2014年の初め、MVNOが扱う端末としてはほとんど海外メーカー製しかなかった頃に、国産端末として投入されたSIMフリースマートフォンが、富士通「ARROWS M01」だった。それからおよそ1年半、この10月に後継機種として「arrows M02」が登場した。M01と同様、必要十分なスペックでリーズナブルな価格に抑えた"ミドルレンジ"に位置付けられるSIMフリー端末だ。
10月29日から、家電量販店(コジマ、ソフマップ、ビックカメラ、ピーシーデポコーポレーション、ヤマダ電機、ヨドバシカメラ)で販売されるほか、mineo、NifMo、BIGLOBE、楽天モバイル、DMM mobileという5つのMVNOが取り扱うことも決定していて、一括支払い時の端末本体価格はだいたい3万円前後のところが多い。M01より取り扱い事業者がすでに多くなっており、消費者にとっては大変ありがたいところ。ただ、各MVNOでは他の端末も扱っているし、M02がどんな特徴をもっているのかが気になるところ。
というわけで、M02は一体どんな端末に仕上がっているのか、紹介したいと思う。
5インチでもコンパクトさを感じるミドルレンジスマホ
arrows M02は、MVNO向けの端末として開発されたコストパフォーマンス重視のミドルレンジスマートフォン。キャリアから販売されているハイエンドモデルのような圧倒的性能や、"飛び道具"的な要素は備えていないものの、そこそこの性能と機能、そして国産の安心感を、比較的安価な価格で入手できるのが魅力の端末だ。
具体的なスペックとしては、720×1280ドットの有機ELディスプレイを備えた5インチクラスのAndroid 5.1スマートフォンで、1.2GHzのクアッドコアCPU、2GBのメモリ、16GBのストレージを搭載している。バッテリー容量は2330mAhで、一般的な使い方なら3日間電池がもつとしている。
その電池もちに加え、IPX5/8・IP6X準拠の防水・防じん、さらには米国防総省が装備の導入時に求める耐久基準「MIL規格」の14項目をクリアしており、耐衝撃、耐温度、耐塩水などの面で、ある意味ミドルレンジ"らしくない"タフさを実現しているのもウリだ。
カメラはアウト側が810万画素、イン側が240万画素で、標準のカメラ機能は露出とホワイトバランスの手動調整機能を備えた。外部SDカード(microSDHC 32GBまで)、NFC、おサイフケータイ(一部アプリを除く)、GPS、Bluetooth 4.1(Bluetooth Low Energy)にも対応し、まさに「フツーに使える」端末となっている。
サイズは約141mm×68.9mm×8.9mm、約149gで、筐体は5インチクラスでありながら、狭額縁にするなどして幅を抑えているおかげか片手で握りやすく、コンパクトに感じる。派手な装飾がないシンプルなデザインで、プライベート用だけじゃなく、仕事用として持ち歩いても違和感のない堅実そうなたたずまいが、さらなる安心感につながっているところもありそうだ。
指紋認証や虹彩認証はないが、「顔認証」が可能
歴代arrowsではおなじみの、背面の指紋認証センサーは省かれている。M01の時もそうだったけれど、arrowsシリーズの特徴の1つとも言える指紋認証機能が使えないのは「けっこう痛い!」と思うかもしれない。が、このあたりは考え方次第でもある。
というのも、指紋認証がない分、端末の値段が安価になっているだろうし、Android 5.0以降では通常のパターン認証やパスワード認証以外に、「Smart Lock」という顔や音声、ウェアラブル端末などを用いた認証機能が標準で用意されているので、指紋認証がなくてもある程度高いセキュリティと簡便さを実現できるからだ。
Smart Lockでは、認証用の鍵としてスマートウォッチや特定の"場所"なんかを利用することもできるけれど、やっぱり顔を使った認証(トラステッドフェイス)が個人的にはおすすめ。ロック画面で顔をインカメラで写すだけで認証をクリアできるのが気持ちいい。
