UQコミュニケーションズ、そして、そのMVNO各社によるWiMAX 2+がサービスインした。超速モバイルネットの名のもとに、下り最大110Mbpsを実現する超高速ワイヤレスインターネット接続サービスだ。当初は首都圏からのスタートだが、2013年度末には東京・大阪・名古屋、さらにその1年後には、全国に拡大されるという。今回は、この新サービスの意義、そしてWiMAX 2+が打ち出す「2年間使い放題」=ノーリミットの意味について考えてみる。
インターネットは壮大なワリカンだ
インターネットは壮大なワリカンだといわれている。インターネットに接続するためには、すでにインターネットに接続しているどこかの拠点に接続すればいいわけだが、そうそう簡単につないでくれる相手が見つかるわけではない。そこでぼくらはISPに対して接続料金を支払ってつないでもらっている。ISPはそれをたばねて、より上流のネットワークへの接続コストに充当する。こうして、世界中のネットワークが網の目のようにつながっていき、個々のユーザーは、その経路を自由自在に利用できる。ヨーロッパにあるサーバーから大きなファイルをダウンロードしても、顔が見えるくらいに近いところにいる相手にアメリカのメールサーバー経由でメッセージを送っても、負担するコストはISPまでの分だけだ。それがワリカンの所以でもある。
ワリカンというのは、接続経路のためのコストをワリカンするという意味でもあるし、その経路の帯域幅をもみんなで共有するという意味でもある。とくに、WiMAXのようなワイヤレスのネットワークでは譲り合いが重要だ。なぜなら、電波は有限の資源なので、そうそう簡単に帯域幅を拡げることはできないからだ。だからこそ、免許制で、事業用に電波を確保するには、厳しい審査を経て割り当てを受ける必要がある。
単純に計算しても答えはすぐに出る。1Gbpsの帯域も、1000人が同時に1Mbpsで使えば埋まってしまう。でも、その帯域を使っている端末の通信が、一瞬たりとも途絶えないで連続して行われているわけではない。だからこそ、タイミング次第で、100Mbps超といった驚異的なスピードを体感したりもできるわけだ。そういう意味では、ぼくらは接続の帯域幅をもワリカンしていることになる。
ただ、携帯電話事業者のネットワークはか細い。というよりも、ネットワークの実力に対してユーザー数が多すぎる。だから、データ通信量が直近の3日で1GBを超えると通信速度が低下するとか、毎月の料金によって3GBや7GBなどの上限が決まっていて、それを超えると帯域制限の対象になるというのは、ワリカンを公平なものにするためでもある。
従来のWiMAXは、こうした規制を行ってこなかった。なぜなら、最初からPCの高速大容量の通信を前提にした設計のネットワークであるために、帯域幅には比較的余裕があったからだ。今でこそ、携帯のネットワークはLTEなどの新しいテクノロジーによって、WiMAXに匹敵するものになってきてはいるが、おっかなびっくりという点で、規制を続けざるをえないというわけだ。
そんな中、UQがWiMAX 2+のサービスインにあたり、2年間の暫定処置とはいえ、従来のWiMAXと同様のノーリミット戦略を打ち出しているのは、「当分は全ユーザーをハッピーにしていける」という自信の表れ、といえるかもしれない。
サービスは毎日拡張していく
WiMAX 2+によって、UQは理論値110Mbpsという、まさにブロードバンドサービスを提供することができるようになった。しかも、スピードはまだ上がるという。ユーザーは、スピードを享受できるとともに、通信という用事がこれまでよりも短時間で終わる環境を手に入れる。これまで1秒かかっていた用事が、0.5秒で片付くようになるということだ。別の言い方をすると、これまで100人しか快適に使えなかったネットワークを、倍の人数で使っても今までと同じくらいに快適だということでもある。
40Mbpsの通信速度を持つWiMAXといえども、ピーク時は大人数で共有するために、スピードは遅くなる。でも、倍以上の通信速度を持つWiMAX 2+なら、同じ人数で使っても遅いと感じることは確率的に半分以下になるはずだ。まして、サービスインして間もない今は、既存ユーザー数の多いWiMAXに比べてスカスカに近い状態で、びっくりするような快適な通信ができるはずだ。
