シニア向けケータイ「らくらくホン8」を親子で試す
うちには、孫の面倒を見るために定期的に飛行機で上京してきてくれる、"育ばあ"の母がいる。古希だというのに骨密度が20代相当だそうで、疲れ切った40代の私たち夫婦よりあきらかに元気だ。本当に頼もしい。
そんな元気な母はけっこう新し物好きで、当然のようにメールもするしパソコンも使う。しかしなぜかケータイだけは、10年近く前のケータイだ。見た目はそれなりに年季が入っているのだが、それでもまだ一通り使えるそうだ。
ただし、この端末がすごく気に入っているというわけではなく、結果的に使い続けているだけだ。実はこれまで何度も、スマホからくらくホンに機種変更しようとトライしたあげく、うまくいかなかった経緯がある。そんな母がいる我が家で、今回「らくらくホン8 F-08F」(以下、らくらくホン8)を試す機会を得た。いい機会なのでこの母にもいろいろ使ってみてもらい、母からと子ども世代である私世代からの両面からレポートしてみたい。
4年ぶりのリニューアル。らくらくホンセンターもより使いやすく
誰もが一度は耳にしたことがある「らくらくホン」の名称は、ご存じの通りNTTドコモがシニア層やケータイの初心者に向けて提供する端末のブランド名だ。すでに初代が登場してから15年、現在は富士通が開発・製造を行っている。2年前からはAndroidスマホの「らくらくスマートフォン」も登場し、スマホとケータイの2タイプが販売中。今回発売されたらくらくホン8は、2010年以来、4年ぶりに発売された、フィーチャーフォンのほうのらくらくホン新機種だ。
らくらくホン8の「810万画素のカメラ」「防水・防塵」「ワンセグ」など基本的なスペックは、実は旧機種のらくらくホン7とほぼ同じ。ボディのサイズや重さもほとんど変わらない。変化があったのはカメラのCMOSが裏面照射型になり、手ぶれ補正が付いたことで暗い場所での撮影に強くなったことや、緊急時に自動的に登録した先に居場所を知らせる防犯ブザーの搭載などになる。また、色はゴールドとピンクの2色のみ。前モデルの「らくらくホン7 F-09B」が最終的に7色あったことを考えると少ないが、また前モデルと同じように追加していくのかもしれない。
最大の特長のひとつである、電話するとアドバイザーがていねいに使い方を教えてくれる「らくらくホンセンター」は、機能にさらにアクセスしやすくなった。本体下部の「らくらくサイト」ボタンを長押しすると「らくらく検索」が表示され、そこから「らくらくホンセンター」に直接電話できるようになっている。ほかにも「らくらく検索」では、らくらくホン8の操作方法や機能説明を検索することができ、「困ったときのらくらく検索」という位置づけになっている。
母のノートパソコンを買うときにも、わからないことが出てきたときにサポートを使うことは前提で、サポートが充実しているメーカーから探したら結果的に富士通になったのだが、らくらくホンのこのコンシェルジュのようなサービスがあれば、「操作がわからない」という電話がかかってくる機会が減りそうだ。
"両手で操作しやすい"しっかりしたケータイ
さて、では母がらくらくホン8の気に入った点から説明したい。実は最も絶賛していたのは全体的な「使いやすさ」である。らくらくホンは、シニアに使いやすいケータイという強力なコンセプトのもと開発されているだけあって、使いやすい二つ折りケータイのボディに、「3つのワンタッチダイヤルボタン」「十字型のマルチカーソル」「凹凸のある大きめのボタン」といった特長を長年受け継いでいる。
写真で見る限りでは、シンプルな普通のケータイに見えるかもしれないが、実はこのデザインの秀逸さは、両手で使うとはっきりわかる。最初、私はらくらくホン8を手にしたとき、「シニア向けなのに、思ったより大きくてしっかりした作りだなぁ」と思った。なんだか片手で使うには少し大きくて、シニアといっても男性向きなのかしら」と思ったほどだ。
しかし、実際に母が使うシーンを見ていて、あえてそうしているのだと気がついた。というのも、母が左手でしっかり持って、右手の人差し指でボタンをひとつずつ押して操作していたからだ。聞いてみると、ケータイを片手で操作するのは、着信をとるときだけなのだそうだ。そう言われて両手で使ってみると、らくらくホン8の凹凸がはっきりついた大きめのボタンや、キーの間がなるべくあけられたデザインにも納得が行く。むしろそうなっていないと、人差し指でボタンをひとつひとつ押す使い方では、押し間違えてしまう。
