法林岳之レビュー

5.5インチクリスタルディスプレイ搭載
高機能プレミアムモデル
最新のVoLTEサービスにも対応

2014年夏、斬新なフレームレス構造を採用し、まるで「画面だけを持つ」ような感覚を実現し、日本はもとより世界を驚かせたソフトバンクのシャープ製スマートフォン「AQUOS CRYSTAL」。そのデザインを継承しながら、さらに高機能に進化を遂げたプレミアムモデル「AQUOS CRYSTAL X」がいよいよ発売される。ひと足早く実機を試すことができたので、その仕上がりをチェックしてみよう。

フレームレスで世界を驚かせたAQUOS CRYSTAL

狭額縁を追求したフレームレス構造の「AQUOS CRYSTAL」は、さらに大画面かつ日本仕様の「AQUOS CRYSTAL X」へ

世界中の各社がしのぎを削るスマートフォン市場。そのスペックもさることながら、ほとんどの機種が本体前面にディスプレイを搭載するスレート状のボディを採用していることもあり、ここ1〜2年はデザイン面での差別化が難しく、各社の競争を一段と難しくしていると言われている。

そんな中、2014年夏、これまでになかった『フレームレス構造』という斬新な構造を採用し、世界中を驚かせたのがソフトバンクのャープ製スマートフォン「AQUOS CRYSTAL」だ。 シャープは自ら液晶パネルの生産を手がけていることもあり、カラー化や高解像度化、大画面化など、スマートフォンのディスプレイにおける新しいトレンドを生み出してきた。2013年にはスマートフォン本体のディスプレイの上部と左右を狭額縁で仕上げた『EDGEST』モデルを開発し、業界を驚かせたが、そこで培われたノウハウを活かしながら、新たに開発されたのがAQUOS CRYSTALのフレームレス構造だ。

フレームレス構造は、新開発の狭額縁液晶パネルに、エッジカットを施した前面パネルを組み合わせることで、スマートフォン本体のフレーム部を極限までなくすことを追求している。SF映画などでディスプレイのみの携帯情報端末を持ち歩くシーンが数多く描かれてきたが、まさにあの未来的なイメージを現代のスマートフォンで再現したわけだ。

また、AQUOS CRYSTALは、昨年、ソフトバンクがグループ傘下に収めた米Sprintとシャープの3社による共同開発モデルだったこともあり、2014年夏に国内向け発表と前後する形で米国でも発表され、すでに米Sprintをはじめ、プリペイドサービスを展開するVirgin mobile、boost mobileなどにも供給されている。AQUOS CRYSTALは発表直後から斬新なデザインが注目を集め、米国はもちろん、AQUOS CRYSTALが展開されていない世界各国のニュースサイトでも取り上げられるほど話題となった。ただ、AQUOS CRYSTALは国内向けと米国向けをほぼ同じ仕様で開発したこともあり、日本のユーザーにとってはワンセグやおサイフケータイなどの日本仕様がなく、これらの機能を求めるユーザーには、やや物足りない印象があったのも事実だ。

今回発売されるAQUOS CRYSTAL Xは、AQUOS CRYSTALのフレームレス構造を継承しながら、ディスプレイサイズを約5.5インチに大型化し、ワンセグやおサイフケータイといった日本仕様を取り込み、さらに高機能なモデルへと進化を遂げている。ソフトバンクが新たにサービスを開始するVoLTEサービスにも対応するほか、エモパーやグリップマジックなど、シャープが日本のユーザー向けに開発する新機能も搭載されている。

約5.5インチクリスタルディスプレイを搭載

AQUOS CRYSTAL Xを手にして、まず最初に驚くのは、1920×1080ドットのフルHD表示が可能な約5.5インチS-CG Silicon液晶の大きさと美しさだろう。5.5インチクラスのディスプレイを搭載するスマートフォンは、国内市場でもまだそれほど多く販売されていないが、極限まで追求されたフレームレス構造は、映像を表示したときの存在感と迫力が明らかに違う。ちなみに、今回のAQUOS CRYSTAL Xに搭載されているS-CG Silicon液晶パネルには、「PureLED(ピュアレッド)」と呼ばれるバックライトとカラーフィルタが採用されており、美しい発色と明るい色合いの表示を可能にしている。特に、赤系がしっかりと発色するようになったことで、より自然な色合いの画像や映像を楽しむことができる。

「PureLED」採用で美しい発色を実現

AQUOS CRYSTAL Xのフレームレス構造は、前述のように、従来のAQUOS CRYSTALを継承したもので、新開発の狭額縁液晶パネルに、エッジカットを施した前面パネルを組み合わせることで、光学レンズ効果を生み出し、ディスプレイ周囲のフレーム部分があたかも存在しないかのような演出を実現している。

