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35年前の初代G-SHOCKが新品相当に復活。“光成形”レストアサービス
2018年10月31日 11:39
カシオ計算機は、デジタル腕時計「G-SHOCK」シリーズの初期型モデル「DW-5000C」、「DW-5600C」について、ベゼル、リストバンド、電池を交換する「初代G-SHOCK 期間限定レストアサービス」を実施する。料金は9,600円。サービス提供期間は2018年11月1日~2019年1月31日。
修理受付は11月1日の午前9時より、専用のWebサイトで受け付ける。修理品の発送から納品までにかかる期間の目安は2週間前後。ただし申込みが多い場合は、納品までの期間が延びる可能性がある。
「G-SHOCK」を継続的に使い続けたいという顧客の要望に応える目的で実施するサービス。交換するパーツのうち、ベゼルについては今回修理対象となっている「DW-5000C」(1983年発売)と「DW-5600C」(1987年発売)に使われていたオリジナルパーツからシリコン製の型を作り、光成形機で1つずつ複製する(バンドは現行品を使用)。
光成形は、透明な型に充填した樹脂素材に対して近赤外線光を照射することで、材料となる樹脂だけを選択的に加熱し、融解させ、成形する技術。
金型を使う「射出成形」との違いは、大規模な設備投資を必要とせず、比較的手軽に部品の製造が行なえる点。一般的にはプロトタイピングなどに用いられているが、カシオ計算機では今回のサービス開始に先立ち、光成形機を用いて、正規品と同じ樹脂素材でパーツを再現する手法を新規に開発している。
素材はウレタン樹脂で、カラーは黒。色埋め色(ベゼル文字部分の色)はグレーのみ。修理対象の2機種はベゼルの形状が共通のため、同じ工程で製作される。なお、対象機種の電池交換後の防水検査は日常生活レベルでの実施となる。
今後同様のサービスを再び実施するかどうか、また別の機種のパーツ作成に対応するかどうかについては「未定」とのこと。
35年前のG-SHOCKが復活。その工程に迫る
サービスの提供開始に先立ち、ベゼルパーツの作製を担当するカシオビジネスサービス内、加工技術課を取材する機会を得たので、ベゼル部分の複製行程を中心にレポートする。
本サービスのうち、ベゼルパーツの作製に関わるスタッフは3名。ベゼルパーツ作製の行程は、大きく分けて「シリコン型の作製」、「ペレット充填」、「光成形」、「冷却」、「仕上げ」の5つ。形成や冷却以外の行程はほぼ手作業であり、1日に20~30個のパーツを作製する。
シリコン型は1つで20個のベゼルパーツを作れるだけの耐久性を持っているが、時には5個作ったところで壊れることもあり、なかなか安定しないという。
また、原料の樹脂ペレットは溶けやすいように通常のペレットより粒を細かくしている。光成形後の冷却時間は約20分。冷却直後のパーツは型から外すときに割れることもあり、シリコン型の耐久性と合わせて、歩留まりは決して良くはないという。
取り外したパーツにはまだ「バリ」が残っており、これを取り除いて形を整えるのが仕上げの行程。バリが外側でなく内側にできるようにする点は「ノウハウ」とのことだ。
取材の際には、カシオ計算機 開発本部 時計開発統括部 品質保証部 品質企画室長の小山睦氏が、本サービス実施の背景について説明した。
「初代G-SHOCKは2018年で発売から35年をむかえ、以前よりパーツの劣化によってベゼルが剥離してしまい、『時計としてはまだ動いているが、外側だけが壊れてしまった』という状態に対処できない状況が続いていました。カシオでは交換部品の問い合わせも多く受けており、折しも35周年という節目を迎えるにあたって、これをある程度解消する目的で、交換サービスの実施に踏み切りました」
以下は小山氏への質疑応答で交わされた質問と回答。
――レストアサービスの提供期間中、修理を行なう数値目標はありますか?
新しい試みということもあり、どのくらいの申込みをいただくのか予想ができないため、特に数値目標は設けていません。
――素材としてウレタン樹脂を採用した理由はなぜですか?
成形加工が比較的簡単で、柔軟で、耐衝撃性を兼ね備えた素材ということで、採用しています。レストアサービスの目的は、お客様がもともとお持ちだったG-SHOCKのベゼル「そのもの」を再現することですので、ウレタン樹脂を選択しました。
我々としてもウレタン樹脂は普段、射出成形で扱っていたので、今回のように「ペレット化して光成形する」というのは初めての試みだったのです。そうした中で、いかにオリジナルの外観と同じように仕上げるか。ある程度安定してパーツを製造できる手法の開発には、2年の年月を要しました。ABSなどほかの材料を使えばもう少し簡単だったかもしれませんが、それでは元々のパーツを再現したことにはならないので、ウレタン樹脂を使うというのはこだわって開発した部分です。
これまでいただいていたG-SHOCKの修理依頼に対して、素材と技術の問題を理由に「対応できない」という結論を出さざるを得なかった歯がゆさが、ようやくある程度解消できるようになったのかなと思っています。
――これまでもらっていた修理に関する問い合わせの件数は、どのくらいだったのでしょうか?
オリジナルの「DW-5000C」と「DW-5600C」に関しては、月に数十件のオーダーでいただいていました。ほかの機種についてもお問い合わせをいただいていますが、そちらはまだ対応できないので、これからの課題として認識しています。
――期間限定で実施するのはなぜですか?
なにぶん手作りですので、オーダーが膨大な数にのぼってしまった場合、処理しきれなくなる可能性を考慮して、期間限定としたのが理由の一つです。
もう一つの理由は、「GMW-B5000」というフルメタルのG-SHOCKが大変好評で、オリジナルの「角型」に特化した戦略を敷いている関係もあって、「35周年に絡めたイベント」という側面もあります。
――オリジナル(DW-5000CとDW-5600C)の金型は残っていない?
サービス対応をする期間中は残していましたが、今回修理対象となった機種はそれを過ぎており、また保存コストや資産価値の問題もあって、現在は残っていません。なので、新たにシリコン型を起こしています。シリコン型にした理由は、作りやすさと、光成形機の光を通すために透明である必要があるからです。
――今回はベゼルパーツだけですが、他製品で使える交換パーツの製造には応用しないのですか?
今のところ、その予定はありません。交換パーツひとつ作るにしても、実は結構難しくて。ご要望が多ければ、検討するかもしれません。
――今回のサービスで利益は見込んでいますか?
手作りということで、職人のアナログな感覚も必要になってくる作り方ですし、コスト度外視というほどではありませんが、「もうけ」はほぼないです。