タブレットが拡げるモバイルの可能性
「モバイル」という利用スタイルは、時代と共に大きく変化してきた。ここ10年ほどでノートパソコン、PDA、ネットブックなどのモバイルデバイスが登場してきたが、数年前からはモバイルの主役は完全にスマートフォンに移行した。
はじめてスマートフォンを買う人の「スマートフォンがあれば、パソコンがなくても……」といった言葉をよく耳にするが、その可否は別にして、「パソコンがなくてもパソコンと同じようなことがしたい」「外出先でもパソコンと同じようにインターネットが使いたい」という期待は明確に表われている。確かに、十分な進化を遂げた現在のスマートフォンは、こうしたユーザーの期待に応えられるだけのポテンシャルを十分に持っている。
その一方で、モバイルの可能性をより拡げられる「タブレット」にも注目が集まっている。より大きな画面と大容量バッテリーを搭載し、スマートフォンよりもロングライフに楽しめるという特長を持つタブレットは、映像コンテンツサービスを大画面で視聴したり、新聞や電子書籍、コミックなどのコンテンツを読んだりすることが多い。これらに加え、ビジネス用途でオフィス文書などを閲覧したり、パーソナルユースでもパソコンの代わりに活用できるなど、幅広いシチュエーションで活用することができる。
現在のタブレットは7〜8インチクラスと9〜11インチクラスが主流と言われているが、国内では前者に対するニーズが高い。やはり移動手段として、鉄道などの公共交通機関を利用する日本のユーザーにとっては、7〜8インチのタブレットの方がポータビリティに優れ、ビジネスユーザーも気軽にパソコンの代わりに持ち歩くことができる。ただ、このクラスのタブレットもまだ日本のユーザーのニーズにしっかりと応えられる製品はそれほど多くなく、「もっと使える7インチクラスのタブレットが欲しい」という声もよく聞かれる。
今回、NTTドコモから発売されるシャープ製タブレット「AQUOS PAD SH-06F」(以下、SH-06F)は、約7.0インチのIGZO液晶ディスプレイを採用したモデルで、昨年発売された「AQUOS PAD SH-08E」(以下、SH-08E)の後継モデルに位置付けられる。しかし、その外見はひと目見てもわかるように、ガラッとデザインが一新され、今までのタブレットとは明らかに違う存在感を持つ。
なかでも印象的なのが本体の上と左右の額縁を極限まで狭くした三辺狭額縁による「EDGEST」デザインだ。迫力ある大画面でありながら、非常にコンパクトで持ちやすい形状に仕上げられている。昨年、海外などではスマートフォンとタブレットの中間に位置付けられる「ファブレット」が話題になったが、SH-06Fはそれらと比べてもまったく遜色のないレベルのサイズ感だ。ちなみに、「EDGEST」デザインを採用したシャープ製スマートフォンは、すでに各事業者向けに供給され、今夏はNTTドコモからも「AQUOS ZETA SH-04F」が発売され、各方面で高い評価を得ているが、SH-06Fはそのポテンシャルを7インチクラスのタブレットで実現したモデルということになる。
新書並みのサイズで世界最軽量約233gを実現
ところで、読者のみなさんが普段、使っているスマートフォンは、どれくらいの重さなのかを意識したことがあるだろうか。現在、国内で販売されているハイエンドクラスのスマートフォンは約150g前後が多いと言われている。これに対し、7インチクラスのディスプレイを搭載したタブレットは、ほとんどのモデルが約350g前後で、比較的軽いと言われるモデルでもようやく300g前後という仕様だ。これに対し、SH-06Fはわずか約233gに仕上げられている。これは7インチ以上のディスプレイを搭載したLTE対応タブレットでは世界最軽量であり、従来モデルのSH-08Eと比較しても約50g程度の軽量化を実現している。
そして、もうひとつ注目すべきは、三辺狭額縁の「EDGEST」デザインにより、ボディサイズが非常にコンパクトにまとめられていることだ。同じ約7.0インチのディスプレイを搭載した従来モデルのSH-08Eが幅約107mm、高さ約190mmだったのに対し、SH-06Fは幅は1mm減の約106mm、高さは約15mm減の175mmに抑えられている。本体前面の内、画面が占める割合はSH-08Eの約72%に対し、SH-06Fでは画面占有率が約81%になっている。
前モデル「SH-08E」と比べて、画面サイズそのままで大幅なスリム化
