WiMAX 2+がついにサービスインした。業界の最前線で活躍するライターは、WiMAX 2+をどう見ているのか。今回は総勢4名での座談会を開催。現在のモバイル環境やWiMAX 2+の印象、そして高速・ノーリミットなモバイル通信で世界はどのように変わるのか、意見を聞いてみた。
既存サービスの不満点はやはり通信量制限?
山田では最初に、それぞれのモバイルインターネットの利用スタイルなどを教えてください。
清水私はもうずっと、WiMAXのヘビーユーザーです。WiMAXは、自宅でも電波がバリバリに強いし、ネットワークに制限らしい制限が無いしで、今でも重宝しています。用途が主にネットワークのテストなので、自宅の光回線とは別に、こうした接続サービスは必須なんですよ。
ただ、自分自身がモバイルユーザーかというと違うかもしれない。というのも、外で通信する場合は、今は都会ならほとんどの場所でWi-Fiを使えますし、それができない緊急時はauのテザリングですませてしまうからです。いちばんよく来るインプレスでは、会社の回線を貸してもらえますし。
通信に使うデバイスは、ほとんどの場合、ノートPCです。ただし、使うのは原稿を書くときだけで、あとは完全にスマホに頼っていますね。発表会に出席したときなどのメモは手書きです。意外とアナログでしょ。速報ニュース記事を書くような仕事ではないので、資料として残すだけですから。WiMAXモバイルルーターは、外出先でWi-Fiが使えそうになくて、通信スピードがほしいときに持って行く、という感じで、時と場合にあわせての利用ですね。
甲斐私は最近は、外出時の通信はテザリングに一本化するようになっています。MVNOのSIMを入れたNexus 7をいつも持ち歩いていて、テザリングをオンにしっぱなしで、手持ちのすべてのデバイスをここに接続しています。家を出るときにNexus 7のテザリングをオンにして、戻ってくるまでそのままです。Nexus 7がモバイルルーターになってます。
大容量の通信を使う用途は、ファイルのアップロードとか、マンガの電子書籍のダウンロードとかです。通信量に気をつけながら使っているので、1カ月あたりの制限にひっかかったことはないですが。
WiMAXは最初のころは加入していました。そのころは本当に競合と比べて安くてベストな選択肢でしたが、スマホでテザリングができるようになって、もういいかなと思ったんです。
ただ、今はいつも通信量制限を気にしながら使っているので、その点ではWiMAXは安心ですね。移動先でたくさん写真を撮ってアップロードしたりすると、LTEだと簡単に上限を超えてしまうので。クラウドのストレージも外出先でけっこう使いますし。
佐藤私は、自分自身では、あまり移動体通信にこだわりはなかったんです。以前はスマホをテザリングで使っていました。まあ2chが見れればいいやと。
でも最近、大容量の通信が必要になることがどんどん増えてきました。ゲーム系のライターという仕事をしていると、実はネット動画というのはマストになってくるんですね。というのは、ゲームをダウンロードするときって、まずはサンプルの動画を見るわけですよ。文章の説明だけ見ていてもわかりませんし。それをケータイのテザリングでやるとアッというまに上限を突破してしまうんですね。
そこで、2年くらい前に、WiMAXじゃない、某サービスのモバイルルーターを契約して使うようになりました。なぜそのサービスを選んだかというと理由は単純で、宮崎の実家がけっこうな山奥なので、そこでつながるサービス、というわけです。でも、スピードには正直不満がありますね。
最近は、Androidでもヘビーな3Dゲームがプレイできるようになってることもあり、そうしたソフトを一本ダウンロードすると、500MBとか1GBあるので、速度が遅いと正直きつい。仕事柄、出先でSteamなどからフルのPCゲームをダウンロードしたいときもありますし。
今は回線の速度が遅いせいで、モバイルでゲームを試すのは軽いものだけにしよう、というあきらめの境地に達してしまってる状況です。結局引きこもって、自宅の光回線で全部ダウンロードするようにして。でも、その自宅の環境を外に持ち出せたら、いいですよね。高速で、今の時点では無制限のWiMAX 2+は魅力ですね。
最高速度よりも実効速度?な安定志向
山田WiMAX 2+についてはみなさんどう考えているんでしょう。
清水 私の自宅はいまのところエリア外なので、実はまだWiMAX 2+のスピードを味わっていなくて。
山田エリア拡大はまだ始まったばかりですね。思えば、WiMAXが始まったときもこんな感じでしたよね。
清水 つながるところをけっこう探し回りましたね。
