国内では市場の半数を超えるところまで普及したスマートフォンだが、裏を返せば、おそらくまだ40%前後のユーザーがケータイを利用していることになる一方で、そのケータイについても、外観デザインやボタンキーなどの操作上は同じでも、中身は「新世代ケータイ」ともいうべき、新しいプラットフォームを利用したモデルへの置き換えが進行している。
そうした「新世代ケータイ」に分類される「AQUOSケータイ SH-N01」はMVNO各社でも利用できるSIMフリーケータイとして発売された。実機を見ながらその内容をチェックしてみよう。
AQUOS ケータイ SH-N01
ケータイから新世代ケータイへ
今から約10年ほど前、国内の携帯電話市場は高機能なケータイ、多彩なコンテンツサービスと共に、世界に例を見ないほど高度なモバイルインターネットサービスの利用環境が提供されていた。しかし、このわずか7~8年の間で、市場は一気にスマートフォンにシフト。現在、スマートフォンを利用しているユーザーの多くが今やスマートフォンなしでは生活も仕事も成り立たないと考えるほど、欠かせない存在になりつつある。
対するケータイはどのようになったか。本誌読者ならよくご存知のように、スマートフォンと入れ替わるようにして、徐々に従来型のケータイの機種数は少なくなり、提供されるコンテンツサービスも終了するものが増えてきている。そして、昨年12月にはNTTドコモがいよいよiモード端末の出荷終了をアナウンスし、将来的なサービス終了へ向けて動き出したという印象だ。こうした背景には、端末を構成する部品の生産が終了したり、OSなどのソフトウェアの開発やメンテナンスが終了しはじめていることがある。つまり、従来型ケータイを作りたくてもすでに作ることが難しい状況になりつつあるわけだ。
しかし、現時点でも約4割近くのユーザーは従来型のケータイを利用しており、このうち半数近くは今後もフィーチャーフォンを使い続けたいと考えているという。スマートフォンに移行して何年も経つユーザーにしてみれば、「スマートフォンに乗り換えればよいのでは」と考えるかもしれないが、現在のフィーチャーフォンのユーザーは利用中の端末に対する満足度も高く、今後も慣れ親しんだフィーチャーフォンを使い続けたい、乗り換えるのであれば同様のものを使いたい、と考えているそうだ。
こうした状況に対し、シャープでは従来型ケータイに代わるものとして、新しいプラットフォームを採用したフィーチャーフォンをいち早く開発し、各携帯電話会社向けに供給してきた。先陣を切ったのは2015年2月発売のau向けの「AQUOS K SHF31」だが、昨年7月にはau向けに「AQUOS K SHF33」、同年10月にはNTTドコモ向けに「AQUOS ケータイ SH-01J」、ソフトバンク向けに「AQUOS ケータイ2」の供給を開始し、主要3社それぞれのLTEネットワークに対応した新プラットフォームケータイを展開し始めている。
この『新世代ケータイ』とも呼べる新しいプラットフォームを採用したケータイは、Google Playからアプリを追加することはできず、スマートフォンのような使い方はできないが、その反面、ウイルスやマルウェアといったセキュリティ面のリスクを最小限に抑えることができるため、リテラシーの高くないユーザーでも安心して使うことができる。
また、スマートフォンのようにアプリによるバックグラウンドでの自動通信を基本的に行なわない設定で出荷されているため、データ通信量を節約できるうえ、バッテリーの消費も抑えることができる。さらにWi-Fiにも対応しているため、外出先では公衆無線LANサービス、自宅ではブロードバンド回線経由での高速通信も利用でき、自宅でのデータ通信量を節約できる。Wi-Fiはテザリングにも利用できるため、タブレットやパソコンなどと接続して利用することも可能だ。
