WiMAX 2+のサービスインをきっかけに、UQコミュニケーションズとWiMAXの最新情報をお届けしてきた本連載「WiMAX 2+ Watcher!!」だが、いったんの区切りとして、始まったばかりのWiMAX 2+サービスが、これからどのように進化していくのか、これまでを振り返りつつ、未来を見据える同社の野坂社長に改めて話を聞いてきた。
2013年は「実現」の年。auとの連携に手応え
―月並みな質問ではありますが、2013年を振り返ってみてどんな年でしたか。
野坂氏1年を振り返ってみると「夢がかなった」というか、白紙の上に構想していたことが、いろんな評価を得ながら、ようやくWiMAX 2+を実現できたという想いです。
まずサービス面では、おかげざまで、J.D.パワー“モバイルデータ通信サービス お客様満足度No.1”をいただくなど、トータルで質の高いサービス提供ができたと感じています。そして、かつてプロジェクトを進めていたWiMAX 2が、TD-LTE互換のWiMAX 2+へ方向転換をして、まだ1年。その後、安倍内閣が誕生し、周波数の新規割り当ての政策がオークション制から比較審査制へと変更されたという追い風もあり、今年7月に新たな周波数帯域がいただけました。申請時に提出した書類は全部で30冊と膨大な量でしたが、これまで積み重ねてきた実績が評価されたと感じました。免許申請後間もない9月に発表会を行い、10月にはサービス開始を実現致しました。結局は免許取得からわずか3カ月、急ピッチで実現にこぎつけてきたわけで、日々全力でとにかくやってみたら、ここまで来ることができた、という感じです。
電波を獲得しようと頑張っていたころは、いわば架空の餅を描いていたわけですが、それがついに現実のものになったわけです。今の段階は山登りでいうなら7合目、8合目に来たところだと思っています。2013年度中に残りの2~3合を踏破できるかどうかが、まさにWiMAX 2+の命運を左右するので、気をひきしめていきたいと思います。
今年は、東京五輪も決まりました。日本の経済は五輪に向けて活性化していくでしょう。日本のインターネット通信環境もますます発展していくことになると思います。弊社としても、例えば株主のJR東日本様と一緒に、交通とICTで日本のプレステージを上げていくなどの取組みで、ネット環境の整備を推進し、より豊かな社会の実現のために貢献していきたいと考えています。
―社長に就任されたのが2010年6月。3年半の月日が過ぎました。そのときから、今の事業展開や業界の趨勢について予想されていましたか。
野坂氏社長に就任した当時は、こんな未来になるとはとても想像していませんでした。創業当時は、データ通信といえばUSB端末やカードタイプが主流で、Wi-Fiルーターはそこまで浸透していませんでした。それが今では3年前とはサービスも端末もすべてが様変わりしています。日進月歩で技術が進歩し、実に感慨深いものがあります。だから、これから2年、3年経つと、どれだけ変化していくのだろうかと思います。毎日連続しているとわからないのですが、振り返ると変遷はすごいんじゃないかと感じています。
―WiMAX 2+がサービス開始して約2ヶ月が経とうとしていますが、手ごたえという点では、どのような感じですか。
野坂氏少なくとも量販店では、現在、新規契約の半分以上は(既存のWiMAXではなく)WiMAX 2+の契約となっています。WiMAX 2+のエリアはまだそんなに広くありませんが、既存のWiMAXがそのまま使えて月額料金据置きというのに加え、「au 4G LTEが使えるから、サービスエリアの心配がいらない」ということがお客様にとって大きな魅力になっています。auスマホとWiMAXルーターセットでおトクになる「auスマートバリューmine」も思った以上に手ごたえがあります。
エリア展開では、サービスインした際には、7月に免許が下りたばかりなのによくここまで整備できたね、と言われることが多々ありましたが、今月に入って、ついに1,000局を突破し、年度末までに東名阪エリアへと拡大していきます。現行のWiMAX基地局の状態を維持しながらうまく切り替えていくのは、実は意外と大変なんです。とはいえ、2013年度末までに東名阪エリアへ少しでも早く拡充、1局でも多く開局できるように、という目標もありますので、年明け3カ月で加速していきたいと考えています。
数字的には東京23区で、今、人口カバー率70%を超えています。お客様がご利用エリアを意識しなくなるラインを目標に、とにかく全力でやっていくつもりです。まずは、現行21,000局のWiMAX基地局をどんどんWiMAX 2+対応にしていきます。最終的には人口メッシュカバー率で96%を超えるのが目標で、地方も対応強化します。既存WiMAX基地局の交換だけでなく、現在WiMAXの基地局が建っていない地方にも、WiMAX 2+の基地局がいきなり建つ、ということもありえます。
もちろん、当面はWiMAXも残りますが、今回、基地局を新しくしたあと、2、3年かけてWiMAXからWiMAX 2+への時代に移行します。
―足元の冬ボーナス商戦に突入し、年明けには、すぐに春商戦がやってきます。どんな風に取り組んでいくのですか?