山田そのWiMAXが今や、これだけエリアが広がったわけですから。電波は「生き物」ですし、きっとWiMAX 2+もエリアは刻一刻と変わっていくんじゃないかな。例えば私の自宅も、公式サイトのピンポイントエリア判定では「エリア外」になっていて、現に仕事場ではつながらないのですが、一歩ベランダに出るとWiMAX 2+がつながるんですよ。エリアはどんどん広がっているという実感がありますね。
清水なるほど。
私は、実は最高速度自体はそんなに欲張らないんです。実効で10Mbps、言うなれば現状のWiMAXのスペックですね、それが安定して出てくれれば、普通の人が使うなら現状は十分じゃないのかな。
佐藤そうそう、10Mbpsがずっと安定して出ればそれでいいんです。ネット動画は10Mbpsもあれば余裕だけど、時々回線が詰まって、再生が止まって再度バッファリングしはじめるのがストレスになるんですよね。今は3GだろうがLTEだろうが、ストリームの動画を見ながらゲームをプレイというのはとてもできない状況です。クラウドゲーミングにしても、だいたい実用になるのが5Mbpsくらいと言われているので、WiMAX 2+が5Mbpsをずっと安定して出せれば、それだけで素晴らしいですね。
甲斐イベント現場などでライブ配信したりする映像関係者に話を聞いたことがあるんですが、エリアに入りさえすれば途切れずに通信できる安定性という意味では、WiMAXが1番、というのを聞いたことがあります。そういう仕事って、当日実際にやってみるまで回線状況がわからないので、ひとととおりの種類のモバイル回線を持って行くそうなんですが、それで全部試すと、WiMAXが一番つながるらしいです。
清水そういう「その場に行かないと何がつながるかわからない」ときは、今回のトライブリッドルーターは良さそうですね。
山田WiMAX 2+では、帯域も広がるし、バックボーンも強化するという話なので、大勢のユーザーが共有しても、5Mbpsを安定して出せるということにつながるかもしれないですよ。高速化するっていうことは、各ユーザーの通信が速く終わって、そのぶん帯域が空くっていうことですから。
清水高速化は、WiMAXのように固定回線の代替となりうる無制限な回線でこそ、メリットが大きくなるものだと思うんですよね。
甲斐 やはり速度制限の話になりますね。WiMAX 2+は少なくとも加入後2年間は速度制限なし、というのはすごいなと思います。
清水 2年後にどうなるか、ですよね。私としては、このご時世ですし、1カ月あたりの制限というのは仕方ないとは思ってはいるんですが。それでも、各キャリアが実施している3日で1GBというのはどうかな、と思います。
甲斐たしかに、3G/LTE回線を使用していると、月あたりの通信量よりも、3日で1GBの制限のほうが実利用にはネックになっていると感じます。私は通信量を気にして監視しながら使っているので、(3日で1GB制限に)ひっかかったことはないのですが、なにか大きなファイルをダウンロードなりアップロードしなきゃいけなくなったら、一発でダメなので、けっこうキツいですよね。常に気にしながら使わなきゃいけないのはストレスです。
山田3日間1GB制限は、UQをはじめ「通信状況によって制限を課すこともある」という言い方になっているところがほとんどですよね。UQの野坂社長自身は、3日間1GBまでという制限は、携帯電話事業者が、公平な費用負担のために決めたキャップなので、高速大容量を最初から狙っていたWiMAXのネットワークが、その制限値を踏襲するというのは正しいのかどうか、迷いがあると、もおっしゃってました。
清水 発表会の時点では「ずっと無制限です」ってホラ吹いちゃっても良かったのにね!(笑)。
甲斐速度制限するかもしれないよ、くらいに留めておけばよかったと思うんですが、2年後7GBっていうすごくリアルな数字が出ちゃいましたからね。UQは真面目ですよね! 2年後には、「2年経ったけど制限しません!」と言ってくれるとうれしいですね。
山田契約後2年間は3,880円、という値段設定についてはどうでしょう。
甲斐安いは安いですよ。結局は見せ方の問題ですよね。
佐藤携帯電話の料金体系のわかりにくさに比べたら、良いほうだと思いますよ。これとこれとこのオプションが付いた上でいくら!というのばかりですから。
山田WiMAX 2+は「2年契約で2年間は3,880円」というだけですからね。au 4G LTEが使えるオプションも月額1,055円で利用できますが、これについてはどうでしょう。
甲斐au 4G LTEを月額+1,055円で使えるのは、強いですよね。エリアも広いし、これが加われば無敵といえば無敵でしょう。
とにかくバッテリーがもつWiMAX 2+ルーター
山田WiMAX 2+のサービスインに伴って、新ルーターとして「Wi-Fi WALKER WiMAX2+ (HWD14)」が提供されましたが、これはどうでしょう。
甲斐私はケータイ Watchのレビューで試用しましたが、とにかくバッテリーは持ちますね。モバイルルーターの命はバッテリーですから、そういう意味では非常に良いです。