ハードウェアについては、CPUにスマートフォンでおなじみの米Qualcomm製Snapdragonを搭載し、カメラモジュールなどもスマートフォンで実績のあるデバイスやソフトウェアを採用するなど、現在のスマートフォンのテクノロジーを上手に活かしながら、開発されている。ボディはフィーチャーフォンではおなじみの折りたたみデザインを採用し、ボタン類も従来型ケータイと同じ形状、同じデザインを踏襲している。
こうした特徴を持つ新世代のAQUOS ケータイだが、昨年12月にはいよいよMVNO各社のサービスで利用できるSIMフリー端末「AQUOS ケータイ SH-N01」(以下SH-N01)が発売された。基本的な仕様は主要3社向けの新世代ケータイと同じだが、SIMロックがかけられていないため、MVNO各社が提供するSIMカードと組み合わせることで、安価な料金で利用できる。主要3社も新世代ケータイ向けに、従来よりも割安な料金プランを提案しており、そちらも魅力的だが、より割安に使いたい、自由に利用したいというユーザーには、SIMフリーのSH-N01は待望の一台というわけだ。
SIMフリーなので、好きなキャリアやMVNOのSIMカードを使用できる
見やすいディスプレイに、なめらかな表示
さて、SIMフリー端末として発売された「SH-N01」は、どういう仕上がりなのだろうか。実際の製品を見ながら、チェックしていこう。
まず、本体はスタンダードな折りたたみデザインを採用し、ヒンジ部分の左側面に備えられたボタンを押すと、ワンプッシュで本体を開くことができるクイックオープンを搭載する。かつて、ケータイ時代にもワンプッシュで本体を開くことができる折りたたみデザインが高い人気を集めたが、ほぼ同じ機構が搭載されており、同じように使うことができる。着信時に本体をすぐに開いて応答できるのはよく知られているが、開閉時にネイルなどを傷つける心配がないことから、女性ユーザーにも支持されている。
一部の人にはとても懐かしい、ワンプッシュで本体を開くクイックオープン
本体の右側面にはサイドキー、左側面には同梱される卓上ホルダで利用する充電端子、ストラップ取り付け口を備える。ストラップは背面カバーを取りはずし、ストラップ取り付け口の穴からストラップを通し、内側の突起に引っかける構造を採用する。サイドキーは本体を閉じた状態で長押しすると、マナーモードのON/OFFを切り替えることができるほか、本体を開いた状態では最近使ったアプリの履歴を表示することができる。
底面側には充電や他の機器との接続に利用するキャップレス防水対応のmicroUSB外部接続端子を備える。背面には後述する800万画素カメラ、赤外線通信に利用する赤外線ポートを備える。
大画面のスマートフォンに慣れていると、おそろしくコンパクトに感じるボディ
ディスプレイは540×960ドット表示が可能なQHD対応TFTカラー液晶を採用する。かつてのケータイでは480×854ドット表示が可能なフルワイドVGA対応が多かったが、それよりもさらに高精細な表示が可能で、文字などもなめらかな輪郭で非常に読みやすい。発色についてもスマートフォンAQUOSでも採用されている「PureLED」を搭載しているため、明るく自然な色合いで表示することが可能だ。また、従来型のケータイから現在のスマートフォンAQUOSにも継承され、隠れた人気機能のひとつと言われる「ベールビュー」にも対応しており、周囲の人からのぞき見ができないように表示を切り替えることができる。のぞき見防止については[設定]-[壁紙・ディスプレイ]-[のぞき見防止]で切り替えられるが、ワンタッチで切り替えたいときは、後述するクイック起動キーに割り当てておくと使いやすい。
画面は高解像度で、写真は高精細、文字もなめらかに表示
ボタンは中央上に方向キーと決定キー、左上に電話帳キー、左下にメールキー、右上にカメラキー、右下にブラウザキーを備える。その下の段には従来型のケータイと同じように、発話キー、クリアキー、電源/終了キーを備える。ダイヤルキーはキートップがわずかに突起した押しやすい形状を採用しており、しっかりとした押し感もあり、使いやすい印象だ。[#]キーの長押しでのマナーモード切り替えなども継承されている。こうしたキーレイアウトや押し感などは、各携帯電話会社向けに従来型ケータイを供給してきたノウハウがそのまま活かされており、安心して使うことができる。
