9月末にドコモの2015〜2016年冬春モデルが発表され、最新・最高のスペックや機能を追求したフラッグシップモデルと並んで、少し性能を落としたミドルレンジ相当のモデルがいくつか投入された。富士通の「arrows Fit F-01H」もその1つだ。
パフォーマンスと価格とのバランスを取ったミドルレンジの流れは、「性能はそこそこでいいから、安価なものが欲しい」というユーザーニーズに応えたもので、最近のちょっとしたトレンドにもなっている。F-01Hは、果たしてどんな端末なのだろうか。手に取った筆者は、思わずそこに"妹らしさ"を感じてしまった。
かわいいけれど、しっかり者で安心
"妹っぽさ"というか、かわいらしさを感じる象徴が、ロゴが「ARROWS」から「arrows」へと小文字に変わり、デザインもシャープな見た目から丸みを帯びた親しみやすいものに変化したこと。NXも含めた端末共通のロゴなので、特にF-01Hに向けたロゴではないはずだけれど、F-01Hのイメージに文字通りフィットしそうな意匠になっている。
F-01Hのサイズは高さ141×幅69×厚さ8.9mmほどで、新しいフラッグシップのarrows NX F-02Hはもちろんのこと、前モデルのF-04Gやその前のF-02Gよりも小さく、軽い。並べて見比べるとさほど変わらないようでも、実際に手に持つとはっきりとそのコンパクトさが分かる。
ディスプレイサイズが5.0インチとそれなりに大きいにもかかわらず、端末自体は大きすぎる感触はない。今まで5インチ超の歴代フラッグシップモデルをメインに使ってきたから、というのもあるかもしれないけれど、側面から背面にかけてのデザインのシンプルさもあいまって、見た目の画面の大きさとは裏腹に、すっと手のひらに収まるよう。
側面の上半分は金属フレーム、背面側の下半分は樹脂素材で、そこに目を引くような装飾は一切ない。オーソドックスなクセのない形状が、かわいらしさを感じさせる理由の1つかもしれない。NXの"妹分"的な雰囲気もそこからきているような気がする。しかしそんな"なり"をしていながら、実は米国国防総省が導入する装備に求められる耐久性能基準、いわゆるMILスペックの14項目をクリアしているというから、意外だ。ディスプレイ表面のガラスはCorning Gorilla Glass 3を採用。背面はウルトラタフガードという特殊なコーティングを施していることで、ボディ全体を傷つきにくくしているのも特徴だ。arrows NX F-02Hも同じようにMILスペックに準拠するなど高い強度をもっているから、耐久性については"兄"ゆずりの部分があると言える。
バッテリー容量は2330mAhと控えめだが、ディスプレイ解像度がHD(720×1280ドット)ということもあって元々の消費電力は少なく、バッテリーは3日間もつとしている。しかも、きちんとおサイフケータイやNFCなどの必須機能も備える。なんとなく"かわいらしい"のに"質実剛健"さも併せ持つ、なんとも頼もしいしっかり者の"妹"ではないか。これなら世のお兄ちゃんもお姉ちゃんも、安心して使えるというものだ。
指紋認証機能やATOK搭載で、効率的に使える
ミドルレンジ端末ということで、フラッグシップモデルに比べれば機能が省かれ気味と思われがちなF-01H。ところが、NXをはじめこれまでの富士通製スマートフォンで鍛え、磨かれてきた数々の機能がそのまま搭載されている。
ハードウェア面では、ARROWS NXなどで代々受け継がれてきた指紋認証機能を使うことができる。背面に設けられた丸い指紋センサーをなぞるだけで、端末のロック解除やWebサービス等のパスワード入力を省略可能だ。
最近では、ドコモのサービス利用時に必要となるdocomo IDを使ったログインも指紋認証だけで行えるようになり、利便性は高まるばかり。新しいNXでは次世代の虹彩認証が標準となっているけれど、指紋認証は長年搭載されてきた方式だけに、機能的に成熟しているのが大きな利点と言えるだろう。
ソフトウェア面では、快適な日本語入力を可能にするキーボードアプリの「Super ATOK ULTIAS」がプリインストールされているのが特徴。変換精度の高さは言うまでもないが、タップミスなどによる誤入力時でも、正しいと思われる候補を提示してくれたり、ネットなどで話題の最新キーワードを効率よく入力可能にする更新型の辞書「キーワードExpress」を利用できたりと、実用性の高い機能が豊富にそろっている。