連続通信時間は公称で約9時間となってますが、9時間以上使えました。検証時には、スマホを常に1台つなげて、定期的にメールとTwitter取りに行って、さらにPCも使って、とかなりいじめてやったんですが、それでも朝8時から夜9時まで持ちましたね。
清水 それはすごいね。
甲斐 初物って問題があるケースも多いですけど、WiMAX 2+対応ルーターの初号機で、バッテリーこれだけがんばってるのは偉いなと。
佐藤私の(WiMAXではない他社の)モバイルルーターは付けっぱなしだと、帰宅したころには死んでますね。Wi-Fiの通信が無いときに省電力モードに移行する設定もありますが、これは実はあまり意味がないことが多いですよね。だって、スマホやタブレットをWi-Fi接続したら、基本的には接続を維持しますし、メールやらFacebookの通知やらをひっきりなしに受信するわけなので。そう言う意味でも実際の通信可能時間が重要になってきますから、それで9時間以上持つのはいいですよね。
甲斐 結局、ルーターは、数十グラム重くたって、結局カバンの中に入れてしまえば同じなので、機能をどんどん増やしていってもいいかなと。今回はmicroUSBからの給電機能がついて、スマホ等を充電できるようにしていますが、そういった機能はさらに発展していってほしいです。
佐藤タッチパネルディスプレイも、わかりやすいですね。データ通信量のカウンターがついているのはいいです。上限にひっかからないようにいつも見ていられます。私が今使っているモバイルルーターはそういう情報が付いていないですし、スマホやタブレットの通信量監視ソフトはひとつの端末での使用量しか計れませんからね。
WiMAX 2+は「電脳化」の夢を見るか?
山田110Mbpsのモバイル回線が使い放題となると、この先どういう使い道があると思いますか。
甲斐外出先から自宅の録画番組が観られる「DTCP+」なんかは推したいですよね。LTE回線だと低画質に変換(トランスコード)してなんとか、という感じなので、高速・無制限の回線を得てようやく使い物になるんじゃないでしょうか。
清水 実効速度で下り30Mbpsも出れば、デジタル放送をトランスコード無しで転送するのも現実的になりますよね。
甲斐
制限がなくなったからこそ出てくるサービスって多いと思いますよ。
考えてみると、通信量制限のせいで可能性を失ってしまったサービスって、ありますよね。たとえば「Eye-Fi」なんかは、出先で写真を撮りまくって、撮った先からモバイル回線でクラウドやPCにアップしていくというサービスだったわけですが、モバイル回線の通信量制限がその魅力を完全に奪ってしまったかたちですよね。
清水オンラインストレージはWiMAX 2+で使うには良いんじゃないですか。Windows 8.1は、クラウドの「SkyDrive」と完全に統合されましたが、高速なWiMAX 2+で、出先でローカルドライブと完全にシームレスに使えるようになったらいいですよね。というか、Windows 8.1でSkyDriveとの統合をオンにしたら、ローカルのファイル10GBくらいを全部アップしはじめて本当に焦りました(笑)。全部上げるんだコレ!?みたいな。
山田私はここしばらくSurface 2を使っているんですが、Windows RTでは長年使っていたデスクトップアプリが使えないのが、非常につらくて。でも、自宅のPCにリモートデスクトップで接続すれば、Windows 8のフル機能のデスクトップが使えるなと思ったんです。Microsoft公式の「Microsoft Remote Desktop」がiOS/Android向けにリリースされたり、ポピュラーになってきている気がします。
そうなると心配なのがやはり通信量で、リモートデスクトップは通信量が非常に大きいんですよね。WiMAX 2+なら速度の面でも無制限という点でも申し分ないですし、この用途は良いんじゃないでしょうか。
佐藤
私もリモートデスクトップはときどき使うんですが、重宝しますね。仕事柄、出先で仕事をすることは多いわけですが、モバイル機器では不可能な、動画のエンコードなどの重い作業を自宅のPCにやらせることができるんですよね。
あとは、リモートデスクトップと同系統の技術ですが、クラウドゲーミングも今後普及してくると、回線が問題になってくるので、WiMAX 2+の高速さが必要とされるかもしれません。某社のタブレットがクラウド版のドラクエXに対応しますし。
甲斐 ゲーム用途は大きそうですよね。
佐藤これから新しいゲームのプラットフォームが色々出てくると思うんですが、WiMAX 2+は、そうした新しい使い方を支えることができるんじゃないかな。