ダイヤルキーの下には[I][II][III]の文字が表示されたクイック起動キーが備えられている。クイック起動キーはよく使う連絡先や機能などを登録しておくことができるもので、短押しと長押しで3つずつ、合計6つの項目を割り当てておくことができる。たとえば、前述ののぞき見防止は「機能を直接起動する」で、長押しなどに割り当てておくと、交通機関などを利用するときにすぐに切り替えられるので便利だ。
キートップのわずかに山型になっている形状が押しやすい
カメラは800万画素の裏面照射型CMOSイメージセンサーによるものを背面に備えるが、スマートフォンAQUOSで培われた最新のカメラ機能が継承されており、従来型ケータイよりも楽しく撮影することができる。たとえば、撮影時の機能として、「人物」「夜景人物」「風景」「夜景」「料理」など、撮影シーンに合わせた最適な設定が選べる「撮影モード」、明暗差が激しい逆光時の撮影に便利な「HDR」静止画撮影、撮影した場所を記録しておくことができる「自動位置情報付加」、振り向いたときや笑顔のときに撮影できる「シャッターモード」など、多彩な機能で撮影できる。撮影した写真は本体メモリー、もしくは別売のmicroSDメモリーカード(最大32GB)に記録することができるほか、メールに添付したり、赤外線通信やBluetoothで送信することができる。
800万画素の裏面照射型CMOSセンサー搭載カメラ。その画質はスマートフォンAQUOS譲り
多彩な撮影モードを用意
最短撮影距離も短く、ここまで寄れる。カーソルで選択した任意の位置にフォーカスを合わせることも可能
使いやすさを考えた豊富な機能
新しいプラットフォームを利用した新世代ケータイのSIMフリー端末「SH-N01」だが、使いやすさを考えた豊富な機能も搭載されている。
たとえば、従来型のケータイからの移行を検討しているユーザーからは、音声通話の使いやすさを重視する声が多く聞かれる。SH-N01はディスプレイの上側に備えられたレシーバーに「デカ音レシーバー」を採用し、各社のVoLTEにも対応する。デカ音レシーバーは約2年前の従来型のケータイに比べ、約1.5倍の音圧レベルを実現しており、小さな声もハッキリ聞こえ、明瞭感も向上している。VoLTE対応については利用するMVNO各社の対応にもよるが、3G通話時の音域が300Hz~3.4kHzの範囲であるのに対し、VoLTEでは200Hz~6.3kHzの範囲の音域が実現されている。特に、高い音の範囲が大幅に拡大しているため、通話時の明瞭さが非常にハッキリする。ちなみに、今回はNTTドコモのネットワークを利用するMVNOのSIMカードを装着し、NTTドコモのスマートフォンと通話してみたが、VoLTEによる高音質の通話をすることができた。ちなみに、SH-N01では通話中に左方向キーを押すことで、周囲のノイズを測定して、自分の声を明瞭にして相手に伝える「くっきりトーク」も利用できるため、VoLTEではない相手ともクリアに通話することができる。
デカ音レシーバー
また、通話については、MVNO各社で標準的な音声通話プランを選んだ場合、30秒あたり20円の通話料がかかるが、最近では各社が中継サービスによる通話料割引サービスや5分かけ放題などのオプションサービスを提供している。これらは相手の電話番号の前に、専用番号を付加するプレフィックス型通話サービスだが、SH-N01にはあらかじめ必要なプリフィックスを登録可能な「プレフィックスダイヤル登録」という機能が用意されており、設定の[電話機能]-[通話設定]-[プレフィックス設定]で設定することができる。
本体ではブラウザでのWebページ閲覧、メールの送受信などが利用できるが、スマートフォンに比べると、ディスプレイのサイズが限られているため、表示する内容によっては少し見えにくいケースも考えられる。そこで便利なのが「拡大鏡」だ。前述のクイック起動キーの登録メニューで「機能を直接起動する」から「拡大鏡」を登録しておくと、ブラウザでWebページを閲覧中、特定の部分を拡大表示することができる。