筆者は個人的にSH-08Eをよく利用していたが、新しいSH-06Fを手にすると、ひと回り小さくなった印象を受けると同時に、同じ約7.0インチでも「EDGEST」デザインでまとめられたことで一段と画面の迫力が増し、まるでディスプレイのみを手にしているような錯覚を受けてしまうほどだ。ちなみに、ボディそのものの大きさとしては一般的な新書判の書籍に近いサイズであり、カバンの中に入れておいてもかさばるような印象はまったくない。
また、ボディデザインも従来モデルから変更されている。従来はフラットなボディの背面に曲線をあしらったデザインだったが、今回のSH-06FはAQUOS ZETA SH-04Fと同じヘキサグリップシェイプが採用されており、正面と背面から側面方向に向けて少し斜めにカットしたような構造で、非常に持ちやすく仕上げられている。ボディの厚みが約8.4mm、最厚部でも約8.7mmに抑えられていることもあり、手に持ったときの印象が従来モデルや他のタブレットとは大きく違う。
新書版書籍に近いサイズ感で、片手でわしづかみも可能
背面はフラット、側面は六角形状にカットされた「ヘキサグリップシェイプ」で持ちやすい
ボディは8.4mmと薄い
ズボンのポケットにも入ってしまう
デザイン面では背面が光沢感のあるクリアパネルで仕上げられているが、ボディカラーがホワイトということもあり、指紋の跡などはほとんど目立たない。デザイン上のアクセントとなっているのは、ヘキサグリップシェイプのボディ周囲のラインと側面に備えられたサイドキー(音量キー)と電源ボタンだ。下面にはキャップレス防水のmicroUSB外部接続端子、上面には3.5φのステレオイヤホン端子、キャップ付きのmicroSDメモリーカード/ドコモmicroUIMカードスロット、左角にはフルセグ/ワンセグ/モバキャス(NOTTV)用の伸縮アンテナが格納されている。レイアウト的に少し変わっているのは、本体前面のカメラで三辺狭額縁を実現する関係上、一般的な上側ではなく、下側に備えられている。ただし、自分撮りのときなどには上下逆に持つと撮影しやすい旨のガイドも表示されるので、戸惑うことはない。
サイドキーがアクセントに
タブレットだからこそ大切な省電力性能
ところで、AQUOS PADに限った話ではないが、一般的にタブレットはボディがスマートフォンよりも大きく、大容量のバッテリーが搭載できるため、ロングライフであるという認識が持たれている。確かに、スマートフォンに比べればロングライフを実現しているが、実は同クラスのディスプレイを搭載したタブレット同士で比較すると、意外なほど製品間の差は大きい。
たとえば、今回のSH-06Fを7インチクラスのAndroidタブレットの定番として扱われている商品といっしょにカバンに入れ、1日持ち歩いてみると、片方は電池残量が半分以下になっているのに対し、SH-06Fは1/3も減っていないといったことが起きる。今回は試用期間が限られていたため、ベンチマークなどでの計測はしていないが、明らかに実使用時間に差があるという印象だ。
タブレットの場合、スマートフォンよりもディスプレイサイズが大きいため、その分、実際にユーザーが操作するときはバックライトの光量を明るくする必要があり、ディスプレイを含めた総合的な省電力性能が実使用時間を大きく左右する。その点、SH-06Fは省電力性能に優れたIGZO液晶ディスプレイを採用し、一般的なAndroidタブレットよりもロングライフが実現できているというわけだ。
大画面・高精細でも省電力なのはIGZOのおかげだ
ちなみに、SH-06Fは従来モデルと同じ4200mAhの大容量バッテリーが内蔵されており、NTTドコモが計測する実使用時間は約117.0時間 を達成している。さらにシャープがAndroidスマートフォンで実績を積み上げてきた「エコ技」を使用すれば、さらに長い使用にも耐える。充電についてはNTTドコモが夏モデルから採用している「急速充電2」に対応し、別売の「ACアダプタ05」を利用することで、短時間の充電を可能にする。朝のおでかけ前のちょっとした空き時間にすぐに充電できるわけだ。
microUSB端子はキャップレス。急速充電2にも対応