ただし、Smart Lockの場合は認証操作を行ったからといって、同時に画面のロックが解除されることはない。認証後、指で画面をフリックしないとホーム画面に切り替わらないので注意しよう。それと、WebサービスなどのIDとパスワードの管理・入力を簡便にするarrowsシリーズの独自ツール「パスワードマネージャー」は、Smart Lockとは連携できない。そういった点では、指紋認証や虹彩認証と違ってひと手間かかってしまうところがSmart Lockの微妙な弱点と言えるかもしれない。
新しいシンプルなホームアプリ「Leaf UI」
M02ならではの要素の1つが「Leaf UI」だ。薄い青緑色のグラデーション背景と、そのシンプルな見た目にマッチする線の細いスタイリッシュなアナログ時計ウィジェットが配置された、おしゃれなホームアプリとなっている。
自分で増やせるスクリーンを左右フリックで切り替えることができ、最も左端のスクリーンにはダイヤルの履歴が表示される。次の2画面分のスクリーンはアプリアイコンやウィジェットを置ける一般的なホーム画面になっていて、最後の右端のスクリーンはインストール済みアプリが並ぶドロワー画面となっている。
ホーム画面や基本的な機能をシームレスにスクリーン切り替えしながら利用できる仕組みで、ドロワー画面ではお気に入りのアプリを"Pin!"で留めることにより、そのお気に入りアプリのみを表示する便利機能もある。シンプルながらも使いやすさにはしっかり配慮しているというわけ。ちなみにLeaf UIはGoogle Playで配布されていて、ドコモのarrows Fitでも利用可能。現時点では他の端末には対応していないが、ぜひとも対応機種を拡大してほしいと思える出来栄えだ。
高速ダウンロードに対応!
もう1つのM02ならではの機能が、「高速ダウンロード」。ARROWS NX F-02Gから搭載され、今やarrowsのフラッグシップシリーズでおなじみとなっているこの高速ダウンロード機能は、Wi-FiとLTEの両方の通信を同時に利用するマルチコネクション機能とともに、ダウンロードファイルを複数分割して同時並行で処理することで、通常より高速にデータをダウンロードできるようにするもの。
M02であればマルチコネクション&高速ダウンロードで、arrows NXと同等の快適な通信を体感できるというわけだ。ミドルレンジ端末ながら、この機能を使えるのはおトクというほかない。
なお、MVNO向けの端末ということもあって、M02ではSIMを挿入して再起動すると、自動でMVNOを判断して適切なAPN設定を適用するようになっている。試しにドコモ系のMVNOのSIMを挿入してみると、手動でAPN設定をすることなく、すぐに通信できた。MVNOを初めて利用するユーザーだけでなく、SIMを頻繁に抜き差しするようなヘビーユーザーにとってもありがたいのではないだろうか。
高機能とまではいかないが、魅力と安心感の大きい国産端末
ここまでM02のポジティブな部分を中心に紹介してきたが、ちょっとだけ残念なところもある。最初の方で説明した通り、おサイフケータイには対応してはいるけれど、今のところ、一部アプリや、iDのようなドコモのサービスと密接に関係にあるアプリは対応していないのが1つ。指紋認証はやっぱり欲しい、と思う人もそれなりにいるかもしれない。また、Wi-Fiが2.4GHz帯のIEEE 802.11b/g/nのみの対応であることにも注意。高速な11acはもちろん、5GHz帯も利用できないので、電波干渉や混雑が懸念されている2.4GHz帯の使用をできる限り避けているという人には難しい判断になるかもしれない。ただ、2.4GHz帯を使って速度が遅くなっても、マルチコネクションや高速ダウンロード機能でカバー、という考え方もできる。
M02はリーズナブルな価格の「フツーに使える」端末であり、Android標準のSmart Lockで高セキュリティと、指紋認証ほどではないけれど使い勝手の良さもきちんと両立している。高速ダウンロードで快適に通信できるうえに、ミドルレンジとは思えない動作のきびきび具合や手への収まりやすさもあって、使っていると自分にしっくりくる"ちょうどよさ"みたいなものをたびたび実感する。何より、MIL規格に対応しているタフさや、おサイフケータイが利用できるなど、純国産端末ならではの安心感はやっぱり大きいものだ。それらに価値を感じるなら、迷わずM02をチョイスすべきだろう。
(日沼諭史)