野坂氏春商戦は新生活の単身者が増え、新入学、引っ越しをする方が多い時期なので、やはりauスマートバリューmineを前面に打ち出し「賢いインターネット選びはWiMAXがスタンダード」であることをしっかりお伝えしていきたいと思います。春商戦は、一年でいちばん大事な商戦期です。来年春には消費増税もありますが、現在の提供料金3,880円/月というのは、消費税が8%になっても4,000円未満を維持できる水準です。唯一速度制限ナシ、月額3,880円で使い放題のWiMAXの価値は、多くのお客様に魅力を感じて頂けるものと信じています。
さらには、12月26日に発表しましたが、HWD14を新規でご契約、または既にご利用中のお客様に対して、LTEオプション料の月額1,055円を、2014年1月~5月まで無料とするキャンペーンを実施致します。お客様には是非、この機会にご利用頂きたいと考えています。
2014年はエリアとデバイスをさらに展開。そして気になる通信速度は?
―来年に向けてのビジョンについて聞かせてください。
野坂氏2014年は、まずサービスエリアの整備が第一優先課題。そして対応デバイスの新製品も用意していかなくてはなりません。今年は、免許が下りてから、とにかく早急なサービス開始を目指して取り組んできたので、まだ現実が理想に追いついていないところがあります。2014年は、そのギャップを埋めることが急務です。
併行して、とにかく「通信速度」の向上です。
ケータイのネットワークと、われわれのようなモバイルブロードバンドのネットワークを比較したときに、ケータイのテザリングよりも、モバイルルーターの方が速度が速くなければならないのは当たり前です。ケータイのネットワークよりも一歩先を進んでいなければならないわけです。
ですから、何とか来年度中の早い時期に、4×4 MIMOで下り220Mbpsの高速化を実現する必要があります。そうなれば、間違いなくケータイのネットワークを飛び越えて「最速」となりますから。
「ニッポンを、超速へ。」のスローガン通り、UQはモバイルブロードバンドの世界を引っ張っていかなければなりません。SIMがあってデバイスに装着してネットワークにつなぐという点ではデータ通信専門でも電話でも同じなのですが、われわれとしては、圧倒的なスピードを追求していきます。
―WiMAXで展開していたB2Bビジネスなどは今後どうなるのでしょう。
野坂氏今期より専門のソリューションチームを組織して、マーケットを調査し、WiMAX 2+を利用してどのようなビジネスができるかを常に模索しています。
クラウド系、パッケージ商品、ネットワーク側の進化などをあわせて、弊社とデバイスベンダーが、トータルでビジネスができないか、などと考えています。今は、パートナー探しというか、いってみれば婚活状態ですね。農場でWiMAXとか、面白いと思うんですが。IPv6、グローバルSIM、「モノのインターネット」などが今後の鍵になってきそうです。
とはいっても、現在はコンシューマー市場における足場固めが急務ですから、そこをきちんと進めながら、いろんなテーマに挑戦することを考えているところです。
オープン化、グローバル化の波にUQはいかに乗るのか
―グローバルでのTD-LTEの盛り上がりや、フルバンド対応のSIMフリー端末が発売されたことは、WiMAX 2+にとってどんな意味を持つのでしょう。
野坂氏たとえばGoogleのNexus 5などは象徴的ですよね。Nexus 5のUS版は、TD-LTEのBAND41をサポートしています。つまり、WiMAX 2+と互換性のある周波数です。そういったデバイスにWiMAX 2+がうまく乗っていくというのは、当然の方向です。
そうなると、今後、我々がデバイスをどのように提供していくかといった議論も誘います。デバイスがオープンになるなら、UQはサービスを提供するだけになるのか、といったことですね。
今後、UQからは端末を提供しない、SIMだけのビジネスをするのかというと、それには違和感があります。UQならではの価値を提案するためにも、端末は提供し続けることになると思います。それでも、これまで一般的にはクローズドだった端末がオープンに、という流れの中で、オープンな端末をUQが認証(certificate)していく、といった方向性も考えられます。これからの時代の波に乗っていく上で整理課題の1つと捉えています。
―デバイスがグローバル化していくとなると、UQが世界の市場で戦える日も来るのでしょうか。
野坂氏通信はドメスティックなビジネスです。そして、大きな仕掛けと設備投資が出発点です。例えば、あるスマートフォンの商品だって、部材の4割くらいは日本で調達され、工場は中国です。そういう時代に通信だけが内需産業である必要はない、とは考えています。
最近ではイーモバイルとウィルコム合併のニュースも気になりました。そんな変化が毎日のように起こっているんです。通信事業者が今のままでいいはずがありません。最近、マレーシアでYTL社の社長と会う機会があったのですが、今後はデバイスのエコシステムなども含めて、いっしょにビジネスができるのでは、という話をしてきました。
―約2カ月にわたって連載してきたWiMAX Watch。本取材を持って一旦終了することとなりますが、最後を締めくくるにあたって一言お願いします。
野坂氏努力の甲斐あり、日本では「WiMAXブランド」がかなり定着しています。だからこそ、今はWiMAXのブランド力を活かして、足下の地盤をしっかり固めていきたいと思います。
ひとまず、年度末に向けて、エリアもスピードもここまで来たか、とお客様に実感してもらえるようにすることを約束します。2015年3月にはサービス提供エリアを全国に拡大することを照準にがんばります。
スピードも重要ですが、とにかく今はエリアが大事です。それはHWD14のau 4G LTE対応が好意的に受け入れられたことで、逆に痛感しました。もしかしたら今WiMAXが使えないエリアでも、特に地方では、いきなりWiMAX 2+が使えるようになる、ということもありえます。どうか、これからのWiMAX 2+にご期待ください。
(Reported by 山田祥平)