ボタン一発で起動できる拡大鏡は便利
データ通信については本体でのUSB、Wi-Fi、Bluetoothによるテザリングにも対応する。外出先でタブレットやパソコンなどを利用するとき、モバイルWi-Fiルーターを持ち歩いたり、別途、データ通信SIMカードを用意するケースもあるが、普段、利用しているケータイでテザリングが利用できるのは手軽であり、十分に実用性もある。ちなみに、他の機器との連携については、スマートフォンAQUOSやAQUOS PADなどにも搭載され、注目を集めた「PASSNOW」にも対応する。たとえば、AQUOS ケータイへの着信やメールの通知をタブレットやスマートフォンに通知したり、タブレットでお店の情報などを調べて、そこに書かれている電話番号にAQUOS ケータイで電話をかけるといった連動ができる。AQUOS ケータイで撮った写真をタブレットに転送したり、タブレット側からAQUOS ケータイのテザリングをON/OFFするといった使い方ができる。
Wi-Fiテザリングもボタン一発でオンに。このあたりはスマートフォンの操作よりも数段ラクだ
SH-N01のようなフィーチャーフォンは、シニア世代以上のユーザーが高い関心を持っているが、なかには若い世代のユーザーが自分たちの親に持たせる端末として、選ぶことも多い。しかし、離れて暮らしていたりすると、お互いの生活時間帯の違いなどから、なかなか連絡ができないといったことが起こり得る。そんなとき、SH-N01の「家族あんしん通知」を設定しておくと、設定時刻になると、SMSで端末の利用状況を伝えることができる。送信先は3件までで、送信時刻は3回まで登録することができる。送信内容は本体に内蔵された歩数計で計測した歩数、本体を開いた回数、電池残量、電話発着信回数、通話時間で、SMSを受け取った側はこれらを見ることで、問題なく利用できているかなどの状況を知ることができる。
この他にも音楽再生やカレンダー、メモ帳、電卓、他機種から移行するときのデータ引継など、便利で実用的な機能が揃っており、幅広いユーザーのニーズに応えられるモデルとして仕上げられている。
ケータイの手軽さを最新の環境で実現したSH-N01
スマートフォンが主流となった国内の携帯電話市場だが、まだケータイを愛用し続けている人も多く、相変わらず堅調な支持を受けている。しかし、従来型のケータイはすでに終息に向かって動き出しており、そう遠くない時期に乗り換えなければならないユーザーが増えそうな状況だ。そんなユーザーに対する答えとなるのが新しいプラットフォームで開発された新世代ケータイの「AQUOS ケータイSH-N01」だ。従来のケータイで支持されてきた機能、培われてきた使いやすさ、手軽さ、便利さなどを継承しながら、最新の環境で実現することにより、まさに新しい時代のためのケータイとして進化を遂げている。NTTドコモのネットワークを利用するMVNO各社のサービスで利用できるSIMフリー端末であり、各社の安価なプランで利用することが可能だ。ケータイからの移行ユーザーはもちろん、すでにスマートフォンやタブレットを利用しているユーザーの2台持ち、スマートフォンから戻るUターンユーザーなど、さまざまなユーザーのニーズに応えられる期待の一台と言えるだろう。ぜひ、店頭で実機を手に取り、その仕上がりを体験していただきたい。
執筆: 法林岳之
1963年神奈川県出身。携帯電話やスマートフォンをはじめ、パソコン関連の解説記事や製品試用レポートなどを執筆。主な著書は「できるゼロからはじめる Windows タブレット超入門 ウィンドウズ 10 対応」、「できるゼロからはじめるパソコン超入門 ウィンドウズ 10 対応」、「できるゼロからはじめるタブレット超入門 Android 4対応」、「できる Windows 10」など、数多く執筆。Impress Watch Videoで「法林岳之のケータイしようぜ!!」も配信中。ホームページはこちら。