第6回 黄色の追加で広がった!? クアトロンの赤やマゼンタの表現力
2011/01/18
クアトロン、第三の効能とは?
従来の赤緑青(RGB)の3原色サブピクセル構造の液晶パネルに対し、黄(Y)のサブピクセルを追加した4原色パネルのクアトロン。ここまでで「4つめの原色として、なぜ黄色を追加したのか」「黄色を追加したことで得られるメリット」といった話題を話してきました。
店頭でも、他のメーカーのテレビにはない、この「黄色」の存在感をアピールしたデモンストレーションが、公開されています。
しかし、実は、クアトロン採用のAQUOSは、なにも黄色だけが凄いわけではありません。
黄色の表現力が向上したため、クアトロンでは、カラーフィルターをチューニングし、緑の原色点をシアン(水色)方向にややシフトしており、実は青緑方向の色ダイナミックレンジも向上しています。
このシアン周辺の発色向上は、クアトロンの黄色に次ぐ、第二の効能としてシャープも強く訴求しています。
では、これ以外の色領域...具体的に言えば、赤やマゼンタ(赤紫)の色再現性は、従来と変わらないのでしょうか。
実は、シャープの技術者達も、クアトロンベースのAQUOSの開発中に驚いたそうなのですが、なんとクアトロンでは、赤やマゼンタの色ダイナミックレンジも拡大していることが分かったのだそうです。
いうなれば、これは、黄色を追加したことによる、クアトロン、第三の効能といったところでしょうか。
赤とマゼンタにも現れたクアトロンの高い階調表現能力
今回、クアトロン採用のAQUOSとしてLC-52LX3の評価機を筆者宅にセットアップし、実際に様々な映像を見て、赤やマゼンタが従来のRGB3原色パネルとどう違って見えるのかを確認してみました。
まずは赤です。
赤の色再現性が上がっている...というと一番思い出すのが、RGB、3色のLEDをバックライトに採用したAQUOS XS1です。あれは確かに鮮烈な赤でした。画調モードによっては、AQUOS XS1の赤は鮮烈すぎましたが、AQUOS LX3はあれほど刺激的ではありません。確かに鋭い発色をしていますが、ナチュラル指向なピュアな赤色をしています。
そして、ただ、漠然と「赤が美しい」のではなく、赤の階調特性が優秀なことに気づかされます。言い換えれば、赤の色ダイナミックレンジが広い。あるいは赤の色深度が深い...と言ってもいいかもしれません。
下は、実際の表示映像をデジカメで撮影したものです。
左がRGB3原色パネルの同世代の他社製液晶テレビ(メーカー名はあえて非公開とします)の映像で、右がクアトロン採用のAQUOS LX3です。共に画調は「標準」とし、ノイズリダクション関係はもちろん、あらゆる高画質化ロジックを全てオフにしました。これは表示映像をなるべく液晶パネルのポテンシャルの違いだけで評価したいがためです。
デジカメで撮影している時点でsRGBに落ち込んでしまうわけですが、デジカメ側で広範囲の色を取得してsRGB領域に再マップするカラーモードを使用することで、色深度の違いを端的に示せるようにしています。
なので、実際の見た目とは異なる点はあらかじめご了承下さい。以下のインプレッションはこの写真を見ながら述べているのではなく、実際の表示映像を見ての解説としますが、この写真でも大体のイメージは伝わると思いますので参考にして下さい。
3原色パネル | クアトロン |
写真は、赤いスポーツカーに木々が映り込んでいる情景です。映り込んだ情景は、鏡像として見えるわけですが、フレネル反射によって赤のボディ色に変調されて見えることになります。つまり、映り込んだ情景の色は"赤寄り"の色になってしまいます。逆に言えば、映り込んだ情景は赤を基調にした階調表現で描写されることになるのです。これを正確に描き出すためには、赤付近の色深度が深くなければなりません。あるいは赤付近の色階調に表現の幅がないとまともに描き出せないということになります。
実際の表示映像を見比べると、この赤いボディに映った鏡像の描写力がまったく違います。クアトロンの方は、映り込んだ情景の各色が赤に変調されつつも的確に描けているのに対し、3原色パネルではかなり大ざっぱになり、色ディテールが大幅に損失して見えます。クアトロンは赤いボディに映り込んだ情景が立体的に見えるほどです。
写真でも、ボンネットに映り込んだ木々の枝と葉っぱの描き分けの正確性や、正面向かって左側のフェンダー部分に映り込んだ木漏れ日の細かなハイライト表現の緻密さに違いが見て取れます。
同様に、マゼンタが多く含まれる映像でもこうした違いが見て取れました。下がそうです。
3原色パネル | クアトロン |
3原色パネルの表示の方が彩度が高く見えるため、一見すると色豊かに感じられますが、実は、この彩度の高いマゼンタが映像の大部分を占めていて、色階調的にはダイナミックさに欠けています。
また、花びらの陰影変化について着目すると、クアトロンの方は、マゼンタの明暗でなだらかの階調を描き出しているのに対し、3原色パネルの表示の方は明暗の変化が急激です。
さらに、花びらの脈筋に着目して下さい。この脈筋は、マゼンタ色の花びらに走る微細な凹凸によって形作られています。血管のように枝分かれして見える筋は、陽光を浴びた、この凹凸の陰影そのものです。この脈筋の凹凸の立体感、いうなれば凹凸の鮮明度は明らかにクアトロンの方がクリアに見えます。これはマゼンタを基調として、明るいマゼンタ、暗いマゼンタの色階調が正確かつ豊富である証拠です。
こうしてみてくると、確かにクアトロンは黄色だけが凄いわけじゃなく、本当に赤やマゼンタの領域の表現力も高くなっているといえそうです。
でも、映像って3原色RGBカラーフィルターベースのカメラで撮影されたものですよね?
「元々の映像が3原色のRGBカラーフィルターを通して撮影されたものなので、4原色パネルの方が色がよい...なんていう議論は無意味なのでは?」...こんな突っ込みをしたくなっている人もいるかもしれません。
しかし、たとえ元の映像が3原色のRGBカラーフィルターで撮影された映像だからといって、表示段階でRGB3原色パネルで表示すれば、過不足なく正確に表示できるとは限りません。例えば、撮影時のRGBのエネルギーバランスが、表示時に的確に再現できるとは限らないからです。というのも液晶パネルの画素とは、バックライトの光を、液晶分子を制御して透過量を調整し、この明暗出力をさらにカラーフィルターに通して発色させますから、良くも悪くもアナログ現象の積み重ねでできています。つまり、RGB3原色で撮影された映像であっても、微妙な色合いの再現を正確に行うためには、むしろ少々オーバースペックなデバイスを用いるくらいがちょうどいいのです。
例えば、「音」の世界でも、同じことが伝統的に行われています。
いくら多ビット・高レートのデジタルサウンドの音源があっても、スピーカーが安物では、その音質は再現できません。高品位なサウンドは、その最終的な出口となる、アナログデバイスであるスピーカーユニットの善し悪しで決まるのです。
(トライゼット西川善司)