キーボード入力は、フィーチャーフォンからスマートフォンに乗り換えた際に最も戸惑いやすいとされる機能の代表格。でも、直感的に操作方法を理解しながら文字入力していける「フリック学習モード」が用意されているので、スマートフォンに慣れていないユーザーもスムーズに使い始められるはずだ。
その他、手袋越しでもディスプレイのタッチ操作が可能な「手袋タッチ」機能も用意している。秋になり、冬へと突入していくこれからの季節、手袋が欲しくなる人は多いはず。寒風吹きすさぶ駅のホームで電車を待つ間にも、手袋をしたまま端末を操作できるのはけっこう感動ものだ。
コストを考慮してスペックが大幅に引き下げられることの多いミドルレンジでも、指紋認証、Super ATOK ULTIAS、手袋タッチといった効率良く端末を使えるようにする機能を利用できるのはありがたい限り。これらは"兄貴分"であるこれまでのARROWSシリーズにおける小さな積み重ねの成果、なのかもしれない。
思わずわくわくする、新要素が加わったカメラとディスプレイ
そういった過去の積み重ねからできあがったような、ハイクラスなミドルレンジ端末がF-01Hなわけだけれど、これまでのARROWSシリーズにはあまり見られなかった要素や、新しい機能も盛り込んでいたりして、わくわくしてしまうところがけっこうある。
例えば標準のカメラ機能で、最新のarrows NXと同様に、露出補正とホワイトバランスのマニュアル設定が可能になったのが1つ目のわくわくポイント。Android 4.0以降の従来端末では、誰でも簡単にきれいに写真を撮れるよう、あえて細かなマニュアル設定は省いてきたわけだけれど、今回の変更により、こだわって写真撮影したいユーザーも十分満足できるようになった。
特にホワイトバランスは、全て端末任せにしてしまうとシチュエーションによって微妙に全体の色が赤や青に転んでしまうことがあるので、個人的にもマニュアル設定できるのはすごくうれしい。また、「パーフェクトチューニング」という新しい自動色調整機能も追加され、そのシーンに最適な明るさや色味で、きれいに写真を残せるようになった点にも注目したい。
2つ目は、ディスプレイに発色や視認性に優れた有機ELを採用していること。数年前にはフラッグシップ端末で有機ELディスプレイを使っていた時代もあるが、ここのところは高精細化とコストの兼ね合いからか通常の液晶ディスプレイを採用する例が増え、直近では2014年にSIMフリー端末として登場したARROWS M01(と法人向け端末のARROWS M305/KA4)が有機ELディスプレイを搭載したスマートフォンだった。F-01Hはそれに続く約1年ぶりの有機EL搭載端末ということになる。
この有機ELディスプレイに、最近のARROWSシリーズに加わった直射日光下でも画面を見やすくする「スーパークリアモード」や、従来からある自動色調整機能の「インテリカラー」、年齢に合わせた色合いに自動調整する「あわせるビュー」といった独自機能が組み合わされている。同じ有機ELディスプレイでも過去のものからは確実に進化してきているのだ。
いつもそばに置いておいて、さりげなく使いたい
まとめると、MILスペックというタフ技術、3日間の電池もち、おサイフケータイのような必須機能を詰め込んだ「安心感」と、指紋認証や賢い日本語入力などによる「効率の高い使いこなし」の実現、全くの新しい要素や進化した機能の追加による「わくわく感」といったところがarrows Fit F-01Hの特徴だ。そこには、単純にミッドレンジという枠に収まらない魅力があるように思う。
フラッグシップ機ももちろん気にはなる。けれど、NXがやんちゃな兄貴分だとすれば、その妹分となるarrows Fit F-01Hは、同じ血統を受け継ぎつつも、わきまえ方を熟知している優等生。「もう、お兄ちゃんったらピント速すぎ。6コアだからってそんなに急がなくてもいいじゃない」とか言いながら、自分はマイペースで着実に物事を進めていくようなタイプなのだ。そんな妹を、いつもそばに置いておいて、かわいがりながら、必要な時にさりげなく使いたい。arrows Fit F-01Hは、そう思わせる端末なのである。