UQでは、WiMAX 2+のサービスエリアを、首都圏からスタートし、順次拡げていく予定だという。基地局のWiMAX 2+化は急ピッチで進んでいて、エリアはまるで生き物のように、毎日整備されて拡がっていく。半年で7000局を整備するというのだから、1日平均30局という速さで基地局が増えていくことになる。
このピッチは、WiMAXがサービスインしたときの倍の数に相当する。だから、今日エリア外であっても、明日にはエリアになる可能性が高いのだ。明日がダメでも明後日は大丈夫かもしれない。実際、この原稿を書いている部屋でも、ルータを片手に一歩、ベランダに足を踏み出せば、WiMAX 2+が使えてしまう。まさにこの室内まで電波が来るのに、そう時間はかからないだろうと高をくくっている。
こうして、基地局のWiMAX 2+化はどんどん進んでいる。UQが、首都圏を完全に網羅するのを待たずしてサービスインしたのは、やはり、ユーザーに少しでも早く、この次世代ネットワークの速度や応答性を体験してほしいという想いがあったからなのだろう。
世界標準としてのWiMAX 2+
こうして既存WiMAXの基地局は、WiMAX 2+とのデュアル対応設備として活用され、約2年をかけて全国津々浦々でWiMAX 2+が使えるようになる。その次は、WiMAX基地局を、順次、WiMAX 2+局に置き換えていく。もちろん、ずっと先の話になるのだろうが、最終的には、すべてのWiMAX基地局は、WiMAX 2+基地局へと置き換わることになるはずだ。
馴染みのあるブランドであることから、UQでは、WiMAXという名前に2+をつけて、その進化を表現しているが、その実体は世界標準のLTE技術を取り込んだネットワークである。日本で使われているLTEネットワークは、さまざまな経緯からFDD-LTEが主流となっているが、世界標準的にはFDD-LTEの他に、TD-LTEと呼ばれる方式がある。WiMAX 2+は、このTD-LTEに準拠させたシステム。
FDD-LTEもTD-LTEも、どちらもLTEなので、その共存は比較的容易だ。たとえば、WiMAX 2+のサービスインにあわせて投入された新モバイルルーター「Wi-Fi WALKER WiMAX2+ HWD14」は、TD-LTEであるWiMAX 2+に加えてau 4G LTEに対応している。近い将来、世界中のスマホやルータ、ノートPCなどのモバイル端末が、TD-LTE、FDD-LTE両対応になるのは目に見えていて、そのエコシステムを取り巻く大きな流れは止められないし、止める必要もない。
こうして、LTEという世界標準に準拠することで、端末はもちろん、基地局設備や、その制御のためのソフトウェアに至るまで、さまざまなコストメリットが得られる。なんといっても世界中の事業者がLTEを使うのだ。その規模によるコストメリットは計り知れない。
このことは、将来にわたって、UQがより低いコストでネットワークを構築できることを意味するし、その結果、ぼくらはリーズナブルな料金で同社のサービスを利用できることになるわけだ。そういう意味では、UQを含むWiMAX陣営が、素早い舵取りで、TD-LTE互換の道を選んだのは大正解だったといえるだろう。ワリカンの原理があることがわかっているなら、それを使わない手はない。
「ノーリミット」に関しては、2年間暫定であることを残念がる声も聞こえてくるのだが、きっと、UQも迷っているのだろう。UQお客様の会できいた野坂社長の、2年先がどうなっているかなんて、今の時点ではわからないという声も印象に残っている。世界標準の波をつかんだUQが、暫定処置をくつがえし、2年先以降もノーリミットという方針を貫く決心をする可能性だって残っているわけだ。
いずれにしても、先のことはこれから考えればいい。2年も先の話なのだ。とにかくまずは体験してみよう。WiMAX 2+の途方もない実力が発揮されるのは、これからだ。
(Reported by 山田祥平)