SH-06Fに採用されているIGZO液晶ディスプレイの高い省電力性能については、AQUOS ZETAなどのスマートフォンでも述べられてきたことなので、ここでは詳しく説明しないが、IGZOは「インジウム(In)」「ガリウム(Ga)」「亜鉛(Zn)」「酸素(O)」で構成される酸化化合物で、「IGZO液晶ディスプレイ」はこれを液晶ディスプレイのTFT(薄膜トランジスタ)などに活かして、液晶パネルが作られている。一般的なアモルファスシリコンを使った液晶パネルに比べバックライトの透過率が高く、その分、バックライトの発光を適切な明るさに抑えることが可能だ。同時に、一般的な液晶パネルが毎秒60回の書き換え動作をするのに対し、IGZO液晶ディスプレイは静止画で毎秒1回、動画も30fpsであれば、半分の書き換え動作で済むため、これも省電力性能に効いてくる。こうした要素の積み重ねがSH-06Fの高い省電力性能を実現しているわけだ。
今回のSH-06Fに採用されているIGZO液晶ディスプレイは、「PureLED(ピュアレッド)」と呼ばれる新開発のバックライトLEDを採用し、これに映像リアリティエンジンの「FEEL artist」を組み合わせることで、色鮮やかな色彩表現を実現している。特に、人肌などの色合いを左右する赤色系の発色が改良されており、自然な美しさを再現することが可能だ。NTTドコモが提供するdビデオなどで映画やドラマといった映像コンテンツを視聴するときにも有効というわけだ。
タブレットを超える実用性
タブレットに対するニーズは、ユーザーによってさまざまだが、SH-06Fは幅広いユーザーのニーズに応えられるように実用的な機能を数多く搭載している。
まず、他のタブレットにはあまりない特徴的な機能として、音声通話が挙げられる。SH-06Fには高音質のダイナミックレシーバーが搭載されており、普段スマートフォンを利用しているときと同じように、端末を顔のそばに持っていけば、普通に音声通話が利用できる。昨年のAQUOS PAD SH-08Eでも音声通話がサポートされていて、たいへん好評だったこともあり、今回のモデルにも受け継いだ形になるが、SH-06Fは従来モデルに比べ、ひと回りボディがコンパクトにまとめられているため、顔の近くに持ってきてスマートフォンと同じように通話をしてもそれほど違和感がない。
スマートフォンのように耳に当てて通話が可能
ちなみに、国内で販売されているタブレットの多くは、データ通信のみをサポートする製品が多い。コンテンツ閲覧やアプリの利用が目的であればそれで十分だが、ビジネスユースで考えると、スマートフォンの電池残量が厳しくなったとき、ピンチヒッター的にタブレットで通話ができるのは意外にうれしい。サブの電話番号として活用するという手も考えられる。特に、NTTドコモの場合、今回の新料金プランで国内の音声通話が定額で利用できるうえ、SH-06FはLTEネットワークで音声信号を伝送し、高音質な音声通話を可能にする「VoLTE」の対応機種でもあり、音声通話が利用できるメリットはかなり大きい。
また、これも従来から継承された機能だが、手書きメモアプリの「書(かく)」ノートが搭載されており、画面最下段のペンのアイコンをタップすれば、いつでも手書きでメモを取ることができる。オプションで用意されている「スタイラスペン SH02」を利用すれば、より精細な入力も可能だ。オフィスアプリも標準で搭載されており、別売のBluetoothキーボードを組み合わせることで、仕事の文書作成やちょっとした校正もすぐに対応できる。
ペン先が細い専用スタイラスで、メモや画像への書き込みができる
ちなみに、これだけ画面サイズが大きいと、周囲からののぞき見が気になるところだが、シャープ製端末ではおなじみのベールビュー(のぞき見ブロック)がサポートされており、ステータスパネルからベールビューをONに切り替えるか、本体上部の近接センサー付近を手で覆えば、すぐにのぞき見防止の状態に切り替えることができる。仕事の文書などを扱うときにも安心して使えるわけだ。
カメラは背面に約800万画素、前面に約210万画素のいずれも裏面照射型CMOSイメージセンサーによるカメラを搭載する。前面の210万画素カメラが自分撮りやビデオチャットに有効であることは説明するまでもないが、背面の800万画素カメラも機能的にはスマートフォンに近いものが搭載されている。NAVITIMEアプリと組み合わせて利用するが、街でカメラをかざして、周囲にある駅やカフェなどの情報をファインダー内に映し出す「周辺ファインダー」という連携機能も利用できる。
スマートフォンと同様の機能を持つカメラ
