マンガで振り返る10年前の夢、そしてこれから



 月刊誌DOS/V POWER REPORTから異動でPC Watchを担当することになったのは1996年春ごろのことだ。1995年から1996年ごろは、個人ホームページ作成に精を出しており、個人でも世界に向けて情報発信できるWorld Wide Webというメディアに非常に興味があったから、Watch部門への異動は渡りに船だった。

 もっとも、サイト更新が本業になってからは個人ホームページ更新の方は滞りがちになり、個人ページを更新していたのは約1年ほどの期間だった。10周年企画ということで、当時描いたコママンガを見てみたら、たった10年なのに回線状況などは一変していることを実感。そんなわけで、今回はWatch創刊の頃をマンガで振り返ってみたい。


携帯電話の10年前



 まずは携帯電話から。携帯電話の契約数は1994年度には221万、1995年度には494万、1996年度には1,096万と、1994年から毎年200%くらいの伸びを示し、個人に急速に普及し始めた時期だ。携帯電話は1979年に「自動車電話サービス」として始まったが、当初は保証金が20万円のレンタルのみで新規加入料も8万円程度かかるなど、個人で手の届くサービスではなかった。この保証金制度が1993年に廃止され、端末の買い取りが可能になったことと、新規加入料が値下げされて1995年の冬には6,000円まで下がったことなどで個人への普及にはずみがついた。

 わたしが携帯電話を購入したのは、ちょうどこの頃ということになる。当時は携帯電話を購入するなら予備のバッテリーは必須。ネット機能などはないから、連続待ち受け時間と連続通話時間、それに本体の重さが重視されていた。電池性能に優れる松下電器製のPII HYPERは軽量で電話帳登録件数などの機能も当時としては充実しており、一番人気の端末だった。購入価格は7万円台くらいだったかと思う。

 上のマンガで、同じ端末だからどっちが鳴ったかわからない、というあたりはピンと来ない人も少なくないだろう。着うたの現在になってみると信じられないが、10年前、着メロなどはまだない時代だったのだ。

 また、イリジウムの名前が出てくるところも時代を感じさせる。実際イリジウム端末が発売されてみると、料金の高さと端末の大きさから、個人で購入するようなものではなかったのだが、この時点では、地上780mの低軌道衛星66個によって、世界をカバーする通信システム、という点に強烈な魅力を感じていたのであった。1998年にスタートし、1999年に破綻したイリジウムは、モトローラが全衛星の焼却処分を発表するところまでいったが、2000年に米イリジウム・サテライトが全設備を買い取ることで命拾いした。当初2006年が寿命と言われた衛星は、2010年まで維持できると推定されているそうだ。

 わずか10年の間に2転3転したイリジウムだが、10年後には、わたしたちが10年前に夢見た、地球上どこでもシームレスに利用でき、個人で負担できる程度の料金の携帯電話サービスは生まれているだろうか。


固定電話の10年前



 こちらは1996年当時の我が家の回線環境。当時としてはかなり贅沢な環境で、ISDNを2回線引き、64kbpsを2本束ねて、128kbsp接続していた。IIJがプロバイダー事業を開始したのが1992年。1996年にはNTTがプロバイダー事業に参入しOCNサービスを開始したが、個人の接続環境としてはダイヤルアップが定番。個人で利用できる専用線接続としては、OCNエコノミーなどがあったが、月3万円程度の費用がかかるため、利用はごく一部のマニアや、研究所や大学と自宅を直結する技術者などに限られていた。

 ISDNでは64kbpsの帯域を確保でき、アナログ回線でモデム接続するのに比べ快適な通信ができたため、ISDNの利用者が増加した時期だが、ISDNよりもADSLによる常時接続を望むユーザーからは、ISDN普及を推し進めるNTTは批判されていた。ADSLサービスの開始によって、手軽な価格で常時接続環境が手に入るのは、地域によって差はあるものの、2000年から2001年ころとなった。現在は、日本は世界で最も高速な通信環境が安価に利用できる国と言って差し支えないだろう。

 このマンガの最後の野望とは、具体的には光ファイバを自宅へ引くことだったのだが、この野望は2002年に叶うことになる。このあたりの事情は、Broadband Watchのリレー連載「ブロードバンド百景」第二十二景で書いたので、詳しくはそちらをご参照いただきたい。


10年前の夢、そしてこれから

 10年前の望みは、とにもかくにも常時接続、そしてあわよくば光ファイバー接続だった。この望みは政府の肝入りで産官学、各界の努力があったこともあり、予想より早く、そして安く叶うことになった。しかし、こうなるとモバイル環境の通信速度が耐えがたいほど遅く感じる。技術的なハードルや設備投資などはまったく考えず、ユーザーとしての要望を述べさせていただくならば、モバイル環境でも、個人でも手の届く料金で1Mbpsくらいは出てほしいところだ。昨今は、著作権保護の関係もあり、画像などがダウンロードされにくいFlashですべて構築しているサイトも少なくない。そうしたサイトを100~200kbps程度で見るのは苦痛以外のなにものでもない。

 また、常時接続が当たり前になったおかげで、セキュリティ面での危険は増している。Winnyによる情報漏えいなどは、常時接続ならではの問題だ。スパイウェアの増加も指摘されており、ユーザーが知らない間にユーザーの情報を勝手に送信するようなマルウェアを防ぐような仕組みも必要だろう。

 ネットワーク家電も今後製品化が進むところだと思うが、家電とネットの融合商品では、パソコンをこれから使いこなすのが難しい高齢者などにもわかりやすい商品を期待したいし、家電と組み合わせて使うこと=映像伝送を考えると、いまの通信速度も、とくに無線環境は十分とはいいがたい。

 携帯電話の普及と進化は10年前には想像もできなかったほどだが、もっと便利になってほしいと思うことはまだまだ数多くある。上のマンガを見ていただければわかると思うが、わたしはもともとMacユーザーだった。「The Computer For the Rest of Us」という、1984年にMacintoshがデビューした際のコンセプトは、いまでも思い出すたびちょっと感動してしまうくらい素晴らしいと思っている。Web上の情報が膨大になればなるほど、便利なサービスが増えれば増えるほど、いまでもパソコンになじめないままの、情報社会の南側に住む人々との格差は広がっていく。個人的には、今後10年で、この格差が縮まる製品やサービスを最も強く期待している。

(INTERNET Watch編集長 工藤ひろえ)



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