「なぜ多原色なのか」「なぜ赤青緑(RGB)に黄色(Y)が追加されたのか」といった話題については前回まででおよそ紹介が終わりました。
しかし、Quattronの長所は「色再現性」や「高画質」にまつわることだけではなく、もう一つ、隠れたポイントがあるんです。「隠れた」というとシャープの開発者には怒られそうですが、実際、あまり取り沙汰されていないので、今回紹介することは、Quattronの「意外な一面」として捉える人も少なくないと思います。
一体なんのことかというと、実は、Quattronの4原色は実は低消費電力性能も優れているんです。
色再現性や高画質の話題は4原色パネルと直結したイメージなので分かりやすかったと思いますが、「4原色が低消費電力」というのはなかなかイメージしにくいかも知れません。
色んな要素が絡み合って結果的に低消費電力に結びついているので、今回ははその要素を1つ1つ紹介していこうと思います。
前回、Quattronで「黄色が選ばれたワケ」を解説しました。
これを簡単に復習しておきましょう。
バックライトに用いた白色LEDが青色+黄色蛍光体でできていたため、その白色光には黄色の純色成分が多めに含まれていました。しかし、赤緑青のRGBの3原色パネルでは、この黄色成分を利用していませんでした。つまり、せっかく発光していた光の一部を捨てていたことになります。
黄色ピクセルを含むQuattronでは、この黄色の光が利用できるため、RGBの3原色パネルよりも光の利用効率が上がります。
光の利用効率の向上はズバリ、直接的にはハイコントラストな映像を作り出すことに貢献しますが、発想を変えれば、「ある明るさの映像を表示しようとしたときに、バックライトの輝度を3原色RGBパネルよりも暗くできる」ということになります。
これが4原色パネルのQuattronが消費電力を抑えられる秘密の1つになります。
前回までにも紹介してきましたが、ある色を表現しようとしたとき、RGB3原色では各RGBの出力具合を一意的に決める必要があります。当たり前ですよね。
しかし、RGBY4原色ではそうなりません。
どうしてでしょうか。わかりやすい例として黄色を挙げましょう。
純度の高い黄色を表現するにはRGB3原色ではRGの全てを最大出力にしなければなりません。ところが、RGBY4原色では(もちろんRGの全てを最大出力にしてもいいですが)、Yだけを最大出力にしても黄色が表現できます。あるいはRGとYの両方をそこそこの出力に留めても、その黄色は表現できるはずです。
つまりRGBY4原色パネルのQuattronでは、ある色を表現するのにRGBYの組み合わせを無数にとれるのです。
この発想を少し推し進めて考えてみましょう。
ならば、ある色を表現するのに、RGBY4原色のQuattronならば、RGB3原色のときよりもバックライトを暗くしていても同じ明るさの同じ色が作り出せるRGBYの組み合わせがあるのではないでしょうか。
実際にそうした色がないか、調査したのが右の図です。
この図で赤と緑で示されている領域が、同じバックライト輝度で、RGB3原色パネルよりも4原色パネルの方が明るかった色領域です。
相当な部分において4原色パネルの方が明るいことが分かりますね。
前段と同じように、逆に考えて、RGB3原色パネルと同程度の明るさでよければ、この図の赤と緑で示されている領域ではバックライトを暗くして発色させても問題がないことになります。
そうです、これも4原色パネルのQuattronの消費電力が抑えられる秘密の1つなのです。
実際に、どの程度消費電力が下がったのかをここ数年の代表的なAQUOSの46インチモデルで比較してみましょう。
消費電力 | 年間消費電力量 | |
---|---|---|
LC-46DS6 | 246W | 200kWh |
LC-46GX5 | 280W | 222kWh |
LC-46SE1 | 133W | 136kWh |
LC-46LX1 | 172W | 150kWh |
LC-46LX3 | 155W | 135kWh |
LC-46LV3 | 175W | 170kWh |
LC-46XF3 | 145W | 133kWh |
なお、各機種は画面サイズこそ同じですが基本機能が異なったりするのであくまで参考程度に受け止めてください。
まず、LC-46DS6とLC-46GX5は白色LEDバックライトではなく、冷陰極蛍光管(CCFL:Cold Cathode Fluorescent Lamp)採用機です。LC-46SE1やLC-46LX1からは白色LEDバックライトモデルになります。CCFL機と白色LED機の2グループを比較すると消費電力が40%以上も小さくなっていることが分かります。
この強烈なまでの消費電力低下は、実は白色LEDの恩恵だけでなく、シャープの新しい液晶パネル製造技術であるUV2A技術が大きく貢献しています。
UV2A技術に付いては、筆者の過去のUV2A詳解記事を参考にして欲しいのですが、ここでも簡単に解説しておきましょう。
これはシャープが世界で初めて実用化した光配向技術を用いることで、液晶パネルにリブやスリットなどの遮蔽物となってしまう部位を形成せずとも液晶分子を自在に配向制御させるられる技術です。要するに各画素の仕切り筋が徹底的に排除されたと言うことです。このため、各画素はバックライトからの光をロスなくより明るく発光できるようになったのです。この"光の通し具合"を開口率といいますが、従来のシャープのASVパネルとUV2Aパネルとでは、同画素サイズで比較してUV2Aパネルの方が20%以上も開口率が高くなっているとのことです。これがLC-46SE1やLC-46LX1などのUV2Aパネル採用機の消費電力低下に貢献しているんですね。
LC-46LX3,LC-46LV3,LC-46XF3はQuattron採用機になります。ちなみに、QuattronもUV2A技術によって製造されていますが、20%以上向上したという開口率向上分は、黄色画素の割り当てに用いられています。しかし、前段までで述べたQuattronの2つの消費電力を抑える秘密が功を奏し、LC-46SE1,LC-46LX1に肩を並べるほどの低消費電力が達成できています。
LC-46LV3は立体視対応モデルなので他2機種よりも若干消費電力が大きいですが、それでもCCFL機と比較すれば30%以上も低消費電力です。LC-46LX3,LC-46XF3は消費電力こそLC-46SE1よりも少しだけ大きいですが、年間消費電力量はLC-46SE1を下回ります。
従来、薄型テレビの上級機や高画質モデルは消費電力が大きいというイメージがありましたが、Quattronパネル採用機やUV2Aパネル採用機ならば、立派に省エネを実現できるモデルなのです。
(トライゼット西川善司)
※参考文献「色彩光学」(太田登著,電機大出版局)
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