また、私が片手でケータイを使うときはほとんどキーは見ずに打つが、母の使い方だと常にキーを確認しながら使うことになる。そのため、テンキーに文字が大きく書いていないと余計にストレスが貯まるそうだ。確かに、非常に健康的なうちの母でさえ視力だけは落ちてメガネは欠かせない。キーに印刷された文字だけでなく、画面の文字もはっきりくっきり見えると高評価だった。また、文字は特に暗いと見えにくくなるそうで、次に押すべきボタンが光って指示してくる「お知らせ光ガイド」もかなり気に入っていた。
そしてらくらくホン8が、10年以上前に発売されたモデルのキー配置を今も踏襲しているのもすごい。「新しい操作を覚えるのが大変」というシニア層でも、ボタンの位置や操作が基本的に変わらないことで、必要なタイミングで機種変更できる。継続は力なり、を地でいくモデルである。
機能面の最大の驚きは「声のクリアさ」
一方で、私が一番驚いたのはらくらくホン8の「通話の声のクリアさ」だった。街中で通話しようとすると、どうしてもまわりの騒音で聞こえづらくなるものだが、らくらくホン8で電話を受けると、まるで耳元ではっきり話されているように聞こえるのだ。これは「スーパーはっきりボイス3」と名称の付いたらくらくホン8の目玉機能のひとつだが、正直、毎日使っているスマホよりも確実にはっきり聞こえることに軽い衝撃を受けてしまった。
保険の代理店をしている知り合いが、ずっとスマホとらくらくホンを2台持ちしていて、「これだと声がよく聞こえる」と言っていたのだが、その効果を自分でもはじめて実感したのだった。通話の内容が重要な仕事なら、これだけ差があると確かに2台持ちしたくなる気持ちもわかる。
また、らくらくホン8から電話をかけるときにも、ボディの表裏にある2つのマイクで騒音を判断し、自動的に騒音だけを低減して自分の声を届けてくれるので、こちらの声も相手にはっきり届けられるほか、相手の声がゆっくり聞こえる「ゆっくりボイス」も搭載。通話をあらゆる面からサポートする機能が搭載されている。
母は粘土人形の作家で教室を持っているのだが、生徒さん自身もシニア層。スケジュールの調整のために電話もメールもよくするのだが、いまだに電話でしか連絡が取れない人も多いそうで、このケータイは聞き間違いもないし、もう一度言ってもらう必要がなくていいと感心していた。母のようにまだまだ通話がメインのユーザーにとっては、これがらくらくホンの大きな利点だろう。
メールを簡単に作成するための工夫が満載
次に、母に質問攻めにされたのが、メールについての疑問だ。確かに普段、母がケータイを使っている様子を見ていて、一番大変そうなのはメールの作成作業で、長文だと1通30分ぐらいかけて書いていることがある。大変な労力だ。これが簡単になる方法はないのか、ということだった。
らくらくホン8のメール作成機能としては、440種類に増えたデコメ絵文字やデコメールなども搭載されているが、そういうことではなく、実際に母が気に入ったのは、もっと単純な作成方法の多彩さの方だった。メールを作成するときは、題名と本文がセットになった例文を利用することで、ほぼ用事が済む。あらかじめよく使う例文を書き出して、家族に登録しておいてもらいたい、むしろワンタッチでメール送信できる機能がほしい、と感想を話していた。
また、たとえば、話すだけでメール作成できる音声入力メールの機能は新鮮だったようだ。別途オプションの利用料金は要るが、マイクに向かって話すだけで入力できるというのは、精神的にもラク。目が悪いと、たとえ短文のメールといえども文字を読んだり打ったりするのは大変なものだ。外出先以外でならこれは便利!と面白がって使ってくれた。iPhoneで音声入力が注目されるずっと以前から、らくらくホンでは定番の機能として定着していることもあるのか、搭載されているATOKの効果なのか、iPhoneよりも日本語を自然に認識してくれて、使ってみても実用レベルだと感じた。