約5.5インチのディスプレイが本体前面に占める割合は、約84.4%にも達しており、この数値からも「ほぼ画面だけを持ち歩く」という意味がよくわかるだろう。これだけの大画面のディスプレイを搭載しながら、ボディ幅は同じ5インチクラスでもひと回り小さいディスプレイを搭載するモデルとほぼ同じ約73mmに抑えられている。ラウンドした形状の背面は持ちやすく、背面カバーに独特のメッシュ加工を施すことで、指紋などを付きにくくしている。

5.5インチの大画面スマホとは思えないコンパクトな印象 メッシュ加工とラウンド形状で、手にしっくり馴染む

額縁がほとんどないフレームレス構造を採用しているため、一般的なスマートフォンでディスプレイ上部に内蔵されているレシーバー(受話口)の穴がなく、前面パネルを直接振動させるダイレクトウェーブレシーバーを採用する。前面パネルそのものが振動するため、本体を耳に押し当てるようにすれば、騒がしいところでもハッキリと相手の声を聞くことができる。インカメラもディスプレイの下側にレイアウトされているが、天地を逆に持てば、従来と同じように撮影できる。

下部に配置されたインカメラ

他事業者向けのシャープ製スマートフォンに搭載されていて、非常に好評を得ているグリップマジックも搭載されており、有効に設定しておけば、本体を持つだけで画面ONに切り替わったり、ポケットに端末が入った状態でも、端末を握るだけで不在着信や通知などを振動で確認することができる。グリップマジックは本体の左右側面に内蔵されたグリップセンサーを使い、ユーザーが本体を持ったかどうかを検出するが、市販のカバーを装着したときのために、カバーの有無を設定できるようにしている。

本体左右のセンサーで、端末を持ったことを感知し、様々な機能を利用できる「グリップマジック」

そして、このAQUOS CRYSTAL Xのフレームレス構造を活かした機能も搭載されている。従来のAQUOS CRYSTALでも搭載されていた、本体の上の縁をなぞると簡単にスクリーンショットが撮れる「Clip Now」だ。なぞり方も左から右、右から左が選べる。ウェブページの場合、URLも一緒に保存されるため、あとからすぐにサイトへアクセスできる。ちなみに、国内で販売される一般的なスマートフォンではスクリーンショットを撮る際、カメラで撮影したときと同じように、シャッター音が鳴るが、AQUOS CRYSTAL Xではマナーモード設定時はスクリーンショットでもシャッター音が鳴らないしくみとなっている。

画面の上部の縁をなぞるだけでスクリーンショットが撮れる「Clip Now」

また、ユニークな機能としては、「Swipe Pair」という機能が楽しめる。アプリを起動し、2台の端末を並べて机などに置き、片方の端末からもう片方の端末に写真をドラッグ&ドロップすると、2台の端末の画面にまたがって写真を表示することができるのだ。友だちや家族といっしょに写真を楽しみたいときに便利な機能であり、AQUOS CRYSTAL Xなら、フレームレスで写真をシームレスにつないで、楽しめるわけだ。

2台を横に並べて、Bluetoothでペアリング。1枚の写真をAQUOS CRYSTAL X 2台が画面いっぱいに表示できる

タイミング良く話しかけてくるエモパー

改めて説明するまでもないが、今や私たちにとって、スマートフォンは毎日持ち歩き、さまざまなシーンで活用するアイテムであり、もっとも身近な存在と言えそうだ。そんなスマートフォンをまるでパートナーのように楽しませてくれるのがAQUOS CRYSTAL Xに搭載された「エモパー」という機能だ。

シャープはこれまでケータイやスマートフォンで次々と新しいユニークな機能を実現してきたが、家電のジャンルでは人工知能「ココロエンジン」を搭載した製品を開発し、これを搭載したお掃除ロボット「COCOROBO(ココロボ)」などが各方面で高い評価を受けている。今回のエモパーはココロエンジンのノウハウを活かして開発された機能で、スマートフォンがユーザーの利用シーンに応じて、タイミング良く話しかけてくるというものだ。クルマやコンピュータなどのハードウェアを擬人化し、ユーザーに話しかけてくるという世界観は、これまでも数多くのSF映画やアニメ、テレビドラマなどで表現されてきており、エモパーはその先駆けになることを目指して開発されたもので、ユーザーがスマートフォンをより身近に感じられるように、楽しく使えるように、さまざまなサポートができるように作り込まれている。

たとえば、朝、目覚ましを設定していると、「そろそろ起きないと、遅刻しますよ」と声をかけてくれたり、出かけるときには今日の天気や降水確率を伝えながら、「今日は雨が降るそうですよ。傘を忘れないでくださいね」と教えてくれたりする。自宅に帰ったときは「お疲れさまでした」と言いつつ、「お腹が空きました。充電して欲しいです」とおねだりをすることもある。

こうしたエモパーの話しかけは、ユーザーの位置情報をはじめ、端末を持ったり、充電したりといったアクションに応じて発生する。位置情報については、ユーザーがAQUOS CRYSTAL Xを使いはじめて数日で、自宅やオフィスの位置を認識するが、必要に応じて位置を修正することもできる。エモパーではユーザーの行動を把握するため、本体に搭載されている加速度センサーやGPSなどを利用することになるが、独自のセンサー制御ICも搭載されており、非常に少ない電力でユーザーの行動を把握できるようにしている。

机などに置いておくと、勝手に話し出すエモパー。そんなちょっと図々しいところもかわいい?