山田 ユーザーは、たしかに今のモバイル回線でそこそこ使えてるからいいよ、という人が多いかもしれないんだけど、結局それって、「モバイル回線のスペックに自分を合わせてる」から、って部分があると思うんです。そうした制約が取り払われると、ユーザーが思った以上に快適なものが待ってるんじゃないか、という気はするんです。
佐藤
それは、そうですよね。
通信自由なモバイル回線が普及すれば、「配信」というものが、誰でも日常的に利用するものに進化すると思うんです。たとえばGoogle Glassなどで、互いが見ている風景を交換できれば、人間の生き方といえるものすら変化しますよね。まさに『攻殻機動隊』で実現しているような未来です。そういうことをできる技術はすでに揃っていて、残るはインフラだけですよね。そういう本当のライブ感のためにも、WiMAX 2+はがんばってほしい。
甲斐こないだ、街でビデオチャットしながら歩く女の子を見たんですよ。たしかにそういうことを普通にする世の中になりつつあるんですが、そこでの制約が、速度制限ってことなんですよね。
この前、某キャリア系の動画配信サービスの方に取材して面白かったんですが、よくある問い合わせが「突然スピードが遅くなって動画が見られなくなった、どうすればいいのか」というものなんですって。どういうことかというと、要はみんな速度制限について知らず、わざわざWi-Fiにつないで動画を観たりしないから、キャリアの回線の速度制限に簡単にひっかかるんですよね。
動画配信をはじめとするリッチ系の、通信量を食うサービスは、これからどんどん増えていくと思うんですよね。一方でほとんどの人は速度制限のことを知らないわけで、きっと来年あたり、またそのへんが問題視されたりするんじゃないかな。
佐藤速度制限を気にしなくていい世界が早く来てほしいな。いま、例えば実家と連絡をとるときに、テキストのメッセージと、ときどき電話ですよね。本当のライブ感というものを実現するところまで来ていないんですよ。
清水きっとライブでお母さんに説教されますよ(笑)。
「契約しどき」はいつか? モバイル環境はどう変わる?
山田エリアの整備はすごい速さで進んでいると思います。
甲斐拡大はとても早いですよね。年内に都内をカバーするっていうのはすごいですよ。そこは期待したいですね。
佐藤 東京都内の人は、これから年末にかけてのタイミングで一度、エリアを調べて検討してみるのが良さそうですね。
山田WiMAX 2+の出現で、ユーザーのモバイル環境はどう変化すると思いますか?
清水安価なMVNOのSIMとWiMAX 2+を組み合わせるのはアリだと思います。もうそれで「電話回線」とは縁を切れる!という。
佐藤 私もスマホは契約してませんからね。ガラケー+モバイルルーターです。そういう人も多くなりそうです。
甲斐iPhoneじゃなくて、iPod touch + モバイルルーターで使ってる、っていう人も初期費用が少ないからか、多いですよね。
清水個人的にはWiMAX 2+をPC内蔵にしてほしいですね。自分では使わないかもしれないけれど、親などに使わせるときに、それさえ渡しておけばOKで、ルーターの設定とか面倒なことをナシで済ませられるじゃないですか。だから、内蔵はぜひという感じです。
あと、WiMAXの契約の自由度というか、機器追加オプションとかは、本当に良かったと思うんですよ。WiMAX 2+でも、複数SIMをデフォルトでレンタルして色々な端末に挿して使えるとか、そういった代替策があると良いですね。
甲斐TDD-LTE互換になるので、コストメリットも大きいだろうし中国とかから面白そうな対応ハードがどんどん出てくることを期待したいですね。
WiMAXは、速度制限なしと、SIMから解き放たれた自由さというのが画期的だったと思うんですが、WiMAX 2+になっても、そうしたWiMAX時代の心意気を忘れないでほしいです。
佐藤光ファイバーとかの固定回線は、今は下りの制限は基本的に無いので、思いっきり使えますよね。その環境がモバイルに持ち込めたら最高です。WiMAX 2+はスペック上ではすでに光ファイバー並なので、どんどんその方向で推し進めていってほしいですね。
甲斐そう、速度も無制限なところも固定回線並、というWiMAXのポリシーは引き継いでいってほしいなと思います。
清水うーん、やっぱり速度制限の話に行き着いちゃうね!(笑)。まぁ、WiMAX 2+は2年間は使い放題ですからね。
甲斐とりあえず使い始めて、2年後にまた考えればいいや!と思いますよ。
この2年間で、モバイル環境ってびっくりするほど進化しているわけじゃないですか。そう考えると、2年後は本当にどうなっているか予想がつかない。速度の速いWiMAX 2+とエリアの広いau LTEという組み合わせができるのは、少なくとも「次の2年間」のベストチョイスのひとつということは確かでしょう。さらにその次の2年後も、WiMAX 2+がベストチョイスで居続けてくれることを今は期待したいですね。