ジャーナリストのモーリー・ロバートソン氏の診断結果を見てみよう。

モーリー・ロバートソン氏

診断ではまず、「人前で話すのは得意ですか」「人に何かを教えるのは得意ですか」などの質問に対して、5段階の自己評価で回答する。

続いて、趣味や好きな車などについての質問に対して、好きな理由も含めて回答する。

モーリー・ロバートソン氏がIBM 適職診断アプリケーションを体験する様子

アプリケーションが診断したモーリー・ロバートソン氏の適職は「マジシャン」。そのほか「家事代行スタッフ」と「カフェオーナー」の3つが大きく表示された。

質問の中に、キャリアや現在の職業に関する質問はない。にも関わらず、ジャーナリストだけではなく、バラエティなどでも活躍するモーリー・ロバートソン氏に対して、エンターテインメントに関わる職業を提示するわけだから、あながち間違っていないようにも思える。

とはいえ、あくまでゲスト参加であり、あらかじめこのような結果が出るようにした“ヤラセ”疑惑もぬぐい切れない。

そこで、筆者が体験し、その真偽を明らかにする。他の参加者も順番に体験するため一発勝負だ。そうして出た診断結果は「翻訳ライター」、「飲食店経営」、「フードコーディネーター」が表示され、マッチングの高い職業として「ライター」、「詩人」などが表示された。

記事を書く仕事をしている身として、「死ぬまでこの仕事をやっていろ」と言われた感じで少々複雑な気分であることはさておき、診断結果は的外れではなく、アプリケーションの信頼性・信憑性を感じられる結果となった。

ただ気になるのは翻訳ライター。「英語やその他の外国語は得意ですか?」という質問に対して、最も低い(Noに近い)「1番」と答えたはずだ。

この点について、日本アイ・ビー・エム ブランド推進・宣伝 浅里乙香氏に聞くと、体力を必要とする職業は除いているが、診断において可能性を狭めることはしていないという。それは、定年後に新しいことにチャレンジしたり、勉強を始めたりする人も多くいるためと教えてくれた。

日本アイ・ビー・エム ブランド推進・宣伝 浅里乙香氏

さらに、Watson技術に関わっているIBM Data and AI事業部 Watson エヴァンジェリスト 戸田亮氏によれば、内容ではなく、話し方や言葉遣いなどから性格を判定して診断する面があるそうだ。具体的には、助詞を丁寧に使うか、フランクに話すか、ポジティブもしくはネガティブに話すかなどを見ているという。

IBM Data and AI事業部 Watson エヴァンジェリスト 戸田亮氏

シニアに活用される、新しい働き方を支えるテクノロジーを

実力はわかった。では、なぜ適職診断アプリケーションを制作したのか。

背景には、東京大学共同研究の「高齢者クラウド(シニアクラウド)」があり、ここで着想を得て、プロトタイプで制作したという。

高齢者クラウドとは、シニアの活力支援であり、シニアの経験・知識・技能を社会の推進力とするためのICT基盤。2011年から2020年まで続くプロジェクトだという。

シニアにいかにテクノロジーを使ってもらい、社会と接点を持ってもらうかをテーマの1つとしており、取り組むべき課題としてシニアの就労を挙げる。

日本の高齢者は諸外国より働くモチベーションが高いというデータがあるものの、シニアとしごとのマッチングの面で課題があるという(「しごと」は社会参加の機会を意味する目的で、収入を得るための”仕事”との区別のためひらがな表記)。そこで、シニアに活用される、新しい働き方を支えるテクノロジーを目指す。

適職診断アプリケーションで使用されているWatson APIは、「Personality Insights」と「Speech to Text」。

Personality Insightsは、話した内容ではなく話し方に着目して分析し、対象者の真の性格を明らかにするという。またSpeech to Textは、話したことを瞬時にテキストに変換するためのもので、高齢者でも体験しやすい対話形式を実現するため採用された。

アプリケーションでは、事前リサーチとして45歳から69歳の男女2,887人を対象としたインターネット調査を実施し、その回答に基づいて、10種類に分類した職種の性格的な特徴とスキルを分析。

スキル、性格、趣味に関する質問への回答と、事前リサーチデータを照合し、適正の高い職業を提示する仕組みとなっている。

適職診断アプリケーションは、アクティブシニアと呼ばれる人の第二の人生を応援する活動の一環。日本IBMは、誰もがセカンドキャリアをポジティブに考えるきっかけ作りにつながる活動を進めると説明した。