エモパーには女性の「えもこ」、男性の「さくお」、ぶたの「つぶた」という3つのキャラクターが用意されており、それぞれに話し方や性格が違うのも面白いところだ。ユーザーのニックネームも登録するため、「ほうりんさん、そろそろ出かける時間です」といった具合に話しかけてくる。話の内容は、天気や行動に基づいたものをはじめ、付近で催されているイベントの情報やユーザーのスケジュールに連動した話題も含まれる。これらの情報は基本的に端末内で処理され、他のアプリから参照されることはできないうえ、サーバー上のデータも暗号化されているため、セキュリティ面は安心できる状態にある。ちなみに、機種変更時には暗号化されたデータを次の機種のエモパーに引き継ぐ機能も用意されている。

エモパーを有効にして実際に使ってみたが、シャープがカタログなどでエモパーを解説するときに使っている「タイミング良く話しかける」という表現が非常に的確で、必要以上にうるさくなく、適度に話しかけてくるという印象だ。外出時などにロック画面に表示された表示を見て、思わずクスッと笑ってしまうこともある。提示してくれる付近のイベント情報なども、地元にいてもまったく知らなかったものもあったりして、今後、使っていくことが少し楽しみになってくる。ちなみに、実際の利用シーンについては、シャープが公開しているエモパーの利用シーンをまとめた動画を見てもらうと、イメージしやすいだろう。

こうしたハードウェアを擬人化して、ユーザーと何らかの形でコミュニケーションを取る楽しみ方は、すでにスマートフォンやパソコンでも実用化されているが、他製品や他事業者のサービスは、ユーザー自身が能動的に話しかけることで情報や反応が返ってくるのに対し、エモパーはユーザーが常に受動的な立場にあり、適度に語りかけられるという形であるため、より多くのユーザーが自然に慣れ親しみやすくなっていると言えそうだ。

見たままの風景を切り取るフレームレスカメラ

フレームレス構造を採用した迫力ある大画面ディスプレイと、使うことが楽しくなるエモパーが搭載されたAQUOS CRYSTAL Xだが、カメラ機能も従来のAQUOS CRYSTALに比べ、一段と向上している。

約1310万画素の裏面照射型CMOSイメージセンサー搭載。 フレームレスならではの撮影感覚で風景を切り取る

リアカメラは約1310万画素の裏面照射型CMOSイメージセンサー。インカメラが約120万画素のCMOSイメージセンサーを採用している。撮影時に構図のガイドが表示される「フレーミングアドバイザー」は、料理などを撮影するとき、より被写体に寄って撮影できるように改良されている。逆光など、明暗差がある場所での撮影に強いHDRについては、リアルタイムHDR撮影が可能になり、ファインダーで効果を確認しながら撮影することが可能だ。上下左右360度のパノラマ写真を撮影し、Googleストリートビューのような映像を生成できる「全天球撮影」はAQUOS Xx SoftBank 304SHなどに引き続き搭載されており、旅先などでの様子を友だちや家族に伝えたいときにも役立つ。

新しい撮影機能としては、一度の撮影で複数枚を撮影し、写真を合成することで、クオリティの高い写真が撮れる機能が便利だ。たとえば、「HQ(高品位)モード」では複数枚の写真を合成することで、ブレやノイズを抑えた写真が撮影できるため、記念写真など、確実にいい写真を撮りたいときにおすすめだ。

アクセサリーや腕時計、小物、グラスなど、少し小さめのものを強調した写真を撮りたいときは、一眼レフで撮影したときのような写真が撮れる「背景ぼかし」が有効だ。カメラを起動し、あらかじめ「背景ぼかし」モードに設定しておけば、撮影後に背景のぼかし具合いを0〜10段階で調整することができる。ポートレートなど、人物を撮影するときにも効果的だ。