カメラ本来の撮影機能としては、夜景などをバックに人物を撮るときに有効な「NightCatch II」、シャッターボタンを押しっぱなしで連続写真を撮影できる「押しっぱなし連写」、撮りたいシーンに合わせ、ファインダー内にガイドやメッセージを表示して、誰でもバランスの取れた写真が撮影できる「フレーミングアドバイザー」などの機能が搭載されている。そして、AQUOS ZETA SH-04Fにも搭載され、かなり楽しめる印象を持った全天球撮影もサポートする。全天球撮影は自分の周囲の写真を連続的に撮り、それを合成して、つなぎ合わせることで、360度パノラマ写真を撮れるというものだ。撮影した写真を再生すると、ちょうどGoogleストリートビューのような映像を楽しむことができる。特にSH-06Fの場合、画面サイズが約7.0インチと大きく迫力があるため、スマートフォンで楽しんだとき以上に楽しめる印象だ。
そして、これからのシーズンにエンターテインメントとして欠かせないテレビ機能は、フルセグ/ワンセグ/モバキャス(NOTTV)に対応しており、基本的には本体内蔵の伸縮式アンテナを伸ばせば視聴できる。音響もAV機器などにも採用されているDTS Soundに対応しており、臨場感のあるサウンドで映像を楽しめる。フルセグについては録画にも対応するほか、データ放送にも対応しており、スポーツの試合などを視聴中、選手の情報をチェックしたり、データ放送のみで提供される双方向コンテンツなども楽しむことができる。ちなみに、SH-06Fのパッケージには本体と家庭用テレビアンテナケーブルを接続するためのUSB同軸変換ケーブルが付属しており、自宅などで安定した視聴を楽しみたいときに役に立つ。
アンテナ内蔵で、テレビ放送を楽しめる
このほかにも音楽再生やNTTドコモが提供する多彩なコンテンツを楽しむことができるうえ、おサイフケータイや防水といった実用機能もしっかりとサポートされているため、幅広いシーンで活用することが可能だ。
縦横無尽に活用できるタブレット「AQUOS PAD SH-06F」は買い!
タブレットは、スマートフォンとプラットフォームは共通なので、基本的には同じアプリが動き、同じことができる。タブレットならではのメリットは、スマートフォンよりも大きく見やすい画面サイズ、スマートフォンよりも大容量のバッテリーなどだが、通話が不可能な端末も多いので、普段使いのスマートフォンやフィーチャーフォンのサブ端末として位置づけるユーザーは多い。
だが、タブレットを使い込むにつれ、タブレットにももっと多彩な要素を求めたくなる。大画面にも関わらず持ちやすいサイズ。バッテリー容量だけに頼らない省電力性能。そしてスマートフォンに劣らないコミュニケーション能力。タブレットにもっとも可能性を感じるであろうビジネスユーザーにとっては、仕事で使うのに便利な機能が標準で搭載されていることも大切だ。
画面を横にすればPCに近い感覚でブラウジングや文書作成が可能
そんなタブレットに求められる多様なニーズをしっかりと捉え、ユーザーが縦横無尽に活用できるように作り込まれたのが「SH-06F」だ。IGZO液晶ディスプレイによる高い省電力性能をはじめ、大画面ながらコンパクトで持ちやすい世界最軽量ボディ、VoLTEにも対応した音声通話機能など、実用からエンターテインメントまで幅広く活用できる多彩な機能を網羅した、最高レベルのタブレットだ。この夏、タブレットデビューを果たしたい人はもちろん、もっといいタブレットが欲しいと期待するユーザーにもぜひ試して欲しいモデルだ。
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執筆: 法林岳之
1963年神奈川県出身。携帯電話やスマートフォンをはじめ、パソコン関連の解説記事や製品試用レポートなどを執筆。主な著書は「できるWindows 8.1」をはじめ、「できるポケット docomo AQUOS PHONE ZETA SH-01F 基本&活用ワザ 完全ガイド」、「できるゼロからはじめるタブレット超入門 Android 4対応」、「できるポケット au Androidスマートフォン 基本&活用ワザ 完全ガイド」、「できるWindowsタブレット Windows 8.1 Update対応」など、数多く執筆。Impress Watch Videoで「法林岳之のケータイしようぜ!!」も配信中。ホームページはこちら。