また、メール作成をなんとか簡単にしてもらいたいと説明しているときに、「手書きメモ」の機能も知った。紙に書いた文字を、角度や濃さを調整して、画像として送りやすく自動的に調整してくれる機能だ。キーを打つのは大変だが、手書きのメモなら当然問題ないというシニアも多いはず。文字で送る必要はない、という発想の転換に目からウロコだった。同じシニアでもケータイを使いこなすレベルはいろいろ。使えるものはなんでも使って、コミュニケーションにつなげてくれようとする姿勢を感じる。
音声読み上げに歩数計など独自機能のほか、日常生活に必要な機能が一通りある
らくらくホン8の機能は想像以上に豊富で、説明しきれないほどだ。たとえば、音声読み上げ。母も操作中はずっと使っていた。外出先で使うことが多ければ、音声読み上げをスピーカーではなく受話口から音を出すこともできるし、サイドにある専用のボタンを押せば、必要なときだけ手動で読み上げを行うこともできる。表示と同時に読み上げを開始してくれるので、音声と表示の両方でチェックでき、メールを見間違えたり、電話帳からかける相手を選び間違えたりすることが少なかった。
また、健康管理をサポートする機能も充実し、「歩数計」で歩数を測ったり、「脈拍」まで測ることができる。どの程度の活動量だったかを一日一回、特定の相手にメールするよう設定することもできる。高齢で一人暮らしの親のらくらくホンから、離れて暮らす子どもへ送るよう設定しておけば、見守り機能として使えるだろう。
また、こうしたらくらくホン8ならではの機能のほかにも、もちろん日常生活で必要そうな一通りの機能は揃っている。「らくらくiメニュー」ボタンでアクセスすると、天気やニュース、乗り換え案内、検索などのメニューが並び、ほとんどここで事足りる。もちろん、必要ならiモードのメニューやiアプリの利用もできる。ワンセグにも対応しているので、外出先でちょっと見たい、というときには便利だ。
今回の試用中、「虎ノ門ヒルズ」にはじめて行くためにらくらくホン8だけでいろいろ調べたのだが、行きたい店舗の営業時間や最寄り駅を検索でチェックして、乗り換え方を調べ、今日の天気を見て傘の準備をする......といった作業が問題なくでき、スマホがなくても、本当はこれで十分なのか......と考えてしまった。母親にその話しをしたら、「あたりまえでしょう」と言われてしまった。母としてはこれ以上の機能は要らないそうで、「歩きながら音楽が聴けたり、ラジオが聴けたりした方が楽しいじゃない」と言ってみたものの、「シニアは歩くときは歩くことに集中しないと危ないのよ!」と反論されて、なるほどと深くうなずいてしまった。
やっぱり母には「らくらくホン」が向いている?
実は今回、いろいろなショップでらくらくホンをリサーチしてみたのだが、どこでも言われたのが、「らくらくスマートフォンの方が人気が高いですよ」というセリフだ。画面が広く、直感的に使えるので初心者にとってはそちらの方が実は使いやすいのだと言う。
ただ、以前、母にしばらくスマホを貸し出して使ってもらったときは、慣れれば楽しさに気がついて離れられなくなると目論み、わざわざらくらくスマートフォンのような簡単なメニューにするアプリも入れて渡したのだが、それでも使いづらいという感想だった。また、FacebookやLINEなども、見れば面白いのだが、長いパスワードを何度も入れないといけないのが面倒で使わなくなってしまったそうだ。どのサービスも、しばらくはログイン状態を維持できるが、定期的にパスワードは聞いてくるのでそのわずらわしさは確かにある。そのたびにパスワードを忘れて再設定するのが面倒くさくて、結局サービス自体を使わなくなるのだそうだ。結局、孫とのテレビ電話以外には使わなくなってしまった。よかれと思って勧めても、相手が希望していなければ意味はない。
今回のレビューで実際に使ってみて、らくらくホンの良さを実感しなければ、「なんとなく」のイメージしかないままで終わってしまい、らくらくホンを選んでいなかったかもしれない。しかし今は、母のケータイがいずれ壊れて、いよいよ機種変更を余儀なくされるときには、きっとらくらくホンを選ぶだろうなと確信している。これはもう、2泊3日ぐらいでどんどん検討するユーザーに貸し出した方が魅力が伝わるのではないかと思うほどだ。独自の進化を続けるこのらくらくホンには、今後もこのまま「らくらくホン」らしくいてほしいと心底感じたレビューだった。