同様の撮影方法で、近景、中景、遠景を自動撮影して、すべてにピントが合ったような写真が撮れる「多焦点撮影」も可能。最近、人気の自撮りについてもインカメラのワイド撮影に対応するほか、2秒後のセルフタイマー撮影を簡単に操作できるように工夫している。

harman/kardonの高音質化技術を搭載

従来のAQUOS CRYSTALでも好評を得たharman/kardonのオーディオ技術は継承されており、同社独自の音声復元技術「Clari-Fi」が採用されている。スマートフォンなどで再生される音楽は、音楽CDからMP3形式などの音楽データに変換されたものが使われているが、これらの音楽データは圧縮時に高音域などが失われてしまうため、Clari-Fiでは再生時にこの失われた帯域を復元し、より高音質のサウンドを楽しめるようにしている。

ちなみに、Clari-FiはYouTubeなどの動画再生時にも効果があるため、動画サイトで音楽楽しむユーザーにもメリットは大きい。今回、ソフトバンクから販売されるAQUOS CRYSTAL Xには、従来のAQUOS CRYSTAL同様、harman/kardonのBluetoothスピーカー「harman/kardon ONYX STUDIO」が付属する。AQUOS CRYSTAL Xに保存された音楽の再生だけでなく、各コンテンツサービスで提供される音楽や映像なども迫力あるサウンドで楽しめるわけだ。

ソフトバンクが開始するVoLTEサービスをはじめ、日本独自サービスに対応

AQUOS CRYSTAL Xでもうひとつ注目すべきは、ソフトバンクが発売に合わせてスタートする「VoLTE」への対応だ。VoLTEは「Voice over LTE」の略で、これまでデータ通信のみで利用していたLTEネットワーク上に音声データを流すことで、従来の3Gでの音声通話よりも高音質な通話を可能にする。携帯電話事業者にとっても周波数利用効率の高いLTEネットワークを活用できるというメリットを持つ。

VoLTEサービスが利用できるエリアは、SoftBank 4G LTE(FDD-LTE)の対応エリアで、3Gのエリアに移動したときは3Gの音質に切り替わるしくみとなっている。ただし、「HD Voice(3G)」にも対応するため、3Gエリアで利用するときも高音質通話が利用できる。VoLTEについては他事業者でもサービスが提供されているが、今のところ、通話可能なのは同じ携帯電話事業者の端末同士に限られている。ソフトバンクでは今のところ、VoLTE対応機種はAQUOS CRYSTAL Xのみだが、HD Voice(3G)については従来のAQUOS CRYSTALも2014年12月以降のソフトウェア更新により対応するため、高音質通話が利用できる相手はもう少し増えることもなる。

冒頭でも触れた日本仕様については、おサイフケータイとワンセグに対応しており、これまでも多くのシャープ製スマートフォンと同じように利用することができる。防水と赤外線通信には対応していないが、もっとも利用頻度が高いおサイフケータイとワンセグに対応したことで、従来モデルよりも選びやすくなったと言えそうだ。

高機能に進化したフレームレス構造のAQUOS CRYSTAL Xは買い!

スマートフォンは常に身に付け、持ち歩くものだが、ここ数年はデザイン的にも機能的にも各社のモデルが似通ってきたという指摘も多い。確かに、街中でスマートフォンを使うユーザーを見ていると、筆者のような立場の人でもどの機種なのかが見分けられないこともあるくらいだ。

しかしAQUOS CRYSTAL Xは、ほぼディスプレイのみというフレームレス構造の採用によって、その画面の迫力と存在感は他の製品を圧倒している。見た目ですぐにわかるだけでなく、知らない人が思わず「それはどこの機種?」と声をかけてきてくれそうな個性を持つ。ユーザーとしてもこの個性の強さは満足感が高い。そして、画面の中から声をかけてくれるエモパーもAQUOS CRYSTAL Xを楽しく使わせてくれる個性のひとつだ。使いはじめだとピンと来ないかもしれないが、使っていくうちにエモパーの存在が楽しくなり、新しいコンテンツなどに気付く機会も増えてくることになりそうだ。きっと、数カ月後にはAQUOS CRYSTAL Xを手にしながら、エモパーのひとことにクスッと笑っているに違いない。

未来的なデザインに、楽しい機能、優れたハードウェアスペック、最新のVoLTEサービスに対応したAQUOS CRYSTAL Xは、使う人のワクワク感を刺激してくれる期待の一台と言えるだろう。

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執筆: 法林岳之

1963年神奈川県出身。携帯電話やスマートフォンをはじめ、パソコン関連の解説記事や製品試用レポートなどを執筆。主な著書は「できるWindows 8.1」をはじめ、「できるポケット docomo AQUOS PHONE ZETA SH-01F 基本&活用ワザ 完全ガイド」「できるゼロからはじめるタブレット超入門 Android 4対応」「できるポケット au Androidスマートフォン 基本&活用ワザ 完全ガイド」「できるWindowsタブレット Windows 8.1 Update対応」など、数多く執筆。Impress Watch Videoで「法林岳之のケータイしようぜ!!」も配信中